山火事、熱波、海面上昇、氷河融解、爆弾低気圧や竜巻・・温暖化が続けば、こうした災害が異常気象ではなく通常気象となる 地球温暖化で「ホットハウス・アース」の危険性 CO2削減でも=国際研究 2018年08月7日 Share this with Facebook Share this with Messenger Share this with Twitter Share this with Email 共有する マット・マクグラス環境担当編集委員 Image copyrightGETTY IMAGES 「ホットハウス・アース」――低予算のSF映画のタイトルのように聞こえるが、「温室と化した地球」とは、科学者にとっては深刻極まりない概念だ。 今後数百年にかけてうだるような暑さが続き、海面がそびえ立つほど上昇する、そんな状態に地球が向かっていく、その境界線を超えてしまうまで、あとわずかだというのだ。 たとえ世界各国が二酸化炭素(CO2)削減目標を達成したとしてもなお、我々はこの「不可逆な道」に転がり込んでしまうかもしれない。 ストックホルム大学ストックホルム・レジリエンス・センターが発表した研究結果によると、地球全体の気温が2度上がればこの現象が起きる。 気候変動を扱う国際研究チームが米国科学アカデミー紀要(PNAS)に寄せたこの論文では、向こう数十年で予想される温暖化によって、今は人類を守っている地球の自然現象が、人類の敵になる可能性があると指摘した。 <おすすめ記事> 移民、温暖化、光害――地図で見る私たちの世界 二酸化炭素を大気から吸収する新技術 加企業、低コストで 5つの影響 米のパリ協定離脱 地球上の森林や海、地面は毎年45億トンもの炭素を吸収している。吸収されずに大気中に残る炭素は、気温上昇の原因となる。 しかし地球温暖化が進むと、こうした炭素吸収源は炭素の発生源となり、気候変動問題を悪化させるという。 Image copyrightGETTY IMAGES 地球が産業革命以前の気温から2度高い気温に近づけば近づくほど、何百万トンもの温暖化ガスを含有している高緯度の永久凍土や、アマゾンの熱帯雨林といった自然界の味方が、現在吸収している以上の炭素を吐き出してしまう可能性が高くなる。 各国政府は2015年、気温上昇を2度未満に抑え、上昇幅を1.5度以下を維持するために努力すると約束した。しかし研究チームによると、分析が正しければ現在の炭素削減計画では不十分だ。 ストックホルム・レジリエンス・センターのヨハン・ロックストローム所長はBBCニュースに対し、「つまり気温が2度上がると、制御メカニズムを地球そのものに委ねることになるかもしれない」と話した。 「今は我々人間がコントロールを握っているが、気温上昇が2度を超えた段階で地球のシステムは友人から敵に変わる。人類の運命は、均衡を乱した地球のシステムに完全に委ねられる」 Image copyrightGETTY IMAGES 地球の気温は現在、産業革命前の水準から1度高く、10年ごとに0.17度上昇している。 ストックホルム大学の最新研究では10種類の自然システムを対象として、「フィードバック・プロセス」と名付けた。 フィードバック・プロセスには森林や北極の海氷、海底のメタンハイドレートなどが含まれ、現時点では人類が炭素と気温上昇による最悪の事態から逃れる手助けをしてくれている。 もしこのうちのひとつが敵となり、大気中に大量のCO2を排出し始めると、他のフィードバック・プロセスもドミノ倒しのように連鎖するのではという懸念がある。 「ホットハウス・アース」とは? 一言で言うなら、よろしくない。 Image copyrightGETTY IMAGES 研究論文によると、ホットハウス・アース期に入った地球では過去120万年で最も高い気温を記録することになる。 気温は産業革命以前と比べ4〜5度高い水準で安定する。あらゆる氷が溶け出し、海面は現在より10〜60メートル上昇するだろう。 つまり、地球の一部は人が住めない状態になる。 ホットハウス・アースの影響は「甚大で、時に突然で、間違いなく壊滅的」だと研究チームは指摘する。 唯一良い面があるとすれば、最悪の事態は向こう1〜2世紀の間には訪れなさそうだということだ。しかし、一度始まってしまったら止める手立てがない。 英国や欧州を襲っている熱波はホットハウス・アースの影響? 現在世界中で起きている異常気象が、ただちに気温上昇が2度を越える危険に関係するとは言えないと、論文の執筆陣は説明する。 しかし、これまでに考えられていた以上に、地球は温暖化に敏感だという証拠かもしれないと言うのだ。 