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リーマンショック前と酷似する日本経済の問題はコレだ 内需主導の自律的な景気回復が始まるか
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54081
2018.01.11 竹中 正治 龍谷大学経済学部教授 現代ビジネス
2018年の日本経済は、「朝鮮半島での有事」というリスク要因はあるものの、安倍政権下での景気回復が続く見込みだ。
そうなると景気回復の期間は73か月となり(前回の景気の谷は2012年11月)、低成長ながらも戦後最長だった2002年1月から08年2月までの景気回復期と並ぶ長さになる。
しかし長い景気回復にも係らず、現下の景気回復は2000年代同様の重大な弱点を孕んでいる。そのため、再び世界景気の回復が頓挫すれば大きな後退を余儀なくされよう。そうした脆弱性とその原因についてご説明しよう。
3つの期間に分かれる現下の景気回復局面
まず、過去5年間の景気回復の道のりは一様ではなく、3つの期間に分けて見るのが妥当だ。それを理解するために、実質GDP成長率とそれを構成する各項目の寄与度に分けた図1をご覧頂きたい(全て年率%で記載、各項目の寄与度を合計するとGDP成長率になる)。
第1期は2013年1月から14年3月までのアベノミクス・ジャンプ・スタート期である。政策の「レジーム・チェンジ」に金融・資本市場の参加者が反応し、急激な円高修正と株価上昇が起こり、実質GDP成長率は3.1%と高くなった。
項目別寄与度を見ると、民間最終消費がプラス2.3%、民間企業設備投資がプラス1.1%で民間内需主導の良い形となっている。
株価急上昇によるプラスの資産効果(資産価格の上昇で消費が増える効果)、円安による製造業の利益回復と設備投資の上方修正、消費税率引き上げ前の駆け込み需要などが働いたが、ミニ不況だった2012年からの反動増という側面もあった。
第2期は2014年4月から15年12月までの景気足踏み期間であり、14年4月の消費税率引上げで消費は反動減となった(寄与度−1.3%)。消費の落ち込みは前年同期比で見ると15年3月まで続いた。
これに加え、中国の経済成長が目立って鈍化し、国際資源価格の急落でロシアやブラジルなど資源依存度の高い大型新興国もマイナス成長となった。
海外需要の縮小を感じた日本企業は設備投資の見送りなどに動き、実質GDP成長率は平均0.1%のマイナスに転じた。
純輸出(輸出−輸入)の寄与度が0.6%とプラスになっているが、これは14年4〜6月期の純輸出寄与度が輸入減で4.1%と突出したためであり、これを除くと純輸出寄与度はプラス0.1%に過ぎない。
2000年代の景気回復と酷似のパターン
第3期は2016年1月から現在に至るまでの期間であり、実質GDP成長率は1.7%に回復した。寄与度では民間最終消費プラス0.5%、民間企業設備投資プラス0.4%、純輸出プラス0.9となっている。
筆者はこの第3期の平均成長率が概ね2018年も続くと見ているが、特に注目すべき点が2点ある。
第1に、海外景気の回復を受けて純輸出の寄与度が、プラス0.9%と高まっている。第2に雇用の増加で実質雇用者報酬(勤労者の実質総所得)の伸びがプラス2.3%と1期目や2期目と比べてずっと高くなっているにもかかわらず、民間最終消費の伸びの寄与度はプラス0.5%(年率伸び率はプラス0.9%)と穏かなものにとどまっている。
実は、この第3期の景気回復パターンは、2002年から07年の景気回復期のパターンと酷似している。
図1に併記した2000年代の回復期と比べると、双方の実質GDP成長率はプラス1.7〜1.6%であり、主要項目の寄与度を見ると民間最終消費はプラス0.5〜0.6%、民間企業設備投資は0.4%、純輸出はプラス0.9〜0.8%である。
