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デモ隊を取り囲む空港ポリス
トランプ入国禁止令下のLA空港で記者が見た「カオスと嘆き」
http://diamond.jp/articles/-/116740
2017年2月11日 長野美穂 ダイヤモンド・オンライン
1月27日、トランプ新大統領は、中東とアフリカのイスラム圏7ヵ国の市民が米国に入国することを90日間禁止、難民の受け入れを120日間停止、シリアからの難民受け入れを無期限で停止する旨の大統領令にサインした。
この大統領令で、合法ビザを持つ7ヵ国からの移民たちも米空港で拘束され、大混乱に。騒ぎを受け、ワシントン西部地区の米連邦地裁は2月3日、大統領令の主な部分を全米で差し止める仮処分を言い渡した。これに対してトランプ政権は不服を申し立て、仮処分を無効とし大統領令を再度発効させるよう求め、反撃に出た。しかし足もとでは、カリフォルニア州の連邦控訴裁が連邦地裁の差し止めの仮処分を支持する判断を示し、トランプ陣営はさらに連邦最高裁への上訴も視野に入れることを公言している。
法廷の判断を待つ今、「禁止令」の施行は一時停止されている。この間に、狙い撃ちされた7ヵ国の市民は何とか米国に入国しようと必死だ。だが、今後の司法判断でこの「禁止令」の是非がどう出るかは、わからない。
移民の国・アメリカが何世紀にも渡って掲げてきたダイバーシティの精神に、新任のトランプ大統領が待ったをかけたわけだが、入国禁止令に揺れたわずか2週間前のアメリカで、いったい何が起きていたのかを振り返ってみよう。
一般の日本人のイメージの中では、移民・難民はやや遠い存在かもしれないが、アメリカから締め出されようとしていた彼らが、実際にどんな危機感をその身で感じたのか、ロサンゼルス空港で見た人々の生の姿を、日本人である筆者の目から実況中継する。
■大混乱に陥ったLA空港
イラク国籍の妻を待ち続ける夫
1月27日、トランプ大統領がイスラム圏7ヵ国からの市民の米国への入国を一時停止する大統領令にサインした直後から、全米の空港の国際線到着ターミナルは大混乱に陥った。
米国永住権、正式な難民ステータス、合法ビザを持つ多数のイスラム系移民たちが、米国各地の空港内のイミグレーションで足止めされ、長時間に渡って拘束され、尋問を受ける事態が起きた。
空港ターミナルの外では大規模なデモが
1月29日、日曜日の午後、ロサンゼルス空港(以下、LA空港)のターミナル2では、車椅子に乗った男性が、到着ゲートの中を何度も心配そうに覗き込んでいた。彼は米国籍を持つアメリカ市民だ。妻は米永住権保持者で、カタールのドーハからの飛行機で、定刻通り午後1時半にLA空港に到着した。
その男性は到着ゲートで妻を迎えるべく待っていたが、6時間経っても彼女は出て来ない。妻の国籍はイラク。トランプ氏が今回の大統領令で「テロリストとつながりのある7ヵ国」として挙げた国の1つだ。イラクのほか、対象国はイラン、リビア、ソマリア、スーダン、シリア、イエメンとなっている。
「米国に入国しようとする外国人によるテロ攻撃から米国市民を守るのが目的」だとして緊急発表されたこの大統領令。米国市民のこの男性は、長年連れ添った妻と再び会えないかもしれない不安におののきながら、何の情報も与えられずにひたすら待ち続けていた。
■「大統領令は確実に憲法違反」
家族に寄り添う移民法弁護士
LA空港で、移民の家族から相談を受ける弁護士のアンジェラ・スー
「この大統領令は、確実に米憲法違反。家族を引き裂き、不安に陥れるこんな仕打ちが許されていいはずない」と語るのは、この事態を数時間に渡って見守っていたLA在住の移民法弁護士、アンジェラ・スーだ。
「アメリカという国は、これまで一度も特定の宗教の信者を名指しで差別したり、追い出したりする政策を持たない国だった。少なくとも今日までは」と彼女は言う。
