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日銀レポートにみる日本でのキャッシュレス化の現状 --- 久保田 博幸
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20171202-00010004-agora-bus_all
12/2(土) 7:16配信 アゴラ
あらためて日本でのキャッシュレス化の現状についての論点整理を試みたい。今回は「BIS決済統計からみた日本のリテール・大口資金決済システムの特徴」という今年2月に日銀が出したレポートを参考にして見ていきたい。
日本における現金流通残高の対名目GDP比率は突出して高く、キャッシュレス化が急速に進行しているスウェーデンの約11倍にも達する。日本では「国内の治安が相対的に良く、盗難等により現金を失うリスクが他国対比では低いこと、偽造された銀行券が相対的に少なく、銀行券に対する国民の信認が高いこと、低金利環境により現金保有の機会費用が小さいこと」等から法定通貨である円という現金の利用が多くなっているとしている(上記レポートより)。
現金の支払手段としての側面からみてみると、法定通貨としての強制通用力や一般受容性といった性質に加え、支払完了性を有すること、価値以外の情報が切り離されているという意味で「匿名性」を有することといったメリットが挙げられている(上記レポートより)。
電子通貨ではこの「匿名性」が失われる可能性がある。また支払可能な金額が額面金額に限定されていることも、むしろメリットと捉える向きもあると指摘されている。
日本ではカード決済のウエイトが相対的に小さく、支払手段として現金が幅広く使われているが、各種カードの一人当たり合計保有枚数をみると、日本では一人当たり平均で7.7枚とかなり多い。実はデビットカードの保有枚数も日本は多いものの、それはデビットカードの保有枚数には「J-Debit」が計上されているためで、使わなくてもデビットカードの機能もあるカードを複数枚所持していることが要因となっている。
そして、日本におけるカード決済金額をみると次のような特徴がみられるとレポートでは指摘している。
・電子マネーによる決済金額は、各国平均を大きく上回っている。
・クレジットカードは、概ね各国平均並みに利用されている。
・デビットカードによる決済金額は、各国平均を大きく下回っている。
電子マネーのカード利用に関しては、交通系カードが広く普及していることやポイントの付加などが日本で多く利用されている要因となっている。電子マネーによる決済は、小売店等における少額決済を中心にかなり急速に増加しているようである(nanacoやWAON等々)。このため日本における少額貨幣の流通残高は減少している。
デビットカードに関しては、日本における一人当たりの保有枚数は非常に高くなっている一方で、カード決済金額の対名目GDP比率は極めて低い。日本では人々が預金引き出し等のためのキャッシュカードをデビットカードとしてはほぼ全く使わないまま複数枚持ち歩いていることになるが、なぜデビットカードが普及していないのか。日銀のレポートは次のように指摘している。
「日本においてデビットカードの利用が広まっていない理由としては、米国では銀行業界が、大量の小切手処理に伴うコスト削減の観点から、小切手を代替するデビットカードの普及に努めたのに対し、日本ではもともと小口決済において小切手の利用が普及していなかったことや、クレジットカードの発行に伴う審査が諸外国に比べ厳しくなく、比較的多くの人々がクレジットカードを持てること、さらには、このようなクレジットカードが利用される際、一回払いが選択される場合が多く、機能的にはもともとデビットカードに類似した使われ方がなされていることなどが挙げられる。」(日銀レポートより)
海外でのキャッシュレス化の普及状況をみると、たとえばスウェーデンでは同国の複数の有力銀行が共同で開発したスウィッシュ(Swish)と呼ばれるモバイル決済が広く使われている。中国でのモバイル決済は「支付宝(アリペイ)」と「ウィーチャットペイ」の2強に延べ12億人が登録している。このように使い勝手の良い限られたモバイル決済が大きく普及している。これに対して日本では日銀が発行した日銀券という使い勝手の良い決済が多く利用されているものの、電子決済に関しては事業会社ごとに異なるものとなっており、単一性が図られていない。これは利用者にとっても不便であり、それぞれの端末の設備投資が必要となる小売業などにとっても不便と言えよう。
日本では脱税やマネーロンダリング防止目的での高額紙幣の廃止の必要性は感じられないが、モバイル決済については今後、さらなる普及が見込まれる。しかし、その障害となっているのが、単一性が図られていない面ではなかろうか。たとえばではあるが、スウェーデンのように日本の大手銀行がスウィッシュ(Swish)のような統一したモバイル決済を行うようになれば、電子決済の普及がさらに高まる可能性がある。
編集部より:この記事は、久保田博幸氏のブログ「牛さん熊さんブログ」2017年12月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちら(http://bullbear.exblog.jp/)をご覧ください。
久保田 博幸
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