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米国に麻薬密売人を流入させているメキシコ、大統領が壁ではなく懸け橋を求める
2017年1月24日
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1月20日にドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任し、今後周辺国に対してどのような姿勢で外交に臨んでゆくのかが注目されているが、もっとも厳しい立場に立たされているのがメキシコである。
アメリカとメキシコの貿易摩擦
トランプ大統領のメキシコ批判には複数の側面がある。先ず第一に挙げられるのは貿易摩擦である。アメリカとメキシコの二国間経常収支は500億ドルでメキシコの貿易黒字となっており、これはメキシコのGDPの4%程度を占めている。メキシコ経済はかなりの程度アメリカの消費に依存しているのである。
この状況はメキシコに工場を作って製品を生産し、それを隣のアメリカに輸出しようとするグローバル企業によって加速している。トランプ大統領はGeneral Motorsなどアメリカの自動車産業のこうした動きを、アメリカから雇用を流出させるものとして選挙中から批判してきた。一方でFordなどはトランプ氏の発言に反応してアメリカに生産拠点を戻すと表明し、トランプ大統領は感謝の言葉を送っている。
トランプ大統領はこの貿易摩擦を解消しようとしている。これはメキシコ側からすれば大問題である。貿易摩擦が消えてしまえば、メキシコのGDPがそれだけで4%も下がってしまうことになる。メキシコの通貨であるペソは、こうしたアメリカからの資金流入が停滞する恐れを受け、大統領選挙後に20%ほど暴落している。以下はドルペソのチャート(上方向がドル高ペソ安)である。
著名投資家のジム・ロジャーズ氏などは保護貿易はすべての国にとってマイナスとなると繰り返し警告している。優れた事業家であるトランプ大統領はそれを当然理解しているだろう。それでもトランプ氏が強気でいられる根拠は、アメリカの貿易赤字である。
アメリカはメキシコ、日本、中国などの国に対して貿易赤字を抱えている。保護貿易は相手国のみならずアメリカにもダメージを与えるだろうが、しかし損害が大きいのは輸出して資金を得ている側、つまり貿易黒字となっている側である。
したがって保護貿易を回避するインセンティブは、アメリカよりもメキシコ、日本、中国の側の方に大きいということになる。だから交渉の場にさえ引き込んでしまえば、その結果がどうなろうとも、アメリカの方に有利な交渉結果になるとトランプ氏は踏んでいるのである。
投資家はトランプ氏が優れた不動産投資家であるという事実を忘れてはならない。高い収益を生むホテルやビルを買収するためには既存のオーナーと話を付けなければならず、彼はそうした交渉を何十年も日常としてきたのである。彼は交渉のプロであり、メディアが言うようなただの馬鹿ではない。投資家はその事実を忘れるべきではないだろう。
一方で、いまだに「トランプ大統領にTPPの重要性を訴えかけていく」と的外れの主張をしている安倍首相や、「メキシコに工場を作る計画は見直さない」とわざわざメディアの前で不要な発言をしたトヨタ自動車の豊田章男社長は、ただの馬鹿である。日本人の交渉能力は致命的である。以下の記事で取り上げた通り、日本政府はBrexitの際にも馬鹿なことを言っていた。
• ソフトバンクのARM買収は日本がイギリス人に的確に恩を売った稀有な外交例
彼らはこうした発言が一体何をどのように前進させるのか、考えてみると良いのである。
メキシコの対応
さて、矢面に立たされているメキシコだが、メキシコ大統領のペニャ・ニエト大統領はトランプ政権のこうした姿勢に対し、「対立も服従もしない、解決策は対話と交渉にある」(AFP)として、理性的な対応を継続してゆく姿勢を表明した。
