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国家安全保障戦略はトランプの政策を変えられないだろう
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11683
2018年1月24日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
ウォール・ストリート・ジャーナル紙が「理論上のトランプ・ドクトリン:台頭する脅威についての現実主義と政策上の不接合」と題する社説を12月18日付けで掲載し、トランプが同日に発表した国家安全保障戦略についてコメントしています。社説の要旨は、次の通りです。
(iStock.com/imannaggia/ Lutsina Tatiana)
トランプは米外交の急激な改革を選挙の際にしばしば主張したが、大統領としての1年目は、反対者が恐れ、レトリックが示したものより、ずっと普通の政策であった。今度の国家安全保障戦略も、もし実施されるならば、同様に安心できるものである。本文書のもっとも注目すべきテーマは、「世界がもっと危険になっている」との歓迎すべき現実主義である。
文書は、次の通り論じている。中露は「修正主義国」であり、「米国の力、影響力、利益に挑戦」している。またイランと北朝鮮はならず者国家であり、「地域を不安定化」している。そして、ジハード主義者などがテロのリスクなど、国境を超える脅威をもたらしている。新しい技術が「弱い国家に力を与え、米本土・利益への脅威になっている」。
今回の文書はこれらの脅威を地域的文脈におき、「米国に対抗して起きている地域バランスの変化は、わが安全保障を脅威に晒しうる」と正しく指摘している。
文書は「米国は、インド太平洋、欧州、中東における不利な変化と対抗するために意思と能力を動員すべきであり、有利な力のバランスの維持は同盟国やパートナー国との協力を必要とする」と述べている。
トランプがプーチンに友好的な態度をしばしば表明しているにもかかわらず、ロシアについて率直な評価をしていることは注意を引く。文書は「ロシアは米の影響力の弱体化、同盟国などとの離間を狙っている。世界の諸国の国内政治に干渉している」と述べている。
戦略はウクライナを不安定化するロシアの試みに言及している。しかし、トランプはウクライナへの殺傷兵器供与を拒否している。オバマと同じである。トランプはイスラム国後のシリアをロシアとイランが支配することを放置している。トランプの対イラン言辞はオバマよりずっと厳しいが、彼の政策はそうでもない。
この文書は、トランプ政権は、宗教的少数派や個人の尊厳など「米の価値を強調」するという。しかし、トランプ政権高官はこれらの価値についてあまり語らず、トランプは習近平やプーチンを称賛し、矛盾したメッセージも発してきた。
トランプはこの戦略を明らかにするために異例にも演説をした。しかし、我々は彼の外交本能は個人的で取引的であると知っている。彼は取引を好み、相手を魅惑しようとする。この文書によれば、敵対者は魅惑などできない。「原則のある現実主義」の戦略は、オーバル・オフィスに確固とした原則を持つ現実主義者を必要とする。
出典:‘The Trump Doctrine, in Theory’(Wall Street Journal, December 18, 2017)
https://www.wsj.com/articles/the-trump-doctrine-in-theory-1513642862
今回の国家安全保障戦略文書は、この社説が指摘するように、情勢認識において現実的です。中露を競争勢力と決めつけるほか、同盟国との協力を重視するなど、基本的なところでは歓迎できる面が多いです。こういう考え方が政策に反映されるのならば、安心できます。この文書はマクマスターを中心とする国家安全保障会議が起案したものでしょう。トランプがどれほど真剣にこの文書を吟味したかは分かりません。
この社説も指摘するように、トランプの外交への対応は取引的であり、無原則です。米国の価値観を強調するこの戦略文書が出たからと言って、トランプ外交が価値重視で、原則重視になるとはとても思えません。
同盟が米国の力を増大させるとの認識は、同盟重視であり、歓迎できます。しかし、実際の外交がどうなるか、依然としてよく分かりません。
この国家安全保障戦略は基本的には良い文書ですが、これで米国の世界的影響力が回復するとは考えられません。厳しい言い方になりますが、トランプが大統領でいる限り、米国の世界での影響力は低下し続けるでしょう。
「トランプ1年目の外交が過激な変化というより普通であった」とのウォール・ストリート・ジャーナル紙の評価にはあまり賛成できません。
通商政策においては、米国はTPP、NAFTA、さらにはWTOを攻撃し、保護主義的な通商政策を標榜しています。自ら構築した戦後秩序を自ら壊しています。
エルサレムをイスラエルの首都と認定しましたが、安保理でその撤回を求める決議が出され、孤立し、拒否権行使を余儀なくされました。さらに総会でも孤立しています。米国とアラブ諸国、イスラム教の諸国との関係を悪化させることになりました。中東和平での米国の影響力はかつてないほど低下しています。イランを「ならず者国家」と呼び、サウジに肩入れする政策が中東の安定に資するとも思えません。
欧州でも、気候変動パリ協定離脱、プーチンへの甘い態度、ウクライナ支援へのあいまいな態度などを巡り、トランプ政権への批判は多いです。
アジアにおいては、北朝鮮問題が最も重要な課題ですが、その行先はまだ不透明です。もっともこれはトランプのせいではありません。中国が競争勢力とされたことが北朝鮮問題での中国の協力にどう影響するか、今後見ていく必要があります。
なお、この国家安全保障戦略文書について、ワシントン・ポスト紙は「トランプの国家安全保障戦略は全く戦略になっていない」と厳しく批判する社説を12月19日付けで掲載しています(‘Trump’s National Security Strategy isn’t much of a strategy at all’)。同社説は、国家安全保障会議が米国の外交利益とトランプの衝動を調整しようとした試みですが、それに成功していないとしています。
日本は米大統領が誰であってもよい関係を求めざるを得ませんが、こういう立場でいることについて、反省する必要もあるように思われます。
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