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中国で大炎上した「慰安婦スタンプ」と「日本軍コスプレ」 表現の自由か、不謹慎か…
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52765
2017.09.02 安田 峰俊 現代ビジネス
日本の「終戦の日」は8月15日だが、中華圏における対日戦勝記念日は、日本が連合国と降伏文書を交わした翌日・9月3日である。ゆえに中国人が「あの戦争」に思いを馳せてしんみりするのは毎年8月末から9月にかけての時期となる。
ゆえに毎年の夏の終わりを迎えるたびに、中国では世論がなんとなくピリピリし、ネット上では正義感ぶって自警団的な行動を取るユーザーの言動も活発になる。ゆえに不用意な言動が拡散・炎上する事例も多くなる。
今年もまた、3件ほど大規模な炎上事件が発生した。いずれも「炎上」を受けて当局が動き、当事者がきついお灸を据えられている。今回の記事では各事件の概要を紹介したうえで、騒ぎの背後にある問題点を分析してみることにしよう。
■慰安婦の顔を「スタンプ」に…
今夏、中国では8月14日から中国人慰安婦のドキュメンタリー映画『二十二』が封切られ、公開17日間で興行成績が1.6億元(約26.8億円)を突破するなど、この手の映画としては異例のスマッシュ・ヒットを記録している。これは1980年生まれの若手映画監督・郭柯が監督をつとめ、2014年時点で中国全土に生存していた元慰安婦22人への聞き取りをもとに制作した作品だ。
私は現時点で未見なのだが、『二十二』は中国製ドキュメンタリーにありがちな説明的なナレーションを排し、歴史映像の切り貼りや再現映像なども使わず、元慰安婦の証言をそのまま流して現在の生活の様子を追ったストイックな内容だという。
戦争を知る世代がいよいよ減りつつある昨今は、この手の映画を作る最後のチャンスである。いわんや政治的なプロパガンダ色が薄い制作方針であるなら、映画芸術として意義ある試みではあるだろう。
映画『二十二』宣伝ポスター。映画サイト『時光網』の評価は8.6点と非常に高く、単なるプロパガンダ映画ではない名作のようだ。
いっぽうで中国人は商魂たくましい。近年、映画やアニメがヒットすると、その映像や画像を無断で切り貼りしたチャットソフト向けのスタンプ(日本でいう「LINEスタンプ」に相当)がすぐに制作されることとなる。日本と違い、中国では実写の人気動画や写真がチャットソフトのスタンプに(多くは勝手に)加工され、販売・使用される例も多い。
そこで映画『二十二』についても、あるスタンプ製作会社がさっそくスタンプを作って販売を開始した。作中の画面からキャプチャーした元慰安婦の老婆の顔写真の下に、「本当にやるせない気持ちで」「言葉が出ない」といった作中の証言と思われるセリフを貼り付けた、カジュアルな「慰安婦スタンプ」を制作してしまったのだ。
「慰安婦スタンプ」の一部。友達から送られてきたら、どういう「返し」をすればいいのか悩みそうだ
だが8月22日、共産党青年団機関紙『中国青年報』がチャットソフトQQにこのスタンプが流れていることを、不謹慎であるとして問題視する記事を掲載。やがて、スタンプの製造元である上海似顔絵科技有限公司の幹部層の多くが、みな日本で留学や勤務経験があるといった話(注.上海のITスタートアップにはそういう人が多い)までネット上に流れて大炎上事件に発展した。
8月27日には上海の警察当局が動き、「”慰安婦”の老人の苦難の歴史のありかたと社会的評価に対してよからぬ影響をもたらした」との理由で、同社に罰金1万5000元(約25万円)と当面のネット接続禁止や業務停止が科された。
ほか、警察当局の公式微博(中国版ツイッター)が、同社の関係者が肉筆で記した反省文をネットに晒すという「私刑」に近い処置もおこなっている。
確かに、元慰安婦の顔写真を勝手にスタンプに使って売る行為はNGだとは思うのだが、当局が著作権問題ではなく道徳的な問題を理由にして、民間企業を公然と処罰するのは、やはり中国ならではの現象だろう。
『人民日報』などでも、慰安婦をパロディ化する振る舞いそれ自体がけしからんという主張がなされている。もっぱら「表現」の部分がクローズアップされ、当局の旗振りのもとで規制が敷かれているとなると、ちょっと腑に落ちない部分も覚える話だ。
■日本軍コスプレで炎上する人々