ロックストローム教授は、「こうした異常気象から学び、証拠として受け止め、もっと注意深くならなくては」と話す。 「産業革命前比プラス1度でこうなるなら、他の異常気象についても、予想より唐突に起こり得ると言われても、少なくとも驚いたり退けたりしない方がいい」 このリスクは前から分かっていたのでは? 自然界の仕組みがいかに協力で、いかに繊細か、我々はこれまで過小評価してきた。それが、研究チームの言わんとするところだ。 これまでは今世紀末までに気温が3〜4度上がれば、気候変動は地球全体の緊急事態となると考えられてきた。 しかし今回の論文は、気温が2度以上高くなると、今は気温上昇を防いでくれている自然システムが大量の炭素発生源へと変わり、地球が産業革命以前から4〜5度高い気温になる「不可逆な道」を歩み始めてしまうと主張している。 何か良いニュースは? 何と答えは、「ある」だ。 ホットハウス・アースへのシナリオは回避できるが、その為には地球との関係を根本的に見直さなければならないだろう。 研究の共著者でコペンハーゲン大学に所属するキャサリン・リチャードソン教授は、「気候変動など地球規模の変化は、人類が地球全体で地球のシステムに影響を及ぼしていることを示している。つまり、国際コミュニティーが地球との関係を管理し、未来の惑星の状態に影響を与えられることを意味している」と話した。 「この研究では、その為に利用できるいくつかの手段を特定した」 つまり、今世紀半ばまでに化石燃料を使うのを止めるだけでなく、木を植えたり、森林を守ったり、どうやって太陽光をさえぎるか、大気中から炭素を取り除く機械を開発するかといったことにも労力を割いていかなければならない。 Image copyrightCARBON ENGINEERING Image caption CO2を大気から取り除く機械が必要になると研究者は指摘する 研究チームは人類の価値観や公平性、習慣、技術について総合的な再定義が必要だと指摘する。我々は皆、地球の世話役にならなくてはいけないのだ。 他の科学者の見解は? この研究論文は極端だという意見もあるが、多くの科学者は結論はまともなものだと支持としている。 英イースト・アングリア大学のフィル・ウィリアムソン博士は、「この研究では、人類が気候に与えた影響の結果として、地球が『自発的に』冷却化する機会を人類が越えてしまったと指摘している」と説明した。 「人為的な気温上昇の影響で、今世紀末までにさらに0.5度上昇すれば、2度の気温上昇で起きるらしい臨界点越えが発生する。そうなると、ホットハウス・アースなど不可逆の変化がさらに起きることになる」 一方で、研究チームはこのように深刻な問題を人間は理解できるはずだと、人類に信頼を寄せているが、それは見当違いだという声もある。 英ユニバーシティー・コレッジ・ロンドンのクリス・ラプリー教授は、「人類史を振り返れば、これは能天気な希望だろう」と指摘した。 「右翼ポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭し、『国際主義エリート』の主張を拒絶している。さらに、気候変動そのものを否定している。そういう状況にあって、受け入れ可能な『中庸状態』に人類が地球を導けるようになるなど、必要な要素が揃うなど、可能性は限りなくゼロに近いはずだ」 (英語記事 Risk of 'Hothouse Earth' despite CO2 cuts) https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-45093509
2018.09.04 TUE 07:30 異常気象と地球温暖化の関係が、「新しい解析手法」から見えてきた 2018年に北半球を襲った猛暑や豪雨。これまで専門家は、こうした異常気象を人が起こした気候変動の関係性を明言できずにいた。しかし、気象学の新分野がそれを変えるかもしれない。個別の異常気象と人為的な気候変動の関連性を分析する手法「エクストリーム・イヴェント・アトリビューション」に迫る。 TEXT BY MATT REYNOLDS TRANSLATION BY ASUKA KAWANABE WIRED (UK) facebook share flood 2018年8月、中国・瀋陽で発生した記録的な豪雨の影響で水没した自動車。PHOTO: VCG/GETTY IMAGES 2018年の夏は異常だった。 6月、7月と熱波が北半球を襲い、各地で最高気温の記録を塗り替えた。