http://www.asyura2.com/17/hasan125/msg/666.html
Tweet |
仮想通貨580億円流出事件で露呈したメディアとテック業界の深い溝 リスクと捉えるか、可能性に賭けるか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54276
2018.01.29 石田 健 株式会社マイナースタジオ代表取締役CEO 現代ビジネス
仮想通貨の危険性と可能性
1月26日、仮想通貨取引所大手のコインチェック社が、仮想通貨NEMの不正流出を受けて記者会見をおこなった。
被害額は580億円にのぼったものの、28日には自己資金により不正流出相当額を日本円で返金する方針を明らかにした(「不正に送金された仮想通貨NEMの保有者に対する補償方針について」)
大手メディアは、26日の会見直後から「利用者保護後回しに コインチェック、ハッキング対策不十分」(日本経済新聞)などと被害にあったコインチェック社に対しても厳しい論調とあわせて、記事を公開した。
コインチェック社リリースより
一方で、筆者が眺めるTwitterのタイムラインには、コインチェック社の経営陣に厳しく質問を投げかける記者の姿勢や、メディア側の仮想通貨に対する前提知識に疑問を投げかける声も見られた。
仮想通貨という「得体の知れないもの」に厳しい目を向ける大手メディアと、仮想通貨の可能性に期待を高めるテクノロジー業界との間に、大きな温度差を感じた瞬間だった。
しかし、その温度差は、わずか1年で急速に人口へと膾炙した仮想通貨だからこそ生じたもの、というわけではない。
これは、仮想通貨に限らずテクノロジーと社会、そしてメディアを取り巻く環境が、大きく変化していることによって生まれたディスコミュニケーションとして捉えるべきだろう。
具体的には、社会の中にますますテクノロジーが溶け込んでいく中で、テクノロジー業界の責任に厳しい目が向けられているという事実、そして、メディア側に十分な専門知識を持った人材がいないことで、新たな技術や変化を適切に伝えられていないという事実に、双方が十分に対応しきれていない現状によって生じている問題だと言える。
テクノロジー業界の責任
まず、テクノロジー業界の責任に厳しい目が向けられているのはなぜだろうか?
ここ数年、テクノロジーが現実社会に与えるインパクトは、かつてないほど大きくなっている。
UberやAirbnbのように既存産業や規制当局と摩擦を生み出している企業が台頭し、GoogleやFacebook、Amazonなど巨大テック企業が社会に与える影響は計り知れない。
もはやインターネットは、一部の好事家が楽しむサービスではなく、すべての産業で生じる変化の源泉となった。そうした中で、産業や企業が抱える説明責任の大きさは、これまで以上の規模になりつつある。
こうした前提に立つと、会見で強い口調で質問を繰り返している様に見える記者の裏側には、テクノロジーに対してあまり知識のない一般消費者の姿が見えてくる。
例えば本会見において、記者がコインチェック社の株主構成や財務状況を何度も尋ねることを否定的に見る声があった。
しかし、今回の不正流出は、Mt. Gox事件における当時のレート480億円相当を上回る規模であり、コインチェック社に資金を預けていた消費者にとっては、当然知り得るべき情報の1つではある。
ハードフォークの可能性をNEM財団が否定した状況において、もし流出した資金をすぐに取り戻せなければ、コインチェック社は(結果的に、自己資金によって保証をおこなうことになったが)自らの流動的資金か外部からの資金によって、保証をおこなわなければならない。
被害者の中には、税金を納めるために手元に日本円などフィアットマネー(法定通貨)を用意しなければならない人もいるだろう。
その状況で被害者が、コインチェック社に保証をおこなう余力があるのか、また出金はいつから可能なのかを知りたいと考えるのは自然だ。
そうであれば、コインチェック社の株主構成や財務状況を知ることは当然の権利であり、それを求める被害者の声を代弁して質問をおこなう記者の存在も不当ではない。
言うまでもないが、加害者はハッキングをおこなった犯人であり、コインチェック社もまた被害者ではある。
しかし、580億円もの被害が出ており社会的影響も大きい中で、同社に求められるのは適切なディスクロージャー(情報開示)だ。
コインチェック社が未公開企業であることや、仮想通貨に関する法整備が整っていないことは、同社の情報非公開を後押しするものではないろう。
もちろんユーザー保護の観点から、不要な不安を煽ることで生じる事態の悪化を避けるため、コインチェック社には情報を公開しないという選択肢もあり得る。
しかしながら、記者が消費者の知る権利を代理するため、記者会見の場で企業から情報を引き出そうとする行為自体は問題がなく、そのことを否定してしまえば、メディアに委託された社会的役割が失われてしまう。
また、一般消費者は、仮想通貨について大して知識がないまま投資をおこなったのだから、そもそも自己責任であり、コインチェック社から企業情報を引き出しても意味がないという反証もあるかもしれない。
しかし、実際にコインチェック社は、それほど知識を持っていないであろう一般消費者に向けてCMを打っているわけで、そうした人々を取り込んでこそ巨大マーケットがつくられた側面は大きい。
