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崩壊から25年、「ソ連」が今よみがえる
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/01/25-3.php
2017年1月6日(金)11時00分 河東哲夫(本誌コラムニスト) ニューズウィーク
<資本主義が勝利した世界で続く格差対立。トランプがもたらす国家社会主義の時代>(写真:ソ連建国の父レーニンの肖像)
ソ連という世界2位の超大国が崩壊して25年。筆者はソ連時代のロシアに5年住んだ。自由でいようとする者にとってソ連は過酷な社会だったが、大衆はぬくぬくと暮らしていた。
ソ連......あれは何だったのか? アメリカとの冷戦で、世界は核戦争寸前といつも言われていたが、実際には米ソ双方とも核戦争を避けるため自重し、世界はかえって安定していた。
ソ連......それは近代の産業革命、工業化が生み出した格差に対する抗議の声をまとめたものでもあった。それにはマルクス主義という名が付けられて、世界の世論を二分した。
91年にソ連が崩壊。米ソ対立に隠れていた別の対立軸が前面に躍り出て、世界を引き裂く。工業化に成功した先進国と、工業化のあおりを食うだけの途上国や旧社会主義諸国との間の格差がもたらす対立だ。イスラムテロもこの活断層から生まれた。
【参考記事】トランプとうり二つの反中派が米経済を担う
ソ連消滅後、アメリカは他国を独裁国と決め付けては民主化をあおり、政権を倒す動きを展開。旧社会主義諸国や途上国を収拾のつかない混乱に投げ込み始めた。自分たちは特別な使命を持つ国だというアメリカのおごり(「例外主義」)に歯止めが利かない。
マルクス主義は権威を失ったが、格差に対する抗議の声は現在、右翼・国粋主義、反移民運動として表れている。面白いことにロシアのプーチン政権はかつてソ連が国際共産主義運動の旗を振ったのに似て、先進諸国の右翼勢力との提携を強めた。アメリカが展開する国際民主化運動にこうやって対抗するさまを、英エコノミスト誌は「プーチン主義運動」と揶揄する。
右翼・国粋主義、反移民運動は、政治家にあおられてポピュリズムの大波となった。イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ大統領候補の当選の流れは、先進諸国の政治体制を覆しつつある。
■国家が再び舞台の中央に
ソ連......それは日本にも爪痕を残した。ソ連は第二次大戦直後、日本の占領統治に参加させてもらえなかったが、「革新」勢力を支持して日本の権力を掌握しようとした。イデオロギー対立からソ連と手を切った後も、ソ連が崩壊した後も、日本の革新勢力は投資より分配に過度に傾斜した経済政策や反米幻想を捨てない。革新勢力は戦前の国粋主義を奉ずる一部保守勢力と好一対で、今でも権力奪取の見果てぬ夢を追う。
ソ連と同様に化石的存在である日本での「保守・革新」対立を尻目に、世界はこれから弱肉強食の時代に突入しようとしている。ソ連崩壊後のアメリカ一極化はイラク戦争で頂点に達した。だがその戦費の垂れ流しは国債の乱発をもたらし、財政・金融両面でアメリカをむしばむ。08年の世界金融危機を機に、アメリカは地位を後退させた。オバマ政権は国外への派兵を避けたのはいいが、明確な見通しもなしに他国を「民主化」する動きをやめず、そのため、ウクライナやシリアでは先の見えない紛争を生み出した。
こうした「無極化世界」の混乱のなか、トランプはそれに背を向け、自国の利益だけに集中しようとしている。それによってこれから起こる「製造業の奪い合い」は、近世に行われた英蘭仏、重商主義諸国のゼロサム・ゲームの再現となるだろう。
【参考記事】「アレッポの惨劇」を招いた欧米の重い罪
グローバル化の中では、製造業に頼らずとも富と雇用を生むのは可能であるにもかかわらず、トランプが展開する製造業の奪い合いは、「国家」という時代遅れのマシンを再び舞台の中央に引き出す。国家が企業に命令して、外国への工場流出を止めるようになるからだ。
国家が経済の主人面をし始めると、「ノマド」(遊牧民族、実力で世界を渡り歩く人間)など、ひと頃はやった強い個人はしばし休息となる。これからの数年は、「国家」の意味が増すだろう。国家が公平な分配を保証する「国家社会主義」......。
何のことはない。ソ連的なもの――ドイツではナチズムと呼ばれた――は、世界中でよみがえったのだ。
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