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国家破産は、これさえ守っておけば全然怖いことではなかった 慌てる必要はありません
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54159
2018.01.19 橘 玲 作家 現代ビジネス
アベノミクスという神学論争の結論
『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル』(ダイヤモンド社)を書きはじめたのは2012年12月で、「強い日本経済を再生する」と宣言した安倍晋三自民党政権の誕生で、日本には「株価や地価が上昇するのでは」という期待と、「なにかとてつもなくヒドイことが起きる」という不安が交錯していました。
安倍首相が信奉する経済政策すなわちアベノミクスは、どんな手段を使ってでも日銀に年率2%のインフレを実現させる、というものでした。
その後実施された史上例を見ない大規模な金融緩和(リフレ政策)の効果については、経済学者のあいだではげしい論争(というか罵り合い)が起きました。
ある高名な経済学者は、「日銀が市場に大量のマネーを供給しさえすれば日本経済は復活し、経済成長による増収によって財政問題も解決に向かう」と主張し、それに対して別の高名な経済学者は、「デフレは日本経済の構造的な問題で、日銀はすでにじゅうぶんすぎるほど金融緩和をしており、これ以上なにをやっても効果はない」と反論しました。
なかには、「いずれ国債が暴落して財政が破綻し、ハイパーインフレになる」と警告する経済学者もいました。
アベノミクスによって私たちは早晩、この「神学論争」の決着を見ることになるはずでしたが、実際のところはどうなったのか──。そんな問題意識から、今回、『国家破産はこわくない』(講談社+α文庫)として文庫化することにしました。
国家破産は乗り越えられる
親本の発売(2013年3月)当時はギリシアが国家破産寸前に追い込まれ、地中海の島国キプロスはそのギリシアに多額の融資をしていたことで財政破綻し、実質的な「金融封鎖」に追い込まれました。
島内の銀行は2週間にわたって閉鎖され、顧客は預金を引き出すことができなくなり、EUによる支援の条件として10万ユーロ超の預金に9.9%、それ以下の金額に6.7%が課税されることが発表されて大騒動になりました(その後、修正のうえ大口預金者のみが負担)。
そのころ日本では、「このままではギリシアやキプロスと同じことになるのではないか」との不安が広がりました。そのため親本は「資産防衛」を前面に出したタイトルにしたのですが、文庫化にあたって、当初予定していた『国家破産はこわくない』に戻すことにしました。
お読みになっていただければわかるように、本書は「国家破産」をいたずらに煽るものではなく、私の主張は「個人の努力ではどうしようもない戦争や内乱とちがって、経済的混乱は適切な対応によって乗り越えられる」ということです。
結局、インフレは無理だった
一般的に資産運用関係の書籍は、株式や為替市場の変化によって文庫化に適さないのですが、『国家破産はこわくない』では親本の記述をほぼそのまま踏襲しています。これは私に先見の明があるということではなく(そうだったらよかったのですが)、本書が前提としている経済条件がほとんど変わっていないからです。
日銀の黒田東彦総裁は「2年で2%の物価上昇」をコミットメントし、大規模な金融緩和に乗り出しましたが、5年ちかくたった現在(2018年1月)でも物価が上昇する兆しはなく、リフレ派が強硬に主張していた金融緩和政策ではインフレを起こすことができないことが事実によって証明されました。
コミットメントとは「結果がともなわなければ責任をとる」ことで、リフレ派の経済学者は白川方明日銀前総裁を「デフレ脱却にコミットしない」と罵倒していましたが、黒田総裁はもちろん「リフレ派の首領」と呼ばれて副総裁に就任した経済学者も、自身のコミットメントが達成できなくても責任をとる気配は毛頭なく、任期をまっとうするつもりのようです。
近年の心理学は、「高い知能は現実を客観的に認識して正しい判断をするのに役立つのではなく、そのもっとも重要な機能は自己正当化である」ことを明らかにしましたが、これはそのことがとてもよくわかるケースでしょう。
国民の「満足度」は高いけど
その一方で、幸いなことに、一部の経済学者や財政学者が警告していたような国債の暴落や財政破綻も起きていません。そればかりか少子高齢化による人手不足もあって、失業率は2.8%とほぼ完全雇用の状態で、求人倍率は1.52倍でバブル最盛期を上回り、大学生の就職内定率も9月時点で9割を超えています。
その結果、内閣府の調査(2017年8月)では、現在の生活に「満足」とこたえたひとが73.9%と過去最高になりました。
アベノミクスの5年後の評価は、「金融緩和は効果なかったものの、景気回復にはそれなりの成果はあった」ということになるでしょう。
そうはいっても、このまま将来もずっと安泰とはとうていいえません。
リフレ派が妄想していたような「日本経済大復活」は難しそうで、超高齢社会で社会保障費が膨れ上がっていくにもかかわらず消費税増税は先延ばしされ、増税してもその財源は借金返済に使わないというのですから、今後も日本国債への高い信頼が維持できると考える(まともな)経済学者はほとんどいないでしょう。
日本国の税収は歳出の半分以下しかなく、毎年借金が増えていきます。2000年には約650兆円だった国の借金は、14年には1000兆円を超えてしまいました。消費税率を10%に引き上げたとしても焼け石に水で、このままでは債務はとめどもなく膨張してしまうでしょう。
それに加えて、「金融緩和に効果がないなら政府債務をさらに拡大して無理矢理インフレにしろ」という、マッドサイエンティストのような主張をする学者も出てきました。私たちはいまだに、いつ日本国の財政が行き詰まり、国債が暴落し急速な円安が進むかわからない崖っぷちの狭い道をおそるおそる歩んでいるのです。
