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米国人学者の結論「アジアの世紀はもう終わり」政治も経済も停滞、一方で高まる戦争の危機
2017.1.18(水) 古森 義久
韓国・ソウルの市街地。北朝鮮軍はソウルに通じる地下トンネルを掘っていた(写真はイメージ)
「アジアの世紀」は終わった――。こんな主張を展開する書籍がワシントンの国際問題関係者たちの間で話題になりつつある。
アジアこそが世界の経済成長、技術革新、人口増加、そして繁栄と安定の源泉だとうたわれて久しい。しかし本書は、アジア、太平洋地域に明るい希望が満ちていた時代は終わりつつあると断言する。その代わり、アジアは経済不況や紛争危機のリスクが高い重苦しい地域になってきたというのである。
本書『アジアの世紀の終わり』(原題"The End of the Asian Century War, Stagnation, and the Risks to the World’s Most Dynamic Region")は、2017年1月の頭にイェール大学出版局から刊行された。著者はワシントンの大手研究所「AEI(American Enterprise Institute)」で日本研究部長を務めるマイケル・オースリン氏である。オースリン氏は日本研究から始まり、最近ではアジア全般の課題について活発に論評し、気鋭の学者として注目されている。
ソウルに通じる北朝鮮軍の地下トンネル
"The End of the Asian Century"の表紙
20世紀後半から21世紀にかけて、アジアや太平洋地域は目覚ましい経済成長を達成し、政治的、社会的、文化的にも北米や欧州などに劣らぬ大きな存在感を示すようになった。そうした実績から、20世紀、あるいは21世紀の世界は「アジアの世紀」だとも呼ばれてきた。
だが、オースリン氏の認識は大きく異なる。アジア各地での調査と研究に基づき、アジアの実態も展望も決して明るくはないという考察を提示するのだ。
本書の冒頭でオースリン氏は、韓国の首都ソウルのすぐ近くにある北朝鮮軍の地下トンネル跡に足を踏み入れたときの体験を記している。韓国側が発見して接収したこのトンネルは、元々韓国を攻撃するために造られ、北朝鮮領内からわずか四十数キロのソウル市に通じていた。
オースリン氏は「地上ではソウルの繁栄と安定が目覚ましいが、地下では北朝鮮と韓国がすぐにでも戦争を始める危機が現存する。この縮図はまさにアジア全体を象徴していると感じた」と述べる。
またオースリン氏は、アジアでさまざまな要因によって経済が停滞し、政治が不安定となり、軍事衝突の危機も高まってきたことを報告し、その状況が世界の他の地域を悪い方向へと巻き込んでいく可能性が高くなったと指摘する。
そしてそれらを踏まえて、アジアの世紀と騒がれた時代は間違いなく終わりつつあると総括する。
アジアの時代を終わらせる5つの要因
本書のなかでオースリン氏は、アジア、太平洋地域の繁栄や安定の終わりを告げる要因として以下の5点を挙げていた。
・奇跡的な経済繁栄の終わりと経済改革の失敗
日本からインド、中国まで、アジア諸国の驚異的な経済成長はそれぞれ異なる理由で衰え始めた。なかでも大きいのは経済改革の失敗だろう。全世界は、とくに中国の構造的な経済破綻に備える必要がある。日本の経済もかつてのような活力を回復することはない。
・人口動態の問題が深刻化
アジア諸国はどこも人口の縮小や偏りに悩まされている。インドのカルカッタから東京にきた筆者は、カルカッタが人口過剰なのに対して東京は高齢者ばかりというあまりの人口の偏りの落差に衝撃を受けた。日本も中国も、労働人口の減少が深刻な負の経済要因となってきた。技術革新も追いつかず、アジアの若者の未来は暗い。
・独裁制でも民主制でも政治革新が停滞
中国の独裁政権下での政治不安はますます深刻となった。日本やインドのような民主主義国でも、腐敗、無関心、シニシズム(冷笑主義)、縁故主義などに政治が蝕まれている。とくに国民に自由のない中国や北朝鮮での政治的な不安は、爆発的な危険を帯び、全世界に危機をもたらす。
・アジア各国の相互連帯が欠如
