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アメリカ企業内で日本人は絶滅危惧種? 起業パワー都市(その6)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/11648
2018年1月17日 江藤哲郎 (ベンチャーキャピタリスト) WEDGE Infinity
シアトルでのある朝。ビジネスマンが起きてスタバのコーヒーを口にし、出勤するとマイクロソフト製品で仕事をする。帰ってアマゾンのエコーと会話し、週末は家族でコストコへ買い物に。翌週の出張はエクスペディアで予定を立て、ボーイングの飛行機に乗って行く。これは日本でも世界中でも見られる光景だろうが、これらのブランドは全てワシントン州シアトルとその近郊が本拠地の企業だ。ここにはもう一方のコーヒー大手タリーズ、データ分析のタブロー、ストックフォトのゲッティイメージズ本社があり、不動産テクノロジーのズィローやレッドフィン創業の地でもある。テクノロジー、流通、製造、し好品、不動産などあらゆる分野でグローバル・スタンダードを輩出している都市だ。
アマゾン新本社ビル ©️Naonori Kohira
全米でアンケートをとると常に人気都市の上位にランクインするのもシアトル。以前シアトルタイムスがシリコンバレーの若手のエンジニアに「移住するなら米国内のどの都市か?」というアンケートを行ったが、同じカリフォルニア州の人気都市サクラメント(10.4%で2位)やロサンゼルス(9.6%で3位)を抑えてシアトルが12.4%で堂々1位。お隣オレゴン州のポートランドが8.6%で4位なので、計2割を超える人々が米北西部を次のステップとして考えていることになる。シリコンバレーは地代や物価が高騰し住みにくくなった事が背景だ。シアトルやポートランドは風光明媚で食べ物も美味しい事で知られるが、子供を育てる事を考えると治安や住環境の良さ、そして教育水準の高さも大きな魅力となっている。
■中国のBATもシアトルへ
シリコンバレーからシアトルへ。これら個の流れと共に大手企業の拠点開設も加速している。シリコンバレーからはグーグル、フェイスブック、セールスフォースがシアトルにAI研究開発拠点を設け、最大で4000人規模のビルを準備していることは以前書いた。さらに中国勢は百度、アリババ、テンセントの所謂BAT3社がスタートアップを買収するなどの形で進出。自動車関連ではメルセデスベンツが150人体制で拠点開設の発表がなされ、ウーバーも同様に進出を決めている。過去3年間だけで実に100社以上のグローバル企業がシアトルに開発拠点をオープンし、更に増え続けている。
地元勢を代表するアマゾンはここ数年年間1万人を超える採用を続け、昨夏は5000人のインターンをシアトルに集めたため、ホテルやAirBnBが完売になった。元々夏は過ごしやすく観光やカンファレンスのトップシーズンなのでそれに輪をかけた形だ。同社は採用した人員を完成したばかりの巨大な新社屋にも収容しきれず、第2の本社を他の都市に設置すると発表。現地では衝撃的なニュースとなったが、全米から誘致を希望する都市が次々と名乗りを上げ、200件を超す提案を受けている。AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)本社で事業開発を手掛ける中村武由マネージャーは「アマゾンでは本体のショッピング部門からAWSへの異動を希望するエンジニアが続出し、社内技術セミナーはどれも立ち見が出るほど」と話す。世界中からシアトルへと優秀な人材を呼び寄せているアマゾンの中でも社員と社屋の大移動が起きている。
ちなみに中村氏は、実は以前マイクロソフトでグローバル事業開発や人材開発を手掛けていたストラテジストで、AWSが一昨年スカウトした。ちょうどその頃アマゾンはアレクサを発表しオープン化へと大きな舵を切った頃で、同氏の様なエバンジェリズム(標準化の為の普及活動)のノウハウに長け事業開発もできる人材は引く手数多だ。