メキシコ政府はアメリカ大統領選挙の頃からトランプ氏に批判されており、難しい対応を迫られてきたが、一貫して理性的な解決を目指すとの我慢強い姿勢を示している。何しろ対応を間違えれば自国のGDPが4%分飛ぶのだから、メキシコ政府も必死である。
しかしトランプ大統領が問題としているのは貿易赤字だけではない。トランプ氏は選挙時より、アメリカと国境を接するメキシコから麻薬密売人を含む犯罪者が流入してきていると指摘しており、アメリカとメキシコの間に壁を作ると発言して話題となった。しかもトランプ氏はこの壁の建設費用をメキシコ政府に負担させると公約している。
一部の(あるいは大半の)リベラルメディアはこの問題を人種差別の問題と混同しているが、これは純粋に国家の安全保障の話である。犯罪者の流入を止めることが国家の役割でないと言うのであれば、一体安全保障とは何の事だと言うのだろうか。
しかし、この問題に対してメキシコ大統領は「メキシコはいかなる主権国家に対しても自国の安全保障の権利を認めるとはいえ、わが国が信じるのは壁ではなく、懸け橋だ」とピントのずれた発言をしている。
この問題を日本人の読者にも分かりやすい例えで言うならば、仮に例えば近隣国である中国か朝鮮半島から大量の犯罪者が船で日本列島に押し寄せてきたと仮定しよう。日本政府はそうした現状に対し向こうの政府に抗議するが、向こうは「では壁ではなく懸け橋を作りましょう」と提案してきたとする。
彼らは言葉を理解出来ないのだろうか? アメリカとメキシコの国境の現状とはそういうものである。もはや日本人には意味が分からないが、現在の欧米ではこのような意味の分からない理屈が当たり前のものとして跋扈している。
• 大晦日に移民が集団でヨーロッパ人女性に性的暴行、ドイツ、スイス、フィンランドで
• パリ同時多発テロの犠牲者130人はドイツが殺した
そしてこうした風潮に反対しようものならば、以下の記事で引用したように、ヒラリー・クリントン氏のような人間に屑呼ばわりされるわけである。
• ジョージ・ソロス氏、支配階級の集まるダボスでトランプ大統領を独裁と批判
一般的に言って、トランプ支持者の半分は屑の集まりだと呼べる人々だろう。人種差別主義者、性差別主義者、同性愛嫌悪、外国人嫌悪、イスラム嫌悪など何とでも呼べる。
しかし人々は着実にこの偽善に気付きつつある。イギリスがEUを離脱し、アメリカはトランプ氏を大統領に選んだ。次に注目されるのはフランスとイタリアの総選挙である。この二国のどちらかでもEUかユーロ圏から離脱することがあれば、統一ヨーロッパは終わりである。
• イタリア改憲国民投票否決はユーロ圏離脱の始まり
欧米の政治情勢については今後も報じてゆく。
関連記事:
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2. トランプ氏が対ロシア経済制裁解除を示唆、実現ならルーブル急上昇か
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4. 3月の米国FOMCは利上げなし、結果発表後の世界の金融市場チャートを見る
5. ガントラック氏: ドルは下落する、金利上昇は限界、金価格は短期的に上昇する
http://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/5311
トランプ減税でオーストラリアが米国への資本流出を懸念
2017年1月23日
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世界最大のヘッジファンド、Bridgewater創業者のレイ・ダリオ氏は、トランプ政権による減税や規制緩和で世界中の資金がアメリカに向かうとしている。
• 世界最大のヘッジファンド: トランプ相場で株価上昇は完全に論理的
これは減税を理由にアメリカで事業を立ち上げようと思う人口の少ない日本人には分かりづらい感覚かもしれない。しかし、同じ英語圏でアメリカへの移住が現実的な選択肢となるオーストラリアでは、実際に資本と人材の流出懸念が議論されている。
オーストラリアとトランプ政権
