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トランプのエルサレム認定 「次」に起こる危機とサウジの影〜パレスチナを散り散りに分断した「国」にする和平案/川上泰徳
2018年01月10日(水
https://www.newsweekjapan.jp/kawakami/2018/01/post-35.php
<12月にトランプがエルサレムをイスラエルの首都に認定したが、この決定が意味するところが明らかになってきた。2018年、パレスチナの新たな危機が始まる>
(前文、略)
もう国連には縛られないという意思表示
イスラエルは1967年の第3次中東戦争で占領した東エルサレムを併合した上で、1980年に統一エルサレムを首都とする基本法を成立させた。トランプ大統領の決定は、この基本法を追認するというものだ。
ただし、国連安保理は80年に「武力による領土の獲得は容認できない」として、イスラエルの基本法について「法的効力はなく、無効」と決定した。トランプ大統領の決定は安保理決議が「無効」としていることを「現実」として認めるというものであり、安保理決議違反である。
この度のトランプ大統領の決定について、安保理には決定を「無効」とする決議案が提出され、米国の拒否権行使で廃案になったものの、15理事国中14カ国が賛成した。同様の決議案は国連総会にもかけられ、圧倒的多数で採択された。米国は国連の中で孤立し、多数の意思と対立することが明確になった。
しかし、トランプ大統領は初めから中東和平で国連と対立することを意図して、エルサレムの認定を行ったと考えるべきだろう。つまり、もう国連のルールには縛られないという意思表示である。
トランプが無視する安保理決議242号とは?
エルサレムをイスラエルの首都として認めることは、首都化の動きを「無効」とした安保理決議の前提となっている第3次中東戦争直後の安保理決議242号にも縛られないという立場になる。
決議242号はイスラエルに対して、紛争によって獲得した占領地であるガザ、東エルサレム、ヨルダン川西岸から撤退することを求め、その代わりに、アラブ諸国がイスラエルの主権や生存権を認めることを求めている。紛争終結のための枠組みとして「土地と和平の交換」の原則となっていた。
イスラエルが東エルサレムを併合して首都に組み入れたことは、安保理決議242号に反する。さらに、東エルサレムとヨルダン川西岸で120カ所以上のユダヤ人入植地を建設し、そこに約60万人のユダヤ人入植者が住んでいることも、ヨルダン川西岸にはみ出して分離壁を建設していることも、占領の現状を変更することになり、国際法上違法である。
分離壁については国際司法裁判所が「占領地での分離壁建設は違法にあたり、中止・撤去すべきだ」と判断を示している。
トランプに先立つ米国の歴代大統領は安保理決議242号のもとで、パレスチナ国家を樹立し、イスラエルとの共存を目指す「2国家解決」を目指してきた。それに対して、イスラエルは半世紀にわたって安保理決議242号に違反して、占領地の「現実」を次々と変更してきたのである。
トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認めることを「現実」というのは、和平の枠組みである安保理決議242号から外れることになり、その理屈で行けば、入植地建設も分離壁建設も「現実」ということになる。
米国はイスラエルの同盟国でありながら、和平の仲介者としては国連決議を解決の枠組みとして受け入れてきた。だからこそ、イスラエルがエルサレムを首都と宣言しても、これまではそれを受け入れなかったし、ユダヤ人入植地についても「和平の障害」として積極的に支持することはなかった。
オバマの牽制むなしく、「土地と和平の交換」原則を放棄
オバマ前大統領は就任時に「パレスチナ和平での合意」を公約と掲げ、そのためにイスラエルの入植地建設に対して最初は強く反対する立場をとったが、ネタニヤフ首相の強い抵抗を受けて、反対姿勢は次第に軟化した。
しかし、政権最後の2016年12月に安保理が「イスラエルに対して東エルサレムを含むパレスチナ占領地でのすべての入植活動の即時、完全な停止を要求する」とした安保理決議2334号について米国は拒否権を行使せず、棄権したために決議が採択された。
