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アマゾンは5年後、何をどこまで支配しているか?
http://diamond.jp/articles/-/155737
2018.1.13 情報工場 ダイヤモンド・オンライン
Photo:The New York Times/AFLO
視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。
アマゾンがアパレルに力を入れる理由
アマゾン(Amazon)が最近、アパレル事業に力を入れているのをご存じだろうか。
2016年、アマゾンはウィメンズ・アパレルのプライベートブランド(PB)「ラーク&ロー(LARK & RO)」を立ち上げ、欧米のアマゾンプライム会員限定で販売を開始した。
米モルガン・スタンレーによると、2016年のアマゾンのアパレル商品の売上高は、なんとウォルマート・ストアーズに次ぐ全米第2位なのだそうだ。
さらに2017年には、米国のアマゾンプライム会員限定で「プライム・ワードローブ(Amazon Prime Wardrobe)」というサービスも始めた。これは、ユーザーが自宅で商品を試着できるというもの。気に入らなければ、7日以内なら送料無料で返品できる。
だが、上記2つの新事業のリスクは小さくないはずだ。アマゾンのPBは、これまでアマゾン経由で商品を販売していたブランドとの競合が避けられない。へたをするとアマゾンから撤退するブランドも出てくるのではないか。プライム・ワードローブは返品コストを全額アマゾンが負担しなければならない。
アマゾンは、こうしたリスクを承知の上で、アパレル事業を拡大しようとしている。なぜだろう?
『アマゾンが描く2022年の世界』
田中 道昭 著 PHP研究所
301p 1700円(税別)
その答えは、本書『アマゾンが描く2022年の世界』で分析、解説されるアマゾンの描くビジョンや長期戦略を理解することで見えてくる。
著者の田中道昭氏は立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授。企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップを専門とし、シカゴ大学経営大学院でMBAを取得している。また、株式会社マージングポイント代表取締役社長として、多業種を対象とするコンサルティングの実務にも携わる。
創業時からの「戦略目標」を貫くアマゾン
本書には、アマゾンCEO兼共同創業者のジェフ・ベゾスが、同社を起業する際に紙ナプキンに書いたというビジネスモデルを表す図が掲載されている。これはアマゾンの現在の戦略を理解するのにも大いに役立つ。
この手書きの図には、中心に「Growth(成長)」と書かれた円がある。そしてその周囲に「Selection(品揃え)」「Customer Experience(顧客の経験価値)」「Traffic(トラフィック)」「Sellers(売り手の数)」という4つの単語があり、この順番に「→」でつながれ循環している。
多くの商品を取り扱い「品揃え」を増やすことで顧客の選択肢が増えると「顧客の経験価値」が増し、満足度を上げることができる。すると「トラフィック」が増える。
すなわちアマゾンのサイトに人が集まってくる。多くの人が集まるサイトには、「そこで売りたい」という業者が寄ってくる。それによって「品揃え」がさらに増える。こうした好循環が「成長」に結びつく。
以上がこの図の意味するところであり、アマゾンの創業時からの戦略目標に他ならない。
「顧客の経験価値の向上」は、Amazon.comでの買い物に付随する、顧客のあらゆる経験が対象となる。例えば「サイトが見やすかった」「良い商品が安かった」「他の顧客のレビューから貴重な情報を得られた」といった経験だ。「配送が迅速で、しかも無料だった」というのももちろん含まれる。
アマゾンは、これまでに「顧客の経験価値」を高めるさまざまなイノベーションを実現している。
経験価値、すなわち顧客がどういう経験に価値を見いだすかを判断するには、顧客について詳細に知る必要があるだろう。田中氏は本書で、アマゾンがその手段として「ビッグデータ×AI」という先端技術をフル活用していることを指摘している。
「この商品を買った人はこんな商品も買っています」といった「リコメンド機能」が、その代表といえる。
アマゾンは顧客の属性や行動履歴、購買履歴などのビッグデータをAIを使い徹底的に分析することで、顧客の特徴や顧客同士の類似性、商品同士の類似性や関連性などを判断している。これはたくさんの顧客と、さまざまな売り手による多彩な商品が揃っていてこそ実現するものだ。