まるでこれは何かの啓示ではないかと思いたくなるほど酷似しているではないか。
リーマンショック後の落込みが米国の2倍以上のわけ
同じパターンであることの何が問題か。
2008年のリーマンショックで起こったことを想起しよう。言うまでもなく金融危機の震源地は米国だった。米国の2008年〜09年の実質GDPの落込みは2年累計でマイナス3.1%である。
日本では欧州とは異なり金融面での米国からの危機の伝染はマクロ的には軽微だった。それにもかかわらず、日本の2008年から09年のGDPの落込みはマイナス6.5%と米国の倍以上となった。
この時、米国では失業率がピーク時10%台まで跳ね上がった一方、日本では景気対策で雇用維持の補助金などを大判振る舞いしたおかげで、3.6%からピーク時5.5%への上昇で済んだ。しかし、不況で失われたGDPや国民所得の変化は、日本の方がずっと大きかったわけだ。
なぜそのようなことになったかというと、日本のGDP成長率の半分が純輸出の寄与で占められていたからだ。逆に言えば民間最終消費の寄与度が小さいという景気回復パターン自体が原因だ。
つまり海外需要が落ち込むとGDP全体が大きく落込むのだ。また日本の民間企業設備投資は輸出の伸びと連動する傾向が強く、海外需要の減少→輸出減少→設備投資減少という経路もGDPの落込みに拍車をかける。
こうした日本の景気回復パターンと対照的なのが米国である。図1の右端に示した通り、米国の2000年〜16年の平均実質GDP成長率は2.0%で、民間最終消費の寄与度が1.6%と成長率の8割を占める内需依存型だ。リーマンショック後の景気回復期もこのパターンは変わっていない。
要するに、日本は再び海外景気が何かの事情で失速すれば、目立った景気後退を余儀なくされるという非自律的な回復パターンから抜け出せていない。しかもこのままだと次の景気後退時には、金融政策面でも、財政面でも効果的な対策を打つ余裕がほとんどないという事態になりかねない。
何が自律的な景気回復を阻んでいるのか
では、何が日本の自律的な景気回復を阻んでいるのか。ひとことで言うならば、民間企業部門の過剰な貯蓄超過である。図2をご覧頂きたい。
これは日本の主要部門(家計、非金融法人、金融機関、一般政府、海外、その他)の年間の資金過不足の推移を示したものだ(日銀資金循環表)。
マイナスはその部門の資金収支が不足で資金を調達していること、プラスは資金余剰で貯蓄していることを示す。
この各部門の資金収支の変化を見ると、1990年代に起こった日本経済の構造変化が良くわかる。
まず緑で示した非金融法人部門(以下「一般企業部門」と言う)が90年代後半に資金調達超過から貯蓄超過(債務返済)に転じ、その後ずっと貯蓄超過で推移している点に注目頂きたい。
ほぼ時を同じくして赤で示した一般政府部門は資金調達超過(財政赤字)に転じ、やはりそれが恒常化している。黄色で示した家計部門は90年代までの大幅な貯蓄超過からは縮小したが、2000年代以降も貯蓄超過で推移している。青色の海外(日本以外)部門は一貫して資金調達超過であり、これは日本の経常収支黒字に対応している。
ここで注目して頂きたいのは、90年代を境に一般企業部門と政府部門の資金過不足関係が逆転し、以降それが恒常化していることである。これには主に2つの理由が考えられる。
第1に日本の企業部門はバブル期の過剰投資で90年代に過剰債務を抱え、その調整のための債務縮小(=貯蓄超過)が90年代後半から起こった。不況で資金繰りが苦しかった時期なのに「貯蓄超過」と言われることに釈然としない経営者もいるだろうが、債務返済=貯蓄超過なのだ。
第2に90年代後半の金融危機と深刻な不況を境に企業経営者の日本経済に対する成長率見通しが低下し、設備投資を抑制するスタンスが強まった。
