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トランプを激怒させた暴露本に書かれた「決定的証言」その中身 これで王手がかかったかもしれない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54168
2018.01.19 海野 素央 明治大学教授 現代ビジネス
トランプ大統領の「異常な反応」
昨年、米国では数々の「トランプ本」が出版されましたが、ドナルド・トランプ米大統領はさほど興味を示しませんでした。ところが1月5日、トランプ政権に関する暴露本『炎と激怒("FIRE AND FURY: Inside the Trump White House")』が出版されると、大統領は異常なほど敏感に反応しました。
トランプ政権に限らず、米国では政権の暴露本が数多く出版されています。しかし、トランプ大統領が見せたヒステリックな対応は、まさに「異例中の異例」と言わざるを得ません。
まず、暴露本の中で大統領とその家族を痛烈に批判した「元・最側近」スティーブ・バノン元首席戦略官兼大統領上級顧問を非難する声明を、大統領本人が出しました。
その中で、トランプ大統領はバノン氏を「仕事を失っただけでなく、正気も失った」と述べ、大統領選挙における彼の影響力について「スティーブは歴史的な勝利に、ほとんど貢献していない」と否定しました。さらに昨年12月12日、南部アラバマ州で行われた連邦上院補欠選挙における共和党の敗北は、バノン氏に「すべての責任がある」とまで主張したのです。
トランプ大統領のバノン氏への攻撃はまだまだ続きます。「スティーブは、野党やメディアと戦争するフリをしている。彼はホワイトハウスに在職中、実際よりも自分をはるかに重要な人物だと思わせるために、メディアに誤った情報を漏洩した」と批判し、最後はバノン氏が「虚偽の本(フェイク・ブック)の出版を助けたのだ」と決めつけました。
さらにトランプ大統領は「スティーブとは、めったに1対1で議論をしたことがなかった」と強調し、「側近中の側近」とまで呼ばれたバノン氏を「だらしないスティーブ」「情報漏洩者」「権力拡大を狙っている政治的大ぼら吹き」と、こき下ろしたのです。そのうえで、顧問弁護士を通じて著者のマイケル・ウォルフ氏と出版社に暴露本の販売差し止めを請求しました。
なぜここまで、トランプ大統領はバノン氏に激怒したのでしょうか。
暴露本の内容を分析すると、本書にはトランプ大統領にとって「極めて不都合」なバノン氏の発言が書かれていることが明らかになりました。
全ては「長男のコンプレックス」から始まった
トランプ大統領の長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏、娘婿のジャレッド・クシュナー氏、ポール・マナフォート選対会長(当時)の3人は、大統領選を5ヵ月後に控えた2016年6月9日、ニューヨークにそびえるトランプタワーでロシア人女性弁護士らと面会しました。その弁護士は、彼らに「対立候補のヒラリー・クリントン元国務長官が不利になるような情報提供をする」と約束したのです。
暴露本によれば、この面会で主導的な役割を果たしたのは、ジュニア氏でした。
当時クシュナー氏は、トランプ陣営の選挙顧問を務め、早くも絶大な力をふるっていました。本書の行間からは、ジュニア氏が自らの能力がクシュナー氏と比べて劣っていると考え、ある種のコンプレックスを抱いていたことを読み取れます。
ジュニア氏(右端)とクシュナー氏(左から2番目)(Photo by gettyimages)
ジュニア氏は、義弟のクシュナー氏に劣らぬ手柄をあげて、父親に認めてもらいたかったのです。こうした心理状態に置かれていたので、ジュニア氏はロシア人女性弁護士がもちかけた話に飛びついてしまったわけです。
この点に関して、バノン氏は暴露本の中で、ジュニア氏が「トランプタワーの26階にある父親の執務室にロシア政府の手先どもを連れていったんだ。そうでない可能性なんてゼロだ」と、かなり自信に満ちた口調で言及しています。この発言はきわめて重要です。
