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米との関係修復、ロシアが恐れる最悪のシナリオ
解析ロシア
行方を左右する二つの国と米国との緊張
2017年2月10日(金)
池田 元博
「米国第一主義」を掲げるトランプ政権が始動した。世界が懸念を強めるなか、トランプ氏の就任を心待ちにしていたのがロシアだ。ロシアとの良好な関係づくりを公言する米新政権の下で、米ロ関係は本当に改善するのだろうか。
国務長官には、「ロシア通」として知られる米石油大手エクソンモービルの前CEO、レックス・ティラーソン氏が就任した(写真:The New York Times/アフロ)
米ロ関係の先行きを占う材料として注目されたのが、先月28日に実施されたトランプ大統領とプーチン大統領の電話協議だ。
トランプ大統領の就任後、初めてとなった電話協議は約45分に及んだ。
ロシア大統領府によると、両首脳は米ロ関係の発展に向け、建設的かつ対等、相互利益の原則に基づいて共同作業を活発に進めることで合意した。ビジネス交流を通じて両国の貿易・経済協力を復活させる重要性も確認したという。
国際情勢をめぐってはとくに、国際テロリズムが世界の主たる脅威となっているとし、過激派組織「イスラム国」(IS)やシリアの他のテロ組織の撲滅に向け、米ロが共同歩調をとるべく調整していく必要性で一致した。
電話協議では、両国関係改善への最大の障害となっているウクライナ情勢も話し合った。ペスコフ大統領報道官によると、米国による対ロ経済制裁の緩和問題は議題に上らなかったという。
それでもプーチン大統領は協議のなかで、「ロシアは200年以上にわたって米国を支持してきたし、過去の2度にわたる世界大戦でも米国の同盟国だった」と強調。現在も米国は国際テロとの戦いで最重要のパートナーだと持ち上げ、関係修復への期待を強くにじませた。
一方、米ホワイトハウスも声明で「前向きな電話協議は、修復が必要な米ロ関係進展への重要なスタートとなった」と表明。「トランプ、プーチン両大統領はともに本日の電話協議後、テロとの戦いや互いに関心を持つ他の重要課題に速やかに取り組めると期待している」と指摘している。
政権だけなく、ロシア社会全体に広がる「トランプ期待」
ちなみにトランプ大統領はこの日、日本の安倍晋三首相、ドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領、オーストラリアのターンブル首相とも相次ぎ電話協議している。ロシア以外はすべて米国の同盟国で、トランプ氏がいかにロシアとの関係を重視しているかを示したともいえる。
しかも米メディアの報道によると、ターンブル豪首相との電話協議は難民問題で対立。トランプ大統領がわずか25分で一方的に電話を切ってしまい、「これまでの電話協議で最悪」と述べたという。
トランプ氏自身はツイッターで「フェイク(偽)ニュースのウソ」と断じているが、少なくとも同盟国首脳との電話協議より、プーチン大統領との会話のほうが雰囲気は良かった可能性は否定できない。
周知のように、トランプ氏は選挙期間中からプーチン大統領を「彼は非常に賢い」「強い指導者だ」と高く評価。オバマ前政権下で大きく冷え込んだ米ロ関係の改善に強い意欲を示してきた。
ロシアが米大統領選時、トランプ氏を支援すべく大規模なサイバー攻撃を仕掛けたのかどうかはともかく、プーチン政権が同氏の当選を切に望んでいたのは事実だろう。
ロシアの「トランプ期待」は政権だけなく、社会全体に広がっている。政府系の全ロシア世論調査センターが先月実施した調査によると、オバマ前大統領については回答者の81%が「否定的」評価を下した。一方でトランプ新大統領に対しては「良い」が40%と、「悪い」の4%を大きく上回った。
独立系の世論調査会社レバダ・センターが「米国との関係をどうみるか」と聞いた今年1月の調査でも、「良い」が37%、「悪い」が49%だった。米ロ関係を否定的にみる回答が依然として上回ってはいるが、2年前の2015年1月時点では「悪い」が実に81%に達していた。
ウクライナの戦闘激化は“瀬踏み”?