州政府商務省担当官と話すと、現在5万人を超えるAI開発者がシアトルに集まっていると言う。全米で、いや全世界でも他にこのような都市はない。まさにAIの首都だ。それでも人員が足りず、マイクロソフトでは在籍する2万人のC#プログラマー全員にマシン・ラーニングの教育を始めた。そのプロジェクトを本社情報システム部門で取り仕切る保坂隆太シニア・マネージャー曰く「嘗て世界中から集められたC#の使い手達ですら自身をAI仕様にトランスフォーメーションしないと生き残れない」「先端技術を理解し事業に応用するAIアーキテクトの養成も急務」。もはやAI開発者でなければいいポジションを得られない。最先端の二社の開発現場で起きている現実の出来事だ。
マイクロソフト本社ビルディング92 ©️Naonori Kohira
マイクロソフトは最近、レドモンドにある本社ビルのニュー・キャンパスの造成計画を発表した。86年に建てたビルディング1に始まり現在は125もの建物がある敷地内で、低層階のビルを全て取り壊し、5万人収容のビル群と1万人が集える広場を建設する。インド人が大好きなクリケットの競技場も予定されているのも、エンジニア人材獲得の一環だ。加えて同社は昨年、ワシントン大学と清華大学が共同で創設したGIX(グローバル・イノベーション・エクスチェンジ)に4千万ドルを寄付した。イノベーションを専門とする大学院で、企業や新技術の研究開発とプロトタイプ作成を行う為、パートナーシップの機会は世界中の企業や大学に対し開かれている。中国は習近平国家主席が記念植樹用のセコイアを寄贈する力の入れ様だ。翻ってここに日本企業や大学の関与がないのは非常に寂しい。
GIX発表の場でブラッド・スミスCOOが明らかにしたのがカスケーディア・イノベーション・コリドーだ。北はバンクーバーからシアトルを経て南はポートランドまでを高速鉄道で結び、全米屈指のイノベーション都市群を構築する。このプレゼンテーションの際、日本の新幹線の写真が使われ日本関係者の期待が一気に高まったが、これも州政府に聞いたところ「これは構想段階であり、中身がどうなるかはわからないが、インズリー知事は熱心に研究中だ」と打ち明ける。確かにマイクロソフトは国家予算規模の資金力があるものの、鉄道まで手掛けるかは夢のまた夢かも知れない。
■競争と協調を同時並行して進める2強
2017年10月26日にアマゾン、マイクロソフト両社は四半期決算を発表したが、AIを中核とするクラウド事業が躍進し両社の株価は1日で10%近くも上昇。そのため、それぞれの創業者であるジェフ・ベゾスとビル・ゲイツの持ち株評価が拮抗し、世界一の富豪が日替わりで入れかわる様が三面記事の如く報道された。豊富な手元資金を基に、これら2強の研究開発予算は各社100億ドルを超える時代に入っている。スタートアップに対し加速するM&Aは、事業より人材を買うAcquihire(Acquire+Hireの造語)が主目的だ。
無人コンビニ amazon go ©️Naonori Kohira
夏に行われたジェフ・ベゾスとサティヤ・ナデラとのトップ会談で両社は、AIの総合接続を行うことで合意した。プレス的に解り易い話としてAlexaとCortanaが相互に会話できるようになった話として伝わったが、技術的にはVisual Studioなど両社の開発環境内でGluonというAPI経由で両社のマシン・ラーニング・プラットフォームを使えるようにする。開発者にとってはまさに画期的な朗報だ。こういったオープン化に伴い、前述のAIアーキテクトの需要は増す一方だ。
競争と協調を同時並行して進める2強。グーグルを加えたいわゆるAI3強は、毎週のように新しいAI関連の新技術やサービスを発表しており、AI戦略をほぼ四半期毎に更新するスピードの速さだ。年次では毎年4月にアマゾンがAWS Summitで先陣を切り、その後Microsoft Build、Google I/Oの順に発表しパートナーの自陣への囲い込みを図っている。この3社の発表順がAWSを筆頭とするクラウドのシェア順位を反映しているのも興味深い。