その結果、企業部門全体の資金過不足が貯蓄超過基調となった。そしてこの企業部門の投資抑制スタンス自体が自己実現的に日本経済の低成長をもたらすという循環的な因果関係が働いてしまっていると考えられる。
民間企業部門の過剰な貯蓄超過が元凶
経済を構成する全ての部門が貯蓄超過に走れば、需要減→生産減→設備投資減→所得減→需要減という縮小再生産のループに陥ってしまう。
ブーム期の過剰投資で企業部門が過剰債務を抱えてしまった局面では、その後しばらく企業が貯蓄超過になって債務を圧縮するのは必然的なことだ。
その間、政府部門が資金調達超過(財政赤字)になれば、需要の縮小による景気の後退を最小限にとどめることができる。これが景気循環に対する財政政策の緩衝機能であろう。
ところが日本経済の問題は、過剰債務状態がとっくに解消しても、企業部門の貯蓄超過が継続していることだ。それが勤労者家計の所得と消費の伸びを抑制し、経済全体の成長率の低下、並びに財政赤字を必然化させている不均衡の主因になっている。
さらに言うならば、一部のエコノミストの主張とは異なり、物価の変化も単純に貨幣・金融的な現象ではない。
インフレには、デマンド・プル型とコスト・プッシュ型があり、前者では企業部門から家計に所得が移転し、家計所得の増加→消費需要増加という実体経済の経路が働かないと物価は上がらない。
過去5年間の日銀の「量的・質的金融緩和」はそれを証明したとも言えるだろう。
米国でも2008年の金融危機で資金調達の危機に直面した企業が、その後の景気回復期に現預金などを増やす、あるいは債務を減らす動きは見られた。
しかし、株主の権利意識が強い米国では過剰な内部留保を企業が続けることは許されず、内部留保から設備投資を引いた残りは、配当や自社株買いの形で最終株主(家計)に還元される傾向が強い。
2018年は重大な分岐点
企業利益が史上最高を更新し、株価が上昇を遂げている現在、日本経済が消費を中心にした自律的な回復に転換するために必要なことは、もはや明白だ。
すなわち企業部門の過剰な貯蓄超過と言う不均衡が是正され、賃金や配当の形で家計への所得の移転が起これば良いのだ。
あるいは人手不足が深刻化した今日、AIの利用を始め機械化によるビジネス・イノベーションのための設備投資も有望だ。
この点で2000年代と違った希望の芽もないわけではない。図1に示した通り、2006年以降の第3期には、雇用の増加で雇用者報酬が年率プラス2.3%と高い伸びをしていることだ。
ただし1人当たり賃金(1人当たり現金給与総額)の伸び率は微弱で、ほとんどは雇用者数の増加によるものだ。景気の回復で失業率が下がり、さらに女性の労働参加率が上がり共働き世帯の増加や、高齢者の労働参加率が上がった結果である。
賃金の伸びが抑制されているためだろうか、消費者のマインドを示す内閣府の「消費者態度指数」はジリジリと改善はしているが、依然先行きには警戒的な消費者が多いのだろう。
そうした事情が2006年以降の実質雇用者報酬の高い伸び(年率平均プラス2.3%)と相対的に低い最終家計消費の伸び(年率平均プラス0.9%)という跛行的な状況を生み出していると考えられる。
こうした問題状況は現政権も理解しており、賃金と設備投資を増やした企業には法人税率を引き下げる税制面の優遇処置を打ち出している。これまで強い賃上げ要求に及び腰だった連合もようやく4%(定昇込み)を掲げ、経団連も賃上げ3%の方針を検討しているそうだ。
労働市場の流動性を高め、高い専門能力を有する人材を優遇する方向への労働規制改革が、連合などの抵抗でなかなか進まない点に歯がゆさもあるが、マクロ経済的には順風が吹いている。
この順風の局面を活かして、本当に内需主導の自律的な景気回復パターンが始まるか、あるいは海外景気依存の脆弱さを克服できないまま終わるか、2018年の日本経済はひとつの分岐点に差しかかっていると言えよう。
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