そんなロシアがトランプ新政権に最も期待しているのは、オバマ前政権がウクライナ危機を受けて発動した厳しい対ロ経済制裁の緩和や撤回だろう。
オバマ氏はとくに、ウクライナ東部で政府軍と泥沼の戦闘を続ける親ロシア派武装勢力にプーチン政権が軍事支援していると激しく非難。ウクライナ東部紛争の政治解決をめざした和平合意(ミンスク合意)が完全に履行されない限り、対ロ制裁は緩和しないとしてロシアに強硬な対応をとってきた。
ところがトランプ氏は、就任前のインタビューでロシアが核兵器削減の「取引」に合意すれば対ロ制裁を解除する可能性に言及するなど、必ずしもウクライナ東部の和平合意履行と絡ませない考えを示唆している。
トランプ大統領は今月4日、ウクライナのポロシェンコ大統領とも電話協議し「和平への協力」を約束した。しかし、直後に放映された米テレビとのインタビューで改めて「プーチン大統領を尊敬する」と述べるなど、ウクライナを全面的に支援してきたオバマ前大統領の姿勢とは明らかに異なる。
ロシアにとってさらに追い風なのは、トランプ政権の最重要閣僚とされる国務長官に、「ロシア通」として知られる米石油大手エクソンモービルの前最高経営責任者(CEO)、レックス・ティラーソン氏が就任したことだろう。
同氏はエクソンモービルのCEO時代、ロシア国営石油最大手ロスネフチとの間で油田・ガス田開発事業を進めた。2013年にはプーチン大統領が「友好勲章」を授与したこともある。対ロ制裁にはもともと反対の立場を表明してきた経緯もあり、ロシアにとっては願ってもない布陣といえる。
当のウクライナ東部ではトランプ、プーチン両大統領が電話協議した先月28日以降、ウクライナ政府軍と親ロ派武装勢力による戦闘が再び激化している。ロシア、ウクライナはいずれも相手側が仕掛けたと非難合戦を繰り広げているが、プーチン政権がトランプ政権のウクライナ問題に対する「関心」の度合いを瀬踏みしている可能性は完全に否定できない。
ロシアでは実際、「トランプ氏は誰が敵かを良く覚えている。ウクライナのポロシェンコ政権が米大統領選でヒラリー・クリントン候補を熱心に支持してきたことを決して忘れていないはずだ」(外交専門家)との見方が根強い。
関係修復の障害になりかねない米のイラン敵視政策
いずれにせよ、プーチン政権がトランプ政権の発足を好機ととらえ、関係修復と対ロ制裁解除へのシナリオを模索しているのは間違いない。とくに外交専門家の間では、まずは国際テロリズムとの戦いを前面に押し出し、米ロ協調を演出していく道筋がとりざたされている。
ロシアは現在、シリア和平を実現すべく、アサド政権と組んで外交攻勢を活発化させている。先月にはカザフスタンの首都アスタナで開いた和平会議も仲介した。この会議には米側から結果的に駐カザフ大使がオブザーバー参加しただけだが、ロシアはトランプ政権にも積極的に参加を呼びかけていた。
シリアはトランプ氏が「掃討」をめざすISの拠点だ。ロシアが「ISとの戦い」と称して米国に共闘を求めつつ、米国の協力も得ながら、アサド政権を存続する形でシリア和平実現の構想を描いていることは十分予想される。
ただし、こうした構想の障害となる暗雲が早くも漂い始めている。トランプ大統領がイランに対する敵視政策を強め始めていることだ。
イランが先月末、弾道ミサイルの発射実験を実施したのに対し、トランプ政権はさっそく追加制裁を科すと発表した。オバマ前政権時代、イランと米欧などはイランが核開発を制限する見返りに経済制裁を解除する「歴史的合意」を達成したが、トランプ氏はこの核合意を「最悪」と非難している。米国とイランの関係は早晩、大きく冷え込みかねない状況だ。
一方、ロシアは地対空ミサイルシステム「S300」を供給するなどイランとは密接な関係にある。シリアの停戦や和平協議もトルコとともに、イランの協力を得て進めた。米国とイランの関係が悪化すれば、IS掃討とシリア和平への協力を通じて米ロの関係改善をめざす道筋自体が頓挫しかねない。
ロシアが最も恐れる、対中国の強硬姿勢の余波
