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日本経済がデフレ脱却間近である「証拠」を示そう 株価好調の理由は米国株高だけではない
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54105
2018.01.11 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
日本経済を支える柱
いよいよ2018年が始まった。日経平均株価は2万4千円台に向かって力強い動きをみせており、年初の株式市場は順調にスタートした。
日々、ニュースを追いかけながら株価をみていると、年末から今年初めにかけての日本株の上昇は、米国で大型減税法案が成立したことによる米国株高の効果のような印象を強く持つが、昨年終盤以降、日本企業を取り巻く環境が好転し続けていることも株価好調の理由なのではないかと考える。
昨年12月8日に発表された2017年7-9月期の実質GDP成長率の2次速報値は、前期比年率換算で+2.5%と1次速報値の同+1.4%から上方改訂された。この1.1%ポイントの上方改訂幅のうち、民間設備投資の寄与が0.8%ポイントを占めた(寄与率だと73%程度となる)。
GDP統計をみると、2014年4月の消費税率引き上げ以降、国内の最終消費支出は低迷したままである。さらに、足元(2017年7-9月期)には、日銀によるマイナス金利政策開始以来拡大してきた住宅投資に息切れ感が出てきた。
家計部門の経済活動の停滞の一方で、企業部門は息を吹き返し、経済活動が活発になってきた。特に、設備投資は2016年10-12月期から4四半期連続の前期比プラスで推移している。
昨年の4-6月期からは、非製造業の設備投資拡大が顕著になってきている。この多くは人手不足対応の省力化投資(業務効率改善のためのIT投資なども含む)であると推測される。これに加え、アジア(特に中国)向けの電機、資本財の輸出も大きく拡大しており、設備投資と輸出が日本経済を支える2本の柱となっている。
「予想インフレ率」の上昇が意味するもの
このような設備投資の拡大を支えているのは、「実質金利」の低下であると思われる。ただし、ここでの「実質金利」とは、金融機関の新規の平均貸出約定金利から企業の「予想インフレ率(ここでは、企業の将来の販売価格の見通しから算出)」を引いたものである。
この「予想インフレ率」を用いた実質金利は(実質)設備投資の伸び率とかなり高い逆相関関係にある(図表1)。すなわち、「実質金利」の低下が設備投資の伸び率の上昇をもたらしているという状況が長期間にわたり、かなり明確に現れている。
この「実質金利」の低下は、日銀のマイナス金利政策による金融機関の平均貸出約定金利の低下も寄与していないことはないが、その大部分が「予想インフレ率」の上昇によるものである。
ところで、ここでの企業にとっての予想インフレ率は、「自社の製品・サービスの販売価格」の見通しをもとに筆者が推計したものである。具体的には、日銀短観における「販売価格判断DI」のデータを使用している。そして、この日銀短観の「販売価格判断DI」は、企業経営者が自社の販売価格戦略について、3択で答えたものを集計したものである(翌四半期に自社製品・サービスの販売価格を引き上げる予定か、引き下げる予定か、横ばいで据え置く予定か、という3択)。
予想インフレ率の議論をする場合、「企業が将来のインフレ率を予想して企業行動を決める訳がない」という批判を度々聞くが、企業にとって、自社の製品・サービスの価格をどのように設定するかは、売れ行き(消費者の需要)やマージン(利益率)を決める最も重要な経営戦略である。
自社の市場環境について、なるべく多くの材料を集めながら、自社製品・サービスの価格を如何に設定するかが、企業の存亡の鍵を握るのは言うまでもない。ここで用いる「予想インフレ率」は、このような個別企業の経営戦略の集計値と位置づけられ、日本経済全体の動向を考える上でも極めて重要な数字であると筆者は考える。
そしてこの「予想インフレ率」の動きは、2013年の4-6月期に底入れ反転して以降、2014年4-6月期までは順調に上昇してきた。だが、2014年7-9月期以降、低下に転じ、2016年7-9月期までは低下基調で推移してきた。
その水準は過去のデフレ局面と比較すると、マイナス幅はそれほど大きくなく、「デフレに逆戻り」というほどの低下ではなかったが、2014年7-9月期以降、明らかにデフレ解消の動きは鈍っていた。ところが、2016年10-12月期以降、「予想インフレ率」は再び反転し、上昇過程に入っている。これは、日本経済の先行きを考える上で好材料である(図表2)。
デフレ脱却はもうすぐそこ?
