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イラン・クルドでも高まる独立要求
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10989
2017年11月9日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
独立を問うイラク・クルドの住民投票に刺激されて、イランのクルドが独立を要求する声を上げ始め、イランの支配者たちは懸念と警戒を強めている、と9月30日付英エコノミスト誌が報じています。その要旨は以下の通りです。
イラン・クルドがイラク・クルドと同等か、それ以上に強い独立要求の声を上げている。イラク・クルドによる住民投票後、イラク・クルド地域はおしなべて静かなのに対し、イランのクルド地域では祝賀ムードが爆発した。いくつかの都市では装甲車が走り、デモが2日間続き、群衆は1946年にイランの北西部で短期間威力を振るったクルド国家、マハバード共和国の国歌を歌った。
一方、イランを支配する聖職者たちは怒りをあらわにし、イラク・クルドの自治の試みを潰すと威嚇し、自称クルド国家をイスラエル(クルド独立を支持)になぞらえ、もう一つのガザにすると断言した。
イランはイラク・クルドの独立国家が出現すれば、自分たちがレバノンのヒズボラを使ってイスラエルを脅かすように、宿敵イスラエルやサウジがイランを掻き回すための踏台にする誘惑にかられるのではないかとも恐れている。それに、イランはペルシャ人主体の国だが、クルドの外にもアラブ、アゼルバイジャン・トルコ人、バルーチ人等、多くの少数民族がおり、人口の3分の1近くを占めている。イランの支配者たちは、クルドが図に乗れば、他の少数民族もそれに倣うかもしれない、と心配している。
実際、4月には分離主義のバルーチ人一派がイランの国境警備員10名を、5月には過激派アラブが警官2名を殺害した。イランのシーア派政権の打倒を標榜するISへのイラン・クルドの流入も続いている。ISによるイラン国会やホメイニ廟襲撃の実行犯もおそらくイラン・クルド過激派だろう。イラク・クルド地域をとり囲むイラン、シリア、トルコ、イラクはみな今回の住民投票がクルド・ナショナリズムの復活を誘発するのではないかと恐れている。シリアには200万人以上、イラクとイランには500万人、トルコには1800万人のクルドがいると考えられている。トルコはイラク・クルド地域との境界に戦車を配備し、エルドアン大統領は同地域の唯一の石油輸出用パイプラインを遮断し、国境を閉鎖すると脅している。
しかし、4ヵ国の中で最も心配すべき歴史的理由があるのはイランだ。クルドはオットマン帝国とペルシャ帝国に挟まれた山地で7世紀にわたり事実上独立の領土を有していた。それに、トルコ・クルドがアレヴィー派(シーア派の仲間とする見方もある)であるのに対し、イラン・クルドとイラク・クルドは同じ方言を話し、大半がスンニ派のシャーフィイー学派を信奉するなど、関係が近く、双方の政治運動は国境を越えて提携する傾向がある。
イラン・クルドが本格的な反乱を始めても、優勢なのはイラン軍の方だろう。マハバード共和国は数か月で潰され、1979年のイスラム革命後のクルドの反乱も直ちに鎮圧された。それでもなお、今回の住民投票はイランの指導者たちをもう一度恐怖に陥れている。
出典:Economist ‘Iran’s Kurds are growing restless, too’ (September 30, 2017)
https://www.economist.com/news/middle-east-and-africa/21729790-referendum-held-iraqi-kurds-revving-up-their-iranian-cousins-irans-kurds
9月25日のイラク北部のクルド自治区で行われた独立をめぐる住民投票は投票率72%で、独立賛成93%でした。
クルド人住民を擁する周辺国家、イラク、トルコ、シリア、イランは、イラク北部のクルド自治区の独立は自国内のクルドの分離独立運動につながると猛反発しています。
トルコがテロ組織としているPKK(クルド労働者党)掃討の目的でクルド自治区に軍事介入すること、イラクも分離独立阻止のために軍事介入すること、イランも国内のクルド独立運動を弾圧し、自分が統制しうるイラク内のシーア派民兵をクルド自治区に侵攻させることなど、クルド自治区の独立は中東情勢を戦乱の巷(ちまた)にさせかねません。
この解説記事は、クルド自治区での独立に関する投票について、イランのクルド人やイラン政府の対応を、良くまとめてあり、参考になります。
クルド人は3000万人くらいいるとされ、国家を持たない最大の民族と言われます。したがってクルド人が異民族の支配下にあり、独立国家を持てないのは気の毒で不条理であると思いますが、国際政治の現実を踏まえると、クルド自治区が今独立することは、それがもたらす混乱を考えれば、とても賛成できません。
イラクのクルド自治区の指導者バルザニ議長は独立をすぐ宣言せず、イラク中央政府に自治権拡大、イラクでの連邦主義の確立のための交渉をしていくとしています。このバルザニの路線にイラクの中央政府も応えていくべきでしょう。空路、陸路の閉鎖など、クルド自治区への制裁や圧力よりも、対話をまず試みるのが好ましいです。
米国は親クルドですが、クルドの独立に反対であり、今なおイラク政府に影響力があるのですから、バルザニとアバディ・イラク首相の仲介をする良い立場にあります。その立場を十分に生かしてもらうといいです。
周辺国の内、イスラエルはイラクのクルド自治区での独立に関する住民投票を支持しています。ユダヤ人は長い間国家を持たなかったことから、クルドに同情しているのだとか、イラク・クルドが今やキルクークも実効支配しており、石油をそこから輸入できる経済的利益を重視しているとか、独立クルディスタンはイスラエルの友邦になりうるとか、その背景について諸説があります。このイスラエルの姿勢は欧米世論にも今後一定の影響を与えると思われます。
尚、クルドがクルディスタンとして国を持ったことは歴史上2度あります。最初が第1次大戦後の連合国とオスマントルコとの講和条約セーブル条約(1920年)でクルドの自治が認められた時です。しかし、この条約はロ−ザンヌ条約(1923年)で無効化されました。2度目は第2次大戦後、1945年末、ソ連がクルディスタン人民共和国(マハバード共和国)をイラン北部に作った時です。これは1年後、イラン軍に制圧されました。
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