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トヨタ「前代未聞の役員人事」全舞台裏レポート 69歳の相談役が副社長に就任
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53839
2017.12.22 井上 久男 ジャーナリスト 週刊現代 :現代ビジネス
社外からの抜擢、子飼いの更迭、朝令暮改の組織改編……。まさに異例尽くしの大規模人事を断行した豊田章男社長の真の狙いとは。トヨタを長年取材し続けるジャーナリストによる全内幕レポート。
滋賀大卒の「破壊屋」を登用
「こんな衝撃的な人事は見たことがない」「あり得ない人事だ」。グループ企業の役員や幹部たちがこう口を揃えるのが、トヨタ自動車が11月28日に発表した2018年1月1日付の役員人事だ。
トヨタでは役員人事は4月1日付で行うのが通例だが、これまでに経験したことがないスピードで経営環境が変化していることに対応するためとして、役員人事を一気に3ヵ月前倒しした。人事を発表するにあたって豊田章男社長(61歳)が出したコメントにその危機感が表れている。
〈 自動車業界は100年に一度の大変革の時代に入った。次の100年も自動車メーカーがモビリティ社会の主役を張れる保障はどこにもない。『勝つか負けるか』ではなく、まさに『生きるか死ぬか』という瀬戸際の戦いが始まっている 〉――。
実際、トヨタを取り巻く経営環境は厳しい。世界の2大自動車市場である中国と米国では環境規制が強まり、電気自動車(EV)シフトが加速。
トヨタがそのEV戦略で出遅れる中、ITの雄グーグルやウーバー・テクノロジーズが自動運転、ライドシェア事業へ参入するなど、自動車ビジネスでは本格的な「異次元競争」が拡大している。
強くて巨大な恐竜が気候の変化に対応できずに絶滅したのと同様に、世界で約40万人の社員を抱え、日本企業の「稼ぎ頭」であるトヨタですらも生き残れる保証はない。
今回の役員人事で最も衝撃をもって受けとめられているのが、69歳の小林耕士・現相談役が副社長に就く人事だ。
小林氏は滋賀大卒業後の1972年にトヨタに入社し、主に財務部門などを経験。同世代からは「破壊屋」「アイデアマン」などと呼ばれ、歯に衣着せぬ言動で周囲を圧倒する仕事ぶりで知られる。トヨタで部長経験後にデンソーに転じて役員に就き、'15年からはデンソー副会長の要職にあった。
そんな小林氏をめぐっては、まず今年4月にデンソー副会長を務めながらトヨタ本体の相談役に就任する異例の人事が敢行され、関係者に驚きが広がった経緯がある。
トヨタで役員未経験者が相談役に就くことはなかったうえ、相談役は原則として本体の副社長経験者以上が就くポスト。現在は社長・会長を経験した奥田碩氏、張富士夫氏らが就いている。
その小林氏が副社長に登用されたのだから、まさに異例中の異例の人事。トヨタの副社長は65歳を目途に後進に道を譲るケースが多く、小林氏はその「副社長定年」をとっくに超えている。小林氏は相談役就任後、筆者にこうも語っていた。
「俺も歳だから最後のご奉公としてあと1〜2年頑張る」
それなのに、火中の栗を拾うかのごとく副社長に就き、財務を統括するCFOとCRO(チーフ・リスク・オフィサー)を担当する。
トヨタでは賃金や部品代金の支払いなど1ヵ月に必要な資金量はグローバルで1兆円近いと言われ、CFOの仕事は言うなれば「トヨタ銀行頭取」。小林氏はそんな重責を担うわけだ。
元上司、元部下、元秘書
トヨタ元役員は言う。
「これは『小林政権』の樹立です。豊田社長を『天皇』にたとえるならば、小林君は『摂政』に就いたということ。少なくとも社長代行であることは間違いない」
さらに、小林氏はCROに就いたことで、カネの流れだけではなく、リスク管理の名目であらゆる事業に関与できる権力も得る。「小林さんは実質的に社長代行をしながら、豊田社長の後継者を育成する密命も帯びている」と語るトヨタ幹部もいるほどだ。
もちろん、これほどまでに小林氏が豊田社長の信頼を得たのには理由がある。小林氏は豊田社長が役員になる前、財務部と国内営業に在籍していた際に2度上司を務めた。そこで公私にわたって面倒を見て、創業家の御曹司として特別扱いしなかったことが豊田氏の琴線に触れたとされる。
小林氏は豊田氏の8歳年上で、きっといい兄貴分だったのだろう。小林氏も筆者に、「一緒によく遊んだもんです」と語ったことがある。トヨタ元幹部も指摘する。
「章男社長は豊田家本家の嫡流ですが、グループ会社には豊田家分家出身の役員がいます。親戚同士でモノが言いにくいことを小林氏は察して、分家の役員にずばりと意見が言えることでも章男社長の評価が高い」
そんな小林氏はグループ企業再編論者。これまでトヨタのグループ企業は大きな再編をせずとも生き残れたが、いまや世界は合併・買収によって巨大な部品メーカー(メガサプライヤー)が誕生する時代。
トヨタでもそのメガサプライヤーの脅威に対抗すべく、すでに複数の企業にまたがった事業を集約する動きが出ているが、その動きを黒子として主導してきたのが小林氏だ。
トヨタ系列では豊田合成やトヨタ紡織など内装部品を作る上場企業にも重複分野があり、トヨタ本体がその再編を仕掛けてくる可能性もあるが、その際は小林氏が陣頭指揮を執ることになる。
激動の時代には、小林氏のような「破壊屋」も求められる――。そうした意味でも、トヨタ系列の企業にはすでに「小林ショック」が走っているのだ。
また、今回の人事で専務から同じく副社長に昇格する友山茂樹氏は、豊田社長が役員になる前から部下として仕えてきた「股肱の臣」。
