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回転寿司の「1皿100円」がいよいよ終わる理由
https://www.sbbit.jp/article/cont1/34306#image49243
2017年12月02日 ビジネス+IT
年1〜2%程度しか成長しない外食産業の中で、2015年に10%近い成長率を記録した「回転寿司」業態。しかし2016年は成長に急ブレーキがかかった。中小チェーンを淘汰して大手5社の市場シェア占有率は約75%に及ぶが、原材料高騰、人件費高騰という「厳しい試練」がふりかかる。「月刊コンビニ」「月刊飲食店経営」編集委員・梅澤聡氏も「いずれ値上げせざるを得なくなる」と指摘するなど、回転寿司の代名詞ともいえる「1皿100円」の看板をおろさざるを得ない日が間近に迫っている。
執筆:経済ジャーナリスト 寺尾 淳
外食産業における効率経営の最優等生がスシローだ(写真はスシロー大津大萱店)
■回転寿司の成長は昨年、頭打ちになっていた
「回転寿司」は、都市部では80年代にその店舗数を大きく伸ばし、昔気質の寿司職人やうるさい食通から「邪道」「日本の伝統食の堕落」などと蔑まれながら、「ハレの日の食」だった寿司の大衆化に大きく貢献した。
個々のネタの好き嫌いはあっても「お寿司が嫌い」という日本人はほとんどいないので、回転寿司の店は今日もサラリーマン、学生、おしゃれな女子、子連れママ、高齢者など世代、男女を問わず来店客でにぎわう。
日本語が話せなくてもお好みのネタの「SUSHI」が食べられるから訪日外国人も入りやすい。アジアや欧米の主要都市にも進出して、寿司の食文化を世界中の人々に広めている。
エヌピーディー・ジャパンの「外食・中食データ情報サービス(CREST)」によると、2016年の回転寿司の国内市場規模は6429億円だった。社団法人日本フードサービス協会の「平成28年外食産業市場規模推計」によると、2016年の全国のすし店の市場規模は1兆5028億円。回転寿司のシェアは42.7%にも達している。
そのように回転寿司が幅広い消費者に支持された最大の理由は、その低価格にある。1皿=2貫(にぎり寿司2個)=100円はまさに「寿司の価格破壊」のシンボルで、集客の武器と言えた。だが今、看板に大書きされて回転寿司の代名詞のように定着した「1皿100円」は、存亡の危機を迎えている。
ついこの間まで、回転寿司は「デフレの勝ち組」と呼ばれ、国内市場は大きく拡大していた。「外食・中食データ情報サービス」によると、2年前の2015年も回転寿司の国内市場規模は6317億円で、前年比で9.7%も成長していた。ところが昨年2016年になると前年比伸び率は1.8%とブレーキがかかった。2017年の予測も市場規模6570億円、伸び率2.2%で、元のような急成長には戻らない見通しである。
回転寿司の国内市場規模との伸び率の推移
2015年は、回転寿司業態全体の平均客数の前年比伸び率は6.4%、平均客単価のそれは3.1%と成長している手ごたえがあったが、2016年の伸び率は平均客数が1.8%、平均客単価がプラスマイナス0%へ、大きく落ち込んだ。2017年の見通しも平均客単価こそ1.9%伸びるが、平均客数伸び率は0.3%へ、さらに落ち込むと予想されている。
回転寿司業態全体の平均客数、平均客単価の前年比伸び率の推移
首位のスシローの業績を見ても、2017年9月期の上半期(2016年10月〜2017年3月)は全店売上高8.4%増、既存店売上高0.6%増、既存店客数0.2%増、既存店客単価0.4%増ですべてプラスだったが、下半期(2017年4〜9月)になると全店売上高が3.9%増へ減速し、既存店売上高は3.1%減、既存店客数は2.5%減、既存店客単価は0.6%減と、前年同期比でマイナスに転じている。
外食産業担当のあるアナリストは「マクドナルドの業績が好調で、子連れ客が回転寿司からマクドナルドに流れたことも考えられます」と指摘する。
拡大が続いた回転寿司という業態は成長が頭打ちになっただけでなく、近い将来のマイナス成長、市場規模の縮小もありうるような状況に一変している。
■大手5社が中小チェーンを淘汰して寡占化が進行
一つの業界の成長期が終わり停滞期に入ると、それまでは成長の果実を分けあっていた業界内各社の優勝劣敗がはっきりし、競争に敗れた企業の倒産、撤退や、大が小をのみ込む買収が相次ぎ、大手による市場占有率(シェア)の寡占化が進む−−経済の教科書にはそのようなことが書いてあるが、回転寿司業態について言えば、まだ成長期のうちから大手による寡占化が大きく進行していた。
社名ではなく店舗ブランド名の2016年度(直近決算期)の売上ランキング上位は、次のようになっている。
回転寿司の売上ランキングと店舗数
(注:かっぱ寿司は回転寿司部門のみ。元気寿司は国内店舗のみ。スシロー、くら寿司は海外店舗を含む)
上位5社の売上合計は4,778億円になる。2016年の市場規模6,429億円に対するシェアは74.3%で、5社で約4分の3を占める。そのように中小が淘汰され寡占化が進んでも、回転寿司はなお成長していた。
