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自信過剰な北朝鮮と米中の責任
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10196
2017年7月26日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
ブルース・クリングナー(ヘリテージ財団上級研究員)とスー・ミ・テリー(元CIA分析官、現バウワー・グループ・アジア・コンサルの朝鮮部長)が連名で「我々は北朝鮮の代表者との話し合いに参加した。我々が学んだことはこれだ」との記事を、6月22日付けワシントン・ポスト紙に寄稿しています。記事の要旨は次の通りです。
対北朝鮮「関与」の主張者は、北の政権がいかに酷くても、北のミサイル・核計画を止める唯一の道は外交である、と主張している。しかし、金正恩と話し合うのは時間の無駄と思われる。
最近、我々、米・日・中・韓の代表者からなるグループが六者協議の再開の可能性を探るためにスウェーデンで北の代表に会ったが、話し合いの後、より悲観的になった。
北の高官は、北は核兵器増強とICBM試験をやめることはないと明言、これらの計画についての柔軟性や交渉意欲は何ら示されなかった。北朝鮮は一貫して、非核化は議題ではないとした。
我々は、経済・外交上の利益または安全の保障の組み合わせで北に過去の交渉での約束と国連の決議を守るよう仕向けられるか、何度も確かめようとしたが、答えは断固としたノーであった。北は、サダム・フセインとカダフィの運命を例に引きつつ、核計画は政権の最終的な生命維持装置であると言った。
北側の一人は、「まず核保有国として認めよ。その後、平和条約について話し合うか、戦うか。我々は両方に準備・用意がある」と述べた。北側は、敵対行為を自ら始めることはないが、挑発されれば戦うと言っている。北は、朝鮮戦争を終わらせ北朝鮮を国家として認める平和条約は、北の長期的目標であり、朝鮮半島からの米軍撤退につなげたいと考えている。
過去の同じような会談と違っていたのは、北側の過剰なまでの自信であった。核・ミサイル開発での成功の結果であろう。北側は、核計画は一般的な「米国の敵対政策」への対応であると明らかにした。韓国が何を提示しようと北が核計画を変更することはないだろう。
トランプ大統領は国連決議をもっと完全に守るとの中国の約束に希望を託している。しかし彼も今はうまく行っていないことを認めている。トランプは6月20日、「習主席の努力を評価するが、結果が出ていない」とツイートした。
トランプはオバマの「戦略的忍耐」を批判したが、彼の政策はオバマ政策とそう違わない。「最大限の圧力」と言うが、中国人、北朝鮮人の米国法違反を追及していない。その上、北と交渉するのか、ICBM阻止のために軍事行動をとるのか、はっきりしない。
核兵器を持ちソウルに1万以上の大砲を向けている国に先制攻撃を行うのは良い考えではない。我々との会談で北の高官は「核兵器を苦労して作ったのはそれを使う前に滅ぼされるためではない」と強調した。もし米国が北に軍事攻撃をすれば、北は数十万、数百万の死傷者が出る報復を行うということである。
先制攻撃よりも、第2次制裁を含め制裁強化をする方が望ましい。これは戦争の危険を避けて北に罰を与え、金政権の崩壊の日を早め得る。制裁強化は交渉を再び開始するより実際的な措置であろう。
出典:Bruce Klingner & Sue Mi Terry,‘We participated in talks with North Korean representatives. This is what we learned.’(Washington Post, June 22, 2017)
https://www.washingtonpost.com/opinions/we-participated-in-talks-with-north-korean-representatives-this-is-what-we-learned/2017/06/22/8c838284-577b-11e7-ba90-f5875b7d1876_story.html
この記事は、特に新しい論点を提示するものではありませんが、北朝鮮の考え方を直に聞いた報告であり、日本にとっても、政策決定のために役立ちます。この記事は、会議で表明された北の考えを正確に反映していると思われます。
朝鮮半島の軍事バランスは、圧倒的に米側が強く、巨人と小人の対立です。したがって、北が軍事的敵対行為を始めることは自殺行為になるので、まずありえません。スウェーデンの会議でも、北側も「自分から敵対行為を始めることはない。挑発された場合だけである」と説明したようです。そういうことなのでしょう。
何が挑発に当たるのか、北の考えは明確に示されていません。北は、かつては「安保理制裁決議の採択は宣戦布告に当たる」と言っていたこともあります。しかし、米国に対して、それを理由に軍事的対応をしたことはありません。北は、大きな声で吠えるけれども嚙みつかない犬のようなものです。制裁強化に対しても低強度の軍事行動に対しても、北の軍事的対応は抑制されたものになる、とみてよいのではないでしょうか。力の差が歴然としている中では、そうなるでしょう。
したがって、米国が堪忍袋の緒を切らさない限り朝鮮戦争の再現はありそうにないです。米国の堪忍袋の大きさについては、キューバ危機の経験から判断してどうなのか、判断が難しいところです。
北との外交、交渉に関して言うと、この記事が指摘するように時間の無駄でしょう。「平和条約を先行させろ」などの要求が出て来て、交渉は進まず、何も得られないでしょう。文在寅との対話など、北は相手にしないでしょう。この点についてのクリングナーなどの判断には賛成です。
中国を含む周辺国による制裁強化はありうる策です。中国は、「北の政権が崩壊すれば、韓国主導の統一になり、米軍が鴨緑江にまで来る。難民が中国東北地方に流れ込む」と心配しているようです。それに対しては、北の崩壊は狙わない、米軍を鴨緑江にまで行かせることはない、韓国主導統一はしないなどの保証を中国に与えればよいでしょう。その上で中国に制裁の強化を求めればよいのです。東西ドイツの統一に当たり、東独の地域にNATO軍は入れないとの約束をしたこともあります。韓国も性急な統一を望んでいるわけではありません。
朝鮮半島での大規模紛争は避けつつ、制裁強化、低強度の軍事圧力その他をかけていくことが核問題の解決に役立つでしょう。米中が朝鮮半島の将来像について共通の了解に達すれば事態を動かせると思われます。そして、核兵器国として、そうすることが米中の責任です。
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