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首都圏を直撃する台風19号、今からできる危機管理とは?
2019/10/11
中澤幸介 (リスク対策.com編集長、新建新聞社常務取締役)
千葉県を中心に大きな被害をもたらした台風15号に続き、大型で猛烈な強さに発達した今年最強の台風19号が10月12日からの3連休、日本列島を直撃する可能性が高まっている。昨年、大阪を直撃した台風21号では、東日本大震災に迫る損害保険の支払額を記録するほどの被害を出した。もしこの大型台風が首都圏を直撃したらどうなるのか、どう備えればいいのか?
災害による被害を正確に予測することは難しい。仮に予測できたとしても、予測した被害をハード・ソフト対策などにより全て予防するということも、時間的、資金的な制約があり現実的ではない。従って、予測・予防を高めながらも、万が一想定していなかった事態が生じても命を守り、被害を最小限に抑えられる行動を取るというのが危機管理のセオリーになる。
(Araya Netsawang/gettyimages)
停電
台風15号で停電した南房総市内の信号
まず、予測しなくてはいけないことは停電である。今年9月に千葉県を襲った台風15号では、鉄塔の倒壊や倒木などによる電線の切断、電柱の倒壊、さらには火力発電所の被災などにより大規模な停電が発生した。2012年にニューヨーク市を直撃したハリケーンサンディでも大規模な停電が発生している。最も起き得るリスクとして想定すべきだろう。
では、具体的に、どう備えればいいのか。
まず、基本となるのが備蓄だ。これはあらゆる災害に共通している。例えば水や食料、乾電池など生活物資の見直しと買い出し。日常的に備蓄しておくことが望ましいが、台風15号での経験もあり、今回は、災害の直前に買い占めに走る人が多いことが予想される。確実に台風が来るかどうか分からなくても、備蓄量に不安があるのであれば、数日前の時点で購入しておいたほうがいい。
ガソリンなど車両燃料も同じで、台風の接近直前、あるいは被害が出た後では入手できなくなる可能性が大きい。非常用発電機があればなおいいが、少なくともスマホやパソコン、その他、蓄電器はフル充電しておく。最接近の時間が分かれば、炊飯器のタイマーは使わず、その前に翌日のご飯を炊いておく、冷蔵庫は最も温度を低くしておく(停電したらしばらく開けないことで長期保存が可能になる)、洗濯も台風前に済ませておく。現金を多めに下ろしておいた方がいい。
千葉県では大規模な停電で浄水場までもが被災し水道水が出なくなる地域があった。もちろん、マンションでは停電で水道が使えなくなる可能性が高いので、常にお風呂に水を入れておく(台風が来る時間が分かれば、その日は台風接近の前に入浴を済ませ、お湯を張り替えておく)。風が強まってきたら停電に備えて、なるべくエレベーターを使わないようにするのもリスク回避策の1つだ。
風害
南房総市内 被災した建物
風害の被害も軽視できないことは、今さら言うまでもない。台風21号では、この風害により、損害保険の支払い額が東日本大震災に迫る額にまでになった。西日本全域に大きな被害を出し200人以上の犠牲者を出した西日本豪雨の保険支払い額が1956億円だったのに対し、台風21号は1兆687億円と桁が1つ違う(東日本大震災の支払額は1兆2346億円)。
今回の台風15号も数千億円の支払い額と見積もられていることから、いかに風害が大きな被害をもたらすかが分かる。台風21号の損害保険支払い額は、その半額を超える6007億円が大阪府内での支払いとなっていて都市部での被害が大きくなることを裏付けている。
大阪府でこれほど大きな被害が出た要因は、風速45メートルという強風によるものだ。特に大阪市内では規模の大きな建物の周辺の狭い範囲で複雑な「ビル風」が発生したと見られており、それが大きな被害をもたらしたと考ええられている。
当然、風速により威力は異なる。気象庁によれば瞬間風速40メートルで走行中のトラックが横転する可能性があり、60メートルになると住家が倒壊、鉄骨構造でも変形する可能性がある。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/yougo_hp/kazehyo.html
2005年に米国ニューオーリンズを襲ったハリケーン・カトリーナは最大風速が78mを記録したが、小石1つで住宅や店の窓が粉々に割れるなど、風害だけでも甚大な被害があったことが報告されている。風速次第では、高層ビルの窓ガラスが割れる可能性も否定できない。割れ落ちた窓や、小石、看板など町中のあらゆるものが凶器となって人々を襲う可能性もある。
