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スタンブール・ボスポラス橋(iStock)
トルコのロシアへの接近、NATO内でトロイの木馬に
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9775
2017年6月6日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
米国シンクタンンクAEIのマイケル・ルービン研究員が、4月25日付のAEIのサイトに、「トルコはロシアに接近している」との論説を寄せています。ルービンの論旨は、次の通りです。
トルコの憲法改正に関する国民投票は自由でも公正でもないと言われているが、エルドアンは勝利を宣言し、議論は終わったとしている。
100年前にケマル・アタテュルクが作った世俗的で西側を向いた共和国を終わらせたエルドアンは投票後、アタテュルクの墓ではなく、オットマンのスルタン、メフメト2世(コンスタンティノープル征服者)の墓にお参りした。エルドアンのネオ・オットマン主義の現れである。EUとの決別だけではなく、エルドアンは最近オランダとドイツをナチになぞらえ、かつロシアに接近している。
NATO側は、トルコのNATOへの貢献、テロとの戦いでの貢献をたたえている。しかしエルドアンは、IS(イスラム国)戦闘員にトルコ領通過を許し、シリアその他のアルカイダ関連組織に物資などを供給している。
トルコ・ロシア同盟は直観に反するように見える。ロシアとトルコは歴史的に敵であり、何度も戦争をし、ロシアはボスポラス海峡を狙ってきた。最近ではシリアをめぐりロシアはアサドを支持し、トルコは反政府派支持で対立してきた。トルコのF-16がロシアのSU-24Mを撃墜したころ、両国の緊張は最悪であった。ロシアはトルコへの観光客を減らした。しかし最近、エルドアンとプーチンは和解し、観光客は戻っている。2回の首脳会談でエネルギー、インフラ、原子力での数十億ドルのビジネスが話されている。
トルコ軍のロシアへの接近も無視できない。軍の粛清はギュレン師支持者を対象とするが、NATOで働いたトルコ将校も含まれている。最近は両国海軍の合同演習も行われた。ロシアはメルシンに海軍基地を欲しているとの噂は絶えない。外交面でも、トルコは中ロ主導の上海機構加入への準備もしている。
トルコが対ロ接近した際、米国の問題はトルコがNATOを離れることにあるのではなく、離れないことにある。NATOはコンセンサスで動くことになっているから、トルコはトロイの馬となり、意思決定を麻痺させ得る。NATOには加盟国を追放する規定はない。さらにトルコはF-35のパートナーであり、F-35を買いたいとしている。しかしトルコにF-35を売れば、中ロに最新技術を提供することになりかねない。
エルドアンは欧米から譲歩を得、プーチンからは報酬を得ればよいと考えている。しかしエルドアンが理解していないのは、彼のやっていることはトルコの将来にとり危険だということである。米国は同盟国をパートナーと見るが、ロシアはトルコを顧客と見ている。エルドアンはプーチンを操縦できると思っているかもしれないが、プーチンと比べると新参者である。
トルコの民主主義、世俗主義の死を西側は嘆くが、これは10年前のことである。米国と欧州にとってもっと危険なのはトルコの外交の変化である。
出 典:Michael Rubin ‘Turkey’s Turn toward Russia’ (American Enterprise Institute, April 25, 2017)
http://www.aei.org/publication/turkeys-turn-toward-russia/
この論説は、トルコの外交政策における変化が起こっていること、それが西側にとりトルコの喪失になっていること、を良く描写しています。
ネオ・オットマン主義よりも、ロシアへのトルコの接近がより大きな問題を提起するように思われます。NATOの全会一致主義がトルコを通じたロシアの策謀で、NATOを麻痺させることに貢献するような事態は避けられるべきでしょう。
■時期を逸したトルコのEU加盟
トルコ側がEU加盟を熱望していたときに、EUにトルコを迎え入れておけば、こういう事態にはならなかったと思われます。将来を見越して、多少の不満は乗り越えて、大きな決定をしておくべき時がありますが、EUはイスラム嫌いの世論を前にそういう決定をし損ねました。もうトルコのEU加盟はないでしょう。
今後、トルコとの関係を米欧としてどうしていくか、難しい問題ですが、熟慮する必要があります。
経済面では、EUとの連携にトルコがメリットを見出すような関係に、そして、政治軍事面では、NATOとの関係をトルコが重視するように持っていくことが肝要です。エルドアンを処罰するような政策よりも、彼を包み込んでいくような政策が必要でしょう。トルコは地政学上、重要です。簡単に排斥していい国ではありません。
しかし、そのことは、エルドアンに無原則に宥和的になることを意味するものではありません。米国のトランプ政権は、シリアのクルド武装勢力に武器供与する決断をしました。IS(イスラム国)の拠点ラッカを攻撃する兵力として、クルドの部隊は貴重です。トルコは激しく反発していますが、やむを得ない事でしょう。
NATOの一員たることが西側の価値、特に人権の擁護の面で何を意味するのかをもっとはっきりさせるべきでしょう。共通の価値に基づく同盟であることを強調すべきです。
日・トルコ関係は良好です。日本が果たしうる役割もあるのではないでしょうか。
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