[FT]米政権、問われる対ロ関係 2017/2/19 2:00 日経新聞 トランプ米大統領はホワイトハウスで好きなように振る舞えると思っていた。だが、イスラム圏7カ国の市民らの入国を一時制限した大統領令については、シアトル連邦地裁が差し止め命令を出した。そして今度はフリン大統領補佐官(国家安全保障担当)が辞任を強いられたことで、外交政策でできることとできないこととの輪郭がはっきりしてきた。大統領はプライドを傷つけられたとも言えるが、それでも謙虚さとトランプ氏というのは永遠に相いれなさそうだ。 大統領就任直後の数週間は、誰もが恐れていた通り最悪の展開となった。トランプ氏はホワイトハウス入りした後も、選挙遊説の時と同じように振る舞っている。一連の混乱は軍事的な同盟関係を軽視する発言が原因で、好戦的な姿勢は敵対する海外勢力をむしろ強める結果となっている。世界における米国の地位は、もはやこれ以上転落しようがない。 ■フリン氏の辞任で消えた「大きな取引」 ロシアのプーチン大統領と「大きな取引」をしたいと考えていたトランプ氏の望みは消滅したということだ。駐米ロシア大使との通話についてペンス米副大統領に嘘をついたからとフリン氏を解任しても、大統領就任前からトランプ氏らがロシア政府と接触していたとの疑念は消えない。トランプ氏と側近らはロシアとの関係について、米議員らと法執行機関から3つの質問を突きつけられている。 第1は、両者のやり取りがどれほど広範で、深く踏み込んでいたかだ。誰が関与し、会話のテーマは何だったのか、そしてトランプ氏がホワイトハウス入りした後の米国の政策の方向性について、暗黙の、あるいは明示的な約束をしたのかという問題だ。 第2は、トランプ氏とロシアの金銭的な結びつきだ。本来なら選挙期間中に検証すべきだったが、今や捜査を進める過程で大統領の納税申告書をすべて公開してもらう必要がある。 第3の問いは、フリン氏の欺瞞(ぎまん)をホワイトハウスが知ってから同氏を解任するまで、なぜ長い時間がかかったのかだ。これは早急に解明する必要がある。ウォーターゲート事件でニクソン大統領がいつから、何を知っていたのかが重要だったように、トランプ大統領がいつから何を知っていたのかが問われている。 米情報機関がメディアに機密情報をリークしたと怒り狂っても、トランプ氏にとって何のプラスにもならない。何しろ同氏は、米民主党の選挙陣営に対するロシアのハッキングを公然と称賛した政治家だ。情報機関とメディアを攻撃するトランプ氏の悪名高いツイートは、むしろ同氏とロシアとの接触が広範にわたるとする米ニューヨーク・タイムズ紙や米ワシントン・ポスト紙、米CNNテレビの様々な報道が正しかったことを裏付けている。 ■安全保障担当、後任に穏健派か トランプ氏には、かねてつきまとってきたある疑問がある。それは、隣国に侵攻し、国際社会で共有されているルールと規範を踏みにじったロシアの指導者をなぜ問題視しようとさえしないのかという疑問だ。 その答えが何であれ、モスクワのロシア政府関係者たちの笑顔は渋面に変わりつつある。トランプ氏らとロシア政府との接触に関する調査は少なくとも数カ月、場合によっては長期にわたるだろう。プーチン氏が期待していたのは、過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いで見かけだけの協力をする見返りに、米大統領が対ロシアへの制裁を解除し、ロシアの旧ソ連時代の領土を回復する失地回復主義を黙認してもらうという取引だ。従来なら、そんな合意には米議会で相当数の共和党議員が反対した。今やありえない考えだ。 フリン氏の辞任で、多少良い展開も期待できるかもしれない。元米軍情報将校の同氏は、陰謀論者でイスラム嫌いであることを隠そうとはしなかった。大統領選中は「クリントン元国務長官を投獄しろ」という掛け声を支持者らに連呼させた。大統領側近の中でも中心的存在のフリン氏は、トランプ氏が持つひどい偏見を助長した。トランプ氏と同様、プーチン氏を熱狂的に支持していたようだ。しかし、トランプ氏はこの外交政策の上級顧問の後任にもっと穏健な人物を任命せざるを得ないだろう。 ■盟友バノン氏、辞任圧力も 少数派ながら楽観的な人は、機密情報のメディアへのリークという異例な形をとったとはいえ、米国の「チェック・アンド・バランス」は機能していることが証明されたとみる。国家安全保障会議(NSC)を仕切るフリン氏の辞任で、マティス国防長官やティラーソン国務長官の権限が強まるだろう。トランプ氏は盟友であるバノン首席戦略官をNSCのメンバーから外すよう求める圧力にもさらされるかもしれない。極端なナショナリストのバノン氏は、イスラム世界との文明の衝突を楽しみ、中国との戦争が避けられないと考えているようだ。 問題を多く抱えているとはいえ、トランプ氏はまだ大統領だ。同氏は米国の指導力の基盤となってきた基本的な価値観や規範を見下している。同盟関係を発展させるより、米国の旧友を非難する傾向がある。オーストラリアのターンブル首相との電話会談で怒りを爆発させ、短時間で電話を切ったのがいい例だ。 フリン氏の辞表願からは、現在のホワイトハウスが現実の世界とはかけ離れている様子が垣間見えた。彼は大統領就任わずか3週間で、世界における「米国の指導的地位」が回復したと書いた。それならこの際、大統領就任式に集まった観客数は人類史上、最も多かったと付け加えてもよかったかもしれない。 疲弊したある政権高官が先日、こんな状態が続けばもたないと漏らしたという。トランプ氏は変わらなければならない。だが、変われるだろうか。もし変われないとしたら、この状態はいつまで続き得るのか。米大統領選挙中、トランプ氏は「シベリアから来た候補」ではないかと見られたのと同じように、世界が今、同氏を懐疑的に見ている。なんと嘆かわしいことか。 By Philip Stephens (2017年2月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) http://www.nikkei.com/article/DGXMZO13091740Y7A210C1TZN000/
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