そしてそれにより個々の顧客にカスタマイズ(最適化)された情報を届けられ、顧客の満足度を高められる。
アパレルは、顧客のカスタマイズニーズが大きい領域だ。時間帯や出かける場所、その日の気分などによって選ぶ服は変わる。
つまりアパレルは、アマゾンの「カスタマイズできる」という強みを存分に生かせる事業領域なのだ。アマゾンのアパレルへの進出を唐突に感じた人もいるかもしれないが、同社のそもそもの戦略を理解すれば、アパレルがさらなる成長のための新たな打ち手として選ばれたのも頷けるはずだ。
アレクサ搭載のデバイスが実現する未来とは
2017年にアマゾンは「アマゾンアレクサ」というAI(人工知能)音声認識システムによるサービスの提供を始めた。
たとえばアレクサはスマートスピーカー「アマゾンエコー」に搭載されている。アマゾンエコーは、ただ話しかけるだけでアマゾンでの買い物ができるだけでなく、好みの音楽を選択して流してくれたり、知りたいであろうニュースやスポーツの結果、天気予報などの情報を音声で伝えてくれる。
アマゾンアレクサはサードパーティーにも積極的に提供されている。アレクサを搭載したり、その機能を利用する家電製品やIoT(モノのインターネット)製品は、2017年1月の時点ですでに700以上もあるそうだ。
例えばアレクサ対応のLinkJapan社のeRemote miniというIoTリモコンは、家庭内にあるさまざまな機器のリモコン機能を代替する。これがあれば「アレクサ、テレビをつけて」などと言うだけで、テレビやエアコンの操作ができる。
先に紹介した紙ナプキンの図を思い出してほしい。その中の「Sellers」、すなわち「売り手の数」を「(サードパーティーの)デバイス提供者の数」と読み替えると、アマゾンがアレクサでやろうとしていることが見えてくる。
つまり、IoTリモコンのような、アレクサを利用するデバイスの提供者が多くなればなるほど、サービスの「品揃え」が増える。それによってユーザーが「できること」のバリエーションが広がれば、「顧客の経験価値」が向上するのは間違いない。
しかもそれらのデバイスがキャッチした顧客の情報はアレクサを経由してアマゾンに流れる。アマゾンは自社のサービス以外からも顧客の行動履歴や好みなどの情報を入手できるのだ。そしてその情報はビッグデータになり、アマゾンによる「カスタマイズ」された情報提供に使われる。
こうしたビジネスモデルは、今後、情報やサービスだけでなく「モノ」にまで発展していきそうだ。
IoTに関する議論の中で「マスカスタマイゼーション」という言葉を最近よく耳にする。コンピュータやAIを使って、大量生産に近い生産性を保ちながら、個々の顧客のニーズに合う商品やサービスをオーダーメイドで生産することを指す用語だ。
アマゾンはアレクサをベースにしたマスカスタマイゼーションに足を踏み入れようとしているのかもしれない。その手始めとしてアパレル業界に進出したようにも思える。
アマゾンは、2017年にアレクサを搭載した「Echo Look」を発表している。このカメラ付きデバイスは、ユーザーが撮影した写真をもとに、どのファッションが似合っているかをアドバイスしてくれる。
この延長線上に、「Echo Look」が集めた情報をもとに似合う服をAIがデザインして生産するような未来を描くのは、比較的簡単ではなかろうか。
同様のことが、今後さまざまな業界で起こるとしたら。
おそらくほとんどのメーカーやサービス提供者は、個別の顧客の意向をビッグデータやAIで予測する技術を磨き上げてきたアマゾンに追いつけない。ということは、世の中のほとんどの情報がアマゾンを経由してマーケティングや情報提供、サービスに生かされるようになる可能性だってある。
そうなる前に、本書でアマゾンの長期的な戦略をよく理解し、自社がすべき対策を講じ始めたほうがいいかもしれない。
(文/情報工場シニアエディター 浅羽登志也)
情報工場
2005年創業。厳選した書籍のハイライトを3000字にまとめて配信する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP(セレンディップ)」を提供。国内の書籍だけではなく、まだ日本で出版されていない、欧米・アジアなどの海外で話題の書籍もいち早く日本語のダイジェストにして配信。上場企業の経営層・管理職を中心に約8万人のビジネスパーソンが利用中。 http://www.serendip.site
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