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北朝鮮が弾道ミサイル発射 ICBM発射実験に成功と発表(KCNA/UPI/アフロ)
北朝鮮危機の裏で、米国が日韓など諸外国に武器輸出攻勢…潤う米軍需産業
http://biz-journal.jp/2017/10/post_20905.html
2017.10.12 文=浜田和幸/国際政治経済学者 Business Journal
このところ、中国を人口の多さでも経済発展の速度でも追い抜く勢いを見せているのがインドである。人口は間もなく17億に達するというし、直近の経済成長率は7.1%を記録した。そんな未来の超大国インドに乗り込み、去る9月14日、安倍晋三首相は日本の新幹線方式を導入した高速鉄道の起工式に臨んだ。総事業費はなんと2兆円で、内80%以上を日本が先に負担する。「0.1%で50年返済」という超低利の円借款のなせる業といえよう。
予想した通り、67歳の誕生日を迎えたモディ首相は大喜び。安倍首相と自らの巨大な全身写真を掲げ、安倍首相夫妻をもてなした。安倍首相も「モディ首相の経済政策は新幹線と同じだ。高速で、安全で、信頼できる。多くのインド人が喜んでいる」と応じていた。
だが、本当に多くのインド人が喜んでいるのだろうか。確かにムンバイとアーメダバード間は現在8時間かかっているが、新幹線が開通すれば3時間でつながる。とはいえ、新幹線に乗れるのは裕福なビジネスパーソンに限られる。そもそもインドの鉄道は事故の多さで有名だ。2007年から今日だけでも700件を超える脱線事故が起き、多数の死傷者が出ている。
多くのインド人にとっては「夢の新幹線」より、「事故のない鉄道」こそが必要とする社会インフラのはずだ。あまり知られていないが、インドは鉄道の総延長距離では世界第4位に位置する鉄道大国である。しかし、事故の多さでは世界1位との汚名に甘んじている。安倍首相の訪印直前にも重大事故が頻発し、鉄道大臣は更迭されたばかりだ。本来、鉄道の安全運航に欠かせない人材育成や路線整備にもっと資金を投入すべきであろう。
しかも、現在使われている5万5000台の車両は老朽化している上、トイレなど衛生面の問題も深刻化する一方である。筆者もインドの鉄道には何度もお世話になったが、家畜と一緒になるような旅には閉口したものだ。「こうした問題を解決するのが先」との声が大きい。
にもかかわらず新幹線にこだわるのは、モディ首相が選挙公約として掲げてきたからだが、今回の新幹線導入には国内で反発も巻き起こっている。
安倍首相はどこまでそうしたインド人の声を理解しているのだろうか。計画中の新幹線はトンネルの距離が21キロで、その内7キロは海面下という。難工事に加えて、テロの頻発する地域を走行する新幹線は「金持ち列車」としてターゲットになりやすい。23年の開業を目指すというが、リスクの大きなプロジェクトであることを肝に銘じておく必要がある。
■創造的な外交を展開すべき時代
一方、相次ぐ北朝鮮のミサイル発射という挑発行為に対して、国際社会は右往左往するばかりだ。国連の安保理が決定した名ばかりの経済制裁と中国頼みの圧力では、一向に金正恩の暴走に歯止めをかけることはできそうにない。
これらはアメリカの対外的な指導力の低下をはじめ、中国やインドの台頭など、アジア、世界を取り巻く政治、経済、安全保障環境が目まぐるしく変化していることの結果に過ぎない。こうした情勢変化を冷静に把握しておかねば、政治的決断はもとより、ビジネス上の経営判断もうまく下せないだろう。
どの国と、あるいはどの企業と連携すべきか。国家や企業の命運を左右するのは目に見える部分に惑わされず、見えない部分の動きを正確に理解する力があるかどうかである。今こそ、北朝鮮問題の暴発を抑えるためにも、平壌と経済的結びつきの太い欧米諸国、特に英国、そしてロシア、中国、インドなどとも創造的な外交を展開すべき時代だ。
南シナ海では「フィリピン、べトナム対中国」といった対立の構図が急浮上している。もちろん、台湾やブルネイ、インドネシアも傍観しているわけではない。なにしろ、南シナ海は年間50億ドルもの貿易通商ルートである。世界の海上輸送の3分の1を占めるほどの重要な航路だ。
しかも、往来する船舶の大半は日本の貨物輸送にかかわっている。エネルギー資源の輸入や「メイド・イン・ジャパン」製品の輸出にとっての生命線である。このシーレーンを確保できなければ、日本は生きていけない。