日本では7月に観測史上最高の41.1℃が記録され、7月16日〜22日の1週間で22,000人以上が熱中症で搬送された。さらに焼けるような暑さのあとで空気も乾燥し、カリフォルニアやポルトガル、そして北極圏までもが森林火災に襲われた。 こうした極端な異常気象の説明を迫られた気候学者たちは、これまで何年もの間、とある常套句に頼ってきた。「ひとつの気象現象を指して、気候変動のせいだと言うことは不可能です」と。 気象学の新分野 彼らは正しい。天気というのは予測不可能なものである。異常気象は世界全体の気温にかかわらず常にあちこちで起きており、あるひとつの原因と必ずしも関係しているわけではない。 しかし、オックスフォード大学環境変動研究所の副所長を務めるフリーデリケ・オットーいわく、この返答には欠点があるという。 「もし科学者たちが質問に答えなければ、別の誰かが代わりに返答するでしょう。たいていは現象の規模に関心をもたず、何か別の意図をもって発言する人間です」と彼女は言う。 科学者たちは常套句を使う代わりに、せめて異常気象が気候変動(地球温暖化)に起因している可能性が高いか低いかは答えられるのではないかと、オットーは考えている。 オットーは、最近になって注目されている「エクストリーム・イヴェント・アトリビューション」という科学的取り組み[編註:日本では単に「イヴェント・アトリビューション」と呼ぶことが多い]の中心人物だ。その狙いは特定の異常気象にターゲットを絞り、過去120年間で人間が引き起こした1℃の気温上昇がなかった場合にも起きた可能性が低いか高いかを、気候モデルを用いて検証することである。 数年前までは関連性を正確に示すのが不可能だったとオットーは言う。2004年、英国気象庁のピート・スコットが『Nature』誌に、数万人の死者を出した2003年のヨーロッパ熱波のリスクは気候変動によって最低でも2倍になっていたという論文を発表した。 それから12年後、米国気象学会の機関紙は1冊丸ごとエクストリーム・イヴェント・アトリビューションという新分野に捧げた号を出した。編集部はその導入部で、いまでは一部の気象現象に対する気候変動の影響を確信をもって見つけられると主張している。 「気象現象と人為的な気候変動を結び付けられると言えたのは、それが最初でした」とオットーは言う。 気候モデルを使って2018年の熱波を分析 2014年後半、オットーはオックスフォード大学とオランダの赤十字・赤新月気候センター、オランダ王立気象研究所が共同で打ち出した「ワールド・ウェザー・アトリビューション(WWA)」イニシアチヴの立ち上げを手伝った。 このプロジェクトの目的は、ただ異常気象と気候変動の関連性を示すだけでなく、リアルタイムで分析を進めることで、異常気象の発生中に関連性の有無に関する答えを出せるようにすることだ。 欧州の多くの地域が暑さにやられていた今年7月、オットーは今年の熱波に関する分析を発表した。彼女はアイルランド、デンマーク、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの7地点の気温を調べ、気候変動が起こっていなかった場合に同じ気温が記録される確率はどのくらいかを、異なる複数の気候モデルを用いて予測したのだ。 分析のためにオットーは、2つの気候モデルを使って数百ものシミュレーションを行った。これらのモデルは天気予報などに使われるのと同じ類の気候モデルで、降雨や気温、気圧といった変数が考慮される。 オットーが使用した2つのモデルで変化させたのは、気候変動の主な原因である大気中の温室効果ガスの濃度のみだ。片方のモデルは現在の大気を表し、もう片方のモデルは1900年以降に温室効果ガスの濃度が急上昇しなかった場合の大気を表している。2つのモデルを使って数百年分の天気をシミュレーションすることで、オットーと同僚たちは気候変動の有無に応じた天気を比較できた。 たとえるなら「喫煙とがんの関係」 今回のアトリビューションは、熱波が起きている最中にリアルタイムで行われた。北ヨーロッパの熱波に関して言うと、分析結果は明確なものだった。人間が起こした気候変動は、こうした気温になる確率を2倍にしていたのだ。もしわれわれ人間が地球全体を温めていなければ、今年のような熱波が起きる確率は半分だったということになる。 31℃弱だったデンマークのコペンハーゲンでは、気候変動によってこうした高温になる確率が5倍になった。スウェーデンのリンシェーピングでは6倍だ。「気候変動が何をするのか。そして今回の熱波で何をしたかというと、気象現象が起こる可能性を変化させたのです」とオットーは言う。 