ダリオ氏の言う世界からのアメリカへの資金流入というシナリオをより具体的に理解するためには、アメリカへの資本逃避が実際に現実となりつつある国の状況を知ることが一番だろう。オーストラリアの新聞であるThe Australianの記事(原文英語)はこう語っている。
トランプは法人税を35%から15%に下げようとしている。所得税の上限は25%となり、一人あたり25,000ドルまでの収入は税控除される。これが実現する時、すぐにそうなるだろうが、多くのオーストラリア人は資本を向こうに持ち出すだろう。
オーストラリアには中小企業を経営し、あるいは資産を持っている人々が大勢おり、彼らは雇用を創出し、住宅価格を押し上げ、オーストラリア経済を支えているわけだが、彼らにはオーストラリアに留まる必要はないのだ。
因みにオーストラリアの法人税は30%であり、これは他の先進国と比べても高い水準である。
考えてみてもらいたいのだが、英語を母国語とするオーストラリア人がキャンベラからシドニーへと移るのと、あるいはニューヨークへと移るのとでは、日本人が考える住所変更と海外移住ほどの差はないのである。
ある程度の文化の違いは当然あるのだが、しかし言語は問題なく通じる環境であり、生活するために不自由するほどの差ではない。それでも母国である程度生活したいと思う企業家には、The Australianは以下のような提案をしている。
あるいは、彼らは年に半年ほどはオーストラリアで生活するかもしれないが、ビジネスは向こうで行うだろう。オーストラリア国内のビジネスは、精々彼らのアメリカでのビジネスの子会社となる。
これが事業を行う国を自由に選べる企業家に可能な選択なのである。この感覚が分からなければ、ダリオ氏の言うアメリカへの資本逃避の本質は具体的には理解出来ないだろう。
グローバルな企業家が事業を行う国をどのように選んでゆくのかという点については、以下の記事で解説した。
• グローバルビジネスにおけるタックスヘイブンの使い方
多くの日本人はある意味で日本国内に閉じ込められているのであり、国内しか選択肢がないゆえに税制や規制の面で自分勝手な日本の政治家の言いなりにならなければならないのである。しかしより多くの選択肢を持った日本人は、政治の欺瞞に対抗することが出来るだろう。財務省やOECDの言いなりになる必要はないのである。
• イギリスのEU離脱でOECDと財務省が化けの皮を剥がされる
日本の法人税
ちなみに、トランプ政権の大幅な法人減税にもかかわらず、米国への資本逃避懸念が一切議論されていない日本では、その状況そのものが経団連の言う法人減税の必要性、つまり他国の低い税率に合わせて法人税を下げなければ事業が海外に流出するという主張が自分勝手な欺瞞であることを示している。
低い法人税を理由に海外で事業を行える日本のビジネスマンなどほとんど存在しない。法人減税は単に、社内政治の他にほとんど取り柄のない役員連中の集まりである経団連が、より高い役員報酬を得るためだけに自民党と結託しているだけの話なのである。
以下の記事で書いた通り、日本の経済政策はマクロ経済学とは一切関係がなく、法人減税を望む経団連と消費増税を望む財務省の談合によって決まっている。自民党とは談合のためのシステムである。
• 日本経済はこうすれば復活する: 自民党が絶対に実行しない経済政策
日本は法人増税と消費税撤廃を行うべきであり、上記の記事で書いた論理を否定出来る日本の政治家など誰一人としていないだろう。しかし、日本の政治が日本国民のために行われることはない。それはもう何十年も変わっていないのである。
関連記事:
1. ドラッケンミラー氏が金売却、世界経済に「非常に、非常に強気」
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5. トランプ氏、製薬会社は「人殺し」であるとして批判、製薬株急落
http://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/5298