首位のスシローのシェアは24.3%。ポピュラーな外食業態で1社だけでそれだけのシェアを占めるのは、一時70%を超えていたマクドナルドや牛丼店業態のすき家ぐらいしかない。しかも中期経営計画では年間30〜40店舗の新規出店を計画している。
さらに持株会社のスシローグローバルホールディングスは今年9月、5位でコメ卸大手の神明傘下の元気寿司と業務提携し、経営統合に向けて協議に入ることが発表された。
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2社を単純合計すれば国内シェアは28.8%に伸び、3割が見えてくる。海外店舗数は一気に170店舗を超える。成長する海外市場を取り込めば、スシローは文字通り「回転寿司の王者」として君臨できる。
■効率経営の優等生、回転寿司。その中の最優等生がスシロー
実は回転寿司大手の店舗オペレーションは、効率経営のお手本として経営学の教科書に載り、ビジネススクールのケーススタディでもとりあげられるほどの“優等生”である。
それは「乾いた雑巾をさらに絞る」と言われる「トヨタ生産方式」のトヨタ自動車をも凌駕すると思えるほどの徹底ぶり。少なくとも外食では他業態の追随を許さない。
効率化に突っ走る大手チェーンが出店したら周辺の独立系回転寿司店はひとたまりもなく閉店、廃業し、寡占化が進んでいった。
効率性は、売上高と店舗数から計算できる「平均日商」を見れば一目瞭然。首位のスシローは88.5万円で、以下、くら寿司、はま寿司、かっぱ寿司、元気寿司と、売上順位とまったく同じ並びになっている。それは、1店舗あたりの日商の差が、そのまま全体の売上の差としてあらわれることを意味する。
とはいえ、5位に甘んじる元気寿司でさえ日商は54万円で、マクドナルドの21.2万円、吉野家の22万円の2.5倍以上もある。讃岐うどんの丸亀製麺(トリドール)はハイピッチの新規出店、客単価500円前後の低価格、セルフ方式の効率経営が一時話題になったが、30.1万円で元気寿司の55%しかない。
回転寿司大手と他業態外食大手の1店舗あたりの平均日商
なぜ、回転寿司はこんなに店舗あたりの日商が多いのか。「店が大きいから」だけでは説明として不十分。店が広く席数が多くてもいつも空席だらけだと、機会損失が大きくなり効率が落ちる。「店が大きく、しかも客回転が良い」ことが必要になる。
駐車場がある郊外型の回転寿司店舗の客席数は200席前後ある。客単価は1000円前後。日商88.5万円のスシローは4.425回転だが、これは平均なので、営業成績の良い店舗は日商100万円、5回転を優に超える。2位のくら寿司は日商77.4万円なので3.87回転。日商54万円の元気寿司は2.7回転である。
ファミリーレストランは80年代の全盛期でも3回転台だったので、スシローの4.425回転はかなりの高回転であることがわかる。また、スシローは寿司の原価率を「およそ50%」と公表しているが、これも30〜40%台とみられる同業他社や他の外食業態をリードしている。
平均日商で外食他業態をリードする回転寿司だが、その中でもスシローは高い客回転率と原価率で同業他社を引き離し、トップシェアを奪取できたと言っていいだろう。最近はゼンショーグループのはま寿司の積極出店が目立っているが、店舗の数を増やすだけでなく個々の店舗の効率アップという中身が伴わないと、トップは狙えない。
■「都心出店」「サイドメニュー」「天然魚」大手の新戦略の話題は尽きない
最優等生のスシローでも、失敗はある。高客単価の新業態として2015年に東京都心部に出店した「ツマミグイ新橋店」「七海の幸・鮨陽」(中目黒)という「寿司が回らないスシロー」店舗は、翌年どちらも撤退し「分不相応な高級路線に走ると痛い目にあう」という教訓を残した。
「本物志向」では、接待に使うような固定客が多い江戸前寿司の老舗にかなわない。改めて2016年、「1皿120円」の「寿司は回るが、2割高いスシロー」店舗を、東京の池袋と五反田に出店している。
そんな顛末から読み取れるのは、新しい店舗フォーマット、新しいサービス、新しい需要を創造しようとする革新への意欲だ。スシローは「都心型店舗」「小規模商圏対応」を中期経営計画の店舗戦略に挙げている。
店舗の規模、立地などフォーマットの統一、廃棄ロスやムダを排除するための原材料調達や人員シフトの適正化、寿司ロボットや注文用タッチパネルのような機械化の推進などで効率を徹底的に追求したモデルに依存することなく、同質化競争から脱却しようとする。
新機軸の開拓は他社も同様で、ラーメン、から揚げ、スイーツなどを皿に載せて提供する「サイドメニュー作戦」は各社すでに実施中。寿司のお口直しにとどまらず、たとえば学校帰りにスイーツを食べながら座っておしゃべりするために来る女子高生のような、従来にはなかった動機で来店する新たな顧客層の獲得を狙っている。
回転寿司の寿司ネタになる水産物は冷凍の輸入ものが大部分だが、くら寿司は2016年10月、漁港直送の国内産天然魚をネタとする新業態「くら天然魚市場」を出店した。スシローも今年11月、国内産の旬の天然魚を全国の店舗で提供する「地元の旬の天然もの!スシロー×羽田市場」プロジェクトを発表している。
「M&Aで海外進出」「都心出店」「サイドメニュー」「天然魚使用」など、大手回転寿司チェーンの新戦略の話題は尽きない。
■原材料と人件費が高騰し、「1皿100円」の終わりは時間の問題?
