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イラン、イラク、シリア、スーダン、リビア、イエメン、ソマリアからの入国禁止を決めた米国。次に起きることは… (※写真はイメージ)
トランプ政権はイスラム恐怖症 大統領令で締め出したのはテロリストではなく…〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170208-00000030-sasahi-n_ame
AERA 2017年2月13日号
乱発される大統領令で混乱が続くアメリカ。ただの「混乱」で済むのはいまのうち。騒動はいずれ、自由と革新の国の活力をそぐことになるだろう。
「これは宗教の問題ではない。テロの問題であり、わが国を安全に保つためだ」
トランプ大統領は、イスラム世界7カ国からの90日間の入国禁止を決めた大統領令への批判にこう反論した。
7カ国とはイラン、イラク、シリア、スーダン、リビア、イエメン、ソマリア。大統領令で7カ国を挙げているわけではなく、オバマ政権下で「ビザ免除対象国」から外され米国への入国にビザ取得が義務づけられた国が対象だ。トランプ氏自身、
「大統領令で触れた7カ国はオバマ政権が『テロの源泉』として選定した国々と同じだ」
と説明している。
しかし、過激派組織「イスラム国」(IS)によるテロが起きている国からの入国についてビザを免除することをやめてビザ取得を求めることと、審査を経て正式にビザを取得している者も拒否する制裁的な「入国禁止」とすることは、全く異なる措置である。
トランプ氏は1月20日の就任演説で、「イスラム過激派テロの根絶」を外交・安全保障の最優先課題に挙げた。今回の大統領令はその具体化という位置づけだろう。
●イスラム・フォビア
しかし、これを「テロ対策」として見ればさまざまな疑問が出てくる。
まず、「入国禁止」になった7カ国の出身者がこれまで米国でテロを犯した例はないということだ。2001年9月の米同時多発テロの実行犯19人のうち、15人はサウジアラビア人、他はエジプト人、アラブ首長国連邦(UAE)人、レバノン人である。
入国禁止にサウジアラビアやエジプト、UAEが含まれないのは、これらの国々ではトランプ氏がビル開発やホテル事業などのビジネスを行っているためではないか──。米英メディアからは、そんな報道も出ている。
イラクでは米国が現地の政府と協力してIS対策をとっている。なのにそのイラク人を丸ごと「入国禁止」にすることは、米国とともにISと戦う人々を、ISと一緒に排除することになる。「テロと戦う」というなら、イラクのようにテロから逃げてくる人々への共感や支援が必要なのに、「入国禁止」では逆ではないか。
トランプ政権の「入国禁止令」から浮かび上がるのは、「テロとの戦い」ではなく、
「イスラム・フォビア」
という言葉であろう。「イスラム恐怖症」や「イスラム嫌悪」と訳される。トランプ氏は15年12月の選挙キャンペーンで、
「すべてのイスラム教徒の米国への入国を完全に閉ざす」
と表明している。このような「反イスラム」的な性格は、トランプ氏個人のみならず、新政権の特徴となっている。マイケル・フリン国家安全保障担当大統領補佐官は、
「イスラム主義は17億人の(イスラム教徒の)体内にいる悪性のがんであり、摘出されるべきだ」
と語ったことで知られる。イスラムの過激派と穏健派を区別せず、イスラム教徒全員を「がん」と決めつけた発言だ。
さらに、今回の「イスラム教徒入国禁止令」の立案者として名前が挙がるスティーブン・バノン大統領首席戦略官兼上級顧問は白人至上主義者で、反イスラム的な言動で知られる。トランプ氏の「イスラム教徒の入国禁止」を支持したとされるジェフ・セッションズ司法長官は黒人や女性に対する差別的な発言で、また、ジェームズ・マティス国防長官はイランの核合意に反対する強硬派として知られている。
まさに「イスラム恐怖症」政権と言ってもいい顔ぶれだ。
●和解で留学生が急増
「イスラム恐怖症」は9・11米同時多発テロ事件の後、欧米で広がった。
当時のブッシュ大統領は、
「文明の側に立つか、野蛮の側に立つか」
と演説してテロとの戦いを掲げ、アフガン戦争、イラク戦争へと突き進んだ。しかし、イラクとアフガニスタンへの駐留で計6800人以上の米兵が死亡し、中東・イスラム世界に反米感情が広がった。そこに、両国からの米軍撤退と「イスラムとの和解」を掲げて登場したのが、オバマ前大統領だった。
トランプ氏は選挙期間中を通じてオバマ氏の「イスラムとの和解」を批判し、就任1年目の09年にトルコやエジプトで行った演説について「世界謝罪ツアー」とあざけった。
中東からの米国留学者数は、米国とイスラム世界の関係を如実に示す。
米国の国際教育研究所が発表している、出身国・地域別の米国への留学生数を見ると、上位20位にサウジアラビア、イラン、トルコ、クウェートと中東の国々が入っている。一国で最多のイスラム教徒を抱えるインドネシアも19位だ。
サウジアラビアからは6万人を超える留学生が来ていて、中国とインドに続く3位。サウジの人口は3千万強で、うち自国民は2千万強であることを考えれば驚異的な数字である。米国とは正式な国交がないイランからでさえ、1万2千人以上が米国留学している。ともに厳格なイスラム教を信奉する国だが、若者たちの間では米国へのあこがれが強いことがわかる。
9・11以降のサウジアラビアとイランからの留学生数の推移を見ると、米国とイスラム教徒の関係も見えてくる。01年から02年にかけて、サウジからの留学生は5579人だったが、9・11後のイスラム教徒への締め付けや人々に広がった「イスラム恐怖症」の空気の中で、留学生は3千人台に減少した。06年から07年にかけて増えはじめ、オバマ政権下の09年以降8年間で、その数は4.8倍になっている。
イランからの留学生は07年から08年に初めて3千人に達するが、やはりオバマ政権で3.4倍に増えた。
オバマ政権の「イスラムとの和解」政策がサウジやイランに代表されるイスラム世界から留学生を急増させたことはあきらか。強権体制が蔓延(まんえん)し将来に希望が持てない中東の若者にとって、「自由の国」である米国に留学することは、成功への数少ない機会となっているという背景もある。
オバマ政権でイスラム世界との関係改善が進んだが、トランプ政権の登場で9・11直後の「イスラム恐怖症」が息を吹き返すことになりそうだ。米国ではトランプ氏の当選以降、イスラム教徒への嫌がらせが表面化しているとの報道もあり、イスラム世界からの留学生や移民は今後、減少することが予想される。
イスラム圏7カ国の入国禁止への大統領令について、ツイッター、グーグル、アップルなどIT系企業を中心に反対の声が上がっているのは、中南米とともに、中東やアフリカなどのイスラム教徒の若者が留学や移民として、こうした新しい産業を支えている側面があるからだ。
●ドイツの経済的計算
オバマ前大統領の父も、アップルの共同創業者の一人スティーブ・ジョブズ氏の父も、ともに中東やアフリカから米国に来たイスラム教徒の留学生だったことは、米国の活力の源である多様性を考える上でも示唆的だ。
国ごとの人口中央値で日本は世界最高の47歳だが、それにつぐ2位のドイツが15年以降、100万人のシリア難民を受け入れた。人道的配慮だけでなく、若くて優秀な労働力を入れることができるという経済的な計算も指摘される。
中東は人口中央値が20歳台と若く、一方の米国の人口中央値は38歳と高齢化に向かっている。米国での「イスラム恐怖症」政権の登場は、アメリカの没落の始まりだ。
(中東ジャーナリスト・川上泰徳)
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