世界最大のヘッジファンド: 債務の長期サイクルはまだ生きている、金融政策と財政政策は大して効かない
2017年1月20日
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• 世界最大のヘッジファンド: トランプ相場で株価上昇は完全に論理的
前回に引き続き、世界経済フォーラム(通称ダボス会議)におけるBridgewater創業者レイ・ダリオ氏の発言を追ってゆく。恐らく今回のものが一番重要な発言だろう。
債務の長期サイクルは生きている
2016年、トランプ氏が大統領選挙で勝利する前まで、著名ファンドマネージャーらは先進国経済が恒常的な低成長トレンドに陥っているという認識で一致していた。経済学者ラリー・サマーズ氏はこれを長期停滞と呼び、ダリオ氏は債務の長期サイクルが終焉を迎えつつあると表現した。
• 元米国財務長官ラリー・サマーズ氏が長期停滞論とは何かを語る
• 世界最大のヘッジファンド運用者による経済入門: レイ・ダリオ氏の「30分で判る経済の仕組み」
しかしトランプ氏が勝利して減税と公共事業を約束すると、投資家達は途端に経済成長を予想し始めた。
• ドラッケンミラー氏が金売却、世界経済に「非常に、非常に強気」
• マクロ経済学の最先端を行くドナルド・トランプ大統領の経済政策
これは何を意味しているのか? 世界経済の長期停滞は終わったのか? これまで経済を支えてきた債務の長期サイクルは限界を迎えつつあったが、それが急に力を取り戻したのか? ダリオ氏はそうではないと主張する。
債務の長期サイクルは支配的なトレンドだ。それは今でもそうだ。だからトランプ氏が出来ることは限られている。しかし、彼は少なくとも消費者や企業のアニマルスピリットを喚起する手段があることに気付いた。これは想定されていたよりも明るい未来だ。しかし実行には絶妙な工夫が必要となる。
アニマルスピリットとは、合理性の観点からでは説明の出来ない経済主体の不合理な心理、行動のことである。ダリオ氏はトランプ氏が大統領に選ばれてからこの単語を好んで使っている。ダリオ氏はこう続ける。
アニマルスピリットを喚起することは可能だ。それは何処から来るか? それは金融政策からではない。金融政策はこれ以上緩和的にはなれない。財政政策からそれを得ることはある程度は可能だろう。税率を変え、支出を増やす。しかし財政収支の問題はあり、大した規模にはならないだろう。
しかし規制緩和は興味深い。アメリカという場所を、金を儲けて資産を築き、事業を行い生産性を向上させるような環境へと変え、人々の関心を得ることが出来れば、海外から資金を呼び寄せることが出来るかもしれない。
これは前回の記事でダリオ氏が予測したような保護主義の結末とも一致している。保護主義の結果、企業はアメリカか中国かの選択を迫られ、ダリオ氏によれば企業はアメリカを選び、結果資金がアメリカに流入するというのである。
アニマルスピリット喚起の限界
しかし同時に、ダリオ氏はトランプ政権に出来ることはそれだけだと言う。トランプ政権はあくまでこれまで経済を支えてきた債務拡大の長期サイクルが限界に達しつつあるなかで出来る限りのことをしなければならないのである。
アニマルスピリットを喚起しても債務の長期サイクルを元に戻すことは出来ない。状況は1930年代に酷似している。1929年から32年まで経済恐慌があり、中央銀行は紙幣を印刷することで対応した。1932年から37年に経済は回復したが、貧富の差は広がり、ポピュリズムが台頭した。
ダリオ氏の言うポピュリズムとは、右派と左派両方のポピュリズムのことである。ダリオ氏は右ならばファシズム、左ならば共産主義のポピュリズムが想定され、極端に走る民衆の傾向は拡大しつつあると言う。
トランプ政権はこうした状況を上手く解決することが出来るだろうか? それはトランプ氏の振る舞い次第だとダリオ氏は言う。
トランプ政権はどういうものになるだろうか? 賢明で思慮深く、計算の出来る政権になるだろうか? 例えば関税の問題はどうなるか? 賢明な形で実行することが出来るだろうか?