可能性や見込みといった言葉は曖昧に聞こえるかもしれないが、過去10年間で研究者たちが特定できたであろうどんなことよりも、はるかに信頼できる。 オットーは自身の分析を、喫煙とがんの関係にたとえる。個人の肺がんが間違いなく喫煙によって引き起こされたと断言することは不可能だが、喫煙と進行中のがんの間に関係性を見出すことはできるということだ。 新手法の活用で異常気象に備える これまでオットーたちは、200人以上の犠牲者を出した日本の平成30年7月豪雨や、昨冬の北米での極寒をはじめ、いくつもの異常気象を分析してきた。 その結果は、常に気候変動と異常気象の関連を肯定するものではない。例えば、2015年に1,000万人近くに影響を与えたエチオピアでの干ばつの分析では、気候変動との関連は認められなかった。 しかし、気候変動との関連性のないケースをみつけることは、関連性のあるケースをみつけるのと同じくらい有意義なことだ。オットーは、個人や政府が自分の分析を利用して気候変動の影響に備えてくれればと思っている。 「気候変動はすでに始まっていて、われわれの日々の生活に影響を与えている、というのがこのプロジェクトの主な動機のひとつなんです」と、彼女は言う。 英国では、地域の洪水リスクの評価の一助として、エクストリーム・イヴェント・アトリビューションが使われている。だが、オットーは分析手法が確立されるにつれ、より広い目的で利用されるようになるだろうと考えている。 「これはまだ、世界の大半においては新しい科学分野です」と彼女は言う。しかし、政府はこの新分野を活用することによって、過去に起きたことではなく将来起きうる事象への賢い判断を下せるようになるかもしれない。「気候変動を考えるときに過去ばかりをみていては、正しい答えは導き出せません」 現在のところWWAは、「まったく温暖化していない世界」と「温暖化が特定の段階まで進んだ現在の世界」を比較している。だがオットーは、さらに気温が1℃上昇した場合のモデルも用いている。今世紀末までに起こるとされる1℃上昇が現実になれば、コペンハーゲンでは今夏のような気温がいまの4倍起こりやすくなるという。 われわれが注目すべきは、ニュースの見出しに並ぶ世界平均気温の上昇値ではなく、こうした異常気象だ。 「世界の平均気温は人を殺しません」とオットーは言う。「人を殺すのは、こうした異常気象なのです」 RELATED 加速する地球温暖化は予測不能な段階に──全米で止まらぬ山火事と「仮説」の崩壊 https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-45093509
2018.08.15 WED 08:30 加速する地球温暖化は予測不能な段階に──全米で止まらぬ山火事と「仮説」の崩壊 地球温暖化の影響を受け、全米で過去に類をみない大規模な山火事が立て続けに発生している。環境の変動は過去の事例から予測できるとされてきたが、気候変動が勢いよく進んだせいで、過去を基にした仮説と対策が機能しなくなっている。見えてきた事実はひとつ、「問題は悪化する」ということだ。 TEXT BY ADAM ROGERS EDITED BY CHIKA IWATA WIRED(US) facebook share carrfire-1007495136 PHOTO: JUSTIN SULLIVAN/GETTY IMAGES 地球温暖化の議論をするとき、次のような人間の言うことは真に受けないほうがいい。地球温暖化について、「何者かによる陰謀だ」と主張する人、意図的に無知を装う人、「そもそも温暖化していないのではないか」という懐疑論を先導する輩などだ。 彼らは科学者たちについて、温室効果ガスが地球の大気に与える影響を大げさに見積もりすぎていると主張している。こうした温暖化懐疑論者たちによれば、科学者たちの計算は不確実であり、地球環境が将来、どのくらい悪化するかについて自信をもって判断することは不可能だという。 これまでの40年間、こうした態度は間違っているとされてきた。しかし、皮肉なことに、データを受け入れないという愚かな抵抗を続けてきたこうした人々が、おおむね正しいことが判明した。 全米では7月31日時点で140件の山火事が発生し、100万エーカー(約4,047平方キロメートル)以上が炎に包まれた。出動した消防士は25,000人以上にのぼる。カルフォルニア州では8人が死亡し、数万人が避難を余儀なくされた。煙や火砕流のような雲が、宇宙からも観察されている。 火災を専門とする科学者たちは、事態は今後さらに悪化する一方だと口をそろえる。