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宅配便料金改定で分かった「一斉値上げ」で儲かる時代の到来
http://diamond.jp/articles/-/154626
2018.1.5 塚崎公義:久留米大学商学部教授 ダイヤモンド・オンライン
写真はイメージです
ヤマト・佐川の値上げで
日本郵便が超多忙に
日本郵便が、宅配便サービス「ゆうパック」の荷物が急増し、超多忙となっているようだ。ライバルのヤマト運輸と佐川急便がすでに値上げをしているのに対し、日本郵便が現段階で料金を据え置いている(今年3月に値上げの予定)ため、荷物がライバルから大量に流れ込んできているのだ。
とはいえ、ヤマトや佐川の荷物が大幅に減っているかというと、そうでもなさそうだ。ヤマト運輸は10%以上の値上げをしたのにもかかわらず、荷物量の減少幅は10月が1.1%、11月が5.4%にとどまっている。
つまり、業界全体としては荷物が増えているということ。3月に日本郵便が値上げをすれば、ヤマト運輸などから流れてきた荷物が元に戻る可能性もあり、結局3社が値上げをしても「荷物量は減らなかった」ということになるかもしれない。
値上げできないデフレ時代の終わり
宅配便は再値上げをすべき
値上げをしても荷物量が減らなかったのだとすれば、それは宅配便業界にとっては素晴らしいことだ。
デフレの時代には、各社が供給力に余裕があったから、「値上げをすればライバルに客を奪われてしまう」「それより値下げをしてライバルから客を奪おう」というのが各社の基本的な考え方だったのだが、そうした時代が終わりを告げたのである。
自社も値上げしなければ、ライバルから客が流れ込んできて処理しきれなくなってしまうので値上げせざるを得ないなんて、デフレ時代の企業経営者が聞いたら泣いて喜びたくなるような状況だ。「他社より値上げ幅を大きくしないと仕事が減らせない」などという夢のような値上げ競争の話は、筆者は聞いたことがない。
ここで重要なことは、「自社だけが値上げをした場合の影響」と「みんなで値上げをした場合の影響」をしっかり区別して考えることだ。
自社だけが値上げをした場合、業界全体としての荷物量は減らないので、顧客はライバルに流れるだけ。しかし、みんなで値上げをした場合には、「そんなに高いのなら、宅配便は使わない」という人が出てきて、業界全体としての荷物量は減る。問題は、「値上げ率」と「荷物量の減少率」の関係なのだ。
例えば、料金が1000円の荷物があって、800円がコスト、200円が利益だとしよう。1000円を1100円に値上げして、荷物が10個から9個に減れば、売り上げは1万円から9900円に下がる。だが、1個あたりの利益は200円から300円に増えるから、トータルの利益は2000円から2700円に増える計算だ。
ヤマト運輸の場合、10%以上値上げしても荷物の減り率は5%程度で、しかも3月には日本郵便に流れた客が戻ってくるだろうから、値上げにより利益は大幅に増えているはず。ライバルも同様だろう。
今は、「1社だけが値上げすればライバルに顧客を奪われるが、ライバルも値上げをする」「業界全体が値上げをすれば、業界全体の利益が増える」という条件が整っているのだから、再値上げをしない理由が筆者には思い当たらない。
宅配便事業者には、ぜひ再値上げをして、増えた利益で"省力化投資"を積極的に行っていただきたい。大変な重労働をしている従業員にも、賃上げで報いるとともに、高い賃金を武器に他業界から労働力を奪い取ってきて、労働者1人当たりの荷物量を減らしてあげてほしい。
人手不足に苦しむ
他業界にも波及
宅配便業界で起きていることは、他業界でも起きると予想される。
やはり人手不足だと言われている飲食店業界でも、深夜営業をとりやめようという動きが広がりつつある。これは、「過当競争をやめて労働生産性を上げよう」という大変好ましい動きだ。深夜に食事をする少数の客を、多くの飲食店で奪い合っても仕方がないし、消費者にとっても深夜は最小限の店舗だけ開店していればいい。