次に、日銀短観の「販売価格判断DI」の回答別の構成比をみてみる。
DIは、販売価格を引き上げると回答した企業数(の割合)から販売価格を引き下げると回答した企業数(割合)を引くことで求められるが、それぞれの回答割合にも重要な情報が含まれている可能性がある。
そこでそれぞれの回答数の割合をみてみると、直近(2017年10-12月期)では、販売価格を引き上げると回答した会社の割合は11%、販売価格を引き下げると回答した会社の割合は10%であった。
販売価格を引き上げると回答した会社の割合も過去と比較して高まってきてはいるが、より顕著なのは、販売価格を引き下げると回答した会社の割合が大きく低下し、デフレ局面では最も低い値となった点である。この割合は日本経済がデフレに陥る以前(1990年代前半以前)の平均水準に近いところまで低下している(図表3)。
これは、価格を引き下げることで売上高を伸ばすというかつての安売り型の企業戦略が通用しなくなりつつある時代に入ってきたことを示唆するものであり、日本経済がデフレ脱却間近のところまで来ていることを示している。
また、非常に興味深いことに、この「予想インフレ率」の動きは、株価の動きとも似ている(図表4)。両者の間には因果関係は存在しない(正確にいえば、お互いがある一定の距離感を保ちながら動くという「共和分」の関係にある)が、少なくとも、予想インフレ率が上昇を続ける局面では株価も同様に上昇過程を続ける可能性が高いことを示唆している。
設備投資と雇用のバランス
そこで、以上のように、「予想インフレ率」が2016年10-12月期以降、何故、上昇に転じたかである。上昇したタイミングとそのときの経済状況を考え合わせると、第一の候補は、「トランプ旋風」である。
2016年の米大統領選において、トランプ旋風が巻き起こって以降、大型財政政策出動の期待から米株高・ドル高が実現した。これにともない、日本株も低迷を脱し、上昇過程に入った。特に、日銀による「マイナス金利政策」実施以降、高まっていた円高圧力がこれをきっかけにほぼ払拭された点は、予想インフレ率の形成上も大きな効果があったのではないかと考える。
第二の候補は、「イールドカーブコントロール政策」である。2016年9月に導入が決定されたこの政策によって、政策金利だけではなく、10年国債利回りまでの長期金利がマイナスからゼロ近傍の超低金利状態に固定されたことが緩和効果を生んだ可能性は否定できない。
家計消費ばかりに目が向かうと、マイナス金利政策以降、金融政策の効果は全くないようにみえるが、ひょっとしたら、「イールドカーブコントロール」は、予想インフレ率と株価を引き上げることで設備投資の回復に一役買っている可能性もあるのではないか。
ドル円レートは、1ドル=115円を超える円安にはなかなかならないが、それでも予想インフレ率と株価は上昇し続けている。つまり、このところの予想インフレ率と株価の上昇は米国、及び為替要因では説明しにくい。
その意味で、筆者は、従来は「イールドカーブコントロール」の効果については懐疑的であったが、株高という「資産効果」を通じて実体経済に影響を与えた可能性があると考え始めている。特に、株高が「トービンのQ」を通じて設備投資を拡大させるというルートはリフレ政策の1つの波及経路である。
また、最近の消費動向をみると、可処分所得との連動性は薄れているが、株価、もしくは潜在キャピタルゲイン(これは、資金循環勘定の「調整」で示される)との連動性を高めているようにみえる(ただし、サンプル数が少ないため、実証的な検証はまだできておらず、「可能性」にとどまる点は留意いただきたい)。
2018年の日本経済にとって、設備投資は人手不足にともなう労働コスト上昇圧力を低減させるキーファクターである。もちろん、企業は利益拡大を賃上げという形で労働者に還元させることは大切だが、賃上げ圧力が高すぎると収益圧迫要因となり、再び、雇用抑制姿勢を強めることになりかねない。
設備投資と雇用がほどよいバランスで拡大していくのが日本経済にとって理想的な姿であり、ここまではこの理想的な姿に向かって進みつつあるようにみえる。そして、それが、現在の株高を支えていると考えられる。
日本経済にとっては、この「好循環」をしばらくの間は続けていくことが重要であり、経済政策の「正常化(=出口)」を焦るあまり、余計なノイズを与えるような政策変更を行うべきではないだろう。
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