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デジタル通貨を中央銀行が発行?議論過熱も主要国が慎重な理由
http://diamond.jp/articles/-/156662
2018.1.26 加藤 出:東短リサーチ代表取締役社長 ダイヤモンド・オンライン
日米欧の主要3中央銀行が紙幣を全廃するという事態は、しばらくなさそうだ Photo:iStock/gettyimages
ビットコインなど仮想通貨の相場に世間の注目が集まる中、国内外の多くのマスメディアが昨年来、中央銀行によるデジタル通貨発行の議論をたびたび報じている。
ただし、その中には実際以上に雰囲気を盛り上げ過ぎている記事が結構ある。一部の新興国は別にして、金融インフラが整備されている先進国の中央銀行の場合は大半が、中銀デジタル通貨の研究を始めたものの、導入を急ぐ予定は今のところないという、ローキー(控えめ)のスタンスでいる。
この議論に立ち入る前に、まずはデジタル通貨の定義を整理しておこう。物理的な形態を有しない電子的なマネーをデジタル通貨という(銀行預金や日本銀行当座預金も事実上それだが、ここでは含めない)。日常生活になじみのあるデジタル通貨といえば、日本には鉄道会社系電子マネーや小売業者系電子マネーなどが存在する。
中国ではアリババ系のアリペイ、テンセント系のウィーチャットペイ、スウェーデンでは銀行系のSwishが普及している。それらは各国の中央銀行が発行した通貨と常に1対1の交換関係にある。
ただし、それらの運営団体が破綻したら、預けたお金が返ってくるかどうかは状況次第となる。
中央銀行がデジタル通貨を発行すれば、それを保有する人はその中央銀行に対して請求権を持つ。つまり、前述の民間デジタル通貨よりも安全性は高い。中銀デジタル通貨は、民間デジタル通貨と補完関係になれるかどうかといった観点から議論がなされている。
他方でビットコインなどの仮想通貨は、中央銀行が発行した通貨とは無関係だ。通貨発行の独占権を各国で得ている中央銀行と本質的に対立関係にある。また、個人の資金決済において仮想通貨が高い比率を占めている国はまだない。
一方、スウェーデンの中央銀行であるリクスバンクは、中銀デジタル通貨を熱心に研究しており、開発の是非を年末までに決める。電子決済の普及が世界最速で進む同国では、現金流通のための民間インフラが遠からず消滅すると予想されている。そうなると、ATM(現金自動預払機)は消え、銀行にも紙幣はない状況になる。
そこでもし大規模な金融システム危機が発生し、民間デジタル通貨を運営している金融機関の経営が傾いたら、国民は預けていた資金を安全な資産である現金に変換できなくなる(人々がお金を外国の優良銀行に送金すれば、為替レートは大暴落する)。
国民が誰でもアクセスできる中銀デジタル通貨があれば、そういった事態は回避できる。また、現金が消えることを心配している高齢者などに対して、使い方が難しくない新しい形態の通貨を用意すべき、という議論も見られる。
ただ、中銀デジタル通貨は複雑な問題を抱えている。英国の中央銀行であるイングランド銀行のマーク・カーニー総裁は先月、中銀デジタル通貨は信用力が高いだけに「電子取り付け騒ぎ」を増幅させ、危機を煽ってしまうと述べた。また、中央銀行が個人の金融資産を預かっても、それを運用する能力はない、と説明している。
デンマーク中央銀行も、中銀デジタル通貨は金融システムを不安定化させ得る、との声明を発表した。米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、日銀も今はまだ慎重だ。今後の議論の変遷に注目していく必要はあるが、それら主要3中央銀行が紙幣を全廃することは、近い将来には起きそうにないといえる。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
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