しかし、売上データでは国内市場は頭打ち。しかも足元では現在、「寿司の価格破壊」のシンボルで、回転寿司の集客の武器になってきた「1皿100円」の看板をおろさざるを得ないような状況に追い込まれている。
コストアップ要因の第一は原材料価格の上昇である。寿司ネタの輸入価格が上昇しており、これは為替の円安だけでなく、中国などで需要が急増して水産物の価格が世界的に上昇している影響もある。シャリも、今まで安定していた国産の業務用米の価格がじわじわと上がり始めている。
コストアップ要因の第二は人件費の上昇である。大都市圏では郊外型店舗でも、1000円以上の時給を提示しないとパート・アルバイトが集まりにくくなっている。人件費は確実に店舗の採算を圧迫する。
原材料価格と人件費。その両面のコスト高騰は外食企業に共通する悩みで、低価格を武器に成長した焼鳥店チェーンの鳥貴族は10月、1品280円を298円に値上げした。ゼンショーホールディングスも11月8日、中間決算発表の席上で丹羽清彦執行役員が「複数の業態で値上げを検討する」と表明した。その対象には「すき家」「ココス」などとともに回転寿司の「はま寿司」も入っている。
「回転寿司の『1皿100円』が終わるのは時間の問題」と話すのは、市場調査会社エヌピーディー・ジャパンのフードサービス・シニアアナリスト、東(あずま)さやか氏である。
「いま人件費の高騰が激しく、経営努力だけでは価格維持は難しい時期になっています。さらに寿司業界にとっては原料高が続いています。価格に転嫁せざるをえません。値上げして客数が減って売上が減るのは怖いので、どの企業もタイミングを見計らっていると思われます。私は今が最良のタイミングとみています」
東氏はそのシグナルとして「鳥貴族の値上げの結果」を挙げる。同社の10月、11月の売上の前年同月比の落ち込みが大きくなければ年明けからの値上げの「青信号」で、落ち込みが大きければ「赤信号」。
もし青信号で値上げに踏み切っても、回転寿司だけでなく外食産業全体が一斉に追随したら、1社だけが目立たない。値上げの青信号、みんなで渡れば怖くない。
「全皿100円が終わるのは、遅くとも次に消費税が上がるまで、早ければ来年2018年中にあるのではないかとみています」(東氏)
それでも客離れを防ぐために、全皿ではなくても何らかの形で「100円」を残せるように、各社は工夫を凝らすことだろう。
「アジア系の外国人を雇って人件費を抑えている店も、出身国の所得水準が上がっていて限界が近づいています。私が見るところ、大手チェーンでもネタやシャリの量を小さくしてコストバランスを合わせたりしています。でもそれでは寿司の形のほうがアンバランスになりますから、いずれ値上げせざるを得なくなるでしょう」(「月刊コンビニ」「月刊飲食店経営」編集委員・梅澤聡氏)
「1皿100円」を死守しようと単純にサイズを小さくすると、SNSに寿司皿の写真を投稿されて「こんなに小さい。実質値上げだ」「二度と行かない」などと“炎上”し、一斉に客離れしかねない。
そこでたとえば「高くなったネタは1皿2貫(2個)ではなく、大きめ1貫にする」「玉子など100円皿を数種類残して『1皿100円から』と丸める」「お勘定の時、次回100円に割り引くクーポン券を渡す」など、“激変緩和措置の小手先芸”はいろいろと考えられる。それでも「実質的に値上げした」というマイナスイメージは免れないだろう。
価格を柔軟化させて、時給が安くてもパート・アルバイトが集まるような地域、店舗、時期であれば1皿100円で食べられる「募集時給スライド方式」が登場するかもしれない。1皿130円でも、その店が時給1300円で募集していたら、来店客は「人手不足だし、しかたないな」と納得する、か?
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