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北朝鮮のミサイル発射はトランプ政権に対する強烈なカウンターパンチー(田中良紹氏)
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16th May 2017 市村 悦延 · @hellotomhanks
北朝鮮が14日早朝に行った新型ミサイルの発射実験は
米国のトランプ政権の外交軍事戦略に対する強烈なカウンターパンチである。
軍事圧力を加えながら話し合いも認める硬軟織り交ぜたトランプ大統領の要求を
金正恩委員長は一顧だにしなかった。
メディアは北朝鮮の金正恩委員長が中国の習近平国家主席の顔に泥を塗ったと
報じているが、深刻な打撃を受けたのは米国のトランプ大統領である。
米国内ではトランプ政権とロシアとの不適切な関係について追及が続いており、
そのうえ北朝鮮問題の対応を誤れば命取りになりかねない。
トランプ政権の外交軍事戦略とは「世界の警察官」としての役割を
他国に肩代わりさせることで、その点ではオバマ前政権と全く変わらないのだが、
それをいかにもオバマ前政権とは異なる形で見せつけようとするところにある。
大統領選挙の最中からトランプは「IS(イスラム国)の殲滅」を声高に叫び、
そのためにロシアとの協力関係が必要だとして、ロシアが後ろ盾となり
ISと戦うシリアのアサド政権存続を容認する発言を繰り返していた。
アサド退陣を要求しながら「弱腰のために何もできなかった」オバマ政権との対比を
国民に見せ、またウクライナ問題で米ロ冷戦に逆戻りしたオバマ時代とは対照的に
ロシアと協力関係を結ぶことでIS殲滅をロシア軍に肩代わりさせようとした。
ところが選挙戦の最中にトランプ陣営がロシア政府と不適切な関係を構築していた
疑惑が浮上し、FBIや議会が調査に乗り出したことから、
側近のフリン大統領補佐官を更迭せざるを得なくなり、
さらに懐刀である娘婿のクシュナー大統領顧問までもが調査の対象にされた。
トランプ大統領は一時的にでもロシアとの関係悪化を見せる必要が出てきた。
そのためだと思うが、米中首脳会談の最中にトランプ大統領はシリアが化学兵器を
使用したとして突然ミサイル攻撃を行い、それを習近平国家主席に見せつけることで、
もう一つの焦点である北朝鮮の核ミサイル開発を中国に抑えるよう求めたのである。
北朝鮮問題に「戦略的忍耐」を貫いたオバマ政権とは異なり、
中国が抑えないなら米国が直接軍事介入する可能性を匂わせ、
しかしあくまでも中国の力によって北朝鮮に核ミサイル開発を断念させようとした
ことは、これも肩代わりの一つである。
トランプ政権は軍事力2位のロシアと3位の中国を
それぞれ中東と北朝鮮の脅威に対応させ、
自らの軍事的役割を一歩引いたものにしようと考えた。
その見返りに中国に対し経済面での強硬姿勢を緩和することを約束した。
従って中国は北朝鮮に対し石油の禁輸など一定程度の圧力をかけるが、
しかし一方で北朝鮮の存在は中国にとって対米関係を有利にできる切り札となる。
であるならばなるべく存続させた方が得策である。
それは隣国ロシアにとっても同様だ。
この問題では中露が水面下で提携することが大いにありうる。
そうしたところ韓国に親北派の文在寅大統領が誕生した。
「条件が整えば金正恩委員長と会談する用意がある」と公言している。
北朝鮮にとって好ましい韓国大統領の誕生直後、
また中国の習近平国家主席が最大の課題と位置付ける「一帯一路国際フォーラム」の
初日にぶつけて金正恩委員長は新型ミサイルを発射した。
それは事前の準備からすべて米国の監視衛星に見せつけながら行った模様である。
北朝鮮が準備に取り掛かったのは12日夜で、亀城(クソン)付近の飛行場に
発射台を移動させ、13日未明にかけてミサイルを直立させ、
24時間以上たった14日朝に発射した。
ミサイルは上空2111キロに達し、787キロ離れた公海上の目標に正確に
落下した。
これより前、トランプ大統領は5月1日にメディアのインタビューで
「金正恩委員長と会うことが適切なら当然そうするだろう。光栄に思う」と発言し、
3日にはティラーソン国務長官が、北朝鮮が核ミサイル開発を放棄すれば、
国家体制は転換しない、金正恩政権崩壊は求めない、南北統一は急がない、
米軍は北緯38度線を越えて侵攻しないと述べていた。
14日のミサイル発射はこれらをすべて否定したわけだ。
しかしだからと言って金正恩委員長が話し合いを拒否し米国との軍事衝突を
考えているということにはならない。
むしろ本格的な話し合いに入る一歩手前まで来たと思うからこそ簡単には譲歩せず、
さらに米国本土に届くミサイルを開発することで話し合いの主導権を握ろうと
していると思う。
戦争の終結というのは終結する直前の戦闘が最も激しくなる。
戦後の状況を少しでも有利にしようと考えるからだ。
第二次大戦で「無条件降伏」を迫られた日本は少しでも条件を得ようと
「一億玉砕」を叫んだ。
ベトナム戦争に敗れた米国は北ベトナムと和平協定を結ぶ前に最も激しい北爆を
行った。
そうした歴史を振り返ると北朝鮮の核ミサイル開発は
さらにレベルアップに向かうと考えられる。
同時に核開発を放棄したイラクのサダム・フセインやリビアのカダフィの悲惨な末路を
考えれば、米国の言う条件に簡単に乗る気になれない事情もあるだろう。
そうした中でトランプ政権は他国に軍事的役割を肩代わりさせる方向を示しながら、
北朝鮮とは一触即発のチキンゲームを繰り広げ、結局のところ威嚇に失敗した。
この始末をどうつけるのか、それがこれからの焦点である。
今のところは「習近平の顔に泥を塗った」と報道させ中国に厳しい制裁を促す論調が
目立つが、中国が厳しい制裁を課したとしても北朝鮮の存在がなくなることはない。
問題の本筋は北朝鮮の戦争相手国は米国と韓国で、
北朝鮮が相手にしようとしているのは米国のみだという現実である。
威嚇に失敗したトランプ政権の外交軍事戦略は就任後半年も経たないうちに
ボロボロである。それを立て直さなければ北朝鮮問題の出口はない。
米国がこれまでなぜ北朝鮮の核ミサイル開発を放置してきたのか、
それを突き詰めて考えなければ解答は出てこない。
冷戦が終わって東西ドイツは統一したのに南北朝鮮はなぜ統一出来ないのか。
アジアの冷戦は終わらない、いや終わらせないと米国が考えたところに
問題の本質はある。
トランプ政権の外交軍事戦略にその視点を盛り込まないと北朝鮮問題は終わらない。
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