いっぽう、近年の中国で多いのがコスプレにまつわる「炎上」である。コスプレは目立ちたがり屋の中国人の心性に合うためか、中国では2000年代から「COS」と呼ばれて独自の進化を遂げており、極めてハイレベルなコスプレイヤーを多々輩出している。また、娯楽の多様化によってミリタリーオタクや歴史オタクも増えており、都市部を中心に仲間同士の強固なコミュニティも形成されている。
そこで今年8月に問題化したのが、ある軍装コスプレ同好会を主導する青年(ハンドルネーム「リボンズ・ヴィッセン」氏)の呼びかけでおこなわれた、日本軍コスプレのオフ会だ。彼らメンバー5人は8月3日夜、大日本帝国海軍の各種の軍装を身にまとい、1937年の第2次上海事変で最後の激戦となった「四行倉庫の戦い」の舞台である倉庫前で撮影を敢行したのである。
日本海軍コスプレをおこなった軍装マニアのグループ。この4人のほかに撮影者も処罰を受けた模様。四川省・浙江省・北京など各地からわざわざ上海に撮影に来たようで……(現地報道より)
後に流出したヴィッセン氏のQQ空間(個人ページ)への投稿内容によれば、集合した彼らは旧日本軍の軍歌を口ずさみつつ往年の将兵に思いを馳せ、夜間に倉庫前の人通りが絶えた一瞬を狙って、「夜襲」と称して激戦地跡で記念撮影をするというエッジーすぎる活動を展開。だが、別のネットユーザーにその投稿内容を暴露されたことで、一気に炎上することとなった。
結果、またもや上海の警察当局が動き、8月23日に中心人物の3人が行政拘留処分に。ほか未成年メンバーの2人が訓戒処分となった。警察側によると「多くの人民群衆の愛国的感情を極めて傷付け、中国の特色ある社会主義核心価値観に背き、悪しき社会的影響をもたらした」ゆえにけしからんとのことで、治安管理処罰法に違反しているそうである。
また、8月13日には広西チワン族自治区南寧市賓陽県でも、地元のマイルドヤンキー系の若者2人が「ネットで目立ちたかったから」と高速鉄道の駅の前で日本陸軍の軍服を着用。その格好のままオラついていたところ、警察に連行された。
旧日本陸軍の軍服でいきがる、夏の終わりの無軌道な若者たち。スマホで自撮りもおこなっていた(現地報道より)
彼らについても、やはり治安管理処罰法に違反したかどで10日間の行政拘留を受けたという。ちなみに事件は広西チワン族自治区の地方都市で発生しただけに、彼らの「パフォーマンス」の際はヒマな通行人たち300人近くが見物。やがて血の気の多い人たちがみんなで彼らをどつき回し、警察が来たころには若者2人はボコボコにされていたそうである。
■愚行の「自由」は制限されるべきか?
慰安婦スタンプの制作販売と軍装コスプレ。国際的な共通認識から判断しても、中国が72年前に日本の侵略を受けたことは事実であり、その被害者や遺族がまだ存命している以上は、こうした表現は基本的に「悪趣味」だと考えるより他ない(趣味を頑張りすぎただけにも見える上海の軍装同好会は多少かわいそうな気もするが)。中国人ならずとも、不快感を抱く人がいるのは当たり前だ。
だが、これが仮に他国で起きたことならば、事態は当事者や所属組織の謝罪を通じて、民間社会の内部で幕引きがなされる。なぜなら、(著作権の問題をひとまず措くならば)人気映画の風刺やパロディを作ることも、自分の好きな格好をすることも、本人の責任のもとでおこなう限りは表現の自由の範疇であるはずだからだ。
結果としてそれに不快感を覚える人が多くいて世論の批判を浴びたならば、やはり本人自身が「自由」な行動に対する責任を取らなくてはならない。良くも悪くもそういう性質の話のはずである。
しかし中国の場合、ここに容赦なく公権力が介入して事態が収集されてしまう。当局側が主張する法的根拠は、中華人民共和国治安管理処罰法の第23条「公共秩序の擾乱」に抵触するという点なのだが、かなり恣意的に法律が解釈されているのは明らかだ。また、一連の話題については共青団系の『中国青年報』や解放軍系の『解放日報』などが大きく報じたことでネット上の炎上が誘導されたきらいがあり、むしろ当局主導で吊し上げが推進されたと見ることも可能である。
歴史問題についてそれほど意識を持っていない若者が、好き勝手な行動をしたことで生まれた不祥事。本来はB級ニュースにすぎない事件からも、表現の自由というヘビーな問題が垣間見えてしまうのが、いかにも当世の中国らしい話であると言えるだろう。
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