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トランプを選んだアメリカ国民は後悔しているのか ヒラリー敗北の原因に迫った本がベストセラーに(WEDGE)
http://www.asyura2.com/17/kokusai20/msg/173.html
投稿者 赤かぶ 日時 2017 年 7 月 27 日 13:44:45: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

          『SHATTERED』(Jonathan Allen,Amie Parnes、Crown)


トランプを選んだアメリカ国民は後悔しているのか ヒラリー敗北の原因に迫った本がベストセラーに
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10198
2017年7月27日 森川聡一 WEDGE Infinity


■今回の一冊■
SHATTERED
筆者 Jonathan Allen、Amie Parnes
出版社 Crown


タイトル”shattered“の意味

 筆者たちは選挙戦のさなかからヒラリー陣営などの100人以上にインタビューを重ねてきた。臨場感あふれるシーンの数々が登場する。なかでも、次のシーンは最も胸に迫った。ヒラリー・クリントンが選挙での敗北を認める電話をドナルド・トランプにかけた直後、オバマ大統領からヒラリーに電話がかかってくる。ヒラリーの長年の側近であるHuma Abedin(フーマ・アベデイン)がオバマからの電話を、ヒラリーへ取り次いだシーンだ。ヒラリーはその少し前にもオバマ大統領から電話をもらい、選挙での敗北を潔く認めるよう説得されたばかりだった。

 “It’s the president,” Huma said. Hillary winced. She wasn’t ready for this conversation. When she’d spoken with Obama just a little bit earlier, the outcome of the election wasn’t final yet. Now, though, with the president placing a consolation call, the reality and dimensions of her defeat hit her all at once. She had let him down. She had let herself down. She had let her party down. And she had let her country down. Obama’s legacy and her dreams of the presidency lay shattered at Donald Trump’s feet. This was on her. Reluctantly, she rose from her seat and took the phone from Huma’s hand. “Mr. President,” she said softly. “I’m sorry.”

 「『大統領からです』とフーマは言った。ヒラリーは一瞬、ひるんだ。話をする心の準備ができていなかった。ほんの少し前にオバマと話したときはまだ、選挙戦の結果は確定していなかった。しかし、今や、大統領が慰めの電話をかけてくるにいたって、自分が敗北したという現実と、ことの重大さが突如、ヒラリーを打ちのめした。自分は大統領を失望させてしまった。自分自身もダメにしてしまった。党にも敗北をもたらした。そして、自分の国を奈落に突き落としてしまったのだ。オバマが築き上げた功績と、大統領になるという自分の夢は、ドナルド・トランプの足元で砕け散った。自分のせいだった。ヒラリーは重い腰をイスから上げフーマの手から電話を受け取った。『大統領、すいませんでした』と、ヒラリーは静かに言った」

 ちなみに、引用した原文のなかに、shatteredという単語が出てくる。本書のタイトルにもなっている言葉なので、ここで少し解説する。「打ち砕く」という意味を持つ動詞shatterの受動態なので「打ち砕かれた」という意味になる。Shatterという動詞には、ガラスなどを「粉々に割る」という意味もある。これまで女性が大統領に就任したことがないという、いわゆるガラスの天井(glass ceiling)を打ち破る(shatter)つもりで、ヒラリーは大統領選に挑んだはずが、逆にトランプによって打ちのめされた(shattered)という、皮肉にも近い意味がタイトルには込められている。

自分が政界のインサイダーではないと
示せなかったヒラリー


 閑話休題。いきなり結論から明かすと結局、ヒラリー・クリントン自身の不手際が敗因だったと、本書は言い切る。

 In the end, though, this was a winnable race for Hillary. Her own missteps―from setting up a controversial private e-mail server and giving speeches to Goldman Sachs to failing to convince voters that she was with them and turning her eyes away from working-class whites―gave Donald Trump the opportunity he needed to win.

 「しかし、結局のところ、ヒラリーに勝ち目のある選挙戦だった。ヒラリー自身のいくつもの過ちのおかげで、ドナルド・トランプはチャンスを手に入れた。ヒラリーがおかした過ちとは、議論の的となった公務の電子メールで私用サーバーを使ったことや、ゴールドマン・サックスで講演したおかげで選挙民たちの反感を買い、白人労働者階級へ目配りしなかったことだ」

 富を独占しているとしてウォール街を目の敵にする市民運動が広がっていたのに、ウォール街を象徴する投資銀行のひとつであるゴールドマン・サックスから招待され高額の謝礼をもらって講演したことや、公務のメールを安全性の低い個人アカウントで読むなどした落ち度を敗因としてあげている。しかも、ヒラリー・クリントンは選挙戦の序盤では、みずからの落ち度を認めず謝罪も遅れ、国民のヒラリーに対する不信感が一段と深まってしまった。

 筆者たちは次のように総括する。

 She was unable to prove to many voters that she was running for the presidency because she had a vision for the country rather than visions of power. And she couldn’t cast herself as anything but a lifelong insider when so much of the country had lost faith in its institutions and yearned for a fresh approach to governance.