大手開発会社であるSlalomやTeraweはマイクロソフトのAI開発を受託している。いわば同社のTier1パートナーであり、大量のデータ・サイエンティストとマシン・ラーニングの使い手を擁する。彼らはグローバル企業へAIを導入する際に、マイクロソフトだけではなく複数社の技術を使っている。クライアント企業が既に部分的にどこかのAI技術を使っている例が多いからでもあり、要は「良いとこ取り」ができる技能を持ち合わせている訳だ。その際AIアーキテクトはまず事業のペインポイントを理解し、Azureマシン・ラーニングやAWS SageMakerを使いこなしながら、先端技術を最適に組み合わせた形で解決策を提供する。日本企業にとっても彼らから学ぶところは多いはずだ。
シアトルではAI やIoTに関するミートアップが毎日のように行われている。そこにワシントン大学などでAIを学ぶインド、中国系の留学生も参加し、各社のリクルーターも跋扈するなど活況を呈している。そういった場で注目を浴びる存在なのが、ノースイースタン大学シアトル校の学生達だ。同大は東海岸の名門だが、なぜシアトル中心部しかもアマゾン村と呼ばれる旧社屋群のど真ん中に開校したのか? コンピュータ・サイエンス学部のディレクターであり実践的なAI講座を手掛けるイアン・ゴートン博士に聞くと「ボストンではAIの研究は盛んだが、開発スキルを教える講師を集めるのが難しい。この街はアマゾンやマイクロソフトでマシン・ラーニングを使いこなす現役のAIアーキテクトを招聘できる」と答える。「受講は中国、インド、韓国からの学生が多い。優秀な成績を収めると、すぐ2社が好待遇でリクルートして行く」とも。
地球規模で人材を引き寄せ、研究機関や企業に取り込み新たな価値を創造する。その中から起業したスタートアップはグローバル展開を目指し、それがまた人を呼ぶ。当地のAIイノベーションのエコシステムは東海岸、シリコンバレー、中国、アジアにまでニューロンの様にネットワーク化し、人と企業を惹きつけている。残念ながらそういった場面で日本人を見かけることが減ってきた。保坂氏は「日本人はマイクロソフト社内で絶滅危惧種」とこぼす。中印とは人口の差があるからとも思うが、韓国やベトナム系の優秀な研究者に会うことも増えてきた。
これはシアトルだけで見られる現象ではないだろうが、新興国からの留学生は現地で就職したり起業したりする例が増えている。インド人ITコミュニティは、オフショア受注ビジネスからの脱却を目指し起業家の輩出に注力している。第2回『”Indus”アントレプレナーシップ グローバル市場を狙うインドの戦略』で紹介したTiE(The Indus Entrepreneurship)はその代表例で、毎春サンタクララにインド人起業家など5000人以上が集結するイベントを主催する。一方で、日本からの留学生は期間終了後に母校に帰り日本の大企業に就職するケースが多くみられる。修士課程も企業の派遣で来ていると、その会社に戻るのは当然だ。これまではそういった卒業生が日の丸企業戦士となり、また世界中でビジネスをし貿易立国日本を支えてきたのは事実だ。だが競争環境が一変し、人口は減る中でどうすべきか?学生、企業、日本全体としても大きな課題だ。
シアトルで四半期毎に開催されるAIミートアップのオーガナイザーであるトム佐藤は、昨11月新たにInnovation Internship for International Student を開催した。これは留学生とスタートアップが交流しインターンのための個別面談もできるミートアップだ。多くの留学プログラムでインターン経験は必須だが、学生が限られた時間内で最適な機会を探すのは難しい。スタートアップはグローバル化に伴い日本、中国、EUなど海外市場開拓の際、言葉や文化の障壁を埋めるサポート人員を多く求めている。双方のニーズをくみ取る形で開催した第1回は、AIスタートアップの中でも日本市場への進出に際し要員確保が急務なDefinedCrowdが参加し面談と採用を行った。こういったチャレンジの場で、日本からの留学生が見られたのは良い兆しと考えたい。
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