アジア、太平洋の諸国は欧米での北大西洋条約機構(NATO)や欧州連合(EU)のような地域内相互の絆がない。文化や社会の共通性はある程度存在するが、相互を強く結びつける連帯の制度も共通の価値観もほとんどない。
・戦争の危険
現在のアジアには軍事衝突から戦争へとつながる潜在危機の要素が19世紀のように数多くある。最大の要因は中国の軍事拡張主義といえるが、北朝鮮の挑発的な行動も大きい。アジアには核兵器保有国が北朝鮮を含めて4カ国もあるため、いったん戦争が起きると危険は容易にグローバル規模にまで拡大する。
オースリン氏のこうした見解には反対論も提示され、ワシントンのアジア研究関係者たちの間で「アジアの世紀」をめぐって活発な議論が展開されるようになった。
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http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48950
中国に厳しい米政権誕生で風雲急を告げる東アジア
偉大さ復活競う米国と中国、日本は何をすべきか
2017.1.16(月) 樋口 譲次
尖閣問題で日本防衛確認=南シナ海で対中強硬姿勢−次期米国務長官
米上院外交委員会の公聴会で証言する次期国務長官候補レックス・ティラーソン氏(2017年1月11日撮影)〔AFPBB News〕
「偉大なアメリカの復活」VS「中華民族の偉大な復興」
世界中に「トランプ・ショック」を与えた「大統領らしくない」ドナルド・トランプ氏が大方の予想を覆して、世界で最も影響力のある超大国米国の次期大統領に選任された。
選挙期間中は、人種差別や女性蔑視などと非難された政治的に危うい発言や、「メキシコ国境に壁を!」「イスラム入国禁止」など、過激で誇張の多い言動を繰り返したが、それでも米国民の厳粛な審判は「歴史に残る番狂わせ」と言われる結果に落ち着いた。
むろん、すでに終わってしまった選挙戦について云々するのは、本論のテーマではない。
これから、トランプ新政権が採るであろう戦略や政策、その中にはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)離脱や在日米軍駐留経費の全額負担要求といった、そのままではわが国にとって望ましくない内容も含まれるが、特に21世紀の最大の脅威である中国に対する戦略や政策が、わが国の安全保障や防衛にどのような影響を及ぼすかに大きな関心が寄せられる。
2017年1月20日に第45代米国大統領就任式を控えたトランプ氏の戦略や政策は、就任宣誓演説や2月の最初の一般教書などで逐次明らかになろうが、選挙期間中から今日までの動きで、そのアウトラインが少しずつ顕わになっている。
トランプ次期米大統領が示した最大の公約(国家目標)は、「偉大なアメリカの復活(Make America Great Again)」であり、それを果たすために「アメリカ最優先(America First)」の政策を採るということである。
また、大統領選挙直後の勝利宣言において、トランプ氏は「全米国民の大統領として、米国の夢を実現する」と誓った。
米国の夢としての「偉大なアメリカの復活」にも、また「アメリカ最優先」にも、中国などの台頭によって米国のパワーと地位が相対的に低下しつつあるとの深刻な認識が作用しているのは間違いなかろう。
かたや中国は、「中国の夢」としての「中華民族の偉大な復興」を国家目標とし、欧米が中心になって築いてきた国際秩序に代えて、自国が中心となる国際的枠組み、すなわち「中華的新秩序」の形成を外交戦略の重要な柱に掲げている。
両国の国家目標を比べてみると、大変似通ってきたことに気づかされるが、それは偶然の一致ではない。既存の超大国と、これに追いつき追い越そうとする新興大国との覇権的対立の構図がその根底にあるからだ。
バラク・オバマ大統領は在任間、中国に対して、いわゆる融和的関与政策を採ってきた。
しかし、トランプ次期米大統領がなりふり構わない姿勢で「偉大なアメリカの復活」と「アメリカ最優先」を打ち出したことで、中国との外交、経済、安全保障・軍事などの分野で、両国の摩擦や衝突は避けられず、これからの両国間の戦略・政策調整には大きな困難を伴うことが予想される。