 「ヒラリー・クリントンは多くの有権者に対し、自分が何のために大統領選に立候補するのかを示せなかった。権力を手に入れるためではなく、国がどうあるべきかというビジョンを持っているから大統領を目指すのだということを証明できなかった。また、国民の大多数が政治機構に対する信頼を失い、政治のあり方について新しい取り組みを求めているのに、ヒラリーは自分が政界の長年のインサイダーなんかではないと示せなかった」

「クリントン株式会社のせいで、わたしたちは負けた」

 結局は、既存の政治や政党への不信感が広がるなか、政治家として長年、活動してきたことが実績として評価されず、むしろ既得権益を守る立場の政治家として有権者に嫌われたということなのだろう。本書では、ヒラリー陣営の有力者の次のコメントも紹介している。

 “We lost because of Clinton Inc.,” one close friend and adviser lamented. “The reality is Clinton Inc. was great for her for years and she had all the institutional benefits. But it was an albatross around the campaign.”

 「『クリントン株式会社のせいで、わたしたちは負けた』と、ヒラリーの親友でアドバイザーでもある一人は嘆いていた。『ヒラリーは長年にわたりクリントン株式会社に助けられ、彼女は体制側の人間としての恩恵をすべて享受してきたのが現実だ。そうした現実が選挙キャンペーンの大きな障害だった』」

 夫のビル・クリントンが大統領も務め、クリントン株式会社と呼べるような利権を生み出すシステムができあがってしまった。その恩恵を受けて政治家として活動したヒラリーには、どうしてもワシントン政界のインナーサークルの人間としてのイメージが定着してしまった。そこが、大統領選では邪魔になったという弁だ。では、当の本人はどう思っているのだろうか。本書は残念ながら、ヒラリー本人に直接取材していないようだ。しかし、ヒラリー陣営の人々への綿密なインタビューにより、次のような証言を引き出している。

 On a phone call with a longtime friend a couple of days after the election, Hillary was much less accepting of her defeat. She put a fine point on the factors she believed cost her the presidency: the FBI (Comey), the KGB (the old name for Russia’s intelligence service), and the KKK (the support Trump got from white nationalists).

 「選挙から数日たった後、長年の友達との電話では、ヒラリーは自分の敗北を認めたくない様子だった。ヒラリーは、大統領選で負ける結果につながったと考えるいくつかの要因をあげた。FBI(コミー)やKGB(ロシアの諜報機関の旧称)、KKK(トランプが白人の国粋主義者から集めた支持)だ」

 選挙キャンペーン中に、電子メール問題を蒸し返したFBIのコミー前長官や、情報操作に加担したと取りざたされたロシアの存在などを、ヒラリーは大統領になれなかった原因だと考えていたという。トランプ支持者たちを、白人至上主義による秘密結社のKKK(クー・クラックス・クラン)になぞらえるあたりは穏当ではない。しかし、トランプ支持者たちをKKKとして切り捨ててしまうあたりに、白人の労働者階級のワシントン政界への不満を理解できないヒラリーの限界が浮かび上がる。

 もっといえば、民主党や共和党という党派の枠を超え、自分たちのために政治家は働いてくれていないという不満が、一般国民の間に高まっていた。この点をヒラリーは見誤ったのかもしれない。本書でも、アメリカ社会における一般市民の思いを次のように整理している。

 The public’s anger with Washington had built steadily over the intervening years, but it was divided: Conservatives believed the government had grown too powerful and redistributed too much money from taxpayers. On the left, voters often viewed the existing government as an impediment to greater redistribution of wealth and more benefits for the middle and lower classes. However, these two sets of populists did overlap in a few essential areas. They were mad about corporate subsidies, trade agreements, and American military intervention overseas.

