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「株価連騰」なのに誰も豊かにならない理由
http://diamond.jp/articles/-/149099
2017.11.13 金子 勝:慶應義塾大学経済学部教授 ダイヤモンド・オンライン
世界的な株高が続く中で、日本でも10月24日には、東証平均株価が1960年12月以来、57年ぶりの「16連騰」。11月7日は2万2800円台を回復し、約25年ぶりにバブル崩壊後の戻り高値を更新した。メディアは騒ぎ立て、景気拡大や雇用状況の良さも一段と強調されている。だが、なぜ多くの人々は豊かさの実感がないのだろうか。
日銀の緩和マネー、海外に流出
世界の「株価バブル」支える
急激な株価上昇は、いまや実体経済とは乖離している。バブルである。だがかつてのバブルとは様相が違っている。貸し出しが伸びず、銀行経営が苦しくなっているのはその象徴だ。
日銀の「異次元の金融緩和」が続き、マイナス金利に踏み込んだことによる超低金利のために貸付金利息収入が減少し、大手銀行は3年連続の減益を記録した。三菱UFJ銀行が店舗の最大2割程度の削減を検討し、みずほ銀行も今後10年で1万9000人分の業務量を削減する。多くの地方銀行も経営が苦しくなり、しだいに合併に追い込まれている。
本来、日銀が異例の超金融緩和を続けているのは、銀行に国内融資を増加させたいためである。だが、国内の設備投資が盛り上がらない中で、銀行の融資先は、都市部などの不動産、住宅ローンなどに傾斜するしかなく、不動産はバブル気味だ。
一方で、米国の中央銀行FRBが利上げや資産縮小に向かっているために日米金利差が拡大し、資金が海外に流れてしまうのだ。
この3ヵ月、米国の10年債利回り(長期金利)は上昇して2.3%を超えた。それに対して、日本の10年債利回りも上昇傾向にあるが、0.5〜0.7%で頭打ちになっている。儲かる国内投資先がなく困っている日本の金融機関が海外の債券や株式に投資するのは当然の成り行きだ。
ついに日本の金融資産の海外流出が1000兆円を超えた。日銀の金融緩和がもたらすマネーが米国など世界の「株価バブル」を支えているのである。
日本の株高の主役は
外人投資家と日銀
日本の株価連騰もその一環だ。
米国の株価上昇は、10年前のリーマンショック前の時よりも急激だ。 日本の異常な金融緩和で米国に資金が流れ、米国の株高でもうけた外国人投資家が、今度は日銀の株買い支えを予想してまた日本株を買うという循環だ。
日銀が買っているETF(指数連動型上場株式投信)はすでに16兆円を上回り、社債などと合わせると20兆円を上回る。必ず日銀が株価を支えてくれるという心理が働くので、外国人投資家が主導して日本の株価も上昇していくことになる。
だが売買金額ベースで取引を見ると、外国人投資家が7割を占め、個人取引は2割前後にすぎない。
株式の保有主体としてみても、外国人は3割を占める。外国人の保有比率が3分の1を超えた企業を「外資系企業」と呼ぶが、名だたる大企業が実は「外資系企業」になっている。
その一方で、日銀と年金基金が筆頭株主になっている「国有企業?」化する大企業も出てきている。
たしかに、この株高で「おこぼれ」にあずかった富裕層も一部にはいるだろうが、多くの人々は豊かになったという実感を持てないでいる理由だ。
株高で年金の運用益が増えており、一般国民も利益を享受しているではないかという声もある。だが、これで本当に老後が安心できるだろうか。否である。
日銀の株保有はETFを含めて17兆円を超えたが、国債と違って株は償還がないから、日銀が将来、異次元緩和からの「出口戦略」で資産圧縮を始める時は株を売却しなければならない。だが、日銀当局から出口戦略の発言があるだけで株価は急落してしまうので、日銀は株を買い続けなければならない。
年金基金も年金給付を賄うために株式を売却して利益を出そうとしても、多額の株を一気に売ることはできない。
むしろ日銀や年金基金は、株価を下げないために株購入を続けなければならない。まるでネズミ講のようだ。
外国人投資家は、米国FRBが利上げと資産縮小に向かう中で、こうした日銀の異次元緩和が継続されると見込んで、また株価上昇が一段と進んだのだ。
しかし、無理なバブル相場は脆い。外国人投資家が売買の7割を占める株式市場はショックに弱い。
外国人投資家はバブルが弾けると見るや、一気に売り抜く。日銀単独で株価下落を食い止めようとすれば、「空売り」を浴びて、余計、食い物にされかねない。
株価バブルが崩壊しても、すでにジャブジャブの金融緩和を実施しているので、新たな金融緩和策をとっても、麻薬中毒患者に麻薬を打つようなもので効果が薄くなってしまう。
日本経済は泥沼に沈んでいく危険性が高まっている。
アベノミクスの「成果」とは?
