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働き方改革で中高年の給与が下がるワケ パート、シニア社員は賃金アップ
http://president.jp/articles/-/23555
2017.11.10 山口 俊一 新経営サービス 常務取締役 人事戦略研究所所長 PRESIDENT Online
政府が進めている「働き方改革関連法案」。このなかで重要なポイントになっているのが、「同一労働同一賃金」という考え方だ。その原則は「同じ仕事には同じ賃金を支払う」というもの。法律が施行されたとき、私たちの給料はどうなるのか。人事制度に詳しい山口俊一氏は「中高年男性正社員と長時間労働者は給料が下がりそうだ」と指摘する――。
「働き方改革関連」法案がいよいよ成立か?
秋の臨時国会では「働き方改革関連法案」の審議が予定されていました。突然の衆議院解散によりスケジュールは変わりましたが、与党が勝利したことで、当初の趣旨通りの法案化が見込まれています。
厚生労働省の「労働政策審議会」は、一連の法案の要綱について答申をまとめ、ウェブサイトに掲示しています。そこには「法律案要綱のポイント」として解説も付いているのですが、かなり難解です。
▼「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案要綱」の答申
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000177380.html
今回の法改正で、私が働き手にとって大きな影響があると考えているのが「同一労働同一賃金」です。これは、「同じ仕事内容であれば、同じ賃金にしなさい」という考え方。同じ仕事で同じ能力・実績であるにもかかわらず、正規・非正規といった雇用形態や、男女、国籍などの要素で賃金差をつけてはいけない、ということです。
政府は「同一労働同一賃金」の導入にあたり、その目的を正社員と非正規社員の格差是正に絞っています。しかし、それだけでは不十分でしょう。本来であれば、非正規社員の待遇改善だけでなく、正社員のなかに存在している格差問題にも、手をつけるべきです。
それでは、今回の「同一労働同一賃金」で、給料が上がる人、下がる人は誰なのでしょうか。私は著書『同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人』(中央経済社)で、その予測を行っています。ここで一部を抜粋してご紹介します。
パート・アルバイトとシニア社員は賃金アップ!
まずは、給料が上がる見込みの人。
パート・アルバイトについては、慢性的な人手不足に加え、最低賃金1000円時代、配偶者控除の引き上げも後押しするため、着実に上がっていくでしょう。すでに、都心の小売業や飲食業では、正社員を上回る時給水準も発生しています。
シニア社員も、上昇基調です。政府は、65歳以降も働きつづけられる社会の実現を目指そうとしています。一方で、労働者側も「できれば65歳を超えても働きたい」という人が少なくありません。この点は、政府と働く人の考えが一致しているのです。同一労働同一賃金に加え、65歳以降の雇用促進や副業・兼業により、シニア社員の60歳以降の総収入は上がることが予想されます。
次に、給料が上がりやすい人。
女性正社員については、全体的な給与水準改善は急速には進まないでしょう。今回の法改正では、非正規社員の待遇改善が優先されるからです。ただし、女性の管理職登用は、大企業や公務員を中心に拡大していく傾向にあります。自らのキャリアアップに積極的な女性については、しばらくは追い風が吹いている状態と言えるでしょう。
契約社員や派遣社員などの有期社員は、法案通りなら、正社員との賃金格差が是正される方向です。しかしながら、契約社員という雇用形態は、会社によって処遇方針が多岐にわたります。例えば、IT業界などでは、正社員よりも高給取りの契約エンジニアが多数存在しています。そのため、一概に賃金アップするとは言い切れません。
一方、派遣社員にとっては、雇用主である派遣会社の社員との比較で見るか、派遣先企業の社員との比較で見るか、という問題が難解です。法案の方向性は、派遣先の社員と比較される見通しですが、果たして実現するか。派遣先によって、賃金水準が大きく異なるということになれば、大手など好待遇企業での勤務に、派遣労働者の希望が殺到することも予想されるからです。
政府としては、有期社員の限定正社員化を推し進めたいと考えています。契約社員や派遣社員にとっては、正社員転換できるチャンスを迎えています。限定正社員化による給料増を狙うのが、得策と言えそうです。
中高年正社員と長時間労働者は年収ダウンへ
次に、給料水準に変化がなさそうな人。
正社員については、成果主義賃金が主流になっているように見えて、実はまだまだ年功要素の残る企業は少なくありません。
仕事給の傾向が強まれば、若手社員層は待遇改善されそうですが、必ずしもそうとは言えません。非正規社員の待遇改善が優先され、本来は若手社員の待遇改善に回るはずの人件費に、シワ寄せが来ると思われるからです。今より下がるということはないでしょうが、賃金の年功カーブが抑えられる分、将来的には厳しくなることが予想されます。
また、管理職については、日本企業の場合、諸外国と比較して、非管理職との給料格差が極めて小さくなっています。待遇面では、報われていないということになります。そのため、仕事の役割や責任によって処遇を決める同一労働同一賃金は、管理職層にとっては追い風となるはずです。ところが、すでに年功賃金を享受している層が中心ということもあり、現実的には、若手管理職を除いては、総体的にあまり上がらないと思われます。
最後に、給料が下がりそうな人。
まずは、親会社からの出向社員。これまでのところ、子会社プロパー社員との賃金格差について、議論される気配は出ていません。出向させる際に、子会社の賃金水準に引き下げることは、労働条件の不利益変更という問題が発生するためです。ただし、同一賃金が法制化されれば、子会社の社員が裁判を起こすケースが出てくるかもしれません。同一労働であることが、比較的証明しやすいからです。そうすれば、子会社への転籍といった方法を経て、出向者の賃金水準は下がっていく可能性があるのではないでしょうか。
40代後半から50代の中高年(男性)正社員は、同一労働同一賃金で、最も厳しい影響を受けそうです。正社員と非正規社員の賃金格差是正を実施するときに、「正社員側を引き下げることで、是正してはならない」と言われています。しかしながら、企業の人件費には限りがあります。非正規社員の待遇改善がなされても、全体の生産性が上がらなければ、賞与額の調整などにより、企業は人件費の抑制を図ろうとするでしょう。また、年功賃金是正の動きが加速すれば、中高年(男性)正社員の待遇ダウンは避けられません。
そして、長時間労働者。働き方改革により、長時間労働は減少していくと見込まれます。しかし、「生産性連動賞与」のように残業代として還元するような施策は、企業の主流にはなっていません。そのため長時間労働を続けてきた人は、残業代が減る分、収入が下がることになります。
このように「同一労働同一賃金」は、賃金水準の是正という意味で、すべての働く人に大きな影響を与えることになります。今後の推移をしっかり見極めていく必要がありそうです。
『同一労働同一賃金で、給料の上がる人・下がる人』(山口俊一著・中央経済社刊)
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