http://www.asyura2.com/17/jisin22/msg/161.html
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プレートテクトニクスの専門家の方による解説です。
日本列島全体の地震について取り上げていますが、今回の記事の中心は鹿児島湾での地震で、稀発地震であり、鹿児島湾周辺での稀発地震の前例では関東でのM7があったことが述べられています。
http://www.niitsuma-geolab.net/archives/5118
月刊地震予報94)ウラジオストック沖M6.3・鹿児島湾希発地震・三陸沖連発地震・2017年8月の月刊地震予報
2017年8月14日 発行
1.2017年7月の地震活動
気象庁が公開しているCMT解を解析した結果,2017年7月の地震個数と総地震断層面積のプレート運動面積に対する比(速報36)は,日本全域で21個0.228月分,千島海溝域で1個0.006,日本海溝域で13個1.218月分,伊豆・小笠原海溝域で3個0.042月分,南海・琉球海溝域で4個0.107月分であった(2017年7月日本全図月別).
2017年7月の最大地震は7月13日ウラジオストック沖M6.3-np深度603(スラブ深度+92)kmで,M6以上の地震は最大地震1個のみある.今年に入ってからのCMT解は116個で比が0.113と1割強に留まっている.これは1997年の0.107に次ぐ静穏さである.
これまで地震記録がなかったあるいは極めて希にしか起こらなかった地域の地震を,「希発地震」と名付け地震予報で今後取り上げる.2017年7月には鹿児島湾で希発地震が起こった.これまで月間地震予報で取り上げた希発地震には,2016年6月の渡島半島(月刊地震予報81)と2016年7月・9月の朝鮮半島(月刊地震予報82・84,)がある.
連発地震は,福島沖で2017年7月6~8日,明治三陸地震域で2017年7月22~24日,北海道胆振2017年7月1日~16日に起こった.鹿児島湾の希発地震も連発地震であった.
2.ウラジオストック沖太平洋スラブ地震M6.3
2017年7月13日4時48分ウラジオストック沖太平洋スラブでM6.3-np603(+92)kmが起こった.その2日前の2017年7月11日22時35分には樺太南端太平洋スラブでM4.8np354(+135)kmが起こっている.ウラジオストック北西方太平洋スラブでは2016年1月2日13時22分に下部マントル上面(深度660km)以深の地震M5.7P681(+77)kmも起こっている(速報76;図218).
図218.ウラジオストック沖の太平洋スラブ地震2017年7月13日M6.3-np603(+92km)のCMT解を基準にした応力場極性区分.
今回の地震は発震機構型境界になっており,以浅の地震が圧縮横擦np型であるのに対し,より深い地震が逆断層型になっている.ウラジオストックの太平洋スラブ地震の多くが大陸域下で起こっているが,今回の地震は日本海盆下で起こっており,震央距離が最も近い2017年1月13日2時04分M5.5+np540(+89)kmでも160km離れている.
今回のCMT解を基準(P290+32T21+2N115+58)にこれまでのCMT解の応力場極性を解析すると,北方(方位5°)震央距離234(深度差-6)kmで起こった2000年2月13日11時57分M4.8np597(+82)kmの応力場方位角差は5.0°と同一応力場(図218:黒色)である.
これらより北方の580km以深の地震は応力場方位角差が54.0~90.7°と応力場が異なる.基準主応力軸方位を保持したまま引張主応力T軸と中間主応力N軸の入替NexT(図218:青色)で比較すると方位角差は8.1~48.1°に収まり,側方引張応力が垂直引張応力より増大して主応力軸が入替っている.580km以深の震源は南北に500kmの範囲に広がっているが,今回の地震はその最南端部にあり,同じ応力軸入替境界が230kmに渡り連続している.この境界より上,深度528kmまでは基準応力場区分orgn(図218:黒・紫色)であるが,528km以浅では再びTexN(図218:青色)になる.
3.鹿児島湾の希発地震
九州小円区・琉球小円区境界南側鹿児島湾の上部地殻で2017年7月11日と15日にM3.4~5.3のIS解が3個あった(2017年7月西南日本IS月別;図219).最大は最初の7月11日11時56分M5.3nt10(-47)kmで,CMT解もある. 2017年3月11日21時10分にもIS解M3.9nt10(-47)kmがある(2017年3月西南日本IS月別).これらの震央間距離は1km以内で,最大のCMT解を基準(P219+20T125+10N10+67)とした応力場方位差も7.5~23.4°と小さく同一応力場で起こっている.
図219.鹿児島湾希発地震2017年3月11日・7月11日・15日の初動発震機構型主応力軸方位.
半径50kmの円の中心と+印が希発地震.
2017年3月11日より前の最短震央距離地震のIS解は,北北東方(17°)に43km の2016年4月16日21時06分M4.4p18(-47)kmであり,CMT解は北北西方(335°)に70kmの1997年5月13日M6.4+nt9(-84)kmである.
この希発地震南東の大隅半島から南西の薩摩半島下にはスラブ内震源があり震源面を成している(図219).震源面の傾斜は大隅半島下では緩く,鹿児島湾で深度70kmに達し,薩摩半島下では急斜している.今回の希発地震は急斜震源面の北東縁上方の地殻上部で起こっている.
