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2004年、甚大な被害をもたらしたスマトラ沖大地震・インド洋津波。インドネシアのアチェでは、女性の死者数が、男性の3倍にものぼった。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190901-00000005-binsiderl-soci
9/1(日) 12:10配信
BUSINESS INSIDER JAPAN
自然災害の被害は、「自然」ではない。
災害が人々に与える影響は「無差別」ではなく、ジェンダーや年齢などによって大きく変わる。災害によってその場所に元から存在する格差や構造が、表面化するからだ。
女性が災害で被害を受けやすいことは、世界各地の事例や研究で明らかになっている。その原因として指摘されているのが、女性としての「性別」による結果ではなく、社会的、経済的、そして政治的に醸成された「ジェンダー」の構造や格差だ。
女性死者が男性の14倍に達した事例も
「ジェンダー」の構造や格差というのは、災害において、具体的にどういう影響があるのか。
2004年に死者・行方不明者30万以上を出したスマトラ沖大地震・インド洋津波の例をみれば、一目瞭然だ。
甚大な被害を受けたインドネシアのアチェで実施した調査では、女性の死者数が男性の3倍にものぼることが分かった。死者の8割が女性の村もあった。
災害前のアチェの人口構成では、女性が男性より多かったものの、その差はわずか。なので死者数の大きな差は「自然」な結果ではない。女性の死者が多い原因には、慣習や文化が大きく関係していた。
アチェでは女性や女の子は木を登ったり、泳いだりすることが慣習としてなかったため、津波が到達した際、サバイバルの基本的な手段が男性や男の子に比べて限られていた。また、普段から女性は子どもや家族の面倒をみる役割を担っていたため、彼らのケアをしているうちに被災した。
1970年にバングラデシュで起きたサイクロンでも、女性の死者数は男性に比べて14倍にも達した。
141カ国を対象とした研究では、災害の死者数は男性より女性のほうが多く、その差は男女の不平等な社会的、経済的地位と密接に関係すると指摘している。女性の死者が多い原因は、生物学的な「性別」はなく、社会的に醸成された「ジェンダー」によるものであるのは、明らかだ。
人のつながりで情報入手する女性
日本も例外ではない。
東日本大震災でも岩手、宮城、福島県における死者数は、女性が男性より多かった。特に80歳以上の女性は、3県の人口の1割に満たないにも関わらず、女性の死者数の4分の1以上だった。
男女限らず、人口に占める割合から見ると高齢者が多く犠牲になっているが、その原因として、情報収集力が指摘されている。災害時、停電や電話回線の不通によって情報が遮断された際、パソコンや携帯など複数の通信手段を持っていないことの多い高齢者は、避難が遅れる結果になったという。
上記の海外事例では女性がジェンダー差によって避難が遅れる事実を書いたが、逆に東日本大震災では、女性は避難の呼びかけの情報を家族や近所から入手し、複数人で避難するなど、地域の人とのつながりが強いことも、被災者へのアンケート調査で明らかになっている。
復旧でも「男は仕事、女は家事」
災害後の復旧、復興過程でも、ジェンダーの視点は欠かせない。
東日本大震災の被災3県では、避難所の設計や運営を自治会長が担うことが多かったが、その96〜97%が男性で、女性などへの配慮が必要だという視点が見落とされることが多かった。内閣府の調査では、避難所運営の責任者に女性がいないことで、生理用品などの女性用物資が不足していても、言い出しにくかったと報告されている。
また、「女性が要望や意見を言うと、肩身が狭い思いをしたり、避難所等を出ていかなければならなくなるという不安があり、言い出しにくかった」という意見も紹介されていて、責任者や意思決定層に女性が少ないことで、女性の要望や意見が重視されない傾向も指摘されている。
復旧作業では、固定的な「ジェンダー・ロール」(社会的役割)の意識により、がれき処理は男性が担当し、避難所の食事準備は女性が担当する傾向が多かった。男性は対価が支払われる「仕事」、女性は無償の「家事」という、普段からのジェンダー概念がそのまま転嫁され、がれき処理には日当が支払われるのに対して、食事準備には対価が払われないことがほとんどだった。