トランプ政権は「これは特定の宗教をターゲットにした渡航制限ではない」と主張していた。だがそれは詭弁だとスーは言う。
「常識的に考えて、この7ヵ国の国民の大多数がイスラム教徒であることは、誰が見ても明らか。特定の宗教を差別することは、憲法では決して認められない」
このカタールからのフライトで到着した200人強の乗客のうち、該当する7ヵ国の出身者は25人。彼らはイミグレーションで拘束され、質問を受けていたが、数時間経つうちに、十数人が五月雨式に解放された。
6時間経っても、8人が取調室からまだ出て来ない。スマホや携帯の使用は禁止され、弁護士も入室できない中、尋問を受ける渡航者たち。
アラビア語で「弁護士」のサイン
ゲートの外では、スーの他、駆けつけた多くのLA在住の移民法弁護士たちが、プロボノ(無料奉仕)で、家族たちの相談に乗っていた。
「LAWYER」と英語で、さらにアラビア語でも「弁護士」という単語が書かれた名札を胸や腕に貼り付け、手づくりのサインを持って走り回る弁護士たち。彼女たちが配っている「永住権保持者と難民の方へ」というビラには、こう書いてあった。
「国境警備隊(CBP)に拘束され、尋問されても、入国拒否されても、フォームI-407に決して署名をしないでください。それに署名すると、あなたのグリーンカードが失効します。『手続きを迅速にするための署名だから』などと言われても、決してこのフォームに署名しないこと」
イラク人の妻を待つ車椅子の男性は、ゲートとスターバックスの間を何度か往復し、やがて疲れ切って背中を丸め、ゲートの金属の柵にもたれていた。すると、やっとゲートの奥からヒジャブを頭に被った彼の妻が出てきた。
■「全員が解放されるまで動かない」
メキシコ系アメリカ人母の気概
ゲートで待ち続けていた夫とやっと再会
彼女が夫の元に歩み寄り、抱き合うと、周囲から大きな拍手が起きた。ボランティアのアラビア語通訳者が解放された彼女に駆け寄り、事情を聞く。通訳を通しての彼女のコメントはこうだった。
「私には身体障害者の米国市民の夫と、米国市民の息子がいる。それが考慮されて、解放されたのかもしれないと思う。家族のいない独身者の永住権保持者は、同じ部屋でいまだ拘束されたままだから」
移民法弁護士のシンディ・ガルシアは、「今日、彼女がオフィサーの質問に対して答えた内容は、今後、正式な記録としてイミグレーションに残り、彼女が市民権を申請する際にも判断材料として使われてしまう」と言う。つまり、弁護士や通訳抜きで、十数時間の後のフライトの疲れた状態で答えた証言が、正式な記録として残ってしまうわけだ。
拘束された場合、「誰と住んでいるのか」「何のための渡米なのか」「母国の家族は何人いて、彼らは何をしているのか」など質問は多岐に渡り、何度も繰り返されるという。応答に整合性がない箇所が出てくれば、それが今後、市民権申請の際、問題にもなり得ると前述の弁護士のスーは言う。
「最後のひとりが解放されるまで帰らない」と語るナディア・バーガス
弁護士たちの話を聞きながら、ゲートの光景を見ていたLA市民でメキシコ系アメリカ人のナディア・バーガスは、「あと7人全員が解放されるまで、私はここを動かない」と断言した。彼女の手には「NO BAN NO WALL」と書かれたサインが握られている。彼女は空港でデモの予定を聞きつけると、2人の子どもをベビーシッターに預けて駆け付けた。「メキシコからの移民の母を持つ娘として、この大統領令を黙って容認するわけにはいかない」と彼女は言う。
「日曜日の午後くらい、幼い子どもたちとゆっくり過ごしたかったけど、トランプのやり方に反対だと意思表示しなければ大変なことになる。日系人が過去に強制収容所に送られたような歴史が、LAで繰り返されては困るから」と言う。
トム・ブラッドレー国際線ターミナルの前では、数百人以上の市民が激しいデモを繰り広げていた。「難民はウェルカム!」「この国は移民の国だ!」という声があちこちで上がり、警察官が周囲を取り囲む。