インターネットのサービスは今や、サーバーやネットワークの知識がなくても安心して利用できるが、一般消費者が新たなテクノロジーを安心して利用できる背景には、適切な規制や企業の情報公開などが必須である。
その意味でも、メディアはこうした質問をおこなう責任を有しているといえる。
質問して情報を引き出す役割と意味
また、コインチェック社を袋叩きにしている、記者は謝罪を引き出したいだけなのか、という声も見られた。たしかに今回の会見に限らず、明らかに個人の倫理的な価値判断によって、取材対象者を糾弾するような記者は後を絶たない。
ライブ動画などにより会見がリアルタイムで中継され、書き起こしなども進んでいったことで、私たちがメディアで知る一問一答が、長い会見のごく一部を切り取ったものであることに多くの人が気付きはじめた。
悪意ある質問をする記者や明らかに個人の倫理観に基いている無用な糾弾にしか取れない質問をくりかえす記者を擁護するべきとは思わないが、同時に、記者が繰り返し質問をすることは、彼らにとっても重要な役目であることは強調されるべきだ。
会見の中で、コインチェック社は何度も「セキュリティーには万全を期してきた」と答えた。
しかし、NEMをオンラインで管理していたことについては、コールドウォレット(インターネットと完全に切り離されたウォレット)で管理をするのはシステム的に難易度が非常に高いため後回しになっていたと述べており、マルチシグネチャ(複数の秘密鍵でのウォレット管理)をおこなっていなかったことも明らかにしており、NEM財団がフォークをしない根拠にもなっている。
こうした点から、本当にコインチェック社はセキュリティーに万全を期していたのか?という議論は当然ながら生まれてくる。
何をもって万全と呼ぶのかは別として、少なくとも被害者や仮想通貨に十分な知識を持っていない一般消費者は、今回の事件が仮想通貨という新たなテクノロジーが持つ欠陥によるものなのか、コインチェック社の過失によるものなのかという点に関心を持っているはずだ。
それらは、すでに仮想通貨に知見を有している人にとっては幼稚に見える話かもしれないが、仮想通貨そのものが多大なリスクを孕んだ仕組みなのか、責任の所在はどこにあるのか、という議論を改めて社会全体がおこなう上で必要な情報である。
一見すると会見で厳しい追求がされることは、コインチェック社から謝罪を引き出して、記者やメディアが鬼の首を取ったように喜びたいだけに見えるかもしれない。
しかし、ただ1度コインチェック社の「セキュリティーには万全を期してきた」という回答に対して、メディアが「はい、そうですか」と引き下がってしまっては、十分な情報を引き出せない。
挑発的・扇動的な質問を繰り返し、取材対象者に思わず本音を言わせたり、好戦的な発言を引き出すことは、そもそも倫理的に正しいのか?という問いや、感情的になった際の発言が本音といえるのだろうか?という根本的な疑問は当然ながらある。
少なくとも、取材対象者と取材者が予定調和なやり取りだけをして、十分に情報を問い質したと言うならば、それは記者の怠慢とすら言えるだろう。
メディアが抱える深刻な課題
会見を見た人の中には、記者が仮想通貨やテクノロジーについて、十分理解していないという批判も見られた。
これについては、2つの点からメディア側を擁護することもできる。
1つは記者が当該分野に専門知識を有していようがいまいが、取材は可能であるという点である。
メディアの向こう側にいるのは、大半が専門知識を持たない一般消費者であり、大手メディアは彼らにわかりやすく情報を伝える必要があり、そうした立場に立った上での質問をしているとも言える。
もう1つは、そもそもテクノロジー担当の記者であっても、全ての分野に知見のある記者などほぼ皆無ということだ。
今回の会見は東京証券取引所でおこなわれた点からもわかるように、テクノロジー担当だけでなく経済・社会部の記者からも関心を持たれていた。
その逆もまた然りではあるが、一般的な経済問題に詳しい記者が、ビットコインにも詳しいとは限らないのは、当然と言えば当然だ。
ただこうした擁護があったとしても、専門知識を有した記者がいないというのは、メディアが抱える深刻な課題である。
STAP細胞の時もこうだった…
近年、メディアにテクノロジーや科学技術に関する専門知識を持った人材が不足しているという事実を如実に露呈させたのが、STAP細胞問題だ。
この問題では、論文や事件の顛末を検証するブログや個人ライターが大きな存在感を放ち、大手メディアよりも素早く正確に、事態の把握や分析をおこなった。
大学や研究機関の会見内容をそのまま報道するだけに留まった多くの大手メディアとは対象的に、科学リテラシーやニセ科学といった問題の背景についても積極的に解説するサイエンス・ライターに注目が集まる契機にもなった。
STAP細胞に関する記者会見の様子〔PHOTO〕gettyimages
最近でも、日本の科学政策や研究環境が抱える問題への無理解という意味では、京都大学iPS細胞研究所で論文不正問題が発覚した際、不正論文が掲載された雑誌の創刊に山中伸弥教授が関与していたという記事を共同通信が配信した問題がある。
雑誌の創刊と不正論文の掲載に関係がないにもかかわらず、あたかも山中教授の責任を追求するような記事が公開されたことは、話題性のある著名人を事件と不当に関連付けて注目度をあげようとしているだけでなく、そもそも研究や論文について理解が不足していると言える。
