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米国は中東で再び戦争をしてはならない
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10389
2017年8月25日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
7月20日付のニューヨーク・タイムズ紙の社説が、米国でイランとの対決を求める声が深刻になっているが、米国は再び中東で戦争をしてはならないと主張しています。主要点は次の通りです。
米国は中東で再び戦争をしてはならない。しかし、大統領、政府高官、スンニ・アラブ指導者達は、挑発的な発言などにより緊張を高めていて、イランとの武力紛争に向かいかねない状況になっている。
イランも米プリンストン大学の学者を拘束し、シリアのアサド支援を続ける等、緊張を呼ぶ行動をしている。米国の多くの政治家にとって、イランは1979年以来、処罰し孤立させるべき国となっている。しかし両国は、ISとの対決など利益を共有している。対話を開くなど外交手段で、両国関係を管理すべきだ。
2003年の戦争を想起することが有益だ。「9.11」テロを受けて米国の関心はアフガニスタンのアルカイダとタリバンに集中した。しかしワシントンでの議論は「9.11」や核兵器保有とは無関係のイラクに転じ、フセイン打倒が議論になった。ブッシュは確たる理由や戦略もないまま先制攻撃を決定した。
同じような戦争への突入が再び起こりうる。いくつかの理由は次の通りだ。トランプはイラン核合意の破棄を公約に選挙を戦った。トランプはイランに合意を破棄させ、あるいは自らそれを破棄することを考えているようだ。
核合意署名に強く反対した米議会は今新たな制裁を議論している。最近4人の上院議員が国務長官に書簡を送付し、イランは「地域の侵略を行い、テロを支援し、ミサイル技術を開発」しようとしていると述べた。この書簡は核合意が地域のリスク低減のための重要な出来事になっていることを認識していない。
政府高官は、レトリックを強め、レジーム・チェンジを支持するかのような発言をしている。ティラーソン国務長官はイランが地域覇権を狙っていると非難し、マティス国防長官はイランが「中東で最大の不安定化勢力」だと述べた。
1979年以降米国の指導者は時々イランのレジーム・チェンジの考えをもてあそんできた。しかし一部専門家は、今回はすべての悪の責任はイランにあるとするサウジの単純な見方をトランプが受け入れているために事態は深刻であると述べている。サウジは指導者交代以後イエメンで態度を強硬にしており、またカタールとの間でも危機を作っている。イスラエルはイランを大きな脅威とみなしている。
米政府の外でも反イランの声が強まっており、トランプや議会に働きかけをしている。
多くの米国民は、1979年の人質事件、レバノンでの1983年の米海兵隊殺害事件(241人が犠牲)、1996年のコバル・タワー爆破事件などイランの犯罪のことを覚えている。他方イランはCIAによる1953年のモサデク転覆事件やイラン・イラク戦争の時の米情報機関のイラク支援に怒りを感じてきた。
イラン政府は対米強硬派とロウハニのような穏健派に割れている。トランプは、これら穏健派と協力しないで戦争に向かって動くようなことをすれば大きな間違いを犯すことになるだろう。
出 典:New York Times ‘Avoiding War With Iran’ (July 20, 2017)
https://www.nytimes.com/2017/07/20/opinion/donald-trump-war-iran-.html?_r=0
良識的な社説です。健全な見方を述べています。
イランとの対決やレジーム・チェンジを求めるトランプ、同政権幹部の強硬な発言、議会強硬派の動きなど、状況は深刻になっているとして、同紙は危機感を募らせているようです。世界の安定に関心を持ち、とりわけ中東のエネルギー資源に死活的に依存する日本としても十分フォローしていく必要があります。
米国で戦争は常に政権浮揚になります(少なくとも開始直後の間は)。ロシア疑惑が深まる中、来年は中間選挙があり益々活路が見えないトランプ政権がいよいよ窮地に陥った際、政治基盤挽回のため、イラン強硬策に打って出るリスクは考えられないことではありません。マティスなど米軍部がそれに乗るとは思えませんが、分かりません。
イラン核合意は不完全なものですが、リスクの軽減には役立っています。あれより良い合意が可能だったとは考え難いです。IAEAもイランが合意を順守していることを認定しています。勿論、イランの行動にはいろいろ重大な問題があります。中東の大国として覇権的野望を持ちそのために行動していることは否定できません。ヒズボラなど過激派の支援は規制すべきです。他国政治への介入は止めるべきです。イスラエルの生存権は認めるべきです。地域の状況を不安定にするようなミサイル発射など軍事力の増強は規制すべきでしょう。北朝鮮といった「ならず者国家」との軍事協力を嘗て進めてきた履歴もあります。宗教政治の下での人権弾圧も問題であり、民主化を進めていくべきです。しかし、これらのことは外交を通じて推進していくものであり、レジーム・チェンジの戦争を正当化することにはなりません。
中東情勢が一層流動化しています。中東のもう一つの大国であるサウジは、サルマン国王になって以後言動がダイナミックになっている点は一定限度評価されますが、イエメン介入やカタールの封鎖など行動が不規則になっています。
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