日本政府はフィリピンに対して、「ビーチクラフトTC-90キングエア」の供与を申し出た。海上での警戒警備能力を高めるのが支援の目的だ。「リバランス政策」と称して、アジアとの関与を強めたオバマ前政権より、安全保障の分野でより深くコミットするかたちである。というのも、アメリカは中国に配慮してか、領土、領海問題に関しては、「一方に与しない」との姿勢を取っていたからだ。
これではフィリピンにしてもベトナムにしても、心もとないと思うのも当然であろう。トランプ政権の誕生により、アメリカの対中政策も変化する兆しは見えるが、北朝鮮問題の発生により、中国の対北朝鮮圧力を期待するトランプ大統領は言行不一致が目立つようになった。
■接近する中国とロシア
「アジアの時代」といいながら、アメリカのオバマ政権は指導力を発揮できないまま終焉を迎えた。鳴り物入りで大筋合意したとされるTPP(環太平洋経済連携協定)も、トランプ大統領の鶴の一声で廃案に。「アメリカ・ファースト」の掛け声の下、アメリカは内向きの姿勢を強めている。対外的な軍事コミットメントも以前ほど期待できない状況が生まれている。米海軍のイージス艦なども、相次ぐ事故で同盟国からの信頼を失いつつある。
その意味では、日本はアメリカ以上にフィリピン、ベトナムからの要請に応じるかたちで、これまでになかった軍事面というレベルで支援する方針を明確に打ち出したといっても過言ではない。日本外交にとっては「新たな時代の幕開き」ともいえるもの。アメリカの存在にただちに取って代わるわけではないが、アメリカの限界を見極めた上で、アメリカの力を生かしつつも独自の対アジア戦略を構築する第一歩を踏み出したのである。
とはいえ、注意すべきリスクも生まれつつある。というのも、日本の動きは結果的に、警戒感を強める中国とロシアの接近を加速させているからだ。具体的には、ロシアは中国に海上発射の巡航ミサイルを提供することになった。急速な軍の近代化を進める中国ではあるが、海軍力においてはアメリカや日本にはまだまだ及ばない。そこで、ロシアとの急接近となったわけだ。
要は、日本の動きをテコに、ロシアから最先端の武器を調達しようということである。これこそ中国式交渉力といえよう。ロシア外交筋によれば、「中国はロシアの支援で太平洋にて、今後はより積極的な軍事展開が可能となる」。現在、中国に近代的な軍事技術を提供できる立場にあり、実際、そうした動きを加速させているのはロシアだけである。
こうしたロシアからの援助や協力がなければ、中国はアメリカやその同盟国との軍事的な対立に勝てる見込みはない。本音の部分ではロシアと中国はともに世界的な覇権を目指している国同士。時にライバル視するも、時に同盟国にもなる関係といえよう。アメリカ一辺倒できた日本とは大違いだ。
実際、15年8月にウラジオストクを舞台に実施された中ロ合同演習は過去最大の規模となった。しかも、中ロ友好協力条約によれば、「どちらかに脅威が及んだ場合、他方が支援する」という相互援助が条文化されているのである。仮に米中が軍事的に対立した場合、ロシアは中国を支援するというわけだ。その逆もある。片務的な日米安保とは異なり、まさに軍事同盟としての役割が明文化されている。17年9月にも日本海周辺で中ロの合同軍事演習が展開された。
■中国的深慮遠謀
では、そうした動きを加速させる中国の意図をどう分析すべきであろうか。また、南シナ海における軍事基地化の本当の狙いはなんなのか。中国は新たに建設した飛行場にジェット戦闘機を送り込んでいるようだが、その目的は何か。しかも、配備されつつある戦闘機はロシア製のSu-35と目され、世界最高の性能を誇るもの。アメリカも一目置く存在だ。
アメリカを誘い出した上で、ロシアとも結託し、超大国アメリカを潰す戦略に舵を切ったとでもいうのであろうか。いうまでもなく、財政赤字に苦しむアメリカはアジア太平洋地域において、その海軍力が「ハウス・オブ・カーズ」と揶揄されるごとく脆い存在になりつつある。そうしたアメリカや日本にとっての「不都合な真実」を見越した上での中国的深慮遠謀のなせるワザなのか。
もちろん、別の見方もあるだろう。しかし、いずれにせよ中国は単なる資源獲得にとどまらず、アメリカを抜く超大国への道を目指していることは間違いなさそうだ。言い換えれば、世界の覇権国家を目指しているといえよう。この点を見誤ると、アジアの安全保障環境は崩壊する。繰り返すが、中国は岩礁の基地化を通じての広範な領有権を追求しているだけではないからだ。その点での、中国の真意を読み解く必要がある。