ダリオ氏は政権の要職に選ばれているメンバーを見る限り、物事を理解している人々が選ばれている傾向があるとした上で、しかしトランプ政権が「賢明」であることが出来るかどうかを判断するのは時期尚早だとしている。
また、現在の米国株の水準については「程々に魅力的だ、しかし非常に魅力的であるわけではない」とし、「非常に魅力的な資産クラスが他にあるわけでもない」とした。米国株の適正水準については以下の記事で少し触れているので、そちらも参考にしてほしい。
• 実は2012年から全く伸びていない米国企業の純利益
関連記事:
1. 米国利上げ後の相場への影響: 株価、為替、金価格、原油価格はどうなるか? 市場が暴落するのはいつか?
2. 2016年アメリカ経済は減速する: 利上げとドル高の影響、エネルギー価格の推移、賃金の上昇
3. ジム・ロジャーズ氏: 2016年世界同時株安はリーマン・ショックがいまだ続いていることを示している
4. 2016年、日経平均の下落に影響している世界金融市場のチャートの一覧
5. 3月の米国FOMCは利上げなし、結果発表後の世界の金融市場チャートを見る
http://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/5273
世界最大のヘッジファンド: トランプ相場で株価上昇は完全に論理的
2017年1月20日
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2017年の世界経済フォーラム(通称ダボス会議)はぱっとしないイベントとなった。普段ならば世界中の富豪たちがプライベートジェットで集い、シャンパンを片手に「世界の中心にいる自分達が今後どう世界を良くしてゆくか」を語らう豪奢な社交の場だったはずなのだが、イギリスのEU離脱やトランプ大統領の誕生で面目を潰された今年のダボスのエリート達の心象には何処か困惑と気まずさが見受けられた。
そしてエリート達の困惑を作り出した当のトランプ氏はダボスに来ていない。イギリスのGuardian誌はそのような今年のダボスを「ハムレット王子のいない劇ハムレット」(原文英語)と呼んだ。目玉とされた中国の習近平主席の講演も、グローバリズムと中国というトランプ氏に批判された者同士の擦り寄り合い以上のものにはならなかった。中国がグローバリズムに心から共感するはずがないので、それは当然の結果である。
今回の世界経済フォーラムから価値ある発言を拾うとすれば、世界最大のヘッジファンドBridgewater創業者のレイ・ダリオ氏が2017年の相場について述べた発言くらいのものだろう。ということで、前置きが長くなったが、本題に入ってゆきたい。
「株高と金利上昇は完全に論理的」
2017年は非常に難しい相場である。著名投資家の間でも意見が割れている。トランプ相場前の2016年もある意味では難しいものだったが、しかし著名投資家らの意見は方向性としては一致していた。
そのような環境においても世界最大のヘッジファンドを率いるダリオ氏の意見は最も参考になるものの一つであり、今年に入ってからも度々紹介してきたが、ダボス会議でダリオ氏が述べた相場観を紹介してゆきたい。
先ず、トランプ相場で経済成長とインフレを期待して株価が上がり、金利が上昇していることについて、この動きは論理的かと聞かれたダリオ氏は、以下の様に答えた。
完全に論理的、完全に論理的だ。トランプ政権は基本的に既知の政策を行おうとしているだけだ。彼らは税率を変えると言っており、市場はそれを織り込もうとしているのだから、その動きは論理的だ。
トランプ政権は法人税を下げると公約しており、法人税が下がればその分純利益(税引き後)が増えるので、株式にとっては当然プラスである。以前説明した通り、アメリカの企業利益は実は2012年から伸びておらず、米国株が上昇してきたのは別の要因によるものなのだが、そこに利益の増加という正当な要因が加わろうとしているのである。
• 実は2012年から全く伸びていない米国企業の純利益
