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年末、ヤマトに広がる恐怖感…「激増する荷物を届け切れるか」問題が深刻
http://biz-journal.jp/2017/12/post_21721.html
2017.12.16 文=真壁昭夫/法政大学大学院教授 Business Journal
ヤマト運輸の配送車両(「Wikipedia」より/Tennen-Gas)
今年も師走を迎え、クリスマスプレゼントやお歳暮の配達が増える時期がやってきた。宅配など物流の最前線では、増加する荷物を届け切ることができるか一種の恐怖感のようなものが広がっているという。それは、想定されてきた以上に“物流への需要”が高まってきたことの裏返しだ。物流というビジネスは、ネット空間と実際の生活をつなぐために欠かせない。今後も、社会全体で物流の重要性は高まることは間違いない。
一方、わが国では“宅配便危機”という表現もあるほど、人手が不足し物流業界が疲弊しているという報道が多い。そうした状況下、国内宅配最大手のヤマトホールディングスは、さらなる需要の拡大と、物流事業の可能性を開拓するために、自社の事業内容に変革を起こそうとしているという。そうした個別企業の取り組みが、業界全体に革新的をもたらすことを期待したい。
■物流は最重要な成長産業である
国内の物流関連事業に従事する企業経営者と話をすると、苦しい胸の内を明かしてくれることが多い。「需要の取りこぼしが発生しているため、賃上げをしようと思ってもなかなか難しい」など、予想以上の需要の拡大を受けて、十分な対応ができていないことが伺える。
冷静に考えると、需要が高まっているということは、その産業の成長余地が大きいということでもある。国土交通省によると、平成に入って以降、年によって違いはあるものの宅配便の取扱個数は増加傾向をたどっている。
その背景には、インターネットが普及し、アマゾンなどの電子商取引(EC)サービスが社会に浸透してきたことがある。ECでは、売買の契約とその代金のやり取り(送金や決済)はネット上で完結させることはできる。重要なのは、品物を最終顧客のところに届けることだ。それが実現しなければ、ECが私たちの満足感を高めることはできない。
アマゾン、アリババ・ドットコムなどネット関連企業のビジネスは拡大している。それに伴い、物流へのニーズも拡大、多様化するはずだ。単に取り扱う荷物の数が増えるだけでなく、これまでには物流業界が取り組んでこなかったビジネスも開拓される可能性が高い。
人手不足のためにビジネスが回らないという喫緊の課題を克服しつつ、中長期的な成長をいかに実現するかが、物流業界の展開を考えるポイントだ。物流は人手不足によって衰退するといった悲観論は適切ではない。ネットワーク技術の高度化と社会への浸透に伴って、さらなる発展が見込める分野であるというのが適切な見方だろう。
■改革にまい進するクロネコヤマト
すでに、国内宅配最大手のヤマトは、将来の物流ビジネスを模索するためにさまざまな取り組み(実験)を進めている。
まず、人手不足に対応するためには“省人化テクノロジー”の導入が欠かせない。同社では2020年に、自動運転技術の一部導入が目指されている。同社が目指しているトラックの隊列走行技術の確立は、欧州でも実験が進んでいる。加えて、人工知能(AI)やロボットを用いた荷物の仕分けや、最適な運送経路の設定なども進んでいる。
こうした取り組みこそが、働き方改革だ。働き方改革の本質は、過度な長時間労働を是正し、従業員のやりがいや満足度を高めながら需要の取り込みを実現することにある。新しい技術が導入され、それまでの行動様式が通用しなくなると、私たちはその技術を「使えない」と批判しがちだ。しかし、業務の運営に必要な人の数を減らすためには、機械化などの取り組みは止めることができない。そうした社会が到来していることは冷静に受け止める必要がある。
また、ヤマトは新事業の育成にも取り組んでいる。駅ビルでの試着サービスの実施はそのひとつだ。一般的にこうした取り組みは、返品の数を減らすことが目的だと説明されることが多い。それは、ごく表面的な解釈にすぎないと考えられる。
ネットワーク技術の導入が進むと、物流業者が、従来には取り扱われてこなかった新しいビジネスに参入する可能性が高まる。ヤマトはそうした展開を念頭に置いているはずだ。同社は蘭フィリップスの日本法人とも医療機器の製品輸送などの連携を模索している。単に物流を担うだけでなく、従来には事業の対象となってこなかった分野で機器のメンテナンスなどがヤマトのビジネスになっていく可能性もある。
■ヤマトが大きく変える物流の常識
ヤマトは国内の宅配事業で50%程度のシェアを持っている。ヤマトの料金引き上げを、アマゾンは受け入れた。11月には佐川急便も値上げを決定した。国内物流業界全体で、値上げへの対応が進んでいる。それだけ、ヤマトの影響力は大きいということだ。
サービスの供給価格を引き上げることは、消費者の行動を変化させる。ヤマトの値上げを受けて、再配達=タダという従来の考え(常識)は大きく変化し始めたように見える。同時に、できるだけ早く、臨んだ時間帯に品物を手元に置きたいという欲求も根強い。
そうしたニーズを満たすために、オートメーション化された倉庫の運営など、業界全体での革新が進むだろう。供給サイドの変革が新しい需要を生み出し、より多くの付加価値を創出するのである。
物流には、バーチャル(ネット空間)とリアル(実生活)の懸け橋としての役割がある。その役割を経営者が理解し、新しい取り組みを進めることが収益機会の獲得につながる。状況によっては、ヤマトが小売り業や、IT関連サービスを提供することも考えられる。物流業は、これまでの発想に基づいて物流サービスを行わなければならないという縛りはない。
それは他社にも当てはまる。収益の見込める分野があり、自社の強みを発揮できるのであれば積極的に参入すべきだ。他に先駆けて市場を開拓し、先行者利得を得る取り組みを続けることが、需要を創る。最終的には、それが生産性を高める。
ネットワーク技術の進歩と普及によって、環境変化のスピードは加速し、競争は激化するだろう。変化に対応するためには、個社独自の取り組みよりも、国内外を問わずより多くの企業とオープンな協力体制を築き、イノベーションを目指した取り組みを続けることが不可欠だ。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
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