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漂流する「トランプ外交」そして北朝鮮は野放しに… 中ロ韓は面従腹背で様子見か
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52265
2017.07.18 渡部 恒雄 笹川平和財団特任研究員 現代ビジネス
■対北朝鮮戦略の温度差
7月4日の北朝鮮のICBM発射成功は、ハンブルグでのG20サミットの主要な議題となった。ただし、G20がこの問題で共同文書を出すことはできなかった。そもそも、地理的に遠いインド、欧州、中南米、中東の諸国は問題を共有していない。
あくまでも、北朝鮮の核・ミサイル開発に影響を受けるのは、北朝鮮を交えた6者協議の交渉国、つまり米国、韓国、日本、中国、ロシアである。しかし、この5ヵ国においてすら、それぞれの認識および政策は大きく異なっている。
今回、温度差が明白なのは、北朝鮮への圧力を強くかけることで合意している日米と、日米との連携は重視しながらも対話を求める韓国、そして北朝鮮の核・ミサイル開発は非難する一方で、米韓軍事演習の凍結やTHAAD(高高度ミサイル迎撃)システムの配備の中止を求めている中ロだ。
さらに足元を見ると日米の圧力形成も心もとない。日本の安倍首相はG20の席上で、「圧力を強化して厳しい政策を盛り込んだ国連安保理決議の早期採択」を求める発言を行い一貫している。しかしトランプ政権からの発信にはブレがある。
例えば、ニッキ・ヘイリー国連大使が、北朝鮮に対して国連安保理の席で、すべてのオプションを選択にいれるという厳しい発言をしている一方で、軍事のトップであるマティス国防長官は、早々に軍事オプションではなく外交による解決を求める発言をしている。
■やっと問題の難しさに気付いた段階
こうなると、トランプ政権に明確な対北朝鮮戦略があるかどうかが疑わしくなる。おそらく、トランプ大統領の特異な政策観と政権内部の対立があり、政権全体で明確な対北朝鮮戦略は共有されていないと結論づけられる。その根拠は以下の3つである。
第一に、トランプ政権は、反エスタブリッシュメント、脱ワシントンを志向し、既存の共和党の安全保障専門家からのアドバイスを拒否し、具体的な政策議論を経ずに2016年11月の大統領選挙で選ばれたことだ。そのため選挙期間中に北朝鮮政策をはじめとする外交・安全保障政策を、チーム全体で大統領と議論して形成した形跡はない。
第二に、現時点でも、政権内部で外交安保政策についての基本的な合意がなく、むしろ異なる認識を持つ2つのグループがせめぎあっていることだ。
米国の世界への関与と国際ルール順守のための現状維持を求めているマティス国防長官らの現実主義者に対して、アメリカファーストの掛け声の下、既存の国際ルールからの離脱を考えているバノン首席戦略官らの孤立主義者がおり、トランプ大統領はどちらの勢力も排除していない。
それゆえに、全体として矛盾した政策が生まれる。また北朝鮮政策のような長期戦略を要求される課題に、政権全体で取り組むことはますます困難である。
第三に、このような政府内での対立もあり、政権への政治任用人事が大幅に遅れていることだ。本来であれば、対北朝鮮政策に重要な役割を演じるはずの、局長級のアジア太平洋地域担当の国務次官補と国防次官捕が、任命どころか指名すらされていない。政権全体を見渡しても、過去20年間の米朝の交渉の歴史を熟知する人間が、上層部にいないという決定的な空白がある。
過去20年間の米朝の駆け引きを見てきた筆者の目には、これまでのトランプ政権の北朝鮮への姿勢は、20年間を3ヵ月に凝縮する早回しで、圧力と対話のメッセージを繰り返し、やっと北朝鮮問題の複雑な難しさに気づいて振り出しに戻った、という段階にあるように思われる。
実をいうと、過去の米国の新政権は多かれ少なかれ、そのようなことを繰り返してきている。4年ごとの大統領選挙により、政治任用の政府高官が入れ替わる米国の構造的欠陥ともいえる。
ただ、それにしても、これまでの米政権に比べ、トランプ政権の方向性の定まらなさは群を抜いている。
■親ロシア方針だけは変わらない
