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同業他社は顧客になると気づいたタクシー日本交通の慧眼(ダイヤモンド・オンライン)
http://www.asyura2.com/17/hasan125/msg/162.html
投稿者 赤かぶ 日時 2017 年 12 月 22 日 12:33:30: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

同業他社は顧客になると気づいたタクシー日本交通の慧眼
http://diamond.jp/articles/-/153563
2017.12.22 並木裕太:フィールドマネージメント代表 ダイヤモンド・オンライン


「スキル等を含めた自社の本質的なアセット(資産)」を点検し、それを基点にして、振り向ける先をちょっと「ずらす」だけで、「新たな何かを(無理に)得る」必要はなく、新しい顧客を獲得できる。それが「顧客ずらし戦略」の基本概念だ。日本初のタクシー配車アプリを開発したことで知られるタクシー会社「日本交通」のケースで考えてみよう。(フィールドマネージメント代表 並木裕太)



「乗客」だけがタクシー会社の顧客ではないことに、日本交通は気づいた


日本初のタクシー配車アプリを開発
「海外展開していたらUberになってたかも」


 ビジネスの形態として極めてシンプルで、かつ規制も多いタクシー業界では、新規事業によって業績を拡大させていくことは容易ではありません。しかし、タクシー会社の顧客は、実は「乗る人」だけではなかったのです。BtoCからBtoBへの“顧客ずらし”に成功した事例を今回はご紹介したいと思います。

 その会社は、日本交通。グループ車両台数約7000台を誇る、都内最大手のタクシー会社です。

 同社の3代目経営者、川鍋一朗氏(現代表取締役会長)が新たなビジネスの可能性に気づいたのは、2011年のことでした。業界の先頭を切って、スマホからタクシーが呼べる配車アプリの開発に着手、1月に『日本交通タクシー配車』としてリリースします。

 川鍋氏は反響の大きさに驚いたといいます。

「すぐにTwitterを通して拡散していきました。その頃は東京限定のサービスでしたが、地方のお客様や、海外からも、『私の住んでいるところにも対応してほしい』という声をたくさんいただいた。そこで私がピンと来て海外展開しておけば、今頃はうちがUberになってたかもしれないんですけどね(笑)。そんな時、あるタクシー事業者から問い合わせの電話があったんです。『このアプリ、ソースコードごと売ってくれないか』と。1000万円払う、と言われました」

 目の前の大金に一瞬は目がくらんだ川鍋氏でしたが、売却することはなく、開発担当者の助言を受けてクラウド化に踏み切ります。そして2011年12月、全国版アプリ『全国タクシー配車』(現『全国タクシー』)がリリースされることになりました。全国のタクシー会社がサービスに加入し、このアプリを通して1台配車されるごとに数十円が、アプリを運営する子会社へと入る仕組みになっています。

「振り返ってみれば、これがBtoB、同業者を顧客とするビジネスを始めた最初の事例だったということになりますね。なるほど、こういうやり方もあるんだな、と。同業者の悩みは我々がいちばんよくわかっているわけです。それを解決するお手伝いをしていけば、ものすごく大きなビジネスになるかもしれない。そう思い当たりました」

同業者向けのビジネス
ドライブレコーダーで成功


 ここからの同社の展開はしかし、「企業がもともと持っているスキルを活用する」という“顧客ずらし戦略”のセオリーとは正反対のものでした。

 同業者にニーズのあるものとして川鍋氏が目をつけたのはドライブレコーダー。タクシー会社がスキルを持っているはずのない“ハードウェアの開発”に乗り出したのです。

「どういうものがいくらでほしいか。いくらだったら誰に売れるのか。それはすごくよくわかってましたから。協力してくれるベンチャーを見つけ出して、オリジナルのドライブレコーダーをつくりました」

 ところが“1号機”はコストを追求した結果、耐久性が犠牲となり、「大失敗」(川鍋氏)。やはり製造ノウハウがなかったことがつまずきの原因でした。

 違う相手と組み直し、試行錯誤のすえに“2号機”が完成したのは1年後。前作の反省点を踏まえたドライブレコーダーは、機能性と価格的優位性から評判となり、同業他社がこぞって買ってくれるようになったといいます。

