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サミットでトランプ氏が繰り返したのは…(※イメージ写真)
浜矩子「似て大いに非なる『互恵』と『相互』」〈AERA〉
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170605-00000066-sasahi-int
AERA 2017年6月12日
経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
* * *
5月26、27日に、G7サミットがイタリアで開催された。その首脳宣言に関する新聞記事の中に、次のぎょっとする文言を発見した。「『互恵的(reciprocal)な貿易が重要だ』。サミットでトランプ氏が繰り返したのは『互恵的』」(2017年5月29日付日本経済新聞朝刊
)
これは違う。reciprocal(レシプローカル)は「相互的」を指す言葉だ。確かに、辞書には「互恵」も載ってはいる。だが、通商関係に臨む姿勢としては、reciprocityが意味するところは相互主義と解釈すべきだ。
相互と互恵は大いに違う。相互主義は、交渉事において「絶対に相手より損をしない」という姿勢をいう。その限りでは、右記の新聞記事でトランプ氏が「『米国が低関税ならあなた方も引き下げるべきだ。あなた方が30%の関税を課すなら、米国も30%に引き上げる』と主張」と書いているのは納得だ。これぞ、相互主義だ。「目には目を。歯には歯を」の原則なのである。
これと互恵の精神とは大違いだ。互恵主義は、皆で恩恵を分かち合うことを目指す。だが、戦前の国々は、もっぱら二国間相互主義で通商関係を形成していた。このやり方は、弱い者や小さい者にとって明らかに不利だ。先進大国が10%関税を下げるのと、発展途上小国が10%関税を引き下げるのとでは、衝撃がまるで違う。形式的相互主義は、実態的不公正を招きかねない。しかも、二国間で相互をやると、やっぱり大きくて強い国の方がゴリ押しを通しやすい。
このやり方で、戦間期の列強諸国が排他的通商ブロックを構築していった。この道に二度と再び踏み込まないために、戦後の国際通商秩序は互恵を原則とすることになった。そして、今日的な国際通商秩序の番人であるWTO(世界貿易機関)は、二国間主義ではなく、多国間主義をその基本的枠組みとしている。
今回の首脳宣言の原文を確認した。その中には、互恵を意味するmutually beneficialと相互を意味するreciprocalの両方が登場する。外務省による邦訳を見ても、mutually beneficial を「互恵的」と訳し、reciprocalを「相互的」と訳している。互恵と相互を混同することは、実に危険だ。その道は、戦間期の通商戦争の世界に通じる。
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