では、いったいどれほと悪化するのか。どこまで広がるのか。誰が被害を被るのか──。こうした疑問に対して、これまでの経験は一切通用しない。科学者たちにも実際のところは分からないのだ。 過去の実績をベースにした「仮説」は機能しない 科学者たちはこれまで、政策立案者を補佐して将来の計画を策定する際、仮説をもとにしてきた。これは「定常性」と呼ばれ、環境システムにおける極端な事象(極値)は過去の制約要件に従うという考え方だ。降雨量、河川の水位、ハリケーンの強度、山火事被害などが対象となる。 だが、過去はプロローグに過ぎず、気候変動は仮説を灰に変えてしまった。米西部や欧州で発生した火災は、「定常性の死」を証明している。これは10年前、ある研究チームが米科学誌『サイエンス』に掲載し、物議を醸した考えだ。当時、論じられたのは「水」についてだったが、いまは「火災」も現実のものとなっている。 カリフォルニア大学マーセド校で山火事を研究するリロイ・ウェスタリング教授は次のように話す。 「もはや、われわれは過去の観察結果を手がかりにはできません。将来の計画を立てるために過去の記録を使っても、これからどんな事象が起こりうるかという、その確率を測定できる安定的なシステムなどありません。ものごとがどのように変化してゆくかを予測するために必要なのは、物理学と、事象同士の複雑な相互作用を検証する力です」 山火事は常に複雑なシステムの一部をなすものだった。気候変動がこの複雑性に拍車をかけた。具体的には、二酸化炭素やそのほかの温室効果ガスによる、地球全体の温暖化だ。この影響は何千年も続くだろう。ウェスタリングは続けた。 「それだけでなく、気候システムや生態系システム、人間が土地をどのように利用しているかといったことも、相互に影響し合っています。この相互作用の交差点は非情に複雑で、その予測となるとさらに難しくなります。新たな基準がないと言ったのは、まさにこのことです。いま生きているすべての人たちが残りの人生を過ごす間にも、気候変動はおそらく加速度的に進行してゆくでしょう」 研究は進むも、一般にまで浸透しないジレンマ だからといって、学ぶべきことや打つ手が何もないというわけではない。火災の傾向にまつわるデータが増えれば、逆に研究者たちは起こりうる事象の予測モデルを構築しやすくなる。 「燃料管理」を行う最適な方法もわかるようになるだろう。すなわち、気候変動の影響による熱波や干ばつで乾燥した可燃性植物をどのように除去するかといったことだ。さらに研究が進めば、より燃えにくい建造物の建て方や、第一選択肢として、建造物を建てるべきでない場所はどこかを見定めやすくなる。 gettyimages-1015151068 1/6 カリフォルニア州で発生した山火事の様子。2018年8月10日撮影。PHOTO: MARCUS YAM/LOS ANGELES TIMES VIA GETTY IMAGES PrevNext これらを実現するためにはもちろん、政策立案者が聴く耳をもち、行動に移すことが前提だ。だが、彼らはまだそういう態度をとっていない。ウェスタリングは言う。 「政策立案者は火災からの回復力や耐火性の高さについては雄弁に語ります。また、研究者であるわれわれも、気候変動や山火事などのリスクについてこれまで何十年にもわたって議論をしてきました。しかし、科学者やリスク管理の専門家以外の人々の間では、いまだ議論に大きな前進は見られません」 これが現実なのだ。火災の研究者らは少なくとも20年前、ひょっとすると1世紀も前から、大気中の二酸化炭素(CO2)の増加がより大きな山火事の発生につながると警告していた。歴史が次のような事実を証明している。 火事跡や木の年輪サイズなどのデータを基に研究者たちが明らかにしたところによると、欧州から人々が北米に入植する前、山火事の頻度は比較的多かったが、規模は割に小さかった。プエブロなどの先住民は多くの木を燃料として使い、建築用に直径の小さい樹木を用いていたという。 一方、スペイン人が米大陸にやって来たころ、疫病の蔓延で先住民たちは村を追われ、人口は90パーセント近く減少した。その結果、森で発生する山火事は以前の自然なパターンに戻った。頻度が低く、比較的規模が小さく、広範囲にわたるタイプの山火事だ。 19世紀末までには、土地は家畜の放牧などに利用されるようになったが、土地の利用者には山火事に対する耐性はほとんどなかった。年輪年代学者のトム・スウェットナムは次のように指摘する。 