決議では「1967年以来占領された東エルサレムを含む、パレスチナの領土へのイスラエルによる入植地建設にはいかなる法的な正統性もなく、国際法に対するはなはだしい侵害となり、2国家共存による問題解決と、公正で永続的で、包括的な平和に対する主要な障害であることを確認する」としていた。
オバマ大統領としては、政権運営のためにネタニヤフ政権と妥協せざるをえなかったが、最後に中東和平の基本を確認する意地を見せたということであろう。就任前からネタニヤフ政権に寄り添う姿勢を見せるトランプ氏を牽制する意図もあったかもしれない。
結局、トランプ大統領は政権1年目でタブーを犯して、安保理決議に基づく「土地と和平の交換」の原則から飛び出し、国連の枠組みと対立することでイスラエルと同じ立場になった。
「現実」を認めなければ援助を停止するという脅し
トランプ大統領が言う「現実」とは、イスラエルが安保理決議に違反して、東エルサレムの併合によるエルサレムの首都化や入植地建設や分離壁建設など、占領地に積み上げてきた「現実」である。
パレスチナはそのような占領の「現実」を終わらせることを和平交渉に求め、国際社会も「占領終結=和平の達成」と考えてきた。トランプ政権はパレスチナ側に、イスラエルが力で変更してきた占領の「現実」を前提として和平交渉を行うよう求めることになるだろう。
トランプ大統領の1月2日のツイートで、そのことがより明確になった。「(和平)協議の一番難しい部分のエルサレムを議題から外した。だが、パレスチナ人には和平を協議する意志がない。今後、膨大な支援額を支払う理由などあるだろうか」と、パレスチナへの援助停止を示唆したのだ。
このツイートに先立ちヘイリー米国連大使は、パレスチナ難民に人道支援を行う国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への資金拠出を停止する方針を発表した。大使は「パレスチナが交渉に復帰することを同意するまでは、追加的な資金援助はしないというのが大統領の意向」と説明した。
トランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都と認定したことを「一番難しい部分のエルサレムを議題から外した」と認識している。エルサレムについてはパレスチナ側も「パレスチナ国家の首都」と主張しているのに、トランプ大統領はイスラエルが首都として宣言しているという「現実」を認定し、交渉から外すと言っている。その上で、パレスチナに和平交渉に復帰することを求め、応じなければ資金援助の停止という「制裁」を科すと言っているわけである。
この流れで考えるならば、オスロ合意で「最終地位交渉」のテーマとして棚上げされていた「エルサレムの帰属」「入植地の解体」「境界の設定」などの困難な問題は、いずれも交渉から外され、パレスチナは現在の占領の「現実」である入植地の存在を認め、分離壁を境界として認めることを強制されるだろう。
パレスチナ難民の「帰還権」を認める総会決議も無視
さらにもう1つ、最終地位交渉のテーマとして「難民」問題がある。それはこれまでは1948〜49年の第1次中東戦争の際に国連総会で採択された総会決議194号で「 故郷への帰還を希望する難民はできる限り速やかに帰還を許す。望まない難民には補償を行う」として難民たちに「帰還権」が認められていた。
1948年に70万人だったパレスチナ難民は70年経ったいま、500万人を超えている。イスラエルはパレスチナ難民の帰還権を認めず、自分たちが世界のユダヤ人を国民として受け入れたように、パレスチナ難民はアラブ諸国に受け入れられるべきだと主張してきた。
トランプ政権が国連の枠から外れて、<「現実」を認めた上で、「恒久的な和平」合意を目指す>というならば、難民問題でも「帰還権の否定」というイスラエルの主張に組することで「恒久的な和平」を唱えることになるだろう。
パレスチナを散り散りに分断した「国」にする和平案
トランプ大統領が語る「恒久的和平」は、これまでの和平プロセスの枠組みを根底から覆すことになる。
これまで「恒久的な和平」とは国連安保理決議242号に基づく「土地と和平の交換」の原則に基づく占領の終結であり、国連総会決議194号に基づく難民問題の解決しかないと理解されてきた。和平交渉によって「紛争終結」を宣言できるのはパレスチナ側であり、パレスチナ側が最終合意を受け入れたときに初めて紛争は終わりとなる。