今回の震源から40km以内には、2017年3月11日より前の地殻内IS解・CMT解は無いが,歴史地震には西方(289°)震央距離12qの知覧で1893年9月7日M5.3がある.この地震では土蔵・石垣・堤防が破損し,地辷もあった(宇佐美,2003).その後1893年9月30日まで多数の余震があり,翌年1894年1月4日M6.3が起こっている.
この知覧の地震の前には1891年10月28日濃尾地震M8.0・1893年6月4日択捉M7.8があり,その後に1894年3月22日根室南西沖M7.9・1894年6月20日東京湾北部M7.0・1894年10月7日東京湾北部M6.7・1894年10月22日庄内地震M7.0・1895年1月18日霞ヶ浦M7.2・1896年1月9日鹿島灘M7.3・1896年6月15日明治三陸地震M8.5・1897年11月23日カムチャツカM7.9と巨大地震が続き,石橋(1994)の大地動乱の時代であった(図220).1890年から10年間の総地震断層面積は,日本全域のプレート運動面積の95%に達し,日本の地震記録における最高比になっているので「明治動乱期」と呼ぶことにする.これに次ぐ高比率は1950年からの82%「昭和動乱期」,1850年からの80%「安政動乱期」であり,1700年からの78%「宝永動乱期」が続く.
図220.1894年1月知覧の地震M6.3を含む「明治動乱期」の日本列島巨大地震の震央図とベニオフ図.
ベニオフ図左:「明治動乱期」,右:1600年から1990年,右端は「動乱期」名.
4.明治三陸震源域・胆振の連発地震
明治三陸地震域で2017年7月22日10時46分M5.0p17(+1)kmと24日0時35分M5.7P14(+0)kmが連発した(2017年7月東日本月別).これらの震央間距離は14kmで,応力場方位角差は5.9と小さく,同じ応力場に起こっている.東日本大震災本震CMT基準の応力場方位は6.3・11.3と同じ応力場である.日本海溝域の応力場は,東日本大震災前は本震と同じ応力場の地震が主体であったが(図221),本震後は逆応力場の地震が急増した(図222),しかし、明治三陸震源域では東日本大震災本震の応力場が補強・拡充されている.
図221.東日本大震災前(1994/9/23~2011/3/10)の日本海溝域CMT解の大震災本震基準応力場極性区分.
半径50kmの円の中心と+印が2017年7月22日・24日明治三陸震源域連発地震.最上小円断面図の大+印は東日本大震災本震.
図222.東日本大震災後(2011/3/12~2017/7/30)の日本海溝域CMT解の大震災本震基準応力場極性区分.
半径50kmの円の中心と+印が2017年7月22日・24日明治三陸震源域連発地震.最上小円断面図の大+印は東日本大震災本震.
北海道の胆振で2017年7月1日23時45分M5.1p27(-71)kmを先頭に7月3日から7月16日までM3.2~3.4のIS解3個が続いた(2017年7月東北日本IS月別).先頭の地震が最大で,そのCMT解(P88+10T342+57N184+31)基準のIS解の応力場方位は10.6~23.9°と差がなく,最大地震のCMT解とIS解の差は19.0°であった.これらのIS解の震央距離も3km以内に収まっている.
5.2017年8月の月刊地震予報
2017年7月の日本全域CMT個数は,21個と先月18個より増加し,地震断層面積のプレート運動面積に対する比も0.228と増加している.しかし,今年に入ってからは116個と0.113で1割強に留まっている.これは1997年の0.107に次ぐ静穏さである.嵐の前の静けさは続いており警戒が必要である.
日本海溝から沈込む太平洋スラブ先端が下部マントル上面に達しているウラジオストック沖でM6.3が起こった.太平洋スラブの沈込が日本列島の地震活動を駆動していることから,今後の地震活動の動向に注意が必要である.
1997年以降の日本列島陸域の地震は初動IS発震機構解でほぼ網羅されているが,最近これまでIS解が報告されていなかった地域で地震が起こっている.このような希発地震は,日本列島の応力場に異変が生じていることを知らせてくれる.気象庁の観測記録のなかった北海道渡島半島で2016年6月に地震が起こり(月刊地震予報81),その後,2016年7月・9月に朝鮮半島で起こった(月刊地震予報82・84).これに先立つ2015年5月に,伊豆・小笠原海溝から沈込む太平洋スラブ先端が下部マントルに突入していること示す地震が起こっており(速報68),日本列島の異変は太平洋スラブ沈込に由来しているとも考えられる.
2017年7月には鹿児島湾で希発地震が起こったが,ここでは1893年に知覧の地震が起こっている.知覧の地震が起こったのは日本の地震活動史上最も地震活動が激しかった明治動乱期である.この動乱期は濃尾地震M8.0から開始し,明治三陸地震M8.5へと続く.今回の鹿児島湾地震について濃尾地震に当たるのは2016年4月の熊本地震(月刊地震予報79)であろう.明治三陸地震の震源域では,東日本大震災本震と応力場方位の一致する連発地震が起こっていることからも警戒が必要である.明治動乱期には東京周辺でM7以上の地震が起こっているので,首都圏でも警戒が必要である.
引用文献
石橋克彦(1994)大地動乱の時代―地震学者は警告する.岩波新書,350,234p.
宇佐美龍夫(2003)日本被害地震総覧.東京大学出版会,605p.
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