「20世紀後半から21世紀初頭のいまでは、暑さによる干ばつや山火事がこれまでに体験したことのない激しさで猛威をふるっています」 スウェットナムが研究対象にしているジェメス山系で発生した山火事は、12時間で40,000エーカー(約16,187平方メートル)を焼いた。2方向からの逆回転の風にあおられて発生する炎「水平ロール渦火炎」だった。スウェットナムは言う。 「火災後にはキャノピーホールと呼ばれる、樹木のまったくない空間が30,000エーカー(12,140平方メートル)以上にわたって残されました。木が1本もない巨大な穴が山林の上層部の広がりのなかにできたのです。少なくとも過去500年に、こうしたことが起きた考古学的証拠はありません」 最悪の予想が、いま現実に スウェットナムはニューメキシコ州の、とりわけ山火事の多い地帯に住んでいる。彼によれば、そこは原野と都会の接点なのだが、これまでになく危険なエリアになりつつあるという。 「こうした変化は悲しく、また懸念すべきことです。しかし、われわれ年輪年代学者の多くは気温の上昇が続けば、こうした現象が起きるだろうと予測していました。最悪の予想が現実のものとなるのを目の当たりにしているのです」 山火事の研究者らは、気候変動に端を発する山火事と土地利用の因果関係について、以前から警告を発してきた。ハリケーンと洪水が、土地の利用方法と関係があるという指摘と同じくらい長い間、主張してきたのだ。 それでも人々はヒューストンの氾濫原に家を建てたり、ミシシッピー川に貧弱な堤防しかつくったりせず、森のそばにも家を建て、やぶや木立を手入れしなかった。その間じゅう、気温の上昇は続いていた。 米農務省森林局の森林管理官で研究員でもあるマーク・フィネイは、次のように指摘する。「発生した山火事なかには、異常といえるものもありました。しかし、それより異様だったのは、燃え盛る大きな炎の渦を人々がただ見つめていることでした。こうした例は枚挙にいとまがありません。それでも、変化の兆しはあります」 干ばつや気温上昇は以前よりひどくなっている。また、都市のスプロール現象も悪化している。フェネイは言う。 「最悪の山火事はいまのところ起きていません。シエラ・ネヴァダ山脈地帯はこうした最悪の事態がいつ起きてもおかしくない状態にあります。もし火災が起きれば、このあたりの生態系にとって過去数千年来、体験したことのないレヴェルの森林火災になるでしょう」 では、次に何が起きるというのだろう。ポンデローサマツやジェフリーマツの森が燃え、消えてしまうのだろうか。森が草原に変わってしまうなどということもあるのだろうか。 ジャイアントセコイア(セコイア杉)が生えるこの地では数千年にわたり、そんなことは一度も起きていない。それなら、セコイア国立公園の森林にスプリンクラーを取り付ければよいのだろうか。フィネイは言う。 「わたしはただ、現代に生きる人間として失望を感じているにすぎません。少なくとも二世代前、あるいは三世代前にも、同じように失望を感じた人々がいたはずです」 だが当時、彼らの嘆きに耳を傾ける者はいなかった。そして現代人もまた、次にどんなことが起きようとしているか、本当のところは理解していないのだ。 RELATED 地球温暖化で自殺やうつ病が世界的に増加する:研究結果 https://wired.jp/2018/08/15/fire-will-get-worse/ 2018.08.11 SAT 19:00 地球温暖化で自殺やうつ病が世界的に増加する:研究結果 平均気温が上がると自殺率もアップするという研究結果が、科学誌に発表された。ハリケーンなどの自然災害のあとでは心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病などが増加するとされており、地球温暖化とメンタルヘルスの関係が世界的な問題になる可能性が指摘されている。 TEXT BY MATT SIMON TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEO WIRED(US) facebook share Hopedale カナダのラブラドル半島沿岸部にあるホープデイルの街(人口600人程度)は、イヌイット自治区であるヌナツィアヴトの首都だ。PHOTO: GETTY IMAGES カナダのラブラドル地方に古くから暮らすイヌイットの人々は、自分たちの土地に強い結びつきを感じており、狩猟によって食料や毛皮を得てきた。そんなイヌイットの人々から見れば、気候変動による災害はすでに発生している。 「この土地の人々は屋外に出て心地よさを感じるのが好きです。もし遠出ができなくなったら、彼らは人間である気がしないのです」。