CV統括部長から常務役員に昇格する好田博昭氏は豊田氏の元秘書である。最近のトヨタでは豊田社長の元部下や元秘書が優遇される傾向もまた見て取れる。
「豊田章男を守る会」
そうして重用され続ける人もいる一方、側近とされながら切られる人もいるため、「子飼いと言われる人たちも、些細なことにびくびくしながら仕事をしている」(トヨタ系販売店幹部)という。
今回は側近の一人である永田理副社長(60歳)が今年4月の就任からわずか9ヵ月で事実上更迭され、監査役に退く予定。
海外経験が豊富で英語も堪能な永田氏は、トヨタが米国でのリコール騒動で揺れていた'10年2月、「レクサス」などを製造する田原工場(愛知県)の工場長から豊田社長直属のコミュニケーション改善室長に抜擢。
その後、トヨタの収益源である米国事業を仕切る北米本部副本部長(専務)として米国での日本人トップの役職に就き、今年4月に国内に戻ってきたばかりだった。
「これは病気になったか不祥事を起こしたかのような人事だが、そういう話は聞こえてこない。永田さんがこんなに早く退任する理由は謎だが、この夏ごろから社長との関係がうまくいっていないという噂が流れていた。豊田社長の逆鱗に触れたのではないか」と、トヨタ関係者は言う。
そう語られるのは、過去に最側近として仕えた秘書が突然切られたケースなどもあったためだ。
今回の人事をめぐる報道では、従来にはない社外からの人材抜擢ということが多く指摘される。
実際、三井住友銀行の福留朗裕常務執行役員を迎えてトヨタの金融事業を統括する販売金融事業本部長(常務役員)に就け、グループの豊田通商の今井斗志光執行役員をアフリカ本部長(常務役員)に起用している。
こうした人事が「適材適所」として機能することが期待される一方、前述したように側近を異常なほどに重用するのを「お友達人事」、その側近をすぐに放逐するのを「気まぐれ人事」と批判する声が上がっているのも確かだ。
「トヨタの東京本社では幹部社員が通称『豊田章男を守る会』を結成して社長に取り入る動きも出ている」(トヨタ関係者)
こうして社員の中にも側近人事のおこぼれにあずかりたい人が出る一方で、人事にはかかわらないでマイペースに仕事をこなす人の間では、「ばからしくなり、士気が落ちている面もある」(同)。
さらに、今回の人事と合わせて実施する組織改編にも、一部の社内やグループ企業から「朝令暮改だ」との批判が出ている。
たとえば、これまで副社長は会社全体に目配りして社長目線で仕事することを求めるとして、もの造り分野の社内カンパニーの担当からは外していたが、今回から副社長6人のうち3人がカンパニーを担当するようになった。
また、'13年に鳴り物入りで導入した先進国担当の第1トヨタ、新興国担当の第2トヨタという組織体制も、今年完全に消え失せた。
それだけではない。前述したように永田CFOは更迭されたが、その下にいる大竹哲也経理本部長(専務)も退任する。
経理財務のトップとナンバー2を同時に替えてしまうため、「激変の時代だからといって、これほど組織と人を目まぐるしく変えて大丈夫なのか」と、社内では将来を不安視する声も出始めている。
社員がこうして不安を募らせるもう一つの理由が、今回の組織改編で経営企画機能を持つコーポレート戦略部が廃止されることにある。
激動の時代だからこそ大所高所から会社の方向性を決める機能が必要なはずなのに、豊田社長のモットーの一つである「経営は企画するのではなく、現場で行うもの」を過度に忖度して経営企画機能をなくしてしまうのだ。
筆者は1995年10月からトヨタの経営をウォッチしてきたが、いまのトヨタの人事や組織改編が環境の変化に対応するためというのは「後付け」で、気まぐれなトップによる「迷走」に見えて仕方ない。
北米市場に異変アリ
すでにトヨタの足元には危機が及び始めている。前述のように世界ではEVにシフトする流れの中で完全に出遅れているし、EVにはトヨタが持つ世界最高峰のハイブリッド技術が転用できるのに商品化ができない。
「会議だらけで社内はまったく前に進まない」とトヨタ社員は言う。その原因は大組織だからではない。組織に忖度が蔓延り、士気が下がり、リスクを取って挑戦する社風が失われつつあるからではないか。
これまでトヨタがドル箱としてきた米国市場でも陰りが見える。12月2日に発表された米国の11月の新車販売で、ホンダは前年同月比8.3%、日産は13.9%のそれぞれ増加なのに対して、トヨタは3%の減少。
今夏に主力車「カムリ」がモデルチェンジしたばかりなのに、「レクサス」などが減少して足を引っ張った。'18年3月期中間決算('17年4月〜9月)でも北米地区の営業利益は2968億円から1411億円に半減している。
国内の消費者からも「いまのトヨタには買いたい車がない」との声が漏れる。2年前にモデルチェンジした4代目プリウスも販売計画台数に達せず、苦戦している。
現在のトヨタの姿は、オリンピックで金メダルを取れる能力がありながら、勝負に負けるアスリートに重なる。高い技術力はあるのに、それを優れた商品力に結び付ける力が不足しているのだ。トヨタが人事発表とともに出したコメントには、次のようにも書かれている。
〈 何が正解かわからない時代。『お客様第一』を念頭に、『現地現物』で、現場に精通をしたリーダーたちが、良いと思うありとあらゆることを、即断・即決・即実行していくことが求められている 〉
果たして今回の人事が、そんなトヨタの反転攻勢の一手となり得るのか。グループ全体はまだ、この人事の衝撃に揺れている――。
「週刊現代」2017年12月23日号より
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