アメリカは遅ればせながら、第7艦隊所属の空母「ジョン・ステニス」や駆逐艦を南シナ海へ派遣した。しかし、財政的な重荷を背負うアメリカには、かつてのような「世界の警察官」の役割を担う意思も能力もない。ましてや、ビジネス最優先のトランプ大統領はアメリカの武器や兵器を買ってくれるなら、台湾にも韓国にも、いくらでも武器輸出をするという姿勢。日本にも1基800億円の「イージス・アショア」など陸上配備のミサイル防衛システムの売り込みに余念がない。
自前の軍事的対応がかなわないためか、アメリカは日本やインドとの3カ国合同演習に力を入れつつある。これも日本ではほとんど報道されないが、日本はインドと経済、軍事的な連携を強める方向に進んでいる。多分にアメリカの意向もあり、中国封じ込め戦略の下で、インド、オーストラリアとも集団的安全保障体制の構築を進めているのが安倍政権である。
■インドの「アクト・イースト」政策
こうした動きができるようになったのも、15年にすったもんだの末に成立した安保法制の賜物といえよう。事態は急ピッチで動いている。たとえば、フィリピン北部での軍事演習が想定されている。この計画はアメリカの太平洋軍司令長官ハリー・ハリス提督によってインドのニューデリーで開催された安全保障会議の席上で明らかにされた。中国の反発を呼んだのも当然だろう。
これまでアメリカとインドは「マラバール海軍合同演習」を通じて、2国間での軍事協力を進めてきた。この枠組みに日本も正式に参加するようになった。今や毎年、3カ国で軍事訓練を展開中だ。インドは日本から最先端の水陸両用航空機Su-2など各種の防衛装備品を購入することを決めた。これも武器輸出3原則が撤廃された結果である。
これまでインドはアメリカから防衛装備品を積極的に導入してきた。同様にアメリカ製のミサイル防衛システムやイージス艦、オスプレイなどの導入を図ってきた日本。その意味では、防衛面でのインドと日本の統合運用はスムースに展開する可能性がある。外交の観点からすれば、プラス、マイナス両方あるが、見方によってはアメリカの戦略にうまく乗せられただけともいえよう。得をするのはアメリカの軍需産業ともいえるからだ。
となれば、日本は独自の外交に踏み出すべきである。そのカギを握るのはインドだ。「アジア太平洋の時代」とよく言うが、インドのモディ首相の主張は「インド太平洋」の時代。日本とインドが協力し、安全保障からエネルギー、鉄道、医療、税制まで幅広い分野での戦略的シナジー効果を狙ってのこと。インドとの間で「日印ビジョン2025」を結んだ日本。当然、中国による南シナ海における岩礁の埋め立て、軍事基地化を念頭においた対策という側面は否定できない。しかし、より大きな可能性を秘めての合意である。
忘れてならないのは、インドが大量の労働力を抱えていること。冒頭紹介したように、人口の大きさでは間もなく中国を抜く勢いだ。人手不足、労働力不足の日本の現状を把握し、積極的な人材派遣に力を入れているのがパール判事やチャンドラ・ボースを生んだインドである。日本企業は1200社がインドへ進出。19年までに倍増させようとの動きが高まっている。なかでもスズキは成功事例といえよう。インド製の自動車が今では日本に輸出されるようになったほどだ。
さらには、IT分野の牽引車として世界の製造拠点を目指すインド。中国にとって代わり、アジアからインド太平洋全域をカバーするハブを目指す。日本も新幹線に続き、原発技術の売り込みに拍車をかける。インドとの間で原子力協定を結び、日本から原発技術の移転が可能となる仕掛けだ。
インドが進める核実験を容認する日本。CTBTへの調印、加盟をインドに求めていた日本だが、インドが中国寄りになることを防ぐためにあえて条件を外し、日本から民生の原発技術がインドに移転できるようにしたところである。経済的利益を優先したかたちである。
日本はインドの「アクト・イースト」政策を支援することを宣言。かつてマレーシアのマハティール首相が提唱した「ルック・イースト」ではない。ルック(見る)ではなく、アクト(行動する)、というわけだ。インドが日本と共に進める「アクト・イースト」は中国の主張する「海のシルクロード」に対抗しようとするもの。
ただし注意すべきは、インドは決して中国との関係を反故にしようとはしていないことだ。日本と中国のどちらからも利を得ようとしているにすぎない。水面下では中国との関係強化にも努めている。ブータンとインドを結ぶドクラム高原では17年の夏、中印両国が対峙していたが、BRICS首脳会議を前に、双方が軍を同時に撤収した。インドも最終的には中国との融和を選択したわけだ。日本はそうした情報収集と分析の上で、アジアの時代を切り開くべきであろう。
(文=浜田和幸/国際政治経済学者)
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