暴風対策としては、窓を守ることは台風対策の基本となる。台風15号の被害では、瓦や植木鉢が風で舞い、多くの施設の窓や壁を破壊した。割れた窓からは強風が入り込み屋根を吹き飛ばした事例もあった。風が強まる前にはシャッターや雨戸を締め、鍵もしておく。もしシャッターや雨戸がなければ、養生テープで窓全体を補強する(タテ、ヨコ、ナナメと、できるだけ窓全体がカバーできるように数本ずつ貼り付ける)。
あるいは、窓に段ボールや板を貼る。網戸は外してしまっておき、万が一、窓が割れた場合に備え、カーテンもしめておいた方がいい。台風の接近する時間帯が昼間だと、外の風景が気になるが、シャッターや雨戸は台風が通過するまでは開けるべきではない。その他、強風で飛んでいきそうなものがあれば、しまっておくことや、しっかり固定しておくことも重要だ。企業に対しては、看板類などを週末に入る前に建物内に入れておくことをお願いしたい。
さらに強風時は外を出歩かないことも重要だ。台風15号では、東京都内に住む50代の女性が道路を歩いていて強風にあおられ、建物の外壁にぶつかり死亡した。また、87歳男性は、倒木の下敷きになって死亡している。
その他、個人でできる対策は以下の通り。
雨戸にガタツキやユルミがないようにする
アンテナやプロパンガスボンベをしっかり固定しておく
物干し竿をしまう
植木類をしまう、庭木に支柱を立てて補強する
自転車を固定してく
ゴミ箱や看板などもしまっておく
外に洗濯機を置いている場合は、水を十分に張って重くした上でフタを閉じ、フタをテープで本体に留めておく
豪雨・高潮
高潮の被害も甚大だ。一般的に台風の中心部は気圧が低く、気圧が1ヘクトパスカル下がると海面が1cm上昇する。台風による「吸い上げ効果」と呼ばれるもので、さらに台風に伴う風が沖から海岸に向かって吹くと、海水は海岸に吹き寄せられて「吹き寄せ効果」と呼ばれる海岸付近の海面上昇を引き起こす。
この場合、「吹き寄せによる海面上昇は風速の2乗に比例し、風速が2倍になれば海面上昇は4倍になる」(気象庁HPより)という。東京都が2018年3月30日に発表した「想定し得る最大規模の高潮による浸水想定区域図」では、最悪の場合、都内東部を中心に17区に浸水が広がり、23区の3分の1にあたる約212平方キロメートルが浸水するという想定となっている。台風15号ではこの高潮により、神奈川県内で沿岸部の企業や商業地で被害が相次いだ。このほか、豪雨による河川の決壊、内水氾濫なども想定される。
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/03/30/03.html
豪雨・高潮対策としては、あらかじめハザードマップなどで自分のいる場所の浸水リスクを把握した上で、自治体の避難情報に従い、あるいは大雨・暴風になる前に、それぞれの判断で早めに避難をすることが重要だ。台風の特徴は、来るタイミングが分かることである。早めに避難することは最も有効な対策となる。
自治体もぎりぎりになって避難情報を出すのではなく、今から避難所を開設しておくぐらいの対策をしてほしい。さらに、企業などで浸水が防げない場合は、コンピューターや重要な設備をなるべく高い場所で窓際からは離れた場所においておくことも有効かもしれない。
環境の変化
もう1点、平時と異なる環境の変化についてもリスクとして挙げておきたい。それはワールドカップ開催に伴う外国人の増加である。多くの外国人には台風情報が伝わっていないことを想定しなくてはいけない。そのような中で、台風が直撃した際に外国人へどう情報を提供するのか。外国人が被災すれば、その情報は瞬く間に世界中に広がり、来年の東京2020にも影響を及ぼす。
最後の外国人への対応については、行政が中心に多国語で今の段階からしっかり情報発信をすることが重要だ。また、公共交通機関、ホテル、飲食店などでも、外国人顧客に対し注意を呼び掛け、不要不急の外出を控えてもらうなど、注意を促していく必要がある。
これらは対策の一例だが、台風による被害をイメージして、今のうちからできる対策をしておくことが大切だ。最後に、週末も営業をしている業種では、再度、社員に対して命を最優先に行動することを伝えてもらいたい。被害を受けてしまってから時間を巻き戻すことはできない。
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/17604
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