むしろ、事態はより先鋭化して真っ向勝負になる恐れが強まるとの見方が有力になって来るかもしれない。
そこで、これまで公表されたトランプ次期大統領及びその周辺の対中国戦略・政策に関する発言や論調を、外交、経済、安全保障・軍事の項目に従って概観し、トランプ政権の対中国政策の行方を占ってみることにする。
より厳しい対中外交へ
米国は、1979年の米台断交以来「1つの中国」政策を堅持してきたが、トランプ次期米大統領は、12月2日、台湾の蔡英文総統と電話で直接話し、米台の緊密な経済・政治・安保関係を確認した。
米台断交以来初めてとなる米国次期大統領と現職の台湾総統との電話会談は、数十年にわたる米国の外交政策の慣例から明らかに逸脱するものである。
また、トランプ氏は、その後のテレビ番組で、「『1つの中国』政策のことは十分認識している。しかし貿易などほかのことに関して中国と話がまとまらない限り、我々がなぜ『1つの中国』政策に縛られなければならないのか分らない」と語った。
さらに、「我々は中国の通貨引き下げ、国境での重い関税、南シナ海の真ん中の巨大な要塞建設などのためにひどい損害を被っている。・・・北朝鮮があって、核兵器がある。中国はその問題を解決できるのに、我々に何の協力もしていない」と主張した。
中国にとって最優先の「核心的利益」である台湾問題をはじめ、いずれも中国にとって重大な問題に対する主張や批判であることから、トランプ次期政権の対中外交の変化を予測させるのには十分である。
トランプ氏は、不動産王の億万長者として有名であるが、政治的経験は全くない。したがって、その外交政策は、外交ブレーンや共和党の政策に影響される度合いが強いと言われている。
トランプ氏の外交ブレーンは右派、タカ派で固められており、上下両院で優勢な共和党が掲げる外交政策は一貫して強硬的であり、政党の政治リーダーがトランプ氏に及ぼす影響はオバマ大統領に及ぼすより大きいと見られている。
つまり、オバマ政権下では人権問題をはじめとする、いわゆる価値外交で中国に大幅に譲歩してきたが、トランプ政権は中国の人権や民主化等の問題について過去8年間との区別を示すことになろう。
一方、トランプ次期政権下の駐中国米大使を巡る人事は、次期政権の対中外交政策を占うもう1つの視点として興味深い。
トランプ氏は、次期駐中国大使にアイオア州ノテリー・ブランスタド知事を指名した。同知事は、1985年に農業視察団として同州を訪れた習近平国家主席と面識があり、指名にあたってトランプ氏は「中国指導部と相互に有益な関係を築ける」と述べた。
台湾の蔡英文総統との電話会談や「1つの中国」政策への疑念、中国の通商政策への批判、南シナ海問題や北朝鮮の核を巡る対中抗議など、今後の中国への強硬姿勢を窺わせる一方で、習主席と面識のある駐中国大使の起用は、米中間のスムースな意思疎通のパイプを維持しようとする次期政権の意図を示すものとして注目される。
とはいえ、前記の通り、中国との基本問題に対する対立要因がますます大きくなることが予想されることから、次期政権の対中外交は、中国の怒りを買うことも厭わない、より厳しい外交政策に転じる可能性を含んで推移することになろう。
さらに強硬な対中経済・通商政策へ
生粋の経済人であるトランプ次期米大統領は、自身の真価を発揮するために、その経済政策において「偉大なアメリカの復活」と「アメリカ最優先」の公約を最も忠実に、また最も強力に推し進めることは間違いなかろう。
トランプ氏は、選挙期間中から、中国の通商政策に猛烈な批判の声を上げてきた。その批判は、中国の輸出政策や人民元切り下げ、米国の知的財産の侵害など、広範な分野に及んでいる。
特に、中国は「最も強大な為替操作国」であり、中国製品に45%の懲罰的な関税を課して輸入を規制し、不公平で不均衡な対中貿易の赤字を減らし米中貿易を均衡化させると力説した。
人事面を見ると、トランプ氏は、米通商代表部(USTR)代表に、貿易を巡る問題を長年手がけてきた弁護士で、中国に対する強硬派として知られるロバート・ライトハイザー氏を指名すると発表した。