できれば、それに加えてメニューの値上げも行なえばいいと考える。外食産業は、ライバルが多いから、皆が追随値上げをしてくれるわけではなく、値上げすると自社の顧客が大幅に減ってしまう懸念があるので踏み切りづらいのは分かるが、誰かが勇気を持ってトライしてほしい。
でなければ、すべての飲食店が「労働力不足」と「人件費上昇」に苦しむだけだ。ヤマト運輸のような勇気のある企業が登場することを期待したい。
飲食店には、大いに稼いで、自動食器洗浄機でも購入して労働生産性を高めてほしい。従業員の負担が減るし、食洗機の売り上げも増えて景気も良くなるからだ。
労働力不足のスパイラルが
発生するメカニズムに要注目
今後の景気動向にもよるが、景気がよほど悪化しなければ、労働力不足の悪化は止まりそうにない。中長期的には少子高齢化の影響もあるが、短期的にも相当深刻化する可能性がある。
そう考える最初の根拠は、値上げに成功した業界の事業者が、他業界から労働力を奪い取ることである。それによって他業界も、労働力を奪われないよう賃上げする必要が出てくる。すでに、非正規労働者の時給は需給逼迫によって値上がりしているが、各社の"労働力確保合戦"が激化すれば、賃金は上昇速度を増していくだろう。
そして、労働力不足が深刻化して賃金が上昇すること自体が、さらに労働力不足を深刻化させるメカニズムに注目したい。
主婦のパートに関しては、年収が一定水準を超えると社会保険料負担などが生じる "年収の壁"があるため、時給が上がると働く時間が短くなってしまう。この点については拙稿「パート主婦『103万円の壁』が年末の労働力不足を深刻化している」をご参照いただきたい。
学生アルバイトについては、「時給が高いなら、もっと働こう」という学生もいるだろうが、「生活費が稼げるだけ働いて、あとは余暇を楽しみたい(勉強を頑張りたい?)」という学生も多い。後者の学生については、パートの主婦と同様、時給が上昇すれば労働時間を短くするだろう。
正社員についても、「長時間残業をさせるという噂が流れると新卒採用に際して学生が集まらないから、長時間残業を禁止しよう」といった企業が出てくるかもしれない。すると、新入社員獲得競争のために残業を削減し、日本経済全体としての労働力不足が一層深刻化したといった事態も想定される。
このように、ひとたび労働力不足が深刻化すると、さまざまなところでスパイラルが発生し、労働力不足をさらに加速させる事態が起きかねないのだ。
何でも「困った」と伝える
マスコミの報道には要注意
労働力不足とうのはネガティブな言葉だ。マスコミは、これを「困ったこと」として報道する場合が多い。しかし、実際には素晴らしいことである。 確かに、人が足りない企業は困ったと感じているだろう。だがこれは、前述の通り、デフレ時代の経営者が聞いたら泣いて喜びたいほどの状況なのだ。皆が困っている時には「みんなで値上げすれば怖くない」からだ。
労働者にとっては、文句なくありがたい状況で、「労働力不足」と呼ばずに「仕事潤沢」とでも呼ぶべきだと思う。 「仕事潤沢」により失業者が仕事にありついているし、さらに進めば、正社員になれずに非正規労働者として生計を立てている「ワーキングプア」と言われる人々の待遇も改善する。
また、中小零細企業においては、労働力確保のために賃上げをするところも出て来るだろうし、大企業のサラリーマンの賃上げは期待薄だが、サービス残業などは減るだろう。
マスコミは、悲惨な話や、残念な話の方が読者や視聴者に喜ばれるため、「困った」というスタンスの報道をしがちだが、情報の受け手は同じ事象を「よかった」と捉える努力が必要だ。
余談だが、労働力不足が賃金上昇を通じて値上げの動きにつながれば、インフレ率が2%に達するかもしれない。そうなれば、日銀にとっても喜ばしいことだろう。生活者にとってインフレは決して嬉しいことではないが、それで日本経済がうまく回り、恵まれていない人々の状況が改善するのであれば、高い見地から喜ぶこととしよう。
(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
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