このような中で、ハンブルグを舞台にしたG20外交で示されたのは、情けないほどの米国の求心力の低下、特に欧州諸国の乖離であり、いまだにその戦略的意図が見えないトランプ大統領自身のロシア接近への意思である。
著名コラムニストのアン・アップルボームはCNNテレビで「G20でのトランプ大統領は米国だけでなく世界を分極化している」と批判した。彼女は、温暖化対策や自由貿易について、米国以外の19ヵ国が積極姿勢をみせて首脳宣言を作ったことを「G19」として、米国の孤立を揶揄している。
一方で、トランプ政権の孤立主義者たちは、それでいいと考えている。『ニューヨーク・タイムズ』電子版7月8日付の記事「Despite Deep Policy Divides, Europe Trip Seen by Buoyant Trump as High Point」(大きな政策的な分極化にも関わらず、能天気なトランプ陣営はトランプの欧州外遊を大きな成果だと考えている)は、孤立主義者と現実主義者の乖離を指摘する。
G20の前にトランプ大統領はポーランドで演説を行ったが、そこで「我々の時代の基本的な疑問は、西洋が生き残る意思があるのかという点だ」と発言した。これはバノン首席戦略官が抱いているとされているイスラム国やイスラム圏との「文明の衝突」観というべき、白人至上主義の要素も持つ偏った世界観の反映とみられている。
そこには民主主義や人権という、いわゆる西洋社会が育んできた価値感の共有ではなく、むしろ、「白人性」という要素が見え隠れする。
しかもトランプ政権はあえて、反政府メディアを弾圧して民主化が後退しているポーランドを訪問先に選んでいる。オバマ大統領が在任中にポーランドを訪れた際には、民主化後退に厳しい発言をしていたが、トランプ大統領にそのような発言はなかった。
一方で、プーチン大統領との会談では、ロシアに対する宥和的な姿勢が目立った。唯一同席したティラーソン国務長官とラブロフ外務大臣からは、まったく異なる認識が示された。ティラーソン国務長官はロシアの選挙介入について厳しく問い詰めたとする一方で、ラブロフ外務大臣からは和やかな会談の様子が示された。これは「イスラムとの文明対立の戦いに勝利するためには、ロシアとも協力すべき」という孤立主義者の世界観と合致する。
少なくとも、中国とともに北朝鮮問題の対話による解決を求めているロシアとのこのような会談は、北朝鮮への圧力を削ぐことになる。
■G20で見せた米国の求心力低下
欧州諸国の関心も、北朝鮮よりも、むしろ欧州側に軍事的な圧力を増してきているロシアへのNATOの共同対処となり、直接の脅威ではない北朝鮮問題への関心は弱まる。それにも増して、欧州全体で米国から距離を置こうという動きが顕在化してきており、欧州は米国に耳を傾ける気はない。
ハンブルグG20 におけるハイライトは、議長国のメルケル独首相が奔走して、「保護主義と闘い続ける」という内容を首脳宣言に盛り込んだことだ。これはトランプ政権の保護主義と矛盾するが、不公正な貿易相手国には「正当な対抗措置」を認めるということで、トランプ政権が妥協した。
そしてG20の明るい要素としてクローズアップされたのが、日欧経済連携協定(EPA)の締結であることは象徴的だ。
これは温暖化対策と同様に、「異質な」米国政権抜きで、世界が動いていることを示すものだ。『ニューヨーク・タイムズ』電子版7月6日付けに掲載されたロイター発信の記事「EU, Japan Seal Free Trade in Signal to Trump」(日欧はトランプから自由貿易を隔離した)では、日欧はトランプ政権の保護主義への対抗として経済連携協定を示したという評価を示している。
トランプ大統領は日米首脳会談では、対日貿易赤字と市場アクセスに言及しており、日本も安全保障はともかく、通商では米国を警戒せざるを得ない。これもトランプ政権の戦略性の欠如ともいえる。
ハンブルグG20で明らかになった米国の「孤立」は、中ロが独自の動きをすることを可能にし、米国の求心力をますます低下させることで、北朝鮮への圧力形成に大きなマイナスであることを示したのである。では、今後の動きはどうなるのか?