また、国内対策では、外国への雇用の大量流出を阻止する戦略構築に当たる「国家通商会議」(NTC)をホワイトハウス内に新設することを明らかにし、その議長には、長く中国の経済政策を指弾してきた経済学者のピーター・ナバロ氏を充てる予定である。
これ以上述べるまでもなく、トランプ氏の対中経済・通商政策は至って明快で、中国との間に貿易摩擦が生じるのは避けられず、通商面、経済面でさらに強硬な政策を採る可能性が高まるのは必至の情勢といえるのではなかろうか。
ロシア主敵から中国主敵の安全保障・軍事戦略へ
トランプ次期米大統領が指名した安全保障・軍事ブレーンには、大きな特徴がある。主要ポストに3人の退役将官と保守派の論客が指名されたことである。
大統領首席補佐官は、イラン戦争やアフガン戦争の従軍経験がある元米陸軍中将で、2012年から2014年、国防情報局(DIA)長官を務めたマイケル・フリン氏である。国防長官には、ジェームズ・マティス元中央軍司令官(元海兵隊大将)を指名した。
「狂犬」のあだ名で呼ばれる猛将で、米軍きっての戦略家との名声が高く、同盟を重視する立場である。また、国土安全保障長官には、ジョン・ケリー退役海兵隊大将を指名した。そして、国家安全保障問題担当の大統領補佐官には保守派の論客として知られる女性のK・T・マクファーランド氏を起用する。
このように、トランプ政権の安全保障・軍事ブレーンは、いずれも、実戦あるいは現場経験豊富なリアリストによって固められており、その戦略・政策の基本方向は、「弱腰」と非難されたオバマ政権に比べてより現実主義路線を指向することは確実である。
トランプ氏は、中国の覇権的拡張の動きに対抗してアジア太平洋における米軍のプレゼンスを高めることに同意している。
他方、日本や韓国に対しては、米軍駐留経費の負担増や防衛支出増を要求するとともに、日本、韓国、台湾の核武装化にも言及した。これらは、トランプ政権下で、今後予想される軍事力の大幅強化に踏み切る可能性とともに、同盟国に一層の役割・負担増を求めてくるシグナルと見ることができよう。
台湾については、蔡英文総統との電話会談や「1つの中国」政策への疑念を述べたことで、トランプ政権と中国との対立激化の要因としてクローズアップされる恐れがある。
オバマ大統領は、米国の2017年会計年度(2016年10月〜2017年9月)の国防予算の大枠を定めた国防権限法案に署名し、同法が成立した。
この法案には、米台間における軍高官などの交流を国防省に促す付帯条項が含まれ、台湾との軍事関係改善や防衛協力強化を目的として、今回初めて明文化されたものである。この方向は、ねじれが解消され、共和党が上下両院で優勢なトランプ政権下で、さらに強化されていくものと見られている。
南シナ海問題では、トランプ氏は「(中国は)南シナ海で巨大な軍事施設を建設しても良いかと我々に尋ねたか? 私はそうは思わない」と述べ、中国による南シナ海の軍事拠点化への反対を表明した。
具体的な戦略・政策については触れられていないが、「航行の自由作戦」では埋め立て岩礁の軍事基地化の阻止・無効化にはおのずと限界があることから、それ以上の有効な対応策が練られ、実行に移されるかどうかが今後の注目点である。
最近発行されたフォーリン・ポリシー(2016年12月20付)で、米国防省のブライアン・マッキーオン政策担当次官代理が部下に示したメモが公開された。このメモには、トランプ氏の国防省政権移行チーム長であるミラ・リカルデル女史が述べた「トランプ氏の国防優先事項」(President-elect’s Defense Priorities)が含まれている。
オバマ政権下で発出された直近の「国家軍事戦略(2015)」では、米国の安全保障を脅かす国家(脅威対象国)として、ロシア、イラン、北朝鮮および中国を列挙し、「最大の脅威はロシア」(当時のダンフォード次期JCS議長)だと名指しで非難していた。
しかし、トランプ氏の4つの優先事項の中には、ISIS、北朝鮮および中国が含まれているが、従来から一番の脅威としたロシアが含まれていない。もしこれが事実であり、政策に反映されるとすれば、国際情勢に重大な影響を及ぼす劇的な変化として注目せざるを得ない。