イラン問題だけではない。ロシアが最も恐れているのは、トランプ氏の中国に対する強硬姿勢の波及だ。まだ表面化していないが、米政権が米ロ関係を改善する見返りとして、中国と距離を置くようロシアに要求するシナリオが想定されるからだ。
ロシアにとって中国は最大の貿易相手国だ。ウクライナ危機で国際的な孤立を強めるなか、ロシアは対中依存をさらに強めた経緯もあり、中ロ関係を台無しにしてまで米国にすり寄るとは考えにくい。
自信過剰で起伏が激しいとされるトランプ大統領だけに、その外交路線も予見しにくい。ロシアの思惑通りに、米ロ関係が順調に改善すると断じるのは早計だろう。
このコラムについて
解析ロシア
世界で今、もっとも影響力のある政治家は誰か。米フォーブス誌の評価もさることながら、真っ先に浮かぶのはやはりプーチン大統領だろう。2000年に大統領に就任して以降、「プーチンのロシア」は大きな存在感を内外に示している。だが、その権威主義的な体制ゆえに、ロシアの実態は逆に見えにくくなったとの指摘もある。日本経済新聞の編集委員がロシアにまつわる様々な出来事を大胆に深読みし、解析していく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400028/020700022
「第2次朝鮮戦争」から目をそらす韓国人
早読み 深読み 朝鮮半島
「狂犬」のお達しも空振りに
2017年2月10日(金)
鈴置 高史
2月3日、マティス米国防長官と韓民求国防部長官が会談した国防部前ではTHAAD配備反対集会が(写真:YONHAP NEWS/アフロ)
(前回から読む)
米国が「北朝鮮の核武装」阻止に動く。だが、韓国の腰は定まらない。
マティスに反旗の左派系紙
鈴置:「狂犬」(Mad Dog)のあだ名を持つマティス(James Mattis)米国防長官が2月上旬、韓国と日本を訪問しました。
韓国紙はマティス訪韓をどう評したのですか?
鈴置:在韓米軍へのTHAAD(=サード、地上配備型ミサイル防衛システム)配備に焦点を当てました。韓国がそれを受け入れるかが米韓同盟の試金石となっているからです(「『北の核』潰しの覚悟を日韓に質したマティス」参照)。
メディアにより、意見は割れました。左派系紙のハンギョレはTHAAD配備の危うさを指摘しました。社説「新ミサイル体制のために訪韓したような米国防長官」(2月3日、日本語版)で以下のように主張しました。
マティス長官は24時間ほどの短い訪韓中にTHAADの配備を押し切ると何度も表明した。訪韓の最大の目的が「THAAD配備固め」のようにすら感じられる。
このような動きは中国やロシアを刺激して朝鮮半島と北東アジアの安保情勢を悪化させ、核問題解決策の議論の障害物になりかねない。
マティス長官の今回の歴訪は北朝鮮だけでなく中国にも警告メッセージを送る意味がある。トランプ大統領が公言してきた対中国圧迫を本格化させるのに先立って、韓米日の協力体制を固めようとしているのだ。
我が国は今後韓米日の軍事安保協力強化の求めによって具体化していくこのような動きに対して、バランス感覚を持って対処する必要がある。
ハンギョレは「日米韓」の軍事協力強化に反対してきました。北朝鮮との融和も唱えています。こうした書きっぷりになるのも当然です。
「ずるい」中央日報
配備には賛成するけれど、さりげなく留保条件も付ける「ずるい」社説を書いたのが中央日報です。「THAAD配備と拡大抑止の強化に漏れがあってはならぬ」(2月3日、韓国語版)です。
見出しだけ見ると、親中色が強くTHAAD配備に慎重だった中央日報が「狂犬」の訪韓を受け、宗旨替えしたかと思います。
本文中でも「THAADは北朝鮮の核・ミサイルから国民と財産、米軍の兵力の保護と生存に必須の防御兵器だ」と主張しました。でも、それに続いてこんなくだりがあるのです。
配備に反対する国民をもう一度説得し、中国とロシアにも誠意を持って説明することを政府に望む。
韓国民はともかく、中国とロシアは韓国政府がいくら説得しても応じるはずがありません。米国に対しては「私は配備に賛成しました」とゴマをすり、中ロには「御意向を尊重するよう政府に要求しました」と弁解する、子供だましの筆法です。
相変わらず「二股」の朝鮮日報
最大手の朝鮮日報は?