というのも、トランプ大統領は「自分はロシア人女性弁護士らと面会していない」と、これまで一貫して否定してきています。つまり、トランプ大統領とバノン氏の発言には矛盾があるわけです。ロシア疑惑の捜査を指揮しているロバート・モラー特別検察官も、この点に注目しているはずです。
「オツムに問題がある」
本書には、「ロシアゲート」に関してもうひとつ注目すべき記述があります。
『炎と激怒』が出版される前後、米メディアでは、本書の中でバノン氏がジュニア氏に対して「国家反逆罪に値する」「愛国心がない」と述べた、と報じられていました。それに対してバノン氏は、「あれはジュニア氏ではなくマナフォート氏に対するコメントだった」と釈明しました。
しかし暴露本を読んでみると、バノン氏はジュニア氏、クシュナー氏、マナフォート氏の3人全員に対して「国家反逆罪に値する、愛国心の欠如した行為を行った」と、かなり強い口調で批判していることがわかります。
バノン氏が「国家」や「愛国心」という言葉を使って長男と娘婿を非難したことに対する、トランプ大統領の怒りは想像に難くありません。これらの言葉は、まさしくトランプ大統領が自らの「専売特許」であるかのごとく多用してきたものだからです。例えば大統領は、国家斉唱の際に起立せず片膝をついたままのNFL選手たちに対して、「国家、国旗・国歌に対する敬意が欠けている」と怒り、コア支持層から喝采を浴びてきました。
身内であり最側近であったはずのバノン氏が、いま最も突かれたくない「ロシアゲート」について、「愛国心のない売国奴」という言葉を使って攻撃してきた——トランプ大統領が『炎と激怒』に対してヒステリックなまでの反応を見せたのは、これら3つのポイントがあったからだと考えられます。
さらにバノン氏は本書の中で、「ジュニア氏らは、ロシア人女性弁護士から話を持ちかけられた時点で、すぐにFBIに通報してしかるべきだった」とも批判しています。この点も見過ごせません。
仮に「本当の愛国者」であれば、ロシア政府と繋がっている可能性のあるロシア人弁護士が、大統領候補者の顔に泥を塗るような情報を持ってきて、大統領選挙に介入しようとしているのですから、即座にFBIに通報するはずでしょう。その情報が、ロシア政府によるサイバー攻撃で入手されたものかもしれないと認識していたならば、なおさらのことです。
しかしジュニア氏は、父親にアピールする「手柄」を得て大満足だったようです。暴露本からは、当時の彼の心境が読み取れます。
本書の中でバノン氏は「(ジュニア氏らは)ロシア人弁護士と直接面会するのではなく、まず弁護士を使って面会をさせるべきだった」と語り、3人の「オツムの悪さ」を指摘します。トランプ大統領支持者、共和党支持者の中にも、バノン氏の見解に賛成する者は少なくないでしょう。
昨年秋、筆者は米国でトランプ支持者にインタビューを行いました。その時、米中西部のミネソタ州セントポールに住む共和党穏健派の白人女性(75)は、ジュニア氏とクシュナー氏の行動について「彼らは、ビジネス感覚でロシア政府関係者と面会してしまったのではないでしょうか。(ロシア人弁護士に対応したのが)ワシントンの政府職員ならば、警戒して会わなかったことでしょう」と語り、彼らに落ち度があるという見解を明確に示しました。
この本が「王手」になる可能性
さらにもうひとつ、暴露本で語られた「ロシアゲート」に関する重要ポイントを挙げておきましょう。
バノン氏は本書の中で、モラー特別検察官が率いる捜査チームが、トランプ大統領が過去に行った可能性のあるマネーロンダリング(資金洗浄)に焦点を当てていることに触れ、「(捜査チームは)マナフォート、ジュニア、クシュナーと外堀を埋めて、くそトランプを追い詰める。そんなことは誰が見てもわかる」と率直な意見を述べています。
これは、トランプ大統領としては何としても回避したい問題です。