デモに参加したイスラム教徒のヤファ・アウェイナット
そんななか、一目でイスラム教徒だとわかる姿でデモに参加していたのは、ヤファ・アウェイナット(28歳)だ。パキスタンからの移民の父とネイティブアメリカンの母の間に生まれた自らを「ハイブリッド」と呼ぶ米国市民の彼女は、13歳になると自らの意志でイスラム教を信じるようになり、頭にヒジャブを被って学校に通うようになった。
9・11テロの後は、街を歩いているだけで「祖国へ帰れ」と何度も叫ばれたという。自分が信じる宗教が差別のターゲットにされることを身をもって感じながらも、十数年間ヒジャブを被り続けることで、他人に何を言われても屈しない精神力を身に着けた。彼女は、アラビア語の教師として働き、子どもたちにコーランを教える今、トランプ大統領に伝えたいことがあるという。
「全ての憎しみは無知から来ると思う。私の宗教は、私をより寛容な人間に成長させてくれた。それを知ってもらえたら」
■自分の先祖が味わった悲劇を
再び繰り返したくない
国際線ターミナルの中に入ると、各航空会社のカウンターの横に「移民法弁護士がお助けします」というサインがあった。ユダヤ系、ベトナム系、そして黒人の弁護士が3人並んで机に座り、相談を受け付けている。彼らに休日返上で無償ボランティアをする理由を聞くと、ユダヤ系の男性がこう答えた。
無料相談を受け付ける移民法専門弁護士たち。右からユダヤ系、黒人、ヴェトナム系と人種も様々
イスラム教徒用に用意された礼拝用のじゅうたんと、差し入れのピザ
「我々3人の顔ぶれを見てほしい。今までの歴史の中で、差別されたことのある人種がたまたま揃ってるでしょ。自分の先祖が味わった悲劇を再び繰り返したくないからだよ。移民法を専門にする僕らが、移民の人権が剥奪されるのを黙って見ているわけにはいかないんだ」
同ターミナルの1階に降りると、アラビア語やペルシャ語の通訳のボランティアたちが、ピザの箱やクッキーや水のボトルなどを、拘束されている家族を待つ親戚たちに配っていた。
「84歳の糖尿病のおじいさんもまだ拘束されているって」「赤ちゃんを連れたお母さんもまだ出て来ない」
移民の家族たちから拘束されている人々の詳しい話を聞き、状況をボランティア弁護士らに伝えるのも通訳たちの役目だ。
ロサンゼルスのロヨラ大学の学生、サラ・ファテミは、米国とイランの二重国籍を持つ20代だ。つい先週まで休暇でイランに旅行に出かけていた。
「永住権を持っていても、もう米国入国の安全が保証されない時代が来てしまった。私たちみたいな英語ネイティブの二重国籍の若者が、親や祖父の世代の身の安全を確保するために、率先して語学力を駆使して手助けしないと」と語る。
■「かつての大統領にはない行動力」
トランプの方針を絶賛する市民も
一方、LA市民の中には、トランプ大統領の方針を絶賛する人もいる。トランプ支持者で投資家のジェームズ・シャンブロムは、「大統領は、公約した通り、国民をテロから守るために入国制限を即座に実行した。しかも就任後たった10日で。ここまで素早く実行する政治家は他にいない」と言う。さらにこう続けた。
「空港で数時間拘束される人がいたりして、多少不便があるかもしれないが、最初は仕方ない。この7ヵ国はオバマ政権がテロと密接に結びついていると指摘した国。万一テロリストが紛れこんでいてもおかしくないのだから、無制限に入国させてはダメだ」
「グーグルやアップル、フェイスブックといったカリフォルニアのIT企業が、イスラム圏の移民の入国制限は、米国のビジネスを弱体化させると反発しているが、どう思うか」と筆者が聞くと、「自分はITビジネス界には多大なリスペクトを持っているが、この発言には同感できない。トランプ大統領ほど米国のビジネスの発展を真剣に考えている政治家はいないから」と答えた。
ユダヤ系アメリカ人の彼は、かつて第二次世界大戦中に、ナチスの迫害から逃げてきたユダヤ人たちを米国が入国させずに追い返した史実に触れて、こう言った。