 「ワシントン政界に対する一般大衆の怒りは数年の間に徐々に積み上がり、しかも二分されていた。保守派の人々は政府の力が強大になり、納税者が納めたお金をばら撒きすぎていると考えていた。反面、左派では、有権者たちはよく次のように考えている。現在の政府は、富の再配分をより推し進めたり、中間層やその下の階層の人々にもっと支援を与えたりするうえで、障害となっている。しかし、これら2組のポピュリストたちはいくつかの点で共通していた。企業に対する補助金や貿易協定、国外へのアメリカ軍の派兵について、ポピュリストたちは怒り狂っていたのだ」

 ヒラリーが正攻法で政策論を展開しても有権者の納得を広く得られなかったのも事実なのだろう。ヒラリーはダメなアメリカの象徴だったとも本書は指摘している。まさに、ヒラリーと逆のことをやったのが、東京都の小池百合子知事だ。自民党政権への批判票をうまく取り込み、東京都議選で都民ファーストを大勝利に導いた。既成の政党に対する反発という大きな流れをヒラリーは読めなかったのだ。トランプ大統領は、支持母体の共和党とも対立しながら、ポピュリストたちの不満にこたえる姿勢をアピールし選挙に勝ったわけだ。

いまさらヒラリーの選挙キャンペーンを振り返っても……

 本書の普遍的な内容を要約すると、このようにあまり目新しくない論評となってしまう。ただ、本書はヒラリーの選挙キャンペーン陣営の内幕を暴くのを主眼とするノンフィクションだ。真骨頂はやはり、ヒラリー陣営での選挙参謀たちのギスギスした人間関係だ。ヒラリーの取り巻きたちが邪魔となり、陣営内で情報共有が滞り深刻な事態に陥るなど、選挙キャンペーンの事務局がうまく機能していなかった実態を暴く。

 独自のデータ分析に自信を持つ選挙参謀の一人は、従来型の世論調査には重きを置かず、勝てる選挙区で確実に勝つ戦略をとる。その結果、投票を呼びかけるボランティアを十分に雇わず、勝てるはずの選挙区でも負けてしまう失敗をおかす。選挙で勝ったあかつきには、政権で重要なポストをもらえるように、選挙キャンペーン中から同じ陣営の同僚の足を引っ張りライバルを重要な仕事からはずすなど、内輪の権力争いもよくあったことを本書は細かく描く。おまけに、元大統領のビル・クリントンをはじめ大物の存在には事欠かないため、どうしても船頭が多くなり、優秀な選挙参謀たちも機能不全に陥る。ビル・クリントンからいろいろ指示されたり、選挙戦略について批判されたりすると、だれも反論できないのだ。

 すごい取材力だとは感心するものの、日本人である筆者はワシントンの選挙ビジネスに群がる人々について詳しいわけでもないので、退屈な部分があったのも正直なところではある。

 時折、面白かった部分といえば、政治家に対する人物評だ。なるほどアメリカの現地では、こういう言われ方をしているのだなと、なんとなく納得させられる記述がいくつかあった。次の一説は、家庭に恵まれただけなのに、生まれた瞬間から自分の実力だと勘違いしているトランプ大統領を、うまく揶揄していて面白い。

 Former Texas agricultural commissioner Jim Hightower once said of George H. W. Bush that he was born on third base and thought he hit a triple. Well, by that measure, Trump was born on third base and clearly thought he’d stopped there, ever so briefly, to drink in the roar of the crowd as he trotted home in celebration of a grand slam.

 「テキサス州の元農務長官のジム・ハイタワーはかつて、父ジョージ・ブッシュについてこう評した。運よく三塁ベースの上で生まれただけなのに、自分が三塁打を打ったと思っている、と。そうであるならば、トランプは三塁ベースの上で生まれたうえに、明らかに次のように思っている人間だ。ちょっとだけ三塁に止まっただけで、これから小走りでホームに向かい、自分が打った満塁ホームランを喜ぶ観客の歓声に浸るところだと」

 アメリカの民主党で、大統候補の座を最後まで争ったバーニー・サンダースについては、ヒラリー陣営のなかでは辛らつな表現でからかっていたという。ほぼ負けがみえているのに、指名争いから撤退しないサンダースに嫌気をさした表現だが、残念ながら、日本に対する差別感情に根ざすコメントとも言えなくもない。

 In Brooklyn, Clinton aides joked about Bernie being the last Japanese World War II soldier tromping through the Philippines in the belief that the war was still being fought decades after it had ended.

 「ブルックリンでは、クリントン陣営の人々はバーニーについて冗談で次のように言っていた。とっくの昔に戦争は終わっているのに、戦闘が続いていると思い込んで、フィリピンで逃げ惑っている最後の日本兵のようだ」

 混乱の種ばかりが目立つトランプ大統領の政権運営を目の当たりにしながら、いまさらヒラリーの選挙キャンペーンを振り返ってもどうにもならない。それでも、もう少しヒラリーに民意をつかむ感性があれば、誤りを率直に認められる人徳があれば、アメリカの風景も変わっていたかもしれない。そう思うアメリカ人は多いのだろうか。とはいえ、次がある政治家でもないだけに、本書を一読しても、すっきりした気分や希望を味わえるわけではない。


 

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