ドキュメンタリー番組「「Lament for the Land(土地への哀歌)」」で、ノア・ノーカザクは語っている。 イヌイットの土地は、世界平均の2倍の速さで温暖化が進んでいる。このため、移動の際に頼りにしてきた氷が危険にさらされているのだ。ハンターは秋に町から出られなくなることが多くなった。これは、まだ氷が完全に固まっていないからである。春になって氷が溶け始めたときも同様だ。気候変動によって、こうした時期がますます長くなっている。 ラブラドルで調査を行った健康地理学者のアシュリー・クンソロは、次のように語る。 「過去にさかのぼって見ると、こうした期間には町での自殺や自殺未遂、希死念慮(自殺願望)が若干増えています。地元の精神衛生医の間には懸念が広がっているのです。この期間が2週間から8週間に延びた場合に、この状況は何を意味すると思いますか?」 国際的に高まる危機 こうした現象は、「エコロジカル・グリーフ(生態学的な悲嘆)」として知られている。地球が温暖化するにつれて失われていく生態系や生物種、生活様式などについて悲嘆することだ。 ただし、苦しんでいるのはイヌイットだけではない。地球上で海面が上昇し、嵐が激しくなり、気温が高くなるにつれて、精神衛生上の危機は国際的に高まっている。 米ウースター大学の心理学者で、気候変動と精神衛生に関する詳細な報告書[PDFファイル]の執筆者のひとりであるスーザン・クレイトンは次のように話す。「うつ病や不安、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、薬物乱用、家庭内暴力などのすべてが、自然災害のあとで増加する傾向があります。自然災害が増えるにつれて、このような精神衛生への影響も増えると予想されます」 例えば、2005年に米国南東部を襲った「ハリケーン・カトリーナ」のあとで生存者に対して行われたサンプル調査によると、6人に1人がPTSDの基準を満たしていると判明した。自殺および希死念慮の割合は倍増した。そして、特に避難している人々においては、こうしたメンタルヘルスの問題が身体的な健康に密接に関連する可能性があり、弊害がさらに大きくなるのだ。 月平均気温が上がると「自殺率もアップ」 ウィスコンシン大学グローバルヘルス研究所のディレクターであるジョナサン・パッツは、「人々が各地に移動すると、もともとその地に住んでいる人々には免疫がない病気も一緒に運ばれる可能性があります。逆に、移動先の新しい場所の病気に対して、人々が免疫を持っていない可能性もあるのです」と指摘する。 海面上昇や、激しさを増すハリケーンの直接的な危険を受けない場所に住む人々であっても、この影響からは逃れられない。今世紀の終わりには、平均的な米国人が35℃以上の気温に耐えなければならない日は、いまの4〜8倍に増えると予想されている。 なかでも、アリゾナ州の住民は特にひどくなる。気温が35℃以上になる日は、現在の年平均116日から200日以上に急増するのだ。気温が高くなるほど自殺率が高くなるという相関性は、いくつかの調査で指摘されている。 『Nature Climate Change』に今年7月23日付で発表された大量のデータに基づく論文では、米国においては郡レヴェル、メキシコでは地方自治体レヴェルで、気温と自殺に関する統計をまとめている。比較されているのは、これらの小さな地域同士ではなく、カリフォルニア州パロアルトの09年7月と10年7月の月平均気温のように、それぞれの地域自体だ。各地域間の貧困率や銃の所有率などの要因の違いは調整されている。いずれも自殺率に関連があるからだ。 調査で明らかになった自殺率の上昇は、少ないといえるかもしれない。自殺率は月平均気温が1℃上がるたびにメキシコで2パーセント、米国で0.7パーセント上昇する。この関係性は複雑だ。自殺率には世界中でばらつきがあり、自殺率が最も高い場所が必ずしも気温が最も高いわけではない。しかし将来を考えると、住民の健康に与える影響は甚大なものになる可能性がある。 生物学的に共通の反応を示す 論文の筆頭著者であるスタンフォード大学准教授(経済学者)のマーシャル・バークは、「われわれの調査結果が、さまざまな社会経済的階層や、異なる地域にわたって非常に一貫しているということは、これが生物学的に共通の反応であることを示唆しています」と説明する。 気候に関連した精神的外傷が精神衛生に与える影響の背後にある共通のメカニズムを、科学者たちが明らかにできるかはわからない。ただし、こうした経験自体は明白だ。直観的に人間らしい反応と感じられる。 