トランプ氏は、選挙期間中から、共和党の伝統である対ロシア強硬路線を破ってロシアとの関係を改善すると約束するとともに、ロシアのプーチン大統領を称賛しまくっていた。オバマ大統領からは、トランプ氏はプーチン大統領を「ロール・モデル」にしていると批判されたほどであった。
選挙後、オバマ大統領は、ロシア政府による大統領選挙へのサイバー攻撃で米国の国益が害されたとして、ロシア外交官の国外退去などの制裁を加えた。しかし、ロシアのプーチン大統領は、「報復措置をとる権利は留保している」として、トランプ次期政権の「ロシア・リセット」路線の行方を見定めようとしている。
このように、トランプ氏によって対露戦略・政策の大転換が図られ、ロシアとの改善を目指す融和協調路線に動くとするならば、反対に中国の脅威が否応なしにクローズアップされ、その矛先が中国に向けられることは容易に察しがつこう。
つまり、トランプ新政権においては、中国との戦略・政策調整の努力がなされる当分の間、その安全保障・軍事の戦略・政策に目立った変化は見られないかもしれない。
しかし、南シナ海問題、北朝鮮の核ミサイル開発、それに「1つの中国」論と台湾などを焦点として両国の調整が不調に終われば、ロシアに代わって中国を主敵とした米中の対立が長期化・深刻化する可能性が高まると見るのが至当であろう。
日本は「自助自立の防衛体制」の確立が最優先
今回の米国大統領選挙は、外交・安全保障の分野から見れば、大統領選挙が本格化した2016年8月にランド研究所が「中国との戦争―考えられないことを考える」と題する報告書を公表して、米中覇権戦争論が波紋を広げたように、世界における「米国の役割」を巡る論争が大きな争点であったことに特色があった。
トランプ候補が「偉大なアメリカの復活」を最大の公約(国家目標)としたゆえんであり、中国の台頭が、超大国米国による既存の安全保障環境に大きな影響を及ぼし、その地位にとって代わろうとする挑戦と映じるからである。
古代ギリシャの歴史家トゥキュディデスは、紀元前5世紀における古代ギリシャの既存の覇権国であるスパルタと新たに台頭するアテネの緊張関係を観察し、アテネの台頭とそれに対するスパルタの懸念が「ペロポネソス戦争」を引き起こしたと結論づけた。
この「新たな覇権国の台頭とそれに対する既存の覇権国の懸念(fear)が戦争を不可避にする」との仮説は「トゥキュディデスの罠」と呼ばれ、これから米中関係が引き起こす可能性の高い対立局面を示唆しているのかもしれない。
オバマ政権下の米国の政治は、「世界の警察官」としての米国の責務を果たすうえで、その意思と能力に大きな疑念を抱かせる8年間であった。しかし、第2次大戦後に米国が担ってきた「世界の警察官」としての国際社会の平和と安定を維持するという責務は、トランプ政権に移行しても一朝一夕に放り出せるものではない。
むしろ、新政権は、オバマ政権下で弱体化した米国のパワーと地位を取り戻し、米国の存続を願う「アメリカの夢」を追求しようとしているように見える。
しかし、それでもなお、冷戦後の米国一極支配の世界は、中国の台頭などによって多極化の世界へと変容し、米国のパワーと地位が相対的に低下していく趨勢は無視できない現実として受け止めざるを得ない。
そのような国際安全保障環境の下で、世界第3位の経済力を持ち、東アジアひいては国際社会で指導的立場にある日本はどうすべきか――。その答えは簡単明瞭である。
少なくとも日本は、独立国家として当たり前の「自分の国は自分の力で守る」自助自立の防衛体制を確立することを大前提として、同盟国米国の相対的な国力低下を補完する努力を惜しまず、同時に国際社会の責任ある立場で、その平和と安全の確保により実際的な行動が求められていることを自覚するにほかならない。
21世紀における最大の脅威は、世界に中華的覇権を拡大しようとする中国である。アジア太平洋地域の安全保障環境が一層厳しくなるなか、米国にトランプ政権が登場することは、日本の安全保障・防衛そして日米同盟のあり方を今一度見つめ直すよい転機として、この際肯定的に受け止め、積極的に対応していくべきであろう。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/48912
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