保護主義の行方
ただ、ダリオ氏は財政政策という古典的な要因だけではなく、よりトランプ政権に固有な側面も指摘する。保護主義である。
トランプ氏は海外に奪われた雇用をアメリカに取り戻すと言っている。矢面に立たされているのは輸出で成長してきた中国と、安い人件費を武器にアメリカの労働者と競争しているメキシコである。
多くの米国企業が賃金の安いメキシコに工場を作って製品をアメリカに輸出しており、トランプ氏はアメリカから雇用が奪われたとしてそうした動きを批判している。
こうした保護主義についてもトランプ氏が何処まで本気なのかと投資家は注意深く見守っているのだが、ダリオ氏はこの保護主義についてやや興味深いことを言っている。
企業家が「何処で事業を行おうか? 中国か、それともアメリカか?」と考えたとする。今や、アメリカの国境はより保護主義的であり、国境の中にはビジネスに友好的な環境がある。トランプ政権が低くすると言っている法人税、そしてアメリカは金儲けをしてもいい環境(訳注:中国の共産主義的な雰囲気と比較しているのだろう)だ。適切な法のルールもあり、財産権もしっかりしている。結果、アメリカは企業家にとって好ましい場所となる。
ダリオ氏はやや言葉を選びながら話していたが、要約すれば、アメリカは中国よりも事業を行う環境として魅力的であり、保護主義の結果ビジネスの誘致で競争することになればアメリカが勝つだろう、ということを言いたいようである。
トランプ相場における中国元安
ダリオ氏の主張が正しければ、その結果は恐らく、ドル高中国元安となるだろう。ドルの金利上昇は既に大量の資金を中国元から米ドルへと流出させたが、アメリカに投資が集まるということは、資金がドルへと吸い寄せられるということである。
以下はドル元(オフショア人民元)のチャートだが、トランプ氏が大統領選で勝利してからドル元相場はドル高に推移しており、その後ややリバウンドしているが、その後の推移が注目されている。
中国経済については著名投資家のジム・ロジャーズ氏がトランプ政権の政策を理由に弱気転換しているが、それは正しいのだろう。ただ、その結果が中国株に出るのか、あるいは為替レートに出るのかという点には考察が必要だろう。
• ジム・ロジャーズ氏: 中国株は忘れてロシア株を買え
ダボス会議で習近平氏がグローバリスト達に擦り寄ろうとしたのも頷ける。アメリカがロシアと和解しようとしている以上、中国としては縋れるものが他にないからである。別に中国とロシアは価値観にそれほどの一致はないのだが、アメリカに敵視された者同士、ある程度協力してきた経緯がある。中国には歴史的に真の友好国がなく、ある程度利害の一致したものと一緒にやってきたのである。
そして今回、中国はダボスで友人探しを試みたということである。グローバリストと中国が奇妙な利害の一致を見出し、そしてアメリカに背を向けられたダボスというのもなかなか見ものである。
ダリオ氏はスター不在のダボスで特に人気の参加者となっていた。彼は他にも現在の株価水準について発言をしていたが、既に長くなったので別の記事で取り上げたい。
関連記事:
1. レイ・ダリオ氏: 年内利上げは深刻な誤りに、そして米国は量的緩和を再開する
2. 2016年半ば、著名ヘッジファンドマネージャーらの相場予想を採点する
3. 世界最大のヘッジファンド運用者による経済入門: レイ・ダリオ氏の「30分で判る経済の仕組み」
4. レイ・ダリオ氏: トランプ政権は消費者や企業のアニマル・スピリットを喚起する
5. トランプ減税でオーストラリアが米国への資本流出を懸念
http://www.globalmacroresearch.org/jp/archives/5261
2017年はロシア市場こそがレーガノミクス上げ相場の再来となる
2017年1月18日
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2017年、トランプ相場でアメリカの利上げの行方が話題になっており、利上げは資産価格に悪影響を及ぼすため、投資家は警戒しながら米国株の行方を見守っている。利上げは一般的に資産を買う状況として最適ではないが、しかし世界にはその逆を行おうとしている国がある。ロシアである。
