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11月3日、米国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表(写真右)は、米国で最も苛酷な外交任務を課せられている。対話を望まない自国大統領と、耳を傾ける素振りすら見せない敵国との板挟みになっているからだ。写真は都内で4月、代表撮影(2017年 ロイター)
対北朝鮮交渉の時間切れ迫る 対話模索する米国務省担当の孤立無援
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/11/post-8868.php
2017年11月8日(水)17時15分
米国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表は、米国で最も苛酷な外交任務を課せられている。対話を望まない自国大統領と、耳を傾ける素振りすら見せない敵国との板挟みになっているからだ。
経験豊富なユン特別代表は、朝鮮半島における破滅的な戦争リスクを抑えるという意味で、米外交における第1の希望かもしれない。とはいえ、北朝鮮対応を巡り政権内の意見は分裂している。
他方、北朝鮮の若き指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長も、少なくとも米国本土を攻撃可能な核弾頭搭載ミサイルの開発が完了するまでは、交渉の意志を見せようとしない。
こうした状況にもかかわらず、韓国生まれのユン特別代表は同僚らに対し、自身の外交努力によって北朝鮮の核・ミサイル開発を巡る危険な米朝対立を鎮静化できるとの期待を表明している。米韓両国の現旧当局者や外交官ら10数人へのインタビューで明らかになった。
もっとも、彼らの大半は悲観的だ。
「ただの夢想家にすぎない」。米政府当局者は皮肉な調子で言う。
「どうにかなるとは思えない」と別の当局者も口を揃える。ただしこの当局者は、直接交渉を公式に拒否しているトランプ大統領の足を引っ張るように見えない限り、ユン代表が、ある程度のレベルで北朝鮮との関係を保つことは依然として有意義ではないかと語った。
米政府当局者4人によれば、トランプ大統領は、自ら武力行使をちらつかせて脅したことで、北朝鮮は屈服し、核兵器・ミサイル開発プログラムを抑制するだろうと側近に語ったという。だが、米国の情報機関の大半はこうした見解に賛同していない。
その一方で、ユン特別代表は国連の場で北朝鮮当局者との直接対話を水面下で模索しており、同国で拘束されている米国民の解放以外の問題についても協議する任務を負っている、と国務省の高官は今週ロイターに語った。
ユン代表は6月、約1年半にわたり北朝鮮で拘束されていた米国人学生オットー・ワームビアさんの解放を実現したが、ワームビアさんは昏睡状態で帰国し、数日後に死亡した。
「時間切れが迫っている」
「(北朝鮮危機に関して、世界には)時間切れが迫っている」と側近の高官が警鐘を鳴らすなか、トランプ大統領は3日アジア歴訪を開始。
その舞台裏では、ユン特別代表が、今にも途絶えそうなコミュニケーション回路を維持しようと努めている。それがあれば、米朝どちらか一方の誤算が、武力衝突にエスカレートすることを防げるかもしれないからだ。
米朝間の緊張に拍車をかけるように、米戦略爆撃機2機が2日、韓国上空で演習を行った。これに続いて、韓国の情報機関から、北朝鮮が新たなミサイル発射を準備している可能性があるとの報告があった。
複数の米当局者は、試射されたミサイルを迎撃することも選択肢の1つとして検討されているが、それに伴うリスクについて政権内でも意見が割れている、と非公式に語っている。
こうした状況の真っ只中に置かれているのが、32年の外交経験を持つ、物腰の柔らかなベテランで、オバマ政権末期となる約1年前に現在のポストに就いたユン特別代表だ。
ユン特別代表は、トランプ大統領の乱暴な発言に加え、大統領側近の不協和音にも苦慮している。武力威嚇は本当に正恩氏に自制を強いるのか、また軍事行動の発動条件は何かについて、意見が割れていると複数の政府当局者が匿名を条件に明らかにした。
ユン特別代表が直面する難題は、定期的な訪問先のソウルでも表面化している。トランプ大統領によるアジア歴訪の2番目の訪問地だ。
複数の韓国政府当局者は、北朝鮮問題を巡るユン特別代表の外交努力が、ホワイトハウスから実質的な支援を得ていないのではないかという懸念を表明している。
「彼にとって状況が容易でないのは明らかだ」と韓国の外交官は語る。「ユン氏は(北朝鮮との交渉役として)まさに適任だが、トランプ大統領がそうしたプロセス全体を台無しにしつつある」
