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トランプを試すロシア
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9495
2017年5月12日 岡崎研究所 WEDGE Infinity
モレル元CIA長官代行とファルカス元米国防省ロシア担当次官補が、4月11日付けニューヨーク・タイムズ紙に「ロシアはトランプを試しているのか」と題する論説を寄せ、最近のロシアのやり方に対する米国の不満を表明しています。論説の概要、次の通り。
シリアは、プーチンがトランプ就任後世界で行っている破壊的活動の一例に過ぎない。1月、東部ウクライナの分離主義者は多分プーチンの指示の下、ウクライナ政府軍への戦闘をここ1年半で最も高いレベルにした。ミンスク合意への直接的挑戦である。
2月半ば、プーチンは東部ウクライナの分離政府が発行する旅券を認めるとの指令を出した。その後、プーチンの賛同、あるいは許容の下、ルハンスクでロシアルーブルを法定通貨にすることが発表された。東部ウクライナへのロシア主権の拡大である。
1月、白ロシア(ベラルーシ)でのロシア軍駐留増加を受け入れさせるため、白ロシア国境に軍を集結させた。3月には南オセチア(グルジアの分離共和国)の軍をロシア軍に編入した。3月、スカパロッティ将軍(欧州での米軍司令官)は議会で、ロシアとタリバンの接近が見られる、ロシアがタリバンに武器供与をしていると述べた。
最近、トマス・ワルドハウザー(アフリカ米軍司令官)は、リビアでロシアはトリポリの国連が認める政府に抵抗しているハフタールを支援していると指摘した。シリアの独裁者アサドを支持し続けている。
これらには共通する面がある。隣国の政治的支配を望み世界的強国と見られたいプーチンは、トランプ大統領を試している。対ロ制裁解除はもう望めないと考えていようが、トランプがどこまで侵略行動を許容するか知りたいと考えている。
トランプ政権はどう対応したか。ペンス副大統領、マティス国防長官、ヘイリー国連大使は強くロシアを非難したが、トランプからは非難も行動もない。政権は明確な対ロ政策を持つ必要がある。何が受け入れ不可能かを伝え、協力分野を現実的に探るべきである。
トランプ大統領は大西洋の安全保障への米の関心を確認する演説を行い、民主主義、自由な市場経済、NATO又はEU加盟を選択する諸国家の権利について明確に話すべきである。米国のロシア政策は、NATO領域での軍の駐留、演習、ロシアの脅威にさらされている非NATOのパートナーへの訓練、装備への予算手当てを含むべきである。同時に核、通常兵器、サイバーの軍備管理を進めるべきである。
トランプ大統領は、ロシアにシリアでの政権移行を支持することも求めるべきである。シリアの飛行場爆撃だけでは十分でない。トランプ大統領が好むと好まざるにかかわらず、プ―チンは米国を敵視し、米国の立場を掘り崩そうとしている。トランプは「もういい」という必要がある。
出典:Michael J. Morell & Evelyn Farkas,‘Is Russia Testing Trump?’(New York Times, April 11, 2017)
https://www.nytimes.com/2017/04/11/opinion/is-russia-testing-trump.html
この論説は、米国の伝統的な安保関係者がプーチンおよびロシアをどう見ているかをよく表しています。プーチンが米国を敵視し、米国の立場を世界のあちこちで悪くするために活動していると指摘しています。シリアをめぐる行動のほかに、プーチンの最近の東部ウクライナでの行動、グルジアでの行動、アフガンやリビアでの行動を例に挙げています。この論説には出ていませんが、バルカン諸国での行動や中距離核戦力(INF)全廃条約違反、反NATO、反EUの策謀もあります。米側が論説の言うような認識を持ったとしても、当然ではないかと思われます。
しかし、プーチンが米国を敵視し、世界中で反米を主たる動機として活動していると考えるのは必ずしも正確ではありません。
■革命的なものを嫌悪するプーチン
レジーム・チェンジ、特に民衆デモによるレジーム・チェンジ、カラー革命的なものにプーチンは嫌悪感を持っており、自分もそういうことでやられかねないという恐怖を持っており、それが大きな動機となっているように思われます。アサドに対するアラブの春を契機とする反政府デモ、ウクライナでのヤヌコビッチ追い出しデモ、カダフィの追い出しなどはプーチンが忌み嫌うものであり、それがプーチンの行動を最も強く規定しているように思われます。ラブロフ外相が「独裁者を追い出した後、状況が良くなった例はほとんどない」と言っているのも、同じ考えから出ています。
プーチンの国際場裡での活発な活動は、ロシア人の民族主義にアピールするために世界で影響力を持っているロシアを演出すること、それが国内での経済困難から目をそらさせることにつながることを、2018年大統領選挙を念頭に、考えている可能性が高いでしょう。
プーチンの動機の説明については諸仮説があり得ますが、トランプも「今は米ロ関係は冷戦後最悪」としており、大統領選挙へのロシアの介入が捜査・調査の対象になっている中、米ロ関係改善はほど遠いと見ておいてよいでしょう。シリアについての意見の違いは米ロの溝をさらに深くしたと思われます。ただ、今のロシアはソ連に比較すると弱い国であり、冷戦を戦う力はありません。
トランプは「ロシア好き、中国嫌い」の印象がありましたが、シリアに関する安保理決議にロシアは拒否権を行使し、中国は棄権しました。トランプはそれを評価しています。トランプは、中国は為替操作していないなどと、選挙運動中とは全く逆のことを言いだしています。トランプの中ロへの好悪感情が逆転すれば、それはそれで日本には問題が出てくる可能性があります。
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