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ロンドン・テロで的外れ批判、またやったトランプの思い込み
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9799
2017年6月5日 佐々木伸 (星槎大学客員教授) WEDGE Infinity
ロンドンの中心部で3日起きたテロで英国は「恐怖と怒り」に満ちあふれているが、海の向こうからトランプ大統領がテロ対策に取り組んでいるカーン・ロンドン市長の発言にツイッターでいちゃもんを付けた。これが意味をはき違えた的外れの批判だったため、英国ではトランプ氏に対する反感と嘲笑が巻き起こっている。
■因縁の不仲
トランプ氏はロンドンのテロが起きた後、相次いでツイート。「われわれは賢く、用心深く、そして強くなければならない」と述べ、安全確保のため大統領が求めている「一部イスラム圏からの渡航禁止」の大統領令を裁判所が認めるよう要求した。
トランプ氏は選挙期間中からイスラム教徒の入国禁止を主張してきており、ここまでは持論を展開しただけで、問題はなかった。しかしその後のツイッターはひどい思い込みによるものだった。
同氏は「少なくとも7人が死亡し、48人も負傷しているのに、ロンドン市長が警戒する必要がないと言ってるなんて」とカーン市長に噛みついた。しかしこれは、とんでもない的外れの批判。
市長の発言はBBCとのインタビューでのもの。市長はテロを「臆病で野蛮」と非難した後、テロの結果、「市内に警官や治安部隊が増強されるが、怖がることはない」と市民を安心させることを意図した発言だった。これをトランプ氏は「テロに警戒する必要はないと市長が発言した」と思い込んでツイートしてしまった。
カーン氏のオフィスは声明を発表し「トランプ氏の故意に誤った情報に基づいたツイートに返答するより、もっとやるべき重要なことがある」と皮肉り、まともに相手にしないという大人の対応を見せた。
故意かどうかは別にして、トランプ氏の思い込みによる発言や怒りは枚挙にいとまがない。「オバマ前大統領がニューヨークのトランプタワーを盗聴していた」というものから、発生もしていないのに「昨日のスウェーデンでテロ」と言ってみたり、と“妄想”のような発言も多い。
しかし今回のカーン氏批判には伏線がある。カーン氏は昨年、イスラム教徒として初のロンドン市長に当選した。トランプ大統領が選挙期間中に、イスラム教徒の米入国禁止を主張した際、カーン氏に配慮したのか、同氏は例外と述べた。
これにカーン氏は「トランプ氏はイスラムに対して無知」と一蹴。トランプ大統領が実際に一部のイスラム教徒の入国禁止を盛り込んだ大統領令を出した時は「恥だ」と反発し、トランプ氏が温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から脱退する決定を下したことをも厳しく非難していた。
自分への批判には異常なほど敵意を示すトランプ氏が市長の発言に思わず反応したというのが真実かもしれないが、ゴア元副大統領はテロ事件を受けて市民をまとめようとしている市長を批判するような時ではない、とトランプ氏に苦言を呈している。
■テロの“新パターン”
今回のテロを起こした実行犯は治安部隊に50発の銃撃を受け、射殺された。事件後、ロンドン東部で、事件に関与した容疑で11人が拘束された。英紙によると、実行犯の主犯格はパキスタン出身の27歳の移民。妻と子供2人暮らしで、イスラム過激思想の持ち主であることが分かっていた。4日になって過激派組織「イスラム国」(IS)が「ISの兵士集団が実行した」と犯行声明を出した。
しかし、ISが直接的に指揮していた組織型のテロだったのか、それとも、ISの過激思想に感化されたホーム・グロウン(母国育ち)の一匹オオカミ型テロだったのかなど、動機や背後関係は解明されていない。
8日に総選挙を控えるメイ英首相はイスラム過激主義を「邪悪な思想」と断じ、英国が過激主義にあまりに寛容だったとして、テロ対策の見直しを大胆に進めることを強調した。テロの刑罰を重くする法改正のほか、若者らが過激主義にネットで影響を受けないようにするため、フェースブックなどとの協力を強化していく考えだ。
同首相によると、英治安当局はここ数年で18件のテロを未然に防ぎ、とくに3月22日の国会議事堂の車暴走テロ以降、5件のテロを阻止したという。注目されたのは、「テロに新しいパターンがある」という首相の指摘だ。
今回のロンドン橋のテロは最初、3人は車で暴走して歩行者をはね飛ばし、その後、近くの「バラマーケット」で長いナイフを使って無差別に殺傷した。このやり方は3月の車暴走テロと酷似している。この時も犯人は議事堂近くの橋の歩道で観光客らをはね、その後、警官を刺殺している。
ISの「日常的に入手できる武器を使え」という呼び掛けに応じ、昨年のニースで86人が死亡したトラック暴走、同12月のベルリン・クリスマス市の車突入テロ、ストックホルムの車暴走、と車を使ったテロが続いてきた。テロの“新パターン”は今後も続くと考えた方が良い。
私たちが欧州に出掛ける時、特にソフトターゲットになる観光地などでは、パリのシャンゼリゼのように歩道と車道に障害物のある道をまずは選んで歩いた方がいいかもしれない。
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