■中韓ロは、面従腹背の様子見
本来であれば、まずトランプ政権が朝鮮半島情勢をよく知る現実的な安全保障専門家を主要ポストに任命して、日米韓の同盟国の連携を強める。その上で、北朝鮮と貿易をしている中国のビジネスマンへの二次制裁の強化を含む対中圧力を形成する。さらにロシアに抜け駆けをさせない、という方向性が、現実主義の教科書が教える政策だ。
しかし、トランプ政権の思惑通りに動いてくれるアクターは日本ぐらいだろう。現在のトレンドは、関係国のトランプ政権への面従腹背だ。
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、そもそも対話路線のリベラル派であり、大きな軍事圧力は望まない。とはいえ、同盟国のトランプ大統領の「キレやすさ」も理解しており、今回はトランプ大統領の日米韓でのディナーに応じて協調を演出した。しかし中国からの圧力もあり、日米とともに強力な圧力を形成するのに積極的ではない。
中国も面従腹背だ。トランプ大統領が警告しているような、対北朝鮮政策への非協力の反動が、米中の貿易赤字や為替問題に飛び火することは望まない。であれば、なるべくトランプ大統領の顔を立てる一方で、自国に深刻な脅威となりかねない北朝鮮の崩壊につながるような決定的な経済制裁は先延ばしするのが合理的選択だ。
そのような中国にとって、ロシアと組んで、北朝鮮の平和的解決を訴えることは、ある意味安全なやり方だった。
今回の米ロ首脳会談が示すように、トランプ大統領は、ロシアの米国大統領選挙への介入や、トランプ政権とロシア政府との不透明な関係をめぐるロシアゲート・スキャンダルにもかかわらず、彼の初期設定であるロシア接近姿勢を変えていないからだ。
トランプのロシア接近の意図は、あいかわらず不明だが、一部には、トランプ大統領のファミリービジネスの借金がロシア政府に肩代わりされているのではないか、という噂も飛び交っている。
そうであれば、度重なるロシアとのトラブルにもかかわらず、トランプ大統領にしては珍しく、ブレのないロシア接近の意図や、頑なに税務申告の公表を拒んでいる理由も説明がつく。
ロシア側はどう思っているのか。筆者は6月後半にモスクワを訪問して専門家の意見を聞いたが、ロシアはトランプ大統領の意図はともかく、米議会や米軍の反ロシア感情の強さ、およびトランプ政権の方向の定まらなさから、トランプ政権への警戒感が強い。
ある専門家は筆者に、トランプ政権の方向性は当面定まらないことはあきらかであり、自分は政権の関係者には、拙速にトランプ政権と物事を決めるべきではない、とアドバイスしていると語っていた。ロシアも様子見で時間稼ぎをしている可能性が高い。
■結局、北朝鮮は野放しか
実は日本も、北朝鮮問題では、米国とともに真剣に圧力をかける方向で動いているものの、経済面では米国をけん制するために日欧EPAを締結し、米国抜きのTPP11を推進している。経済面ではヘッジをかけているのだ。
そもそも日本にとっては、米国とともに対北朝鮮圧力を作り出すことは、中国が動いてくれればうまく機能して成功だし、もし、それが機能しなくても、米中間に不信感が広がるため、日本の頭越しの米中の妥協を防ぐ「王手飛車とり」になっている。
日本にとっては、北朝鮮の核保有は嫌だが米国の核抑止は効くだろう。一方で尖閣をめぐる中国とのグレーゾーンでの緊張は、米国の核抑止が効かない種類の脅威だ。日本の計算も合理的だ。
そして、肝心の米国の方向性はどうか。ロシア接近にみられるように透明性に欠け、政権の内向き志向のおかげで軍事の裏打ちによる力強さにも欠け、さらに欧州などとの協調性にも欠けており、端的にいえば「漂流」している。国内の支持率も低く、ロシアゲートという時限爆弾を抱え、今後、安定政権を維持できるかどうかも疑問である。
結果的に、北朝鮮は、このような流動的な国際状況により、野放しにされてしまう可能性がある。当然のことながら、北朝鮮が安易な妥協をしないであろうことは明らかである。
結論は、トランプ外交の漂流を見据えて、関係諸国がそれぞれの合理性で動いているが、それにより北朝鮮の核・ミサイル開発への歯止めがますます効かなくなっているのが、現在の国際関係だ。次なるテストは、北朝鮮の核実験だ。その際に、米国が行う北朝鮮への二次制裁がどのような効果を上げ、それに中国がどう反応するかだろう。
それまでに米国が自身の政策を立て直さない限り、せっかくの経済制裁の効果も、それを結果に結びつけることができずに終わるだろう。極言すれば、米国が機能しなければ、北朝鮮問題は何も動かないのだ。安全保障の利益をより深く共有する同盟国の日本は、すべてのシナリオを視野に入れ、米国に辛抱強く働きかけていくしかないだろう。
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