技術や研究開発、テクノロジーへの無知・無理解は、決してインターネットや仮想通貨に限ったものではなく、広くメディア全体が抱える課題である。
ビットコインやブロックチェーンなど、現在進行形で議論が進んでいる最先端の技術についてリテラシーを持っている記者がほとんどいないことは想像に難くない。
もちろんそれは、メディアの怠慢と一言で片付けられる問題ではない。そもそも、ある分野に詳しい人材であっても全ての技術について余すことなく理解している人はほとんどいない。
加えて、現在の大手メディアには、専門的知識を持った人材を育成する余力はない。TV、新聞、雑誌問わず多くのメディアが苦境に陥っているが、この状況で、新たに専門的知識を人材を採用・育成していくことができる企業はほとんどないだろう。
GoogleやFacebookなど巨大テック企業の登場で、メディアのビジネスモデルは大きな変革が迫られている中で、これまで以上の品質を求めることは、現実的に難しくなっている。
しかしながら、だからといってこの問題を「仕方ない」と片付けてしまうことはできない。
科学技術やテクノロジーについて、社会に適切な情報を届けることは、日本の科学政策を考える上でも、より良い社会を構築する上でも、メディアが抱える大きな課題の1つだ。
メディアはどう変わるべきか
そのためには、メディア側も大きく2つの施策が必要となる。
1つは、決して大量ではなくとも専門知識を持った記者を採用・育成することだ。
未来にどのような技術・テクノロジーが注目を集めるかを予測することは容易ではない。
しかし、何らかの専門性を持ち、ある分野で学位を取得しているような人材であれば、基礎的な知識を背景として、新たな分野について理解を深める事は不可能ではない。
そうした人材が、時間をかけて新たな技術・分野を学習することができるよう、メディア側が投資をおこなう意義は大きい。
TV局や新聞社は、ほとんどが学部卒の若者を一括採用しており、その専門性を活かしたキャリアを用意している企業はほとんどない。
まずはこうした採用スタイルを少しでも見直し、アカデミック・キャリアを積んできた研究者やテクノロジー業界で知見を持った人材を積極的に登用していくことが、重要だ。
また、専門的知識と言わずとも、最低限のリテラシーを持った人材を育成することも必須だ。
大手メディアの中には、因果関係と相関関係の区別すらついていないような記事や、明らかにミスリーディングを誘引するグラフや説明を展開する記事がたびたび見られる。
科学リテラシーは、文系理系問わず、物事を科学的に、すなわちデータ・事実に基づいて客観的な理解するという基本的な姿勢を意味する。
深い専門的知識を会得するには相応の訓練が必要だが、基本的なリテラシーを獲得していくコストは、それほど大きなものではない。
こうした施策によって、メディアに専門知識や最低限のリテラシーを持った記者が生まれない限りは、テクノロジー業界に課せられた責任は不当に大きくなってしまうだろう。
今回の事件についても、コインチェック社の何が問題であり、何が問題ではなかったのかを明確にする必要がある。
経営陣が若いことや金融業界の経験がないことは事件に直接的な関係はないし、コールドウォレットについても、実際に技術的難易度が高い部分はあるという指摘が出ており、こうした点を冷静に把握することが求められる。
しかし、もしメディアが、経営陣に対して事件と関係がないトピックを面白可笑しく書き立てたり、仮想通貨を詐欺や胡散臭いものの象徴として取り上げたりしまっては、彼らが有意義な企業やテクノロジーを潰してしまう先鋒になりかねない。
特に仮想通貨のように法整備すらままならないものが、急速に広まっていったことで、一般消費者のリテラシーが追いつかないまま、巨大マーケットが誕生している。
一般消費者に複雑なテクノロジーを分かりやすく説明する役割を持つメディアに適切な人材がいないことで、両者の間にある溝がますます深まってしまうリスクを生んでいるのだ。
求められる双方のアップデート
コインチェック社の会見は、テクノロジー業界に課された責任が急速に大きくなっている事実と、メディアに専門知識を持った人材が欠如しているという事実が、大きな摩擦を生み出す可能性を予感させた。
筆者は新たな技術やテクノロジーこそが社会を前進させ、思いもよらないポジティブな変化を生み出すものだと信じている。
これまでであれば、そうしたテクノロジーを素早く社会実装し、社会を「ハック」することで変化が生じたかもしれない。
だが、その影響力が大きくなってきた昨今、社会との軋轢を避け、適切なコミュニケーションを取ることは欠かせないプロセスになるだろう。
仮想通貨という新たなテクノロジーが、適切に社会に溶け込み、予想外のポジティブな変化を生み出すためには、テクノロジー業界とメディアの双方が、そのプロセスを滑らかにおこなうべく、互いに理解を深めアップデートをおこなう必要があるのだ。
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民125掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民125掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。