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にこやかに握手するティラーソン米国務長官と習近平国家主席(9月30日、北京) Lintao Zhang-REUTERS
中国が北朝鮮を攻撃する可能性が再び----米中の「北攻撃」すみ分けか
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/10/-----10.php
2017年10月2日(月)16時30分 遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長) ニューズウィーク
訪中したティラーソンは習近平と「極めて友好的な」会談を行なった。北朝鮮が第19回党大会にミサイル発射をぶつけてくる可能性がある中、静かにしている中国は何を考えているのか。米中の極秘交渉を考察する。
極めて友好的な会談に隠れているもの
ティラーソン米国務長官が訪中したのは、トランプ大統領訪中の下準備のためである。今年4月に習近平国家主席が訪米した際にも、ティラーソンは事前(3月18日)に訪中して習近平と会っている。
この2回の訪中に共通しているのは、「この上ない友好的ムードの中で互いを礼賛し合うこと」ではあるが、今回の「友好さ」には何かが隠れているのを感じる。2回とも北朝鮮問題に対する話し合いが含まれているとされながら、その具体的内容に関しては公表されていない。それでも3月のときは中国外交部が「双暫停」(米朝双方とも暫時、軍事行動を停止すべき)と発表するなどの意思表示があったが、今回は何もない。
あったのは、ティラーソンが習近平との会談後(会談中ではないことにご注意!)、米朝間には独自のチャンネルがあり、米朝は互いに直接接触していると表明したことくらいだ。これはこれで大きい話なのだが、筆者はこれまで何度も書いてきたので(たとえば、8月4日付けコラム<ティラーソン米国務長官の「北朝鮮との対話模索」と米朝秘密会談>など)、ここでは省く。
習近平は北朝鮮の侮辱に、どこまで耐えるのか?
北朝鮮は習近平にとって国際的な晴れ舞台となる大行事があるたびに、その開幕式の日にミサイル発射などの挑発的行動に出て、習近平の顔に思い切り泥を塗り続けてきた。
今回も10月18日に開幕する第19回党大会のその開幕式の日に合わせて、ミサイルを発射するだろうと推測されている。
「外交大国」を自負する習近平は、国際的大行事の開幕式があるたびに顔に泥を塗られることに激怒しているだろうが、それ以上に中華人民共和国の根幹を成す中国共産党の全国代表大会の日に合わせて北朝鮮がミサイルを発射すれば、その忍耐はレッドラインを越えるだろう。
ではその場合、習近平は何をするのか?
アメリカとすみ分けて、中国が北を武力攻撃
トランプ大統領が金正恩との舌戦を繰り広げ、国連総会で金正恩を「ロケットマン」と呼び、ツイッターで「ちっぽけなロケットマン」と書くに及んで、米韓による北朝鮮への武力攻撃の可能性は高まってきているように見える。
しかし、その一方では、ティラーソンの記者団に対する発言にもあるように、アメリカはいくつものチャンネルを設けて、北朝鮮と直接会話を試みている。トランプはティラーソン発言を否定しているが、米朝が水面下で接触しているのは明白だ。
かといって、いざとなったら武力攻撃がないわけではない。
それを見据えて、中国は早くから考えていた「中国による北朝鮮に対する武力攻撃」を「米中とのすみ分けの中で」模索している。
2016年2月22日付けコラム「いざとなれば、中朝戦争も――創設したロケット軍に立ちはだかるTHAAD」に書いたように、中国が北朝鮮を軍事攻撃するという可能性は早くからあった。
しかしトランプ政権誕生後、事態が一変し、中国は「双暫停」と「対話」を唱えながらも、むしろトランプの方針を「やや協力的に」見守るという姿勢を貫いている。
それは米中関係の親密度を踏み台にして、世界のトップに上り詰めようという野心が習近平にはあるからだ。だから、中国はアメリカとは絶対に敵対しない。
では、この大前提の下で、いま中国が取れる方法は何か。
それは、アメリカによる北への武力攻撃が始まろうとする寸前に、中国が北朝鮮への武力攻撃をする、というシナリオだ。
これまでと違うのは、「アメリカと敵対せずに遂行する」ということである。
つまり、アメリカと協力しながら、軍事力をすみ分けて「中国独自の軍事攻撃」を北朝鮮に対してするというやり方である。
中国はこれまで何度も、米韓が38度線を越えたら中国はそれを阻止すると言ってきた。したがって、ある意味、アメリカが、アメリカの代わりに中国に軍事攻撃をしてもらうということになる。互いに了承済みで、勢力図をすみ分けながら断行する。但し、党大会が終わるまでは中国は絶対に動かない。場合によっては来年3月の全人代閉幕直後辺りまで延ばす可能性もある。
米中の相互補助
このシナリオはちょうど、ティラーソンが発表した「アメリカによる北朝鮮政府との複数の対話手段の保持」と、対(つい)を成している。
ティラーソンはなぜ、わざわざ「北京で」記者団に対して話す必要があったのかを考えれば理解できるはずだ。中国は対話による解決を要求している。だから、それに応える意味で、ティラーソンは、敢えて発表の場として北京を選んだ。しかも習近平との対談の直後に。
習近平は金正恩(委員長)の度重なる無礼と屈辱的手法に堪忍袋の緒が切れかかっている。だから、「武力攻撃もあり得る」ことをちらつかせるトランプに、「いざとなったら」協力的に武力を断行し、北を敗退させた時の中国の「持ち分」を確保する訳だ。
日米韓が主戦場にならないという意味では、最高に良い選択とも言える。
中国の軍事力の強化の目的の一つが、事実ここにあることは、これまで何度も書いてきたが、今回もまた、それが証明される事態になっているということが言えよう。
なお、「米中のすみ分け」は、トランプ政権以外の他のアメリカの政権では絶対にあり得なかったシナリオと言わねばなるまい。それを可能ならしめたのは、トランプが個人的に習近平を気に入っているからであり、そのことは拙著『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』で言い尽くしたつもりだ。
日本は置いてきぼりを食わぬよう、気を付けた方がいい。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会科学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』(飛鳥新社)『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』『チャイナ・ナイン 中国を動かす9人の男たち』『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。
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