鈴置:やはり米中双方にいい顔をする「二股社説」を載せました。2月4日の社説「トランプ時代にも米韓は利益ではなく『価値の同盟』でなければ」(韓国語版)から引用します。
マティス長官の言葉通り「THAADはひとえに北朝鮮のミサイルの脅威に対する防衛的な武器」であり「韓国国民と我々(米国)兵力を保護するための措置」だ。
中国がTHAADに憂慮することには留意せねばならぬが、我々を手なずけようとか、韓米同盟を離間する機会にしようとするのは決して容認しない。
まず、マティス長官の言葉を引用することで中国の怒りを米国にそらそうとしました。「配備は米国の意向です。文句を言うなら米国に言って下さい」というわけです。
そのうえ「中国の憂慮に留意せねばならぬ」と書いて「あなたに逆らうつもりはありませんから」と、もみ手したのです。
こんな舌先三寸の社説を書いて、もし中国から「だったらお前の言う通り、俺にもちゃんと留意して配備を拒否しろ」と言われたら、朝鮮日報はどうするのでしょうか。
マティスもげっそり?
韓国各紙の社説をマティス長官が読んだら、さぞかしげっそりするでしょうね。
鈴置:げっそりしたと思います。韓国は北朝鮮との緊張が高まるたびに米国に「次の米韓合同軍事演習では、B52爆撃機など戦略兵器を持ち込んで北を脅してくれ」「いっそのこと戦略兵器を韓国に配備してくれ」と要求する。
今回も中央日報が社説「韓米国防会談、米国の戦略資産を韓半島に常時循環配備せよ」(2月3日、日本語版)でそれを主張しました。
でも、韓国は米国にそう要求する一方で、中国に秋波を送る。「米国と協力して北の核を根絶しよう」と国民に戦争の覚悟を訴えるわけでもない。韓国の言うことを聞いて戦略兵器を韓国に送ってきた米国からすれば「食い逃げ」されっぱなしです。
「覚悟」を訴えた東亜日報
1紙ぐらいは「覚悟」を呼びかけてもよさそうなものですが。
鈴置:私が見た中では唯一、高まる「第2次朝鮮戦争」の可能性を指摘し、国民に心構えを説いた社説がありました。東亜日報の「ただならぬトランプの対北圧迫に準備はあるか」(2月4日、韓国語版)です。
最近、トランプ政権や米議会では対北先制打撃はもちろん、北朝鮮政権の交代や金正恩(キム・ジョンウン)の暗殺まで議論されている。
1994年に北の寧辺(ヨンビョン)核施設への空襲の一歩手前まで行ったが、全面戦争勃発と韓国の被る莫大な被害への憂慮のため、取り止めたことがある。今回も、タカ派一色のトランプ政権の動きがただならない。
金正恩の予告通りに北朝鮮が大陸間弾道弾(ICBM)の試射を断行した場合、米国が要撃などの強硬措置に出れば、朝鮮半島情勢がすぐさま、激浪に飲み込まれることもあり得る。
国が百尺竿頭の危機にあるというのに、政界は大統領選ごっこに血道をあげる。野党には、THAAD配備など敏感な懸案でトランプ政権の対北政策と反対の方向に旋回する動きも見える。一般の国民の安保意識もこれまでと変わらない。
どうせ大国が決める
なぜ、韓国人は「百尺竿頭の危機」を直視しないのでしょうか。
鈴置:「直視してもしょうがない」と思っているからでしょう。仮に「北朝鮮の核施設を先制攻撃してほしい」と韓国人が頼んでも、米国がすんなり応じてくれるわけでもない。反対に「やめてくれ」と頼んでも、自分に必要なら米国は実行する。
1994年の寧辺への攻撃も韓国と相談もなく計画され、韓国の意向とは関係なく取り止めになりました。当時の金泳三(キム・ヨンサム)大統領は後になって「自分が中止させた」と言い張っていましたが、それを本気で信じる韓国人は少ない。
この問題に限らず、韓国人には「自分の運命は周辺大国が決めるものだ」との諦念のようなものがあります。歴史的に「常に大国に決められてきた」からです。
元寇や明治維新のように外敵を追い払った経験を持ち「団結すれば運命は切り拓ける」と考える日本人とは完全に異なるのです。
