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カタール・ドーハ(SHansche/IStock)
カタールの孤立化は失敗、トルコ、イラン、反サウジで支援
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/10145
2017年7月19日 佐々木伸 (星槎大学客員教授) WEDGE Infinity
サウジアラビアやエジプトなどアラブ4カ国が同じスンニ派のペルシャ湾岸の小国カタールと断交し、経済封鎖などで孤立化を図ったが、この締め付け策は失敗することが確定的になってきた。カタールが地域大国、トルコとイランとの関係を強め、国家的危機に巧みに対処しているのに対し、仕掛けたサウジ側には打つ手がないからだ。
■カタールのしぶとさはサウジの誤算
カタールは人口230万人の小国。世界3位の天然ガス埋蔵量をバックに潤沢な経済力を誇るが、食料はほぼ100%輸入に依存せざるをえない。その多くを隣国のサウジアラビアからの陸上輸入に依存していたが、断交で国境が封鎖されてあっという間に食料危機に陥った。
しかし、スパーマーケットや商店などからサウジ産の野菜や果物が消えた代わりに、イランやトルコなどからの輸入品がその穴を埋めた。値段は1割〜2割上がったものの、すぐに根を上げるというサウジの期待を裏切ってしぶとさを発揮、食料などの封鎖は奏功していない。
サウジ、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプトの4カ国は6月下旬、関係修復の条件としてカタールに対し、13項目にわたる要求を突き付けた。13項目には、イランとの関係縮小、トルコ軍の基地閉鎖、イスラム原理主義組織ムスリム同胞団などとの関係断絶、テレビ局アルジャジーラの閉鎖などが含まれ、まるで「属国に対する命令」(アナリスト)だった。
カタールはこれに強く反発、アルジャジーラの閉鎖については、英国にBBCの閉鎖を要求するようなものと批判した。カタールには19世紀から政治的な被抑圧者などを保護してきた特異な歴史があり、外部からの批判には打たれ強い体質が備わっていた。このしぶとさはサウジの誤算だった。
近年でもイラクの独裁者サダム・フセインの家族や、国際テロ組織アルカイダの指導者だったビンラディンの息子の1人、パレスチナの原理主義組織ハマスの指導者を保護し、アフガニスタンの過激派タリバンのメンバー、家族ら100人を滞在させ、和平交渉の場所を提供してきた。
カタール側の怒りを増幅させているのが「サウジやUAEにはめられた」(ベイルート筋)ことに対する確信があるからだ。これについては7月16日付の米ワシントン・ポストが情報当局者の話として、UAE高官らが5月23日にカタールに対するハッカー攻撃を密議。同24日にカタール国営通信のウエブサイトにカタールのタミム首長の「親イラン発言」などをでっち上げて掲載させたことを暴露している。
ハッキングはUAE当局が自ら実行したのか、ロシア人ハッカーなど外部のプロに委託して実行したのかは不明だ。しかし、この首長のでっち上げ発言が時を置かず、“真実の報道”としてサウジアラビアのメディアで大々的に伝えられたことを見ると、カタールを貶める策謀は周到に準備されていたのは間違いないところだろう。
■反サウジ同盟を許す
カタールの危機に手を差し伸べたのがトルコとイランという地域大国だ。カタールはトルコに多大な投資を行っており、経済的なつながりは年々強まってきたが、昨年4月には軍事協定を締結。トルコ国会は6月7日、カタールがサウジから断交を受けるという苦境に喘いで中、軍事協定を承認し、1000人規模の部隊を派遣しつつある。
トルコのメディアによると、エルドアン大統領が近くカタールを訪問する見通しで、サウジやUAEには強烈なけん制になる。なぜ、トルコとカタールの関係が親密かだが、それは原理主義組織ムスリム同胞団を共に支援してきたという仲間意識が背景にある。逆に言うと、ムスリム同胞団を国家の敵として弾圧してきたエジプトが反カタール陣営に加担している理由も明快だろう。
イランは今回のカタール危機には、表面的には著しく自制した対応に終始している。しかし、スンニ派アラブ諸国の分裂には内心では、“喜ばしい混乱”として歓迎しているのは間違いない。とりわけ、トランプ米大統領が先のサウジ訪問で「反イラン網」を構築しようとした時に起こっただけに、イランにとってはこの上ないタイミングの出来事だったろう。
イランはペルシャ湾を横断して海路、カタールに食糧を大量に輸出し、またサウジやUAEの領空から締め出されたカタール航空に領空通過の許可を与えて大もうけしていると伝えられている。
ベイルート筋は「サウジやUAEはイランを弱体化させたいと思っていたが、自らカタール危機を作り出し、イランとトルコという地域大国による“反サウジ同盟”を作りだしてしまった。サウジは墓穴を掘ったのではないか」と指摘している。
ペルシャ湾の緊張は米国にとってもマイナスだ。だが、トランプ大統領は一貫してサウジ寄りの姿勢なのに対し、エクソン・モービル時代、カタール指導者と親しかったティラーソン国務長官は話し合いによる危機の収束を図りたい考え。大統領自身「長官とはちょっと考え方に違いがある」と言うように、米政府内部も対応が分裂しているのが現実だ。
ティラーソン国務長官、マティス国防長官は佳境に入った過激派組織「イスラム国」(IS)への空爆作戦の拠点になっているカタールのアルウデイド空軍基地の重要性を強調しているが、トランプ大統領は「米軍がカタールから出て行かなければならなくなっても、米軍基地を建設したい国は10カ国もある」とどこ吹く風だ。
ホワイトハウスが危機の調停に本腰を入れる気のない現状では、危機が長期化し、サウジ連合とカタール、トルコ、イランの反サウジ同盟との対立が激化する恐れが日増しに強まるだろう。2022年のサッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会の開催も本当に危ぶまれる事態になってきた。
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