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サウジとイランの関係改善?行方は不透明
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10735
2017年10月11日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
サルマン国王は2015年に王位に就くと、息子のムハンマド国防相と共に武力による地域からのイランの影響力排除に狙いを定め、イエメンでイランの仲間、ホーシー派に戦争をしかけた。また、同年、メッカで起きた群衆の暴走で死亡した多数のイラン人巡礼者への補償を拒否した。翌年には自国のシーア派聖職者、ニムル師を斬首し、イランとの外交関係を断ち、スンニ派諸国による軍事同盟結成を主導した。
しかし、2年後の今、ムハンマド王子(6月より皇太子)は考えを変えつつあるようだ。イランの様々な手先と対決するのではなく、彼らやシーア派指導者と関係を結ぼうとしている。今月には25年前に断ったイラクとの関係を回復して国境を再開し、情報共有に関する合意締結のために幕僚長をバグダッドに派遣し、イラクの貿易使節団をリヤドに迎えた。6月には、イラク首相でシーア派のアバディを歓待し、7月にはジェッダでイラクの過激なシーア派聖職者、サドル師と会談した。
サウジはイラク南部のシーア派の聖都、ナジャフに領事館を開設し、同市のイマーム・アリ廟を訪れる自国のシーア派のために直行便を飛ばす計画だ。
実際、サウジはシリアに対する姿勢も変えた。かつてサウジの聖職者はスンニ派イスラム戦士に対し、シリアを支配するアラウィー派への反逆を促したものだが、今は、ムハンマド王子は、シリアの反政府スンニ派への支援を止め、リヤドに亡命した同派指導者たちにアサド政権との妥協を促したと言われる。
サウジは北イエメンへの爆撃を続けているが、ここでも、取引を望む和解的姿勢が見られる。異例にも、市民14人が亡くなった8月25日のサナア空爆について謝罪し、また、国連仲介によるサナア空港とイエメン最大の海港フダイダの再開も示唆している。しかし、あるサウジ政府関係者は、クウェートやバーレーンでのイラン扇動のテロを挙げ、イランのイエメン介入を嘆く。
いかなる進展も容易ではないだろう。サウジはイランに対して宥和的と見られるのを警戒している。一方、シーア派主導のイラク政府がサウジを受け入れるのも容易ではない。サドルは、ニムル師の処刑に怒って蜂起したサウジのシーア派をサウジ軍が制圧している最中にムハンマド王子に会った、として自国で激しい非難を浴びた。一方、一部のサウジ人は、王子がモスルのIS撃退――そしてスンニ派の偉大な美しい都市の破壊――についてアバディを祝したことに仰天した。
出典:Economist ‘Enemies no more?: The Saudis may be stretching out the hand of peace to their old foes’ (September 7, 2017)
https://www.economist.com/news/middle-east-and-africa/21728686-rapprochement-iran-may-be-pushing-it-saudis-may-be-stretching-out
エコノミスト誌は、サウジとイランの関係改善を示す例を列挙しています。
このうちサウジとイラクとの関係改善については、9月22日付の本欄『中東の戦略地図に影響?サウジとイラクの関係改善』でも取り上げましたが、エコノミスト誌はそこで取り上げられたサウジ外相のイラク訪問、イラクの内相と扇動的な聖職者サドルのサウジ訪問の他に、サウジのムハンマド皇太子が、1)イラクのアバディ首相を招待したこと、2)自らの腹心をバグダッドに派遣し、情報共有に関する合意を締結したこと、3)イラクの貿易団を招聘したこと、を報じています。さらにサウジはイラク南部のシーア派の聖都、ナジャフに領事館を開設する計画とのことです。
そのうえムハンマド皇太子は、シリアの反政府スンニ派への支援を止め、イランとの代理戦争ともいわれる北イエメンについてもより和解的姿勢を示し、取引を望んでいる兆候が見られるといいます。
これらの動きを見ると、サウジとイランとの関係改善は散発的な現象とは思えません。サウジとイランの関係改善の動きのイニシアチブはいずれもサウジが取っているようです。これはイエメン内戦への介入や、カタールの孤立化など、サウジの強硬策が行き詰っており、サウジとして活路を見出したいということかもしれません。あるいはエコノミスト誌の言うように、サウジが湾岸諸国とアラビア半島で自由裁量権を持つ代わりに、シリアを含む中東の北部についてはイランの優位を認めるという「大取引」を考えているのかもしれません。
今回の動きのイニチアチブを取っているのがムハンマド皇太子であることに注目すべきです。ムハンマド皇太子は、従来の慣習にとらわれない思い切った政策を推進する指導者で、サウジの石油依存からの脱却を目指した国家改造計画「ビジョン2030」が代表的な例です。サウジのイランとの関係、スンニ派とシーア派の関係についても、サウジとイランがスンニ派、シーア派の盟主として中東での覇権を争ってきた宿敵であるという伝統に必ずしもとらわれない発想をしているのかもしれません。
しかし、ムハンマド皇太子の指導力をもってしても、サウジとイランの関係の重みを考えれば、意味のある関係改善が一朝一夕に実現するとは想像し難いです。エコノミスト誌は解説記事のタイトルを“Enemies no more?”としましたが、?マークは、関係改善の行方が現時点で想定できないことを適切に示していると思われます。
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