企業の内部留保は増えたが国民には恩恵なし
株価の上昇は、アベノミクスの「成果」とされている。だが国民には「恩恵」はいきわたっていない。
2013年4月に、黒田東彦日銀総裁が、2年で2%の消費者物価上昇の目標を掲げて「異次元の金融緩和」を打ち出した。しかし、目標達成時期は6度も延期され、デフレ脱却は明らかに失敗している。実質的に、日銀の金融緩和政策はただの赤字財政のファイナンスになっている。
財政赤字(国の借金)は2013年3月末に991兆円だったが、2017年3月末には1071兆円に膨らんだ。4年間で国の借金が約80兆円増加したわけだが、その一方で、企業の内部留保(利益剰余金)は2013年3月末の324兆円から2017年3月末には406兆円に増加し、同じ4年間で約82兆円増えた。
内部留保の増加分は、財政赤字を増分とほぼ見合っている。つまり 政府が借金をしてさまざまな支出で(需要)を作りだしたり、減税をしたりしたその分は、結果的に、企業が内部留保としてため込み、赤字財政の「恩恵」が国民に行き渡っていないことを象徴している。
アベノミクスの下で、法人税率は30%→25.5%→23.4%と引き下げられてきたが、その減税分が、社会保障の充実にあてられるはずの消費税率引き上げの増収分ほとんどを食ってしまう一方で、企業減税をしても内部留保が貯まるだけである。それでいて、総選挙直後に、榊原定征経団連会長は「痛みを伴う改革を」と社会保障の削減を求める。
経済界が求める通り年金や医療や介護など社会保障を削っていけば、人は将来不安からますます消費を増やせないだろう。
労働分配率下がり消費停滞
求人倍率急上昇は少子高齢化の影響
本来、デフレ脱却で大胆な金融緩和を求める「リフレ派」の主張する通りであれば、企業収益が増えたり、株価が上がったりすれば、大手企業の投資や富裕層の消費増が、中小企業や普通の人の所得増につながる「トリクルダウン」が起きて、消費が増えて物価も上昇していくはずである。
ところが、内部留保が貯まる一方で、労働分配率は低下を続けている。
そのためアベノミクスが始まって以降、実質賃金は基本的にマイナス基調が続いている。2017年に入っても、2月、5月、6月が対前年比でみてゼロ%、1〜8月まで5ヵ月マイナスになっている。家計消費(2人以上世帯)も、2014年以降、マイナス基調が続き、2017年に入ってようやくプラスになる月が増えてきた程度である。
そこで、政府はデフレ脱却の失敗を「道半ば」と言い続ける一方で、2017年9月期の有効求人倍率が1.52倍で3期連続、バブル期を超えたことを、アベノミクスの「成果」だと強調するようになってきた。
だが、有効求人倍率は分子が求人数、分母が求職者数であるが、分子の求人数が伸びているのは、非正規雇用やパートが中心であることに変わりはない。問題は、分母の求職者数が一貫して減少していることにある。
生産人口年齢(15〜64歳)は、1995年の約8700万人をピークに減少に転じ、2017年には約7600万人になった。約20年間で1000万人も減ったが、最近は団塊の世代が次々と65歳を超えたため減少幅が拡大している。
実際、2012年の8017万人から約4年間で388万人も減り、年平均97万人もの減少を記録している。
むしろ、有効求人倍率の急上昇は少子高齢化の深刻さを示しているのであって、アベノミクスの成果ではないのである。
企業自体が売買の対象になる資本主義
株価至上主義の経営加速
では、なぜトリクルダウンが起きないのだろうか。その背景には、1990年代以降、席巻したグローバリズムによって、金融主導の「金融資本主義」とでも呼ぶべきものに資本主義が変質したことが上げられる。「金融資本主義」の特徴の一つは、景気循環をバブルとその崩壊を繰り返す「バブル循環」にしたこと、いま一つは、企業自体が売買の対象となったことである。
とくに、1990年代末に導入された「国際会計基準」によって、企業の売買価値を表わすようなルールに改められたことが大きい。多額のフリーキャッシュフローを持つことが重視され、企業が保有する株式や不動産などの資産を市場価格で評価する時価会計主義が導入されるようになった。そして、企業が買収する側に回るには、自社の株式時価総額を高めることが求められる。そのためには、内部留保をため込む、配当金を出す、自社株買いによって一株当たりの利益率を上げることが優先される。
「選択と集中」と称して不採算分門は切り売りされ、自社に足りない部門は自ら育てるのではなく内部留保をもとに買収するという短期利益優先の米国型経営が普及してきた。
こうした「ルール」の下では、雇用を非正規化させ、賃金支払総額を抑制し、労働分配率を低下させることが、企業経営にとっては「合理的」になる。だが、それは社会保障の不安定化とともに家計消費を冷え込ませ、雇用流動化に伴う若者の非正規労働者化は、結婚も出産もできない状態を作り出して、少子高齢化を加速させてしまうのである。
それが、ブーメランのように国内市場の縮小をもたらす。企業は国内に投資をせず、ますます海外に投資をするようになっていくからだ。
しかも日本企業の場合、企業買収や合併戦略が必ずしもうまくいっているわけではない。東芝のウエスティングハウス買収、日本郵政のオーストラリア物流会社買収、武田薬品の製薬ベンチャー買収など、多額の損失を生む外国企業のM&Aも目立ち始めた。
短期利益の追求で競争力低下
「麻酔薬」ではじり貧に
それどころか、企業合併の度に、短期の利益には貢献しない中央研究所などが閉鎖され、自社開発力が低下する。製薬業が典型だ。
こうした中で、日本企業の技術競争力の低下が止まっていない。
スーパーコンピューターのスカラー型への転換、ソフトやコンテンツを作る能力でも遅れたため、IT・電機産業の競争力が衰退した。さらに、原発推進政策に乗っかった東芝の経営危機に示されるように、重電機産業も同じく競争力を衰退させている。いまや自動車も電気自動車への転換に遅れ始めている。政府も企業も、世界で進む技術を見極め、大胆な産業戦略を立てることができない。
大規模金融緩和という麻酔薬をいくら打ち、株価を上げたり円安にしたりしたところで、筋肉や臓器が弱っては体力を次々と低下させていくだけなのだ。
(慶應義塾大学経済学部教授 金子 勝)
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