米メディアは昨年、「トランプ大統領は、モラー特別検察官のチームがトランプ陣営とロシア政府との共謀疑惑のみならず、大統領の過去のビジネスにおける不正を捜査していると聞き、烈火のごとく怒った」と報じました。また大統領は、大統領選の期間中から「監査が終わり次第、過去の納税申告を公開する」と約束していましたが、未だに公開していません。こうした事実からも、トランプ大統領が過去のビジネスに関して神経をかなり尖らせていること、その中に恐らく不都合な事実が含まれていることが推察できます。
バノン氏は本書の中で、「最終的にはジュニア氏とクシュナー氏が司法取引に応じ、モラー特別検察官に協力することになるだろう」と予測しています。仮にそうなれば、トランプ大統領の政権運営が一気に危うくなることは間違いありません。
さらにバノン氏は、「トランプ大統領がモラー特別検察官の捜査で弾劾される確率が33.3%、合衆国憲法修正第25条発動の可能性が高まり、その前に辞任する確率が33.3%、そして1期目の終わり(2021年1月)までにやる気を喪失する確率が33.3%だ」とも述べています。バノン氏は今や、「トランプ再選の可能性はわずか0.1%だ」と考えているわけです。
そのうえで、「トランプ大統領の2期目はない。再選を目指すことすらないだろう」と結論づけています。
バノン氏が合衆国憲法修正第25条発動の可能性に言及したのは、彼が「トランプ大統領には、大統領の職務を遂行する能力がない」と認識していることを意味します。
同法修正第25条第4節では、「副大統領と閣僚が、大統領は職務上の権限と義務を遂行できないと判断した場合、それを連邦議会に書面で通知する」こと、「両院で3分の2以上の賛成が得られれば、大統領は更迭され、副大統領に権限が移譲される」ことが定められています。ただし米国史上、この修正第25条第4節が発動した前例はありません。
野党民主党の下院議員の中には、すでに「トランプ大統領の行動と能力」に関するアンケート調査を、ネット上で実施している議員もいます。カリフォルニア州第31選挙区選出のピート・アギラール下院議員です。
アギラール議員が行っているアンケート調査の質問事項には、トランプ大統領に関して「大統領の職務に適性があると思いますか」「大統領らしいと思いますか」「責任を持ってツイッターに投稿をしていると思いますか」「あなたは、北朝鮮と核兵器に関する大統領の投稿を、特に心配していますか」といった、トランプ大統領の資質に関する質問も含まれています。
アンケート調査の背景には、今年11月6日に予定されている中間選挙に向けて、民主党がこの修正第25条をちらつかせて、トランプ政権存続の是非を争点にする意図がうかがえます。
「バノン失脚」の思わぬ影響
筆者の前回の記事「どうやらトランプは、2025年までやる気まんまんらしい」でも解説した通り、現在共和党やトランプ大統領の身内、さらに支持者のあいだでは、「仲間割れ」のような状況が生じ始めています。そこにきて、今回の『炎と激怒』刊行により、バノン氏は経営する極右系メディア「ブライトバート・ニュース」の会長を退き、本格的に失脚しつつあります。
これを受けて、「ブライトバート・ニュース」の読者や、バノン氏の集票力に頼ろうとしていた共和党の政治家・候補者は「バノン離れ」を加速させています。これが進めば、共和党内では保守強硬派の影響力が低下し、やがて穏健派が優位に立つことになるでしょう。
昨年12月には、米南部アラバマ州の連邦上院補欠選挙で、バノン氏が支援する候補者が民主党候補に敗北しました。民主党の勝因は、共和党穏健派を仲間に引き込むことに成功した点にあります。これまで民主党は、女性・ヒスパニック系・アフリカ系・若者・同性愛者といった様々な属性の票を組み合わせる「異文化連合軍」を戦略の要としてきましたが、そこに共和党穏健派の票が上乗せされたのです。
ただし民主党からすれば、過激な言動が身上であるバノン氏が完全に失脚してしまうと、彼を嫌って流れてくる共和党穏健派や無党派層の票が減ってしまいます。トランプ政権にとっても、また野党民主党にとっても、今回の暴露本刊行が11月の中間選挙にいかなる影響を及ぼすのか、まだ完全には見えていません。
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