ところが、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定しながら「和平」を求めることは、占領の終結や難民問題の帰還という国連決議に基づく枠組みから離れることを意味する。力づくでパレスチナを屈服させることで紛争を終結させようというのだろうか。エルサレム問題での新たな動きと並行して、トランプ大統領が近く中東和平提案を打ち出すという断片的な話が様々にニュースとして出ている。
ロイター通信などがパレスチナ自治政府筋の情報として伝えるところでは、トランプ大統領は今年前半にも和平プランを提示するとして、女婿でユダヤ教徒のクシュナー大統領上級顧問が和平案についてサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子の支持を取り付けるよう動いているという。
ムハンマド皇太子はアッバス自治政府議長をサウジに招いて、米国の和平案を受け入れるよう求めたともいわれる。その和平案については、入植地の解体はなく、現在、イスラエル軍が全面的に支配しているヨルダン川西岸の「C地区」と呼ばれる区域の大部分がイスラエル側に編入されるという内容で、さらに難民の帰還もないという。
C地区はヨルダン川西岸の61%を占める。すべてのユダヤ人入植地はC地区にある。米国の和平案でイスラエル側に編入されるC地区の割合については、様々な報道があり、7割から9割と幅がある。
これは入植地を含むC地区の大部分がイスラエル側に奪われることを意味する。残されたパレスチナ自治区は西岸の半分程度の面積で、小さな島が集まったように散り散りに分断されてしまい、とても「国」とは言えない状況となる。
サウジがパレスチナやレバノンに圧力をかける理由
難民の問題では、アッバス議長はレバノンにいるパレスチナ難民にレバノンの市民権を与える代わりにイスラエルへの帰還を放棄するという案をサウジアラビアから示されたという話を最近耳にした。
事実であれば、イスラエルの主張そのままに難民の帰還権を否定した形での「最終解決」がレバノンとパレスチナに押し付けられることになる。
レバノンのハリリ首相は昨年11月初めにサウジを訪れて、突然、辞任を発表した。同じころアッバス議長もサウジを訪れ、ムハンマド皇太子と会見し、米国の和平案を受け入れるよう求められたというニュースが出た。サウジは米和平提案での難民問題の「最終解決」について両首脳に働きかけたのだろうか。
サウジでは11月にムハンマド皇太子が主導する腐敗追放委員会が11人の有力王族を含む約50人を逮捕した。
同皇太子は実父のサルマン国王が2015年1月に即位した後、国防相兼王宮府長官に抜擢された。同4月には副皇太子に任命された。さらに2017年6月にムハンマド・ビン・ナイフ皇太子が解任され、代わって皇太子に任命された。
現在32歳であるが、今年、国王に即位するのではないかとの推測もあり、王族や現職閣僚・旧閣僚、ビジネスマンらを含む有力者を「腐敗追放」として一斉拘束に出たことは、反対派を排除して、権力を固める意図があるとみられる。
若いムハンマド皇太子が権力固めをしようとすれば、米国の支持を得ることは必須となる。特に同皇太子は対イラン強硬姿勢という点で、トランプ大統領と同じ立場であり、イスラエルとの接近も伝えられる。トランプ大統領の支持を得る代わりに同大統領が進める和平案の実現のためにパレスチナやレバノンに圧力をかけることはありうるだろう。
今回、トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都に認定した決定は、今後提示される和平案の前触れということになるだろう。和平案として様々に出ている断片的な情報をつなぎ合わせても、パレスチナ人にとっては最悪の提案になりそうな予感しか出てこない。
中東にとっては新たな危機の始まりの年となりそうである。
・米「来年エルサレム移転」にパレスチナ反発〜米副大統領「来年 エルサレムに大使館開く」/nhk
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投稿者 仁王像 日時 2018 年 1 月 23 日 20:15:25: jdZgmZ21Prm8E kG2JpJGc
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