トランプ相場はしばしばレーガノミクスと比べられているが、しかし2017年はロシア株の方がレーガノミクスの上げ相場に似ていると言えるだろう。
スタグフレーション後の経済回復
1981年にレーガン大統領が就任した頃のアメリカは、インフレと景気後退が同時に起こるスタグフレーションに悩まされていた。レーガン政権最初の1年はインフレ退治のために政策金利が17%まで上がるほどの状況で、レーガノミクスの減税と投資も高金利の悪影響に対抗出来ず、株価は下落していったが、インフレが収まり金利が下がり始めた瞬間、米国株は長期の上げ相場へと突入してゆく。以下の記事でチャートを添えながら説明した通りである。
• レーガノミクスで減税と公共事業は高金利の悪影響に勝てなかった
そして2017年のロシア経済はまさにそういう状況なのである。ロシア経済はここ数年、原油安と経済制裁の二重苦に苦しんでいた。産油国であるロシアは原油暴落で輸出が減少、しかもクリミア併合後にはアメリカとその同盟国が経済制裁を課したことで、ロシア連邦中央銀行がルーブルを支えきれないとの観測が広まり、ルーブルは暴落した。以下はUSDRUBのチャートで、上方向がドル高ルーブル安である。
ルーブル暴落はロシア経済にとって大打撃となった。輸出物価が高騰したことでロシア内のインフレ率は17%近くまで急上昇し、経済は疲弊した。レーガン政権開始時のアメリカと同じ状況である。
原油反発から始まるロシア経済の回復
しかしながら、原因となった原油暴落は底値から反発した。以下はアメリカのWTI原油価格のチャートである。
原油暴落の原因となった米国シェール産業による供給は死んでいないものの、サウジアラビアを始めとするOPECがある程度結託しているため、2016年始めのような暴落は起こりにくくなったと言えるだろう。
そしてもう一つの原因である経済制裁は、トランプ政権が解除を仄めかしている。
• トランプ氏が対ロシア経済制裁解除を示唆、実現ならルーブル急上昇か
特に原油の反発はロシア経済にプラスの影響を及ぼしており、ルーブルの反発は国内のインフレ率を5%台にまで下落させている。インフレ率が落ち着けば、インフレ退治のために金利を上げていた中央銀行は金利を戻すことが出来る。利下げが始まっているのである。
ロシア連邦中央銀行の動き
ロシア連邦中央銀行の動向を知るためには、政策決定における声明文を引用するのが早いだろう。以下は12月に金利を据え置いた時の声明である。
ロシア連邦銀行は政策金利を10%に維持することを決定した。物価上昇の動向や経済活動は概ね予想通りであり、インフレへの懸念はいくらか和らいだ。消費者物価の上昇は短期的要因の影響もあり緩やかになっているが、インフレ期待の減少はいまだ不安定である。
今回の決定と、やや引き締め的な金融政策が維持されていることを考慮すれば、インフレ率は2017年の後半には目標の4%まで下がるものと思われる。消費者物価上昇率の下落トレンドが定着するにつれて、ロシア連邦中央銀行は2017年の前半に政策金利を切り下げることを考えるだろう。
ちなみに10%がどういう水準かと言えば、先ずはインフレ率と比べてみるのが早いだろう。インフレ率が5-6%程度にまで下落している今、インフレ率を差し引いた実質金利は4-5%ということになる。
しかしロシアの実質経済成長は現在0%であり、実質金利は現状のロシア経済に対してかなり引き締め的であると言えるだろう。
ただ、金利を高く保たなければならなかった理由は物価高騰であり、原油安とルーブル安さえ収まってしまえば、中央銀行は利下げを開始出来る。原油安が再発しなければという想定のもとで考えると、金利は最終的に名目成長率(実質成長率プラスインフレ率)よりやや高い6%程度まで下落すると想定しても行き過ぎではないだろう。
ロシア株の水準は?