イヌイットの調査を行ったクンソロが今年4月に同僚とふたりでエコロジカル・グリーフに関する論文を「Nature Climate Change」に発表したときは、膨大な反響が電子メールで寄せられた。それは国際的な反響だった。 「彼らは干ばつの影響を受けた農家でもなく、海抜が低い島国でもなく、移住を余儀なくされた人々でもありませんでした。多くが都市部で生活する人々ですが、このような全体的な絶望感や不安感を語ろうとしていました」と、クンソロは話す。 われわれに共通する問題の根は同じかもしれない。だが気候変動の現れ方は、それぞれの地で大きく異なる場合がある。「地域、場所、文化により、大きく異なる何かを経験をすることになるでしょう」とクンソロは語る。イヌイットの場合、それは氷であり、米国南部では超大型ハリケーンになるだろう。 あらゆる健康管理がそうであるように、予防は最良の薬だ。だが気候変動については、われわれはすでに手遅れなのかもしれない。 RELATED 北極圏の氷の下にある「軍事基地の廃墟」から、汚染物質が流れ出す──気候変動がもたらす環境破壊の行方 https://wired.jp/2018/08/11/climate-changes-mental-health/ 最強台風21号まとめ 記録的高潮と暴風 日直主任日本気象協会 本社日直主任 2018年09月05日14:38 最強台風21号まとめ 記録的高潮と暴風 今年最強の台風21号の影響で、近畿を中心に記録的な高潮や記録的な暴風となり、列島に大きな爪痕が残りました。 ポイント解説へ 台風21号 25年ぶりに非常に強い勢力で上陸 記録的な高潮 記録的な暴風 台風の活発な雨雲 列島縦断 台風21号 25年ぶりに非常に強い勢力で上陸 台風21号は8月28日午前9時、南鳥島近海で発生しました。発達しながら西よりに進み、マリアナ諸島付近で一時「猛烈な」勢力に。進路を次第に北よりに変え、日本の南を北上し、9月4日正午頃に「非常に強い」勢力を保ったまま、徳島県南部に上陸、午後2時頃には「非常に強い」勢力を保ったまま、兵庫県神戸市付近に再上陸しました。「非常に強い」勢力で上陸するのは25年ぶりでした。午後3時には「強い」勢力になり、午後4時には日本海に抜け、日本海を北上し、5日午前9時に間宮海峡で温帯低気圧に変わりました。 記録的な高潮 台風の接近、上陸に伴って近畿や四国の沿岸部では急激に潮位が上昇し、記録的な高潮となった所がありました。大阪では1961年の第2室戸台風の時に観測した過去の最高潮位を瞬間的に上回る値(329センチ)を観測しました。関西空港の滑走路や駐機場が広い範囲で浸水するなどの被害がでました。そのほか、神戸で最高潮位233センチ、和歌山県御坊で最高潮位316センチを観測しました。
※潮位はいずれも瞬間値の速報値 記録的な暴風 四国や近畿を中心に記録的な暴風となりました。最大瞬間風速は大阪府田尻町(関西国際空港)では58.1メートル(午後1時38分)を観測(2009年以降の観測で1位の記録)。和歌山県和歌山市では57.4メートル(午後1時19分)を観測し、1961年9月16日の第2室戸台風の時の値である56.7メートルを超えて、史上1位の記録を更新しました。大阪市でも47.4メートル(午後2時3分)を観測。45メートル以上を観測するのは半世紀ぶりでした。建物の屋根が飛ばされ、トラックが横転、建設現場のクレーンが折れるなど各地に大きな被害がでました。大規模な停電も起きました。 夕方以降は北陸でも暴風が吹き荒れ、福井県敦賀市で47.9メートル(午後3時)、石川県金沢市で44.3メートル(午後5時57分)を観測し、観測史上1位となりました。東京都内でも八王子市で31.5メートル(午後4時24分)、都心で26.8メートル(午後7時5分)を観測するなど風が強まりました。 台風の活発な雨雲 列島縦断 四国や近畿、北陸周辺に台風本体の活発な雨雲がかかりました。高知県田野町では午前10時1分までの1時間に92.0ミリの猛烈な雨が降り、観測史上1位の記録となりました。 そのほか、記録的短時間大雨情報も続々と発表されました。 12時10分 香川県東かがわ市与田山で90ミリ。 14時50分 京都府左京区付近で約100ミリ。 14時50分 滋賀県大津市北部付近で約90ミリ。 15時10分 滋賀県高島市付近で約90ミリ。 17時40分 山梨県富士山西部付近で約100ミリ。 17時40分 静岡県富士宮市付近で120ミリ以上。
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