ティラーソン米国務長官は9月30日、記者団に対し、米国は外交による解決機会を探っていると述べたが、トランプ氏は「時間の無駄だ」とツイッターに投稿し、これを一蹴した。
そのなかで、米政権内で対北朝鮮の最強硬派の1人と目され、定期的に諜報関連事項について大統領にブリーフィングを行う米中央情報局(CIA)のポンペオ長官の存在感が高まりつつあるようだ。
ポンペオ長官はトランプ大統領に対し、米国の軍事的な圧力によって、正恩氏は非核化に向けた要求に従わざるを得なくなるという分析結果を提示していると北朝鮮関連の協議に詳しい複数の当局者は語る。
ただし、米情報機関当局者の一部は、非公式にこの立場に異議を唱えている。CIAはこの件についてコメントしなかった。
北朝鮮側のショック
匿名を条件に取材に応じてくれたある米当局者は、ユン特別代表が外交的に「命綱のない」状態に置かれており、外交的解決よりも経済制裁と軍事的な威嚇を重視する政権中枢のアプローチと、十分に連携を取れていないという。
ユン特別代表の過去1年間における外交成果の1つは、オスロとニューヨークでの北朝鮮当局者との秘密交渉により、22歳のワームビアさんを同国から解放したことだ。ユン氏は6月に首都平壌に飛び、北朝鮮の医療施設からワームビアさんを取り戻した。
本件に詳しい米国政府筋によれば、北朝鮮外務省の崔善姫(チェ・ソンヒ)北米局長は、オスロでユン特別代表と会談した際、ワームビアさんの容態の深刻さを認識していなかったという。
この情報提供者によれば、ワームビアさんの容態を知った崔局長は「ショックを受け」、ユン特別代表はただちに米国に召還されてニューヨークで北朝鮮外交官と面会し、これがワームビアさんの帰国に直結したという。
国務省当局者によれば、ワームビアさんの死去は、この時点で米朝関係を冷却する要因になったため、ユン特別代表の努力は微妙なものになったという。
「暗黒の状況に陥る」
国務省の当局者によれば、北朝鮮政府に対するトランプ大統領の軍事的な威嚇にもかかわらず、ユン特別代表は「外交的な働きかけを減らせば、暗黒の状況に陥る可能性が増す」と考えているという。
たとえそうであっても、トランプ大統領の言動によって、同盟国や恐らく北朝鮮も、大統領や彼の政権がそもそも外交に関して、またユン氏の任務に関して、どの程度本気なのか疑問を抱いている。
トランプ大統領は、政権内の専門家の提言に反し、米朝間の対立を「人格化」してしまい、正恩氏を「ちびのロケットマン」と嘲笑した。国家安全保障関係の高官によれば、一部の専門家は、これが非生産的な結果につながり得ると警告しているという。
だが別の当局者は、トランプ氏は5月に「金氏と会えれば光栄だ」と発言しており、最近では正恩氏に対して新たな「口撃」を手控えており、これまでとは違うアプローチに対する期待が生まれているという。
ある韓国政府当局者は、米国がそもそも朝鮮半島への関与を確保したいのであれば、将来の交渉を加速させるために、北朝鮮との窓口になる人物を用意しておくことが必要だと語っている。
だが米政権のマクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は最近NHKに対して、「われわれは延々と続く交渉を開始する余裕はない。北朝鮮はこうした交渉を隠れみのにして、核兵器・ミサイル開発計画を続けていく」と語っている。
米国の元交渉担当者らは、ユン特別代表に同情の念を示す。北朝鮮に対する怒りを噴出するホワイトハウスと、平和的解決を推進したい国務省との主導権争いのなかで、同氏の交渉権限が制約されてしまっているからだ。
イランが制裁解除と引き換えに核開発計画の自粛を受け入れた2015年の合意締結の際に、米国側で交渉を主導したウェンディ・シャーマン元国務次官は、「私の交渉権限に疑いを持つ人は誰もいなかった」と語る。「今のような状況では、私たちの交渉能力は削がれてしまう」
1994年の北朝鮮核危機の際に米国側の首席代表を務め、最近ユン氏と連絡をとったというロバート・ガルーチ元国務次官補は、ユン氏についてこう評している。「大統領が作っている空気も含めた現在の状況の下で交渉する難題に現実的に取り組んでいる。だが、彼のアプローチは現実主義に基づいているが、それでも彼は使命を信じている」
(Matt Spetalnick記者、Arshad Mohammed記者、Hyonhee Shin記者 翻訳:エァクレーレン)
[ロイター]
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