そうなればロシア株はどうなるだろうか? 先ず、ロシアの株価指数MICEXは現在2170前後で推移しているが、MICEXの一株あたり利益は220程度であり、これは投資額に対する利回りが10%程度であることを意味する。
その国の株式は一般に他の資産との比較で買われるものである。例えばアメリカでは政策金利が0.5%-0.75%、10年物国債の金利が2.4%、S&P 500の利回りが5%となっている。
ロシアでは短期的なインフレ退治のために政策金利が10%となっているが、10年物国債は利下げを見越して8%となっており、対してMICEXが10%である。
ただ、10年物国債の8%という水準も、インフレ率が5%、経済成長率がほぼゼロという水準に対して高いと言える。物価高騰が収まるという前提に経てば、10年物国債の金利は6%程度まで下落する余地があり、そうなれば株価の水準も切り上がってくると言えるだろう。
ルーブル建て資産の買い
そこで先ず買いとなるのはロシアの10年物国債である。金利低下は債券にとって価格上昇であるので、金利が6%程度にまで落ちてくるまではロシア国債は買いで良いだろう。価格上昇だけでなく、金利も十分に期待できる。
一方でロシア株も魅力的なのだが、長期国債利回りが8%の段階で株式の利回り10%はやや買われすぎの感もある。ロシア株はアメリカ大統領選挙後に上昇しているので、MICEXが1800-1900程度まで下落して価格に対する利回りが上昇するのを待つか、あるいはまだ買われていない個別株を選別して買っていくのが良いだろう。ロシア株には配当が10%を超える優良株がまだごろごろしており、配当を受け取りながら長期で待てる投資家は、短期的な下落を気にする必要もないだろう。
また、ロシアの資産を購入する場合には為替ヘッジを付けずにルーブル建てで購入するのが良いだろう。ルーブルは既に十分に下落しており、利下げによる下落圧力を差し引いても、ロシア経済回復のシナリオが正しければ、上昇に向かうと予想している。
リスク要因
リスクとしては原油が再び下落する可能性と、トランプ政権がアメリカ政府内の反ロシア勢力に押され、親ロシア的政策が取れなくなる可能性が上げられる。
先ず、アメリカのシェール産業がまだ生きている以上、供給が増加して原油価格が再び下落するのは有り得ることである。しかしOPECがある程度は結託している今、また大きく暴落するということは考えづらい。
したがって、投資家は可能ならば原油価格のコールオプションの売り(ある水準より上昇しなければ利益が出る取引)や、あるいはシェール企業の発行するようなジャンク債の空売りなど、市場の状況を見ながら原油下落で利益が出る取引と組み合わせてゆくのが良いだろう。
• オプション取引入門1: プット・オプション、コール・オプションとは何か?
• トランプ政権が超長期債発行でジャンク債は暴落する
トランプ政権のロシア政策については現状では楽観しているが、反ロシア政策を主導するCIAの抵抗次第では暗礁に乗り上げる可能性もなくはない。このテーマについては今後も報じてゆく。暗礁に乗り上げそうならば撤退である。
• トランプ次期大統領: CIAを縮小する
プーチン大統領の国内政策
しかし、もしトランプ政権によってアメリカが親ロシア的政策を取り始めるならば、それは外交というだけでなく、プーチン大統領の国内政策を考えてもロシア株にとってはプラスになるだろう。
プーチン大統領の高い支持率は、クリミア併合後に反ロシア政策を取った西側諸国に対し、断固たる対応を行なったことで得られたものである。しかし西側諸国の反ロシア政策が無くなれば、ロシア国民は決して良好とは言えない国内経済の方に目を向け、プーチン大統領は経済対策を行わざるを得なくなるだろう。
取り留めもなく書いたが、現状のロシア市場に対する見方は以上である。原油市場に関するヘッジはやはり必要であり、またロシア国債を持つ方が良い場合もあれば、ロシア株を持つ方が良い場合もあり、それは市場の短期的な状況変化によって変わってくる。為替ヘッジも完全に外すべきか、そうすべきでないかは状況次第だろう。
日々変わるポートフォリオをすべて詳細に書いてゆくことは出来ないが、大まかな方向性についてはここでも報告してゆく。ジム・ロジャーズ氏の長期見通しはやはり当たるものだと感嘆しているところである。
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4. 量的緩和バブルを崩壊させるポートフォリオ・リバランスの逆流
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