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https://news.yahoo.co.jp/byline/satohitoshi/20170708-00073069/
佐藤仁 | 情報通信総合研究所 副主任研究員 7/8(土) 12:30
ドイツで2017年6月30日に、ソーシャルメディア(SNS)がヘイトスピーチの投稿を削除しない場合には、最大5,000万ユーロ(約60億円)の罰金を科す法案が可決された。ドイツでは2015年あたりからシリア、アフガニスタンからの難民が急増したことに伴い、SNSへのヘイトスピーチの投稿も増加。メルケル首相もSNSに対してヘイトスピーチ、人種差別を煽るような発言の投稿について対応の強化を促していた。2015年12月にはFacebook、TwitterなどのSNSはヘイトスピーチの投稿があった場合は24時間以内に削除することに合意。法務大臣Heiko Maas氏が2017年3月に法案を提出し、約3か月後に可決された。10月から施行される予定。ドイツでは「Facebook法」とも言われている。
ドイツでも利用者が多いFacebookは今回のドイツでの法案可決について「ドイツ政府のヘイトスピーチと戦う方針はFacebookの目標と同じ。法案可決は重要な進展だ。政府、市民社会、業界が協力していくことが重要」とコメント。
■進まないSNSでのヘイトスピーチ削除
今回法案が可決される前から、SNSでのヘイトスピーチを煽動するような投稿は問題になっていた。SNSでの削除が追いついていなかった。「明らかに違法な内容」であれば削除も容易だが、なかなか難しいようだ。
そのためFacebookは2015年10月にも人種差別や民族憎悪を扇動したとしてドイツのハンブルグの検察当局がFacebookを捜査。2016年11月には暴力的な表現、ヘイトスピーチ、テロを支援する内容、ホロコーストを否定するような投稿を削除しなかったという理由でミュンヘンの検察当局はザッカーバーグCEOを含む経営陣10人の捜査を実施すると報じられた。さらに2015年12月にはドイツ北部のハンブルクにあるFacebookの事務所が約15〜20人の集団に襲撃された。そして壁に「Facebook Dislike(フェイスブック、よくないね)」と落書きされたり、投石や発砲弾でガラスも割られた。
Facebookはドイツで偽ニュース(フェイクニュース)対策にも積極的に取り組んでいる。フェイクニュースの削除と違って、ヘイトスピーチの線引きは難しい。
■もはやマイノリティでない移民・難民
第二次大戦中にナチスによるユダヤ人やロマの差別迫害で600万人以上のユダヤ人が殺害された。当時ドイツの人口は約6,700万人で、ユダヤ人は全人口の1%以下の約50万人しかいなかった。殺害されたユダヤ人のほとんどは占領地域のポーランドや東欧諸国。当時、日常生活においてユダヤ人と接点があるドイツ人は少なかったし、現在と違って情報伝達手段も限定的だったため、ユダヤ人迫害に対してあえて無関心を装うこともできた。現在のように外国人の移民・難民のようにどこの街でも遭遇できるようなものではなかった。
ナチスの反省からドイツでは難民・移民に対して寛大であり、受け入れる経済的余力も他のヨーロッパ諸国よりはある。2015年だけでシリアやアフガニスタンを中心に110万人以上の難民・移民がドイツに流入。このような難民・移民の存在に不安や不満を感じるドイツ人も多い。またドイツ人だけでなく、以前にドイツにやってきた中東やアフリカからの移民らは、自分たちの仕事を新たに来た移民や難民に奪われるのではないかという不安を持っている人も多い。新たに来た移民や難民は生活基盤の安定のために仕事が欲しいから、安い賃金でもいいから働きたいと思っているので、以前からドイツにいた移民らにとっても脅威である。もはやドイツでは移民・難民がマイノリティの存在でなくなった。ミュンヘンやフランクフルトなどの大都市の駅前などでは、もはやドイツ人よりも移民系の人ばかりを見かけるので、どこの国にいるのかすらわからないと感じることも多い。
■難しい線引きとバランス
特に2015年12月31日、ケルンでは若い男性集団が女性たちを取り囲んで金品強奪や性的暴行事件が650件以上も発生した。被害に遭ったと警察に届け出た女性は600人以上に達した。加害者には難民申請者が多いことから、大聖堂でお馴染みのケルンの街で新年を祝うためのお祭りが、ドイツ史上に名を残すような大事件になってしまった。この事件以降、ドイツ人の移民に対する怒りや不満は減少していない。彼らの怒りや不平不満の捌け口としてソーシャルメディアが活用されており、ドイツでのヘイトスピーチ関連の投稿は1年で112%増加した。
明らかに人種差別を煽るようなヘイトスピーチの投稿ならすぐに削除も可能だし、投稿者の意図もわかりやすい。そのため動画でYouTubeにアップされた場合は削除も容易だ。だがヘイトスピーチの意識がなくとも、移民増加に対する日常の不安、不満をSNSに書き込み、それに同調する人も多く、それらの書き込みは、あっという間に拡散されていく。また他の民族、人種の異なる文化や習慣に対する些細な気持ちも、それが助長すると差別や隔離に繋がることもある。
そしてヘイトスピーチはマジョリティ(多数側)がマイノリティ(少数側)に対して憎悪を表すことがほとんどだったが、現在のドイツでは移民・難民が増加し、社会のあらゆるところに入り込み、もはやマイノリティの存在ではなくなっている。ナチス時代のユダヤ人の存在と現在のドイツ社会では状況が全く異なる。
このような「日常の不平不満」や「異文化への戸惑い」は表現の自由の領域かもしれない。誰もがスマホから簡単に自分の思いをSNSに投稿できるようになって久しいが、どこからが「ヘイトスピーチ」で、どこまでが「日常の不平不満」や「異文化への戸惑い」といった表現の自由なのか。その線引きはますます難しくなってきている。
佐藤仁 情報通信総合研究所 副主任研究員
情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信やメディアの果たす役割などに関して研究。情報通信技術の発展とメディアの多角化、コンテンツの多様化によって世界は大きく変わってきた。それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあり、国際秩序をどう変化させたのか、そして人間の行動パターンと文化現象はどのように進化してきたのかを解明していきたい。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。
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