「自らの意思で自分の運命を決められない」以上、韓国メディアが厳しい現状の分析よりも、読者の耳に心地よい話を報じるのは当然です。
マティス訪韓に関しても多くの新聞が「日本に勝った」「やはり韓国は米国に愛されている」といった情緒的な分析を載せました。
日本に勝った!
なぜ「日本に勝った」のでしょうか。
鈴置:マティス長官が日本よりも先に韓国を訪問したからです。韓国を「愛する」からというより、韓国が米中間で「揺れている」ので、米国はまずその姿勢を確かめたかったのだ、と私は想像しますけれど。
国会開催中だった日本が「木・金」ではなく「金・土」の日程を希望したこともある、と説明する関係者もいます。
今、韓国人は孤独感にさいなまれています。それも「日本に勝った」式の報道を加速していると思います。
中国からはTHAADで苛められ、日本からは「慰安婦像」で見捨てられた。その結果、実害も出ています。
資金流出が始まりそうというのに韓国は、大口の通貨スワップを失う可能性が大きくなったのです(「中国が韓国を『投げ売り』する日」参照)。
朴槿恵(パク・クンヘ)大統領の北京の軍事パレード参観で、米国から白い目で見られていることに、韓国人はようやく気づきました(「掌返しで『朴槿恵の親中』を批判する韓国紙」参照)。
ことに米国に自国の利益を徹底的に追求するトランプ(Donald Trump)大統領が登場しました。韓国人はどんなに苛められるかと冷や冷やしていた。
そんな中、米国の国防長官が日本よりも先に韓国を訪問してくれたのです。そこで韓国各紙は「まだ、捨てられていなかった」「完全に孤立したわけではない」と小躍りしたわけです。
苦笑する中国
韓国経済新聞の2月5日の社説「堅固な韓米同盟を確認したマティス訪韓」(韓国語版)から引用します。
主要国の大統領や官僚、さらには有名な芸能人、スポーツ選手もアジアに来る時は日本から訪問し、次に韓国を訪れるのが通例だ。しかし、マティス国防長官は異なった。トランプ政権が東アジアでどれほどに韓国を重視しているかを示す象徴的な例だった。
国内政治が混乱する中、中国や日本との関係も疎遠になり東アジアで外交的な孤立に陥った韓国に配慮し、力づけようとしているのではないかと思えるほどだ。
米国にとって「北朝鮮の核」が最も緊急の課題ではありますが、それと「韓国を重視する」こととは異なります。もし、韓国が対北先制攻撃のお荷物になるのなら、トランプ大統領は韓国を見捨てると思います。
韓国人はプラス思考ですね。
鈴置:こんな韓国人を笑いながら見ている国があります。中国です。中国共産党の対外威嚇用メディア「環球時報」が2月3日の社説「韓国は米国から重視されたというけれど、幸せにはなれない」(中国語)で、以下のようにマティス訪韓を評しました。
韓国はマティス長官が自分たちの国に最初に来たと、興奮している。北朝鮮の核の脅威に驚くあまり、韓国は米国を救世主だと見なし、外交の独立性を失った。韓国は独立国として思考する能力をますますなくした。
米国に頭を撫でられたと大喜びする韓国――。中国は苦笑しています。この分ならもう少し脅せばまた、こっちの言うことを聞くだろうと考えていると思います。
不透明な米国
では、中国は韓国イジメを強化するのでしょうか。
鈴置:それもするでしょうが、中国にとって韓国はあくまで外交ゲームの「駒」に過ぎません(「米国から『ピエロ役』を押し付けられた朴槿恵」参照)。
中国は小さな「駒」を動かすことよりも、ゲームの相手である米国の出方を研究する必要に迫られています。
トランプ大統領はいったい何をするのか分からない指導者です。突然の入国制限だけではありません。中国に対しては「1つの中国」という米中の基本的な合意を破る姿勢をちらつかせながら「北の核」の解決を迫り始めました。
