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圧力と工作、中国の「シャープパワー」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11682
2018年1月23日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
中国が資金力に裏打ちされた圧力と工作によって西側諸国を操作しているのに対し、西側は透明性を推進し実態を明らかにすることが最良の防御になる、と12月14日付の英エコノミスト誌が述べています。要旨は次の通りです。
(iStock.com/LoveTheWind/stockdevil/robodread/amenic181)
多くの人は、中国は、領土はともかく、人々の心を征服しようとしているのではないかと恐れている。最初に警告を発したのは、中国による政治、大学、出版業への介入疑惑に揺れる豪州で、今月、政府は外国勢力による政治介入防止のための法案を提出した。続いて英国、カナダ、ニュージーランドも警鐘を鳴らし始め、米議会は中国の影響力拡大について公聴会を開いた。
文化や価値の魅力で国力の増大を図ろうとするソフトパワーに対し、圧力と工作で外国の意見を繰ろうとする中国の行動は「シャープパワー」と呼ばれる。
他の国同様、中国もビザ、補助金、投資、文化を国益追求に利用してきたが、近年、その行動はより威圧的かつ網羅的になってきた。中国のシャープパワーは、(1)破壊活動、(2)弱い者苛め、(3)圧力から成り、これらは組み合わさって自主検閲を促進する。破壊活動は、豪州等では中国のカネは政党や政治家への寄付となって政治的影響力を獲得したと言われる。また、ドイツの情報機関は、中国は招待旅行やSNSを使ってドイツの政治家や官僚を誘惑したと言っている。
弱い者苛めも様相が変わった。中国の人権活動家にノーベル平和賞を与えたノルウェーへの経済制裁のようなものもあるが、多くは、学者が中国の機微な問題の研究は避ける等、中国の関与を証明し難いものになっている。
中国はあまりにも西側の経済、政治、文化生活に組み込まれているため、西側は中国の圧力に対して弱い。企業も巨大な中国経済を前に、中国の言いなりになってしまう。豪州の出版社は、北京を恐れて突如ある書籍を回収した。
一方、中国が海外で擁する利害は拡大した。1978年以降、一千万の中国人が海外に移住し、中国企業は富裕国の資源、戦略的インフラ、農地等に投資し、海軍は遠洋の海でも戦力を誇示できるようになった。加えて、新興の大国としてグローバルなルールも変えたいと思っている。
開かれた社会が中国のシャープパワーを無視するのは危険だ。先ず、開かれた社会の防衛は実際的であるべきで、(1)スパイ防止活動、(2)法律、(3)独立のメディアが破壊活動に対する最良の防御になる。中国共産党は表現の自由、開かれた議論を抑圧している。光を当てるだけでそのシャープ戦術の威力は減る。西側諸国は、団結して、行動し、自らの原理原則を守る必要がある。
出典:Economist ‘What to do about China’s “sharp power”’ (December 14, 2017)
https://www.economist.com/news/leaders/21732524-china-manipulating-decision-makers-western-democracies-best-defence
中国共産党の圧力や攻勢に対する最大の防御は、表現の自由や開かれた透明なルールである、と英エコノミスト誌が述べています。そして、中国の攻勢・圧力を通常の「ソフトパワー」に対する「シャープパワー」という名で呼んでいます。
このエコノミスト誌の議論には、特段の新しさはないので、いまさら自明のようなことを議論する必要はないということになるかもしれません。しかし、あえて自明のことを今の時点でくりかえすのは、それだけの今日的意義があるということでしょう。
欧州から見た中国との関係はどうしても安全保障の観点からではなく、経済的観点から見たものに大きく左右されます。中国の硬軟両様の戦略・戦術の中では、特に資金・カネを使うということが重要な工作手段となっています。
本社説の豪州、ニュージーランドなどの例はその一例にすぎません。
過日、トランプ大統領の訪中に際し、米中間で28兆円にのぼる商談が成立しましたが、そのためでしょうか、トランプはそれまでは米中の貿易インバランスは中国側の「為替操作」によるものとして非難していましたが、上記商談成立後、貿易インバランスはこれまでの米側政権の失策によるものである、と認めてしまいました。これなどは、中国がいかに巧みにその経済力を使用したかの見本のようなものです。
「はじめ経済、あと政治」、「商をもって政を包囲する」というのは、中国の研究者らがよく使う用語です。
中国の対外活動は、近年(1)武力を背景とした脅迫(2)弱い者いじめ(3)圧力からなっているとエコノミスト誌は分析しています。今日の中国はその影響力の浸透をはかるため、あらゆる可能な手段を用いていると見るのが実態に即しています。
中国の弱いもの苛めの例は枚挙に暇がありません。とくに自由や人権の抑圧という面では、劉暁波のケースに見られるように徹底的に弾圧を行います。対台湾政策の面では、「島に入り、家に入り、頭に入る(「入島、入戸、入脳」)」というスローガンによく示されているように、心理戦ともいうべき統一戦線工作を実施しています。
これら硬軟両様の各種圧力に対し、有効な防御策は、本社説のいうとおり、これら圧力に透明な光を当て、隠された意図を白日の下にさらすことです。具体的には、スパイ防止活動、法律による規制、独立のメディアの存在確保などがそれにあたるでしょう。
中国共産党の戦略・戦術が、これら透明化のための防御策に対し、意外に脆弱な面を持っていることもまた事実です。
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