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2月15日、金正男の遺体が検視のために運び込まれたクアラルンプールの病院 Edgar Su-REUTERS
金正男氏を死に追いやった韓国誌「暴露スクープ」の中身
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/02/post-6993.php
2017年2月16日(木)15時59分 高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト) ※デイリーNKジャパンより転載 ニューズウィーク
<韓国の有力週刊誌・週刊京郷が11日、金正男氏に関する驚愕の記事を掲載していた。この暴露記事が暗殺を招いたという見方がある>
北朝鮮の故金正日総書記の長男・金正男(キム・ジョンナム)氏が13日、マレーシアで殺害された。突然の事件にもかかわらず、韓国メディアは異例の早さで対応。死因も犯人の正体も明らかになっていない状況のなか、さっそく北朝鮮の偵察総局による「暗殺」と半ば断定した上での強い論調が目立つ。偵察総局とは、北朝鮮によるテロやサイバー攻撃を総括する機関で、2009年に党と軍の特殊作戦組織を統合して設立された。
大方の見方の通り、正男氏が北朝鮮当局により殺されたと仮定した場合、最大の疑問は「なぜこの時期に殺されたのか」となる。2月16日の故金正日総書記の誕生日「光明星節」を控え様々な憶測があるが、韓国でまことしやかに囁かれているのが「金正男亡命説」だ。
韓国の有力週刊誌・週刊京郷は11日、スクープ記事を放った。2002年に北朝鮮を訪問した朴槿恵議員(当時)が、訪朝後数年間にわたり北朝鮮と連絡を取っていた際の「メッセンジャー」こそが正男氏だというのだ。
朴槿恵氏は当時、2002年から2012年まで「ヨーロッパ・コリア財団」の理事を務め、北朝鮮の大学生を欧州へと留学させたり、普天堡(ポチョンボ)電子楽団の来韓講演などを企画したりしていた。こうした事業を進める上での北朝鮮とのやり取りに、北京にいた正男氏が関わっていたという。手紙は同財団の関係者が北京で正男氏に渡し、そこから張成沢(チャン・ソンテク、金正日氏の妹婿)氏、金正日総書記へと伝わった。
週刊京郷が入手した当時のEメールには興味深い内容が多い。例えば2005年12月1日に正男氏が財団宛てに送ったメールには「来年2月23日が叔父(張成沢)の還暦なので、韓服(チョゴリ)を仕立てたい」とある。これに財団側は「詳しい体のサイズが必要」と返すと正男氏はその内容を送ってきている。さらには韓国国内の有名占い師に叔父の運勢占いを頼んだ内容もある。厄払いのお札まで北京経由で送ったという。
■2012年に亡命を打診
この記事の極めつけは、2012年の大統領選挙(与党の朴槿恵候補、野党の文在寅候補が出馬し朴候補が当選)の直前に、金正男氏が亡命しようとしていた具体的な状況が暴露されたことだ。
記事では匿名の国家情報院の関係者を引用し、「国家情報院が金正男を(韓国に)連れてこようとしたが、金正男は韓国よりもヨーロッパや米国に行きたがった。ヨーロッパは北朝鮮情報を渇望していなかったし、米国の立場では金正男が金正日の息子であることは確かだが、他の高位級人士よりは情報価値が落ちると判断した」。
「特別な待遇を要求した金正男と米国側の交渉は決裂し、韓国側も金正男氏の要求と現実的に提供できる限界のギャップが大き過ぎたため、値段が合わないと判断し最終的にあきらめた」と明かした。
この暴露記事が金正男氏の死を呼んだと見られているのである。この記事を見た金正恩氏が激昂し、積年の邪魔者であった正男氏を、テ・ヨンホ元駐英公使など近ごろ相次ぐ亡命者への「見せしめ」として白昼堂々殺害した――。
つまり、正男氏の死は北朝鮮を含め世界中にいる「脱北予備軍」に対する警告だというのだ。
確かに、「喜び組」パーティーなど体制の恥部を暴露して暗殺された金正日氏の妻の甥も、ほかの脱北高官に対する「見せしめ」として殺されたフシがある。
(参考記事:将軍様の特別な遊戯「喜び組」の実態を徹底解剖)
正恩氏もまた、父と同様に暴かれたくない秘密が山ほどあるだろう。この事件の真相はすぐに明らかになるとは思えないが、「見せしめ」説を検証する余地は十分にあと筆者は見ている。
(参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙)
[筆者]
高英起(デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト)
北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)、『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)、『北朝鮮ポップスの世界』(共著、花伝社)など。近著に『脱北者が明かす北朝鮮』(宝島社)。
※当記事は「デイリーNKジャパン」からの転載記事です。
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