環球時報の英語版「Global Times」が2月3日、マティス長官の訪韓・訪日に関する2人の中国人学者の意見を載せました。
「Korean Peninsula tensions top the agenda of Mattis Asian tour」です。2人とも「トランプの不透明さ」を前提に議論を進めています。
朝鮮半島問題の専門家であるCui Zhiying氏は、北朝鮮への米国の先制攻撃の可能性に言及しました。以下です。
North Korea should stop developing its nuclear power before a possible rise in tension in the Korean Peninsula, as well as Trump's preemptive countermeasures.
China should continue to deter Pyongyang's nuclear programs while the Trump administration should seek to carry out the US-North Korea dialogues in the near future.
米国が先制攻撃的な手法をとって緊張が高まる前に、北朝鮮は核開発を止めよ。中国は北朝鮮を抑え込むから、米国は北との話し合いを早急に始めてくれ、との悲鳴に近い提案です。
判断の早いトランプ
米国は先制攻撃するのか、それとも話し合いに入るのでしょうか。
鈴置:分かりません。今、米国はまさに分岐点に立っています。言えるのは、どちらの道を選ぶにせよ、トランプ政権は判断に時間をかけないと思われることです。
ここがオバマ(Barack Obama)前政権と完全に異なる点です。理由は2つ。トランプ大統領の性急な性格と、北の核武装が目前に迫ったという冷厳な事実からです。
(次回に続く)
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『孤立する韓国、「核武装」に走る』
■「朝鮮半島の2つの核」に備えよ
北朝鮮の強引な核開発に危機感を募らせる韓国。
米国が求め続けた「THAAD配備」をようやく受け入れたが、中国の強硬な反対が続く中、実現に至るか予断を許さない。
もはや「二股外交」の失敗が明らかとなった韓国は米中の狭間で孤立感を深める。
「北の核」が現実化する中、目論むのは「自前の核」だ。
目前の朝鮮半島に「2つの核」が生じようとする今、日本にはその覚悟と具体的な対応が求められている。
◆本書オリジナル「朝鮮半島を巡る各国の動き」年表を収録
『中国に立ち向かう日本、つき従う韓国』『中国という蟻地獄に落ちた韓国』『「踏み絵」迫る米国 「逆切れ」する韓国』『日本と韓国は「米中代理戦争」を闘う』 『「三面楚歌」にようやく気づいた韓国』『「独り相撲」で転げ落ちた韓国』『「中国の尻馬」にしがみつく韓国』『米中抗争の「捨て駒」にされる韓国』 に続く待望のシリーズ第9弾。10月25日発行。
このコラムについて
早読み 深読み 朝鮮半島
朝鮮半島情勢を軸に、アジアのこれからを読み解いていくコラム。著者は日本経済新聞の編集委員。朝鮮半島の将来を予測したシナリオ的小説『朝鮮半島201Z年』を刊行している。その中で登場人物に「しかし今、韓国研究は面白いでしょう。中国が軸となってモノゴトが動くようになったので、皆、中国をカバーしたがる。だけど、日本の風上にある韓国を観察することで“中国台風”の進路や強さ、被害をいち早く予想できる」と語らせている。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/226331/020700091
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