危機はいずれ、現実化する
財政赤字というのは、収入(税収)に対して支出(公共サービス)が大きすぎることです。アベノミクスによって日本経済が高度成長期並みに大復活して税収が大幅に増えたり、強大な権力を持つ政権が消費税率を20%に引き上げ、年金や健康保険、生活保護などの社会保障を徹底的にカットすれば、日本の財政は健全化するかもしれません。
私はこのような「明るい未来」を願っていますが、しかしその一方で、それを前提として人生を設計するだけの度胸もありません。
かつてユーロ危機が突きつけたのは、「構造的な問題は現実化する」という冷厳たる歴史法則です。
ユーロが発足したとき経済学者たちは、「各国の財政が独立したままで通貨だけを共通にする制度が持続可能なはずはない」と批判しました。しかし尊大なヨーロッパの政治家たちはその警告に耳を貸さず、「ドルに代わる基軸通貨をつくる」という政治的な野心を優先したのです。
世界金融危機の前、ヨーロッパはわが世の春を謳歌していました。イタリアやスペインは不動産バブルに沸き、多国籍企業の誘致に成功したアイルランドは「ケルトの奇跡」と呼ばれ、アイスランドは銀行の資産がGDPの10倍を超える“ヘッジファンド国家”となりました。
しかし、絶頂から落日までは一瞬でした。世界金融危機で「照明」が落ちてみれば、なにもかもが金の張りぼてだったのです。
日本国の財政赤字も構造的な問題で、国家が無限に借金することはできないのですから(もしそれが可能なら錬金術になってしまいます)、このままでは危機はいずれ現実化するでしょう。その影響が計り知れないものである以上、私たちは個人としてそのリスクに備えなければなりません。
ここであらかじめ断っておきますが、「国家破産」の不吉な未来を予言して人心を惑わすことは私の本意ではありません。それでも“財政ハルマゲドン”の予言者がたくさんいて、彼らの言葉にそれなりの根拠がある以上、ただ耳をふさいでいればいいというわけにもいきません。
世界金融危機が明らかにしたように、金融市場はきわめて複雑なネットワークで、因果論や確率論では未来を予測することはできません。すなわち、なにが起きるかは誰にもわからないのです。
日本には「3つのシナリオ」しかない
本書では、日本経済の近未来を次の3つのシナリオで検討しています。
(1)楽観シナリオ アベノミクスが成功して高度経済成長がふたたびはじまる (2)悲観シナリオ 金融緩和は効果がなく、デフレ不況がこれからもつづく (3)破滅シナリオ 国債価格の暴落(金利の急騰)と高インフレで財政は破綻し、大規模な金融危機が起きて日本経済は大混乱に陥る |
ここで重要なのは、経済には強い継続性(粘性)があることです。仮にBの「破滅シナリオ」が現実のものになったとしても、それは次のような順番で進行するでしょう。
第1ステージ:国債価格が下落して金利が上昇する 第2ステージ:円安とインフレが進行し、国家債務の膨張が止まらなくなる 最終ステージ(国家破産):日本政府が国債のデフォルトを宣告し、IMFの管理下に入る |
たとえ日本の財政が破綻したとしても、“危機”は第1ステージから第2ステージ、最終ステージへと順に悪化していくのですから、ある朝目覚めたら日本円が紙くずになっていた、などということはありません。
いたずらに「国家破産」を心配する必要はありません。仮に日本国がデフォルトするとしても、それまでの間に自分と家族を守るための時間はじゅうぶんに残されているのです。
だとすれば、具体的にどのように将来の経済的なリスクに備えればいいのでしょうか?
あらゆる経済的リスクは、金融市場でヘッジする(保険をかける)ことが可能です。
資産に対して最適なヘッジをかけさえすれば、「国家破産」はなにもこわくありません。本書では、それぞれのステージごとにどのような金融商品が有効かを具体的に検討しています。
詳しくは本を読んでいただきたいのですが、金融市場の正しい知識と資産運用の原則さえ知っていれば、「最悪の事態」が起きたとしてもなにひとつ慌てることはないのです。
4年半でいくら儲かったか?
最後に、親本の発売から4年半たった2017年11月時点で、本書で勧めた金融商品に投資した場合の結果をまとめておきます。
・外貨預金:1ドル=95円から1ドル112円の円安になった。年率3.6% ・日本株:日経平均が1万2000円から2万1100円になった。年率12.8% ・アメリカ株:ニューヨークダウが1万4800から2万2900になった。年率9.8%(円建てでは13.43%) ・世界株(ドル建て):ニューヨーク市場に上場するACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックスETF)が1株50ドルから70ドルになった。年率7.5%(円建てでは年率13.7%) ・世界株(円建て):東証に上場する「上場MSCI世界株」が1株1200円から2000円になった。年率11.3% |
このように見ると、世界金融危機やユーロ危機からの回復の流れに乗って、リスクをとって株式に投資したひとはじゅうぶんなリターンを得たことがわかります。
それに対して、親本の発売当時に「国家破産対策」として大手証券会社などが熱心に販売していた高配当の海外ファンド(ブラジルレアルなど高金利のエマージング通貨で、高利回りのハイイールド債に投資する)は、ブラジルレアルの為替レートが2013年初頭の50円から2016年に30円を割るまで下落したように(現在は35円)おしなべて残念な結果になったと思われます。
「リスクを取りたくなければ普通預金、リスクを取るならシンプルに株価指数ETFに投資」という原則の正しさが証明されたようです。
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