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シリアへのミサイル攻撃に対してホワイトハウスの前で抗議する人々(GettyImages)
交渉の達人に疑問符、トランプのシリア攻撃は焦りの裏返し
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/9351
2017年4月11日 海野素央 (明治大学教授、心理学博士) WEDGE Infinity
今回のテーマは「トランプのシリア攻撃と米中首脳会談」です。ドナルド・トランプ大統領は習近平国家主席との米中首脳会談のさなか、シリア西部の空軍基地を巡航ミサイルで攻撃しました。その主たる思惑はアサド政権が使用したとみられる化学兵器の使用阻止であったことは間違いありません。ただ、種々の視点から同大統領のシリア攻撃の狙いを分析する必要があります。そこで本稿では主として「内政」「米国第一主義」「交渉術」の3つの視点から同大統領の攻撃の意図を探ってみます。
■内政とシリア攻撃
今回のシリア攻撃には複数のメッセージが含まれています。前述しましたが、シリアに対しては化学兵器の使用阻止です。中国にはシリア攻撃を通じて力を見せつけ、北朝鮮が核とミサイル開発を放棄するように圧力強化をさせることです。北朝鮮に対しては単独でしかも速やかに軍事行動を起こせるというメッセージを発信しました。トランプ大統領のシリア攻撃のメッセージは、どれもストレートで明確です。
では、アサド政権の化学兵器使用以外に何がトランプ大統領を動機づけたのでしょうか。
まず内政です。トランプ大統領はオバマ前大統領の医療保険制度改革(通称オバマケア)を廃案にして、新しい制度と置き換えると繰り返し主張してきました。ところが、オバマケアの代替法案撤回に追い込まれ失敗したのです。その結果、同大統領は果たして選挙公約を果たすことができるのかという疑問視する声が出ています。
しかも次の税制改革はそれ以上に困難であると言われています。同大統領は明らかに内政で行き詰っていました。
次に、ロシアとの問題です。選挙期間中トランプ候補(当時)を勝たせようと民主党本部及びクリントン陣営にサイバー攻撃を仕掛けたロシア政府とトランプ陣営が実は共謀していたのではないかいう疑惑が浮上しています。それに対して、ジェームズ・コミー連邦捜査局(FBI)長官は公聴会で捜査中であると証言しました。米国民はこの疑惑に関心を高めています。仮にロシアとトランプ陣営が結託していた証拠が見つかると、トランプ大統領は「偽(フェイク)大統領」と呼ばれるでしょう。
そこで、トランプ大統領はこの疑惑から国民の目をそらそうとオバマ前大統領が選挙期間中ニューヨークにあるトランプタワーを盗聴していたとツイッターに投稿したのです。この件に関して、コミー長官は根拠がないと同じ公聴会で証言を行ったため、同大統領の信頼が大きく揺らぎました。
上で説明しました疑惑の影響を受けてトランプ大統領に批判的な米国民は、同大統領につきまとうウラジーミル・プーチン露大統領の影を見ているのです。トランプ大統領は是が非でもプーチン大統領と自分を切り離して、依存しているというイメージを消したいのです。シリア攻撃は後ろ盾となっているロシアに対する挑戦でもあり、プーチン氏と距離をとることができるというメリットがトランプ氏に生まれるのです。
■米国第一主義の変容
今回のシリア攻撃にともなって米国第一主義に変化が生じています。トランプ大統領が唱えてきた米国第一主義には、世界の出来事に関与しないという意味がありました。大統領首席戦略官兼上級顧問のスティーブン・バノン氏の不介入主義が反映されていたのです。ところが、シリア攻撃前にトランプ大統領はバノン氏を国家安全保障会議(NSC)の常任メンバーから外したのです。
それに加えて、トランプ大統領は突然人道主義を全面に出しました。ホワイトハウスにあるローズガーデンで行われたヨルダンのアブドラ国王との共同記者会見で、アサド政権による化学兵器によって罪のない乳児が殺害されたと強調しました。米国第一主義は、本来人道主義に価値を置いていませんでした。
例えば、イスラム圏6カ国入国一時禁止です。当然ですが難民の中にも乳児がいます。2013年アサド政権が化学兵器を使用した際、トランプ大統領はツイッターで「シリア攻撃は米国にとって何も得るものがない」と語り反対の立場をとっています。
シリアのみならず、中国はチベット、北朝鮮は拉致問題を巡り人権に関して非難を浴びています。米国内でシリア攻撃に対する抗議運動が起きていますが、トランプ大統領からすれば今回の攻撃で人道主義の交渉カードを手に入れたと言えます。
■「交渉の達人」トランプ
トランプ大統領は長く交渉の達人と言われてきましたが、オバマケアの代替法案に反対する共和党下院議員を説得できなかったことによって、一部に同大統領の交渉能力に疑問を呈する声が上がっています。内政で成果を出せない同大統領は、米中首脳会談で強い衝撃を与える交渉戦略を選択しました。
習主席との晩餐会と翌日行われる本格的な交渉の間にシリア攻撃を挟んだのです。交渉を有利に進めるためのツール(道具)として攻撃を利用しました。晩餐会で和やかな雰囲気を作って習主席の面子を保ち、一旦安心させた後で同主席にシリア攻撃を伝えました。その目的は交渉前に「腕力」を見せつけ、心理的に衝撃を与え揺さぶりをかけることにあったと言えます。
■次の一手
トランプ大統領はアサド政権に対して、「たくさんのレッドライン(超えてはならない一線)を超えた」と非難し軍事行動に出ました。北朝鮮にはどこでレッドラインを引くのでしょうか。
例えば、米情報機関が北朝鮮が数週間で米国本土に届くミサイルを完成させるという情報を得た時、あるいは中国が北朝鮮の核・ミサイル開発を放棄させることができないとトランプ政権が判断を下した時などがあります。訪日中の米下院外交委員会に所属するジェリー・コノリー議院(民主党・バージニア州第11選挙区)は前者はトランプ大統領のみならず米国に脅威になり、レッドラインになり得ると語っていました。
いずれにしても、トランプ大統領は、国家安全保障問題担当のハーバート・マクマスター大統領補佐官及びジェームズ・マティス国防長官に助言を求めるでしょう。両氏のレッドラインに関する助言、それに基づいた同大統領の決断は、日本を含めた東アジア全体の安全を左右することになります。北朝鮮は部日本及び韓国の米軍基地を標的に入れており、トランプ政権が武力行使に踏み切った場合、「ルーズ・ルーズ(敗者・敗者)」の関係になる可能性が高いと言えます。
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