「多くのユダヤ系米国人がこの大統領令に反発しているのは、心情的にはわかる。でも、テロの脅威の現実を見ないと。この大統領令に真っ向から反発した司法長官が罷免されたけど、それも当たり前だ。国民の安全と命が何より大切なんだから」
この米国入国制限の大統領令に、最新の世論調査で、「49%が賛成、41%が反対」と答えたと、ロイター通信が伝えている。ただ、このロイターのオンライン世論調査の母数は1201名とかなり少ない。そのため、この数字がどこまで米国民の意見を正確に反映しているかは疑問、という声も出ている。
■ISからやっと逃げ出してきた
自分がテロリスト扱いされるなんて……。
取り調べで7時間近く拘束されたイラク人女性
賛否が分かれるなか、「次にリストに加えられる国はどこなのか。自分の国ではないか?」「リストに入ってない国からの移民も、安全のために、すぐに市民権を申請した方がいいのか?」といった疑問が、移民弁護士たちの元に殺到している。
「安全が確保されるまで、イスラム教徒を完全にシャットダウンするべきだ」と選挙運動中から公言していたトランプ氏。大統領就任後、彼が自らの公約を実行するためにどんな動きに出るのかが注目されていたが、7ヵ国の「禁止令」は、家族と共にLAに住む多くのイスラム系移民たちにとって、ほとんど奇襲に近かった。
「ISISからやっと逃げ出し、難民としてLAに移住してきたのに、今度は自分たちがテロリストだと疑われてしまうなんて……。私は、イラクでは必死に米軍のために働いてきたのに」と言い、頭を抱えるイラク人男性もいた。彼の家族も空港内で拘束され、長時間尋問されていた。
「イスラム教徒を標的にした禁止令は、いかにもトランプがやりそうなこと。メキシコ系の私たちは、別の意味でトランプに標的にされてきたから、今回も正直、そう驚かなかった 」と前述のバーガスは言う。
トランプ政権がスタートしたこの2週間で、「トランプが差別をするなら、間髪入れずに声を出して反対をアピールできるよう、プラカード作製用にクルマにも家にも画用紙と色ペンを常備するようになった」と言う彼女。これも“トランプ時代の新たな日常”のようだ。
■ネバーアゲイン「大統領令9066」
この国はいったいどこへ向かうのか?
「禁止令」の是非に関する認定が米最高裁にまでもつれ込む可能性もあるなか、空港で取材した移民法弁護士たちは、「7ヵ国禁止令と同じくらい怖いのが、現場のイミグレーションオフィサーの権限を拡大するもう1つの大統領令の中身だ」と語った。
「禁止令」の前に、トランプ大統領がサインした別の大統領令では、イミグレーションオフィサーが外国人を拘束・国外追放できる権限と裁量をこれまでより拡大する条項が含まれていたからだ。
「この取り締まりの対象は、7ヵ国からの市民だけに限らず、全ての外国人にあてはまるため、非常に危険」と弁護士のスーは警告する。第二次世界大戦中、西海岸の日系アメリカ人を収容所に送ったのは、フランクリン・ルーズベルト大統領がサインした大統領令「9066」だった。
取材当日、LA空港の各ターミナルを1日かけて回るなか、多くのLA市民、それも20代から70代まで幅広い年齢の老若男女が、このルーズベルト大統領の大統領令「9066」のことを、日本人である筆者に語った。
「ネバーアゲイン」、最後にはこの一言が必ず続いた。
国際便で到着し、歓声を上げながらディズニーランドへのバス乗り場を探す中国人団体客たちのすぐ横では、イミグレーションで拘束・尋問されている母親を数時間待ち続けているイラク難民の子どもたちが、疲れ切って身体を寄せ合っていた。
トランプのアメリカは、どこにいくのか――。
LAの夜の空港は、デモ隊が上げる声と、あらゆる種類の外国語と、ウーバーのクルマが鳴らすクラクションで、いつにも増して騒然としていた。
(ジャーナリスト 長野美穂)
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