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自動車急減で都市の基本設計を見直しも…自転車シェアリング普及の衝撃
http://biz-journal.jp/2018/01/post_21903.html
2018.01.06 文=加谷珪一/経済評論家 Business Journal
「NTTドコモ HP」より
日本国内でもじわじわと自転車のシェアリング・サービスが拡大している。利用者にとっては移動の利便性が高まりうれしい限りだが、自転車シェアがもたらす効果はそれだけにとどまらない。場合によっては自動車産業や都市計画に大変革を迫るほどのインパクトをもたらす可能性がある。
■シェアリング自転車はごく当たり前の存在に
ここ1〜2年の間に、東京都心部ではシェアリング・サービスの自転車に乗る人とすれ違うのは日常的な光景となった。NTTドコモは自治体からの支援を受け自転車シェアの実証実験を以前から行っていたが、2015年には正式に法人化。すでに5000台近い自転車が稼働している状況だ。
シェアリング・サービスの利用者層は広い。地域住民と思われる人だけでなく、スーツを着たサラリーマンや外食のデリバリーとおぼしき人など、あきらかに業務に使っているというケースも多い。
スーツ姿のサラリーマンは、おそらくルート営業に従事する営業マンと考えられる。顧客への訪問頻度が高い業種の場合、営業所に自転車を準備するケースもあるが、そこまでのリソースは必要ないという業種の場合、随時自転車を調達できるシェアリング・サービスは好都合だ。
こうした動きを受けてコンビニエンスストア大手のセブン−イレブン・ジャパンとソフトバンクグループも本格的なサービスに乗り出している。両社は11月21日、自転車シェアリング事業で協業すると発表。ソフトバンクが展開する自転車シェアリングシステムの駐輪場をセブン−イレブンの敷地内に設置する方針を明らかにした。すでにさいたま市などで設置が始まっており、18年度中に首都圏など1000店舗で5000台の自転車を提供するという。
地方都市の動きも活発化している。17年の8月には、中国の自転車シェアリング大手のモバイク(摩拝単車)が札幌でサービスをスタートさせた。今後、国内の各都市にサービスを拡大していく予定だという。
モバイクは北京を拠点にシェアリング・サービスを提供しており、中国では非常に有名な企業である。中国のITサービスはQRコードを使ったものが多く、ごく簡単に利用できる。ちなみにモバイクは17年12月、LINEとの資本提携を発表しており、今後はLINEとの連携によって一気に全国展開するというシナリオも考えられる。
自転車シェアリングは、シンプルなビジネス・モデルである。事業者は安価な利用料金(ドコモの自転車シェアの場合には30分100円、最初の30分は150円。月額の料金体系もある)を受け取って自転車を貸し出すだけだ。どの自転車であっても機能に大差はないので、事業者間での差別化も難しい。アシスト付きかそうでないのかといったぐらいしか違いを出すことはできないだろう。
そうなってくると経営学でいうところの「価格優位の戦略」ということになり、低価格でシェアを確保した事業者が圧倒的に有利になる。しかも価格が安いので大幅な値引きは難しく、後発組がシェアを逆転させるのも難しい。結果的に企業体力があり、早いタイミングで参入した少数の事業者が生き残るという市場構造になる可能性が高い。
実際、自転車シェアが一気に普及した中国では、自転車シェアリング企業の倒産ラッシュになっている。シェアが高く体力のある企業だけが生き残り、その他の企業は続々と市場からの退出を迫られるわけだ。日本でも黎明期である現時点で参入した企業が、引き続き業界の主役であり続ける可能性が高いだろう。
では自転車シェアが社会に普及した場合、経済やビジネスにどのような影響があるのだろうか。筆者は想像以上に大きなインパクトをもたらすと考えている。特に自動車産業への影響は甚大だろう。
このところ自動車業界では、EV(電気自動車)シフトと自動運転の話題で持ちきりである。自動車の動力が内燃機関からモーターに変わることと、自動運転技術の発達は直接関係する話ではない。また自転車シェアとEV化の話もそれぞれ独立したものである。
だが、一連の出来事はすべて相互に関係している。社会のIT化、AI化というキーワードで地下茎のようにつながっていると考えたほうがよい。
■最終的には都市計画そのものも変貌する
自転車シェアが普及してくると都市部における移動手段としての乗用車のニーズは大きく減少することになる。冒頭にルート営業マンが自転車シェアを使うケースを紹介したが、企業の営業所が保有する自動車の数は確実に減ってくるだろう。
同じような流れでカーシェアの利用者も増えると考えられる。企業は駐車スペースのコストをより強く意識するようになり、必要最小限の車両しか保有しなくなる可能性が高い。こうした動きは、結局のところEV化や自動運転化を強く後押しすることになる。
実際、中国ではそのような動きになっている。自転車シェアが普及したことで大都市圏での自動車の利用が急速に減っているのだ。中国は国をあげてEV化を進めようとしているが、現実問題としてEV化を進めるのはそうたやすいことではない。中国政府がEV化を強行できると判断した背景には、大都市圏における自転車シェアの拡大によって、都市部の移動の常識が変わることを確信したからにほかならない。
一連の動きは最終的に都市計画にも大きな影響を与えることになるだろう。自転車シェアや自動運転が普及すると、これまで必要とされてきた広大な駐車スペースが不要となる。ビルや公共施設については、基本設計から見直しが必要となるかもしれない。
スペインのバルセロナでは、都市部の再開発に際して自動車の乗り入れを禁止したところ、不動産価格が大幅に上昇したという。再開発されたエリアには、米IT企業のシスコシステムズが3000万ドルを投じてイノベーションセンターを建設したり、米アマゾンの欧州拠点もオフィスを構えている。日本でも今後、似たような動きが出てくるかもしれない。
これまで多くの都市は、自動車の存在を大前提として設計されてきた。本来、美しい光景だったはずの日本橋を、上から覆う格好で首都高速道路が建設されている東京もその例外ではない。だが近い将来、こうした常識は180度変わっている可能性がある。自転車シェアの普及はその前段階と考えるべきだろう。
(文=加谷珪一/経済評論家)
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