災害でのジェンダー格差を少しでも埋めて、すべての人の被害を軽減するには、仕組みから取り組む必要がある。防災計画など関連政策の策定の場だけでなく、普段の政策作りから、女性の参画は不可欠だ。
東日本大震災の例のように、自治会や自主防災組織など普段の地域の“インフラ”として機能している仕組みは、防災や災害復旧・復興の過程で重要な役割を果たすことが多い。日常から意思決定の場や責任ある地位に女性がいない場合、災害においても、女性は意思決定の場から外れてしまう。
国・自治体の防災会議にも3分の1女性を
女性の参画を推進する手段のひとつとして有効なのは、クオータ制などの数値目標だ。
これまで女性がその場の意思決定にかかわってきていない場合、自然な増加はすぐ望めない。なんとなく「女性」をひとり足すのではなく、しっかりと意見がくみ取れる仕組みを意識する必要がある。
特定の属性の人たち(性別、年齢、職業など)がメンバーの多数を占めている組織では、少数派は「トークン」、あくまでも象徴的な存在として、扱われてしまうことが分かっている。
例えば、20人のメンバーで構成される防災会議に、女性が1人しかいない場合、その女性は明らかに異質な存在だ。違いがことさら強調される結果、その1人は、防災に関して知識を貢献できる「防災会議のメンバー」ではなく、あくまで「女性枠」としてみられる傾向にある。
少数派の人はこのような環境では、多数派に流されて意見を言いにくい。少数派の人がほかのメンバーを補完する能力をもっていても、発揮できないのだ。
グループが属性ごとの見方や分断を超えるには、少数派の割合が3分の1、絶対数で3人以上が必要だという。
2017年の男女共同参画白書によると、日本の都道府県の防災会議で、女性委員の割合が3分の1を超えているのは、鳥取・島根・徳島の3県のみだ。さらに深刻なのは、 女性委員がひとりもいない市区町村の防災会議は436にものぼる(全体の27%)。
筆者はこれまでネパールやミャンマーなどで防災会議の構築や防災政策作りを行う際、必ず「女性部」という仕組みを導入している。女性が男性の前で意見を述べたり、反対をしたりすることが好ましくない環境でも、女性部をつくることで、まずは女性同士が自由に意見を出し合い、集団として全体に貢献できる。
子どもや家庭の面倒をみることが多い女性だからこそ思いつく、学校との避難連携の在り方や、災害後の食糧や水の確保の懸念点など、地域の防災強化に欠かせないアイディアが毎回たくさん出てくる。
このような仕組みがあることで、あらゆる人の意見を取り入れる重要性が認識され、次第に自然と意見交換の場への参加が促され、地域としての結束が強まるケースも少なくない。
取材者も多くは男性
この記事は、自身の反省も込めて書いている。
日本の報道の現場で働いていたとき、東日本大震災の復興過程を取材した。その際、自治体の首長、自治会の会長、避難所の運営者、仮設住宅のリーダー、病院の院長、漁業組合のトップなどを取材したが、取材対象者の8割以上が男性だったと思う。
取材となると、先方も「責任のある立場の人を出す」のが相応しいとされるため、どうしても男性が多くなっていった。いろいろな話を伺うことができたが、被災地の現状や多様なニーズを丁寧に拾い上げるという点では、不十分だった。
ジェンダーの視点が災害においていかに重要か、想像力が及んでいなかったからだ。当時は日常的に、女性やLGBTQなど、マイノリティの取材対象者を「あえて」探す努力をしていなかった。
災害のジェンダー格差をなくす重要な点として、性別・年齢別のデータの収集も挙げられている。あらゆる人の声を拾い上げて、社会的弱者の声を取り上げ、寄り添うことが災害報道のひとつの目的だとすれば、報道におけるジェンダーの意識も不可欠だ。
※記事は個人の見解で、所属組織のものではありません。
大倉瑶子:米系国際NGOのMercy Corpsで、官民学の洪水防災プロジェクト(Zurich Flood Resilience Alliance)のアジア統括。職員6000人のうち唯一の日本人として、防災や気候変動の問題に取り組む。慶應義塾大学法学部卒業、テレビ朝日報道局に勤務。東日本大震災の取材を通して、防災分野に興味を持ち、ハーバード大学大学院で公共政策修士号取得。UNICEFネパール事務所、マサチューセッツ工科大学(MIT)のUrban Risk Lab、ミャンマーの防災専門NGOを経て、現職。インドネシア・ジャカルタ在住。
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