 “同業者ビジネス”で一つの成功を収めた川鍋氏は、さらに次のステップへと歩みを進めます。ターゲットに据えたのは、タクシーに搭載されている決済機です。

 現金に加え、クレジットカードや交通系ICカードなどでの支払いが主流となってきましたが、より多様で便利な決済手段を提供するべく、新たなタブレット型決済端末を自社で開発することにしたのです。

タクシー会社の枠を超え
ソフトウェア開発を内製化


 そうなると今度は、“ソフトウェア開発”のスキルを身につけなければなりません。川鍋氏は2015年、IT部門を担うJapanTaxi株式会社を立ち上げ(もともとあった「日交データサービス」を社名変更)、代表取締役社長として日本交通グループの中核企業となるべく力を注ぎます。ソフトウェア開発を内製化したことで、日本交通はもはや“普通のタクシー会社”ではなくなった、と言えるでしょう。

 到着前に支払い手続きができるJapanTaxi Walletや、中国発の決済サービスであるAlipay、WeChat PayなどのQRコード決済が利用可能なタブレットの“1号機”は2016年に完成します。まずは、日本交通のタクシーに搭載されました。

 つまり、JapanTaxiの最初の顧客が日本交通だということです。こうした、買い手と売り手が事実上一体となった構図は、さまざまなメリットをもたらします。

 売り先の確保や的確なニーズの吸い上げができるのはもちろんのこと、顧客側の業界内でのネットワークを活用することも可能になるのです。川鍋氏は、決済機開発の裏側をこう明かしてくれました。

「タブレット自体は特別なものではありませんが、メーターと連携させるところにはタクシー会社にしかわからないノウハウがあります。メーターというのは、改ざんを防ぐために、情報のインプット・アウトプットがかなり制限されている。そこはメーターをつくっているメーカーさんの協力が絶対に必要になる部分。うちは創業の頃からのお付き合いがあるからこそ力を貸してもらえたんです」

 日本交通とJapanTaxiは、この新型タブレットを使った車内広告サービスも本格化させようとしています。広告によって収入を得ることができれば、決済端末の製造コストを押し下げる効果が働き、他社により安価で販売することも可能になるというわけです。

 競合を顧客化する戦略商品はまだまだ考えられる、と川鍋氏は話していました。着々とものづくりの機能を身につけているのですから、もしかすると将来は、エコで快適な自動車そのものを開発して全国のタクシー会社に販売し、テスラモーターズのようになっていくのかもしれません。自動運転の技術開発が進展することによってタクシーの存在価値が問われていくこれからの時代、川鍋氏がどんな手を打つのか、期待を込めて注視していきたいと思います。

「同業他社」という市場を
新たなスキルの獲得で開拓


 同社の“顧客ずらし”は、既存のスキルを生かすのではなく、大胆に新たなスキルを獲得しに行ったことで成し遂げられました。本連載の初回で紹介したボストン・レッドソックスの例でいえば、大規模興行の運営ノウハウを生かしてコンサート運営という新規ビジネスに乗り出したのではなく、ノウハウのないバットやグローブの企画製造販売を始めてしまったようなものです。

 それでも成功できたのは、“バットやグローブ”(つまりドライブレコーダーや決済機)の市場について誰よりも深く理解していたからであり、それらをつくって売る能力を本気で極めたからと言えるでしょう。川鍋氏が口にした「絶対に勝てるんです。ただし、つくれれば」というセリフは、象徴的です。

 ここで重要なのは、スキルの有無にとらわれず、有効活用できる自社のアセットとして「同業他社という広大な市場」に気づくことができた点です。あとは、必要なスキルを極められるかどうかが、越えなければならない唯一の壁であり、そこを越えてしまいさえすれば“顧客ずらし”は完成するというわけです。タクシーという、集約されていない(全国に同業者が多数いる)業界では特に、この戦略は有効でした。医療や不動産、飲食など、同様のビジネス展開が可能な業界はほかにもさまざまあると考えられます。

 我が社の顧客はこういう人たちだ、クライアントはこういう会社だという固定観念から一度離れ、